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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

183-3.正しさと罪

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「そして、調査に手を貸していた連中は協力者の報告にしか耳を傾けない。……現地の奴らが口裏を合わせさえすれば魔導師側から乱暴を働いたとしてもそれを隠蔽出来てしまう訳だ」
「あくまでお互い同意の上での研究を進めたかったけど、向こうが話を聞いてくれなかった、みたいな言い方も出来ちまうってことか……」

 クリスティーナの問いにヘマが答え、更に簡潔な回答がオリヴィエから語られる。
 そこで漸く理解を示したエリアスは低く呻きながら頭を雑に掻いた。

「多少の人員を貸すだけで魔法に関する情報をぼろぼろ落としてくれるとなれば、魔法の知識に飢えたこの国は喜んで手を貸すだろうさ。他国が自ら干渉をしなかったのはあくまで目新しい話があれば幸運程度の軽い気持ちであり、そこまで関心がある訳ではなかったからだろう」

「真相を知っているはずの当事者たちも事実を口にすれば罰せられることはわかっている。加担した以上、誰も進んで口にはしないだろうしな」

 オリヴィエは軽蔑を交えて鼻で笑い、静かな苛立ちを募らせる。
 ヘマはそれに頷きを返しつつ、疑問を滲ませるように顎を撫でて首を傾けた。

「だが、殆どの国はこの件について徐々に疑念を抱き始める。隠蔽方法がザルだったのか、罪悪に負けた関係者が告発したのかはわからないが……。以降、この件に絡んだ国の殆どは主権を握っていた国との関係の殆どを徐々に断っていくことになる」
「聖国サンクトゥス。あの国が東大陸上で孤立し、その内情が不明瞭であるのはそういった理由もあるのかもな」
「聖国……」

 オリヴィエの口から聞き覚えのある名が告げられる。
 クリスティーナの脳裏を過ったのは兄の顔だ。そして同時に彼の警告が頭の中を反響する。

「まあ、聖国の計画や動向を知らなかったとしても到底許せる行いではない。そんな無責任な主張を許容できる訳がない。アタシは一生この国を恨むだろう」

 クリスティーナの意識を現実へ引き戻したのは落ち着きを見せつつも淡白に吐き出される恨み言。
 我に返った彼女がヘマの顔を再び見やれば、視線が交わった。

 ヘマは困った様に笑う。

「これがアタシの罪だ。魔導師を殺し、同胞以外の多数を恐怖に陥れるきっかけを作った。……けど、アタシ達はアタシ達の暮らしと家族を守りたかっただけだ」

 下げられた眉、作られた微笑み。
 悲しそうに湛えられる笑みは、心から笑う事を忘れてしまったかのような切なさを見ている者へ与えた。

「ただ、当たり前のことを貫いただけ。……アタシ達の行いは本当に罪だと思うか? これが罪だというなら……正しさと罪の基準は一体何なんだろうな」

 正さと罪の境界。それは問い続ければ永遠に迷い続ける解なき問いの様だとクリスティーナは思った。

 小さく呟かれた言葉にクリスティーナは口を閉ざすことしかできなかった。
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