悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

文字の大きさ
481 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

168-2.致命的な癖

しおりを挟む
「そう言えば、ジルベール様は珍しい武器をお使いになるのですね」
「ああ……。お察しの通り、魔導具の一種ですね。従者が武器を晒して歩くわけにもいきませんから、こちらの方が都合が良いのです」

 先の戦闘を思い出してかふと呟かれた声にジルベールは瞬きをしてから、自身の懐を探る。
 そしてクリスティーナやリオに見える様に剣の柄を取り出した。

「従者は武力を求められる職ではありません。しかし同じ量を熟すことの出来る従者候補が二人いるならば万一の際に主人をお守りできる者であった方が安心できる。その様な理由からシャルロット様の従者に選ばれたものですから、特別にこれを持ち歩く事が許されているのです」
「持ち運びが楽で隠し持てる上に、折れても修復する武器ですか。便利ですね」
「ええ。……しかし、問題点はあります」
「問題点ですか」

 ジルベールは剣柄を懐へしまいながら苦笑する。

「まず、刃を生む為の魔力の消耗が激しいことです。そして魔力で生み出される刃は実際に職人によって作られた武器よりも酷く脆い」
「なるほど。となると扱える剣士も限られてきますね……。剣術を極める方には魔力量に恵まれず魔導師を志すことが出来なかった方も多いと聞きますから」

 クリスティーナは何度も折れては彼方へと弾かれた細剣の刃を思い出す。壊れやすく、修復には大きなエネルギーを必要とする代物。強敵と相対した時、修復する為に必要な魔力が枯渇した状態で刃を失ってしまえば剣士になす術はないだろう。

「はい。故に実戦で使う者は殆ど居らず、普及もしていないのです」
「という事は裏を返せばジルベール様の魔力量は相当なものであるという事ですね」
「人並み以上ではあります。ただ、私は剣の名家の出ですし……争いを嫌っていましたから。家から魔法を学ぶ機会が与えられることもなければ、戦の腕を磨く為に自ら魔法の知識を学ぼうとすることもありませんでした。魔導の腕は素人同然と言えるでしょう」

 クリスティーナはジルベールの話に耳を傾けながらも周辺に異質な気配がないことを確認する。だが周囲に『闇』は見えず、嫌悪感等を感じる事もない。
 何か怪しい箇所はあるかと問う様に向けられたジルベールには首を横に振った。
 それに彼は頷きを返すと再び進路へと視線を向ける。

「私が細剣を好むのは、魔力の消費量を削減するという目的の為でもありますが……ちょっとした反抗でもあるのです」
「反抗?」
「はい」

 聞き返すクリスティーナの言葉にジルベールは頷く。

「何かを傷つける為の意図で生まれる武器……特に近接武器は鋭さと相応の重量を兼ね備えているものが多い。銀色に鋭く輝く刃も、受けた血による鈍い輝きも……私はそのどちらも好きではありません。できれば見たくはないのです」

 鋭く尖っているという共通点こそあれど、細剣は他の刃物に比べれば刃の面積が狭いと言える。更に刃が細いからこそ、獲物を求める獣の如く反射する銀色が他に比べて目立つことはない。

「何かを傷付ける為の武力だけが全てではないのだ、という……家や、戦う力を評価するこの世の中に対する対抗心、の様な物です。……武器を手にしている時点で結局は同じ穴の狢なのですが」

 ジルベールは顔だけをクリスティーナ達へ向けると、困った様に眉を下げて自嘲する。
 その語りを静かに聞いていたリオは、意外そうに瞬きをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...