悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

文字の大きさ
520 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

183-2.正しさと罪

しおりを挟む
「その後、見せしめとして集落の中枢を担っていた者の首は落とされ、一族は同胞でなければ即座に牙を剥く獰猛且つ危険な人物の集まりだという判断が下された。……その後、アタシ達を襲った魔導師達に連れられ、捕縛された一族はばらばらになり、アタシは一部の者とこのフォルトゥナへ運ばれた」

 ヘマは先程ほんの少し感情を顕わにしたものの、その後は落ち着いた声音で話し続けている。
 もしこの話がつい最近起こったことであったのだとすれば、こうも冷静に話は出来ないだろう。彼女の話す過去が近くはない物である事は想像に難くない。

「アタシ達の汚名は世界中に広がり、魔導師の手から逃れた生き残りも捕えようと動く国もある。一族を生かしておくことが危険だと判断された国では命を落とした同胞の為と移送した部族全員の首を刎ねたらしい」

 部外者であるクリスティーナ達はヘマの主張だけを鵜呑みすべきではない。
 恨みや妬みという感情から生まれ、語られる記憶には主観が入りやすい。そのことをクリスティーナは理解していた。
 だがそう理解していたとしても、彼女から語られる話はあまりにも理不尽で嫌悪を抱くような物だ。

「フォルトゥナでも無暗に抵抗した者は殺されたし、一族の壊滅へ携わった者達の思い通りになるくらいならと自死した者もいる。……怒りに任せて暴れたアタシが生きているのは処刑の直前、偶然ディオンさんと出会えたからに過ぎない」

 ヘマはそこで間を空けると、重苦しい空気を和らげるように大袈裟に肩を竦めた。
 そして呆れ混じりの苦笑を漏らす。

「……まあ、これはディオンさんから聞かされた事でもあるし、自分で調べて確信した事でもあるんだが。集落の派遣の主導権を握っていたのは一国であり、他の国は研究の成果の共有を条件にその国へ人手を貸していたに過ぎなかったらしい。フォルトゥナもそうだ」
「どういうこと?」

 国境を越えた騎士の派遣による討伐遠征や魔導師の派遣による共同研究等は珍しい話ではない。
 その際、互いに求める結果は同様であり、故に手を差し伸べ合うのが普通だ。遠征や研究には詳細の話し合いや下準備等、互いの利益の為を考えれば人材の派遣以外にもすべきことは多くある。
 故に人手を貸していただけという言い回しはどうにも違和感があるとクリスティーナは感じた。

「協力した国々は魔導師を何名か派遣したものの、この件に殆ど口を出さなかった。そして丸投げにしている内、この件を任されていた国から好ましくない事の顛末を聞かされた――つまり、協力した殆どの国は真相を知らない可能性が高いという事だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

処理中です...