生死を分けるは一文字より

風見 坂

文字の大きさ
15 / 33
第一章 神の遊戯 序盤

第五話~another side~ ピンチと救世主

しおりを挟む
 男の子を能力で《一定時間気を失った状態で言うことを従う》という規則の下で“治”めて数十分後、男の子は1000円のボーダーの服を買って戻ってきた。

「はぁ……危なかった……」

 不幸中の幸いと言えるのは、男の子に服を買いに行かせることができたこと、男の子が戻ってくるまで誰も来なかったこと、ズボンが燃えなかったことだろう。
 すぐさま服を着て男の子から離れた状態で、能力解除を念じる。

「はっ!? 一体僕に何をしたの!? 服も変わってるし!」
「近づかないで! あなたのポケットの中にある500円はあげるから! また攻撃してきたら今度は容赦しないよ?」

 元に戻った男の子がすぐさま臨戦態勢に入ったので、攻撃してこないように忠告する。
 男の子はポケットの中を確認し少し嬉しそうな顔をした後に、戦う気が無くなったのか後ろを向いた。

「お姉さんは僕に特に何もしてないみたいだし、いい人そうだから今回は許してあげるね!」

 そう言い残して男の子は人が行き交う道路へと戻っていった。
 私は男の子を殺せない訳ではなかった。
 能力的にはおそらく『言うことを聞く』という規則の下“治”めた後でなら、『自害しろ』と言ったらその能力者は自害したかもしれない。
 だけど、私には人を殺す勇気がまだなかった。
 自殺したのは自分のせいだと、自分の事を責め続ける未来しか見えなかった。

「こんな調子じゃ、いつまでたっても勝てないだろうなぁ」

 本来の目的、お母さんの病気を治すためにこの遊戯を勝ち抜く、ということを改めて思い出す。
 そうだ、こんな調子じゃすぐにやられてしまう。
いくらあんなに強力な味方(?)がいてくれても私がやられれば意味が無いんだ。
 だが、そんなことは分かっていても、結局人殺しをすることにやはり抵抗がある。
 終わることのないような葛藤をし続けながら、また街を歩き始める。

「もうこの遊戯で勝ち残るしかお母さんを助ける方法はないんだ……でも……だからといって人殺しをしたくない…………」

 またもブツブツと独り言を話し始めてしまったため、先程と同じく、通行人に変な目で見られる。が、気にしない。

「また能力者に襲われたら今度こそ戦わなきゃいけない……のかな?」

 未だにそんな葛藤を続ける私に対して神様が刺客を送り付けてきたのか、男の子と別れてまだあまり時間が経っていないにも関わらず、能力者を見た時の悪寒がした。
 いや、3回目で気づいたけど、これは悪寒というより異質な緊張感と言うべきかもしれない。
 視界の中にいる人達をざっと見てみる。

「やっぱりこの辺り人が多いなぁ」

 先程と同じく路地裏に逃げようか迷う。
 もしも、人前で暴れてもいいと言われた事もあって、この場所で暴れるような人がここにいるのなら、路地裏に逃げる方が最適だろう。
 だけど、人が多いからという理由で暴れない人もいるかも知れない。そんな人には、路地裏に逃げるのは逆効果だ。
 私は迷った結果、何も知らないフリをして歩き続けることにした。
 だが、その選択は間違いだったようだ。

「おい、こいつ能力者だ」
「マジか。ナイス」

 そんな男2人の声が少し後ろから聞こえてきた。
 すぐさま走って逃げようとするが、肩を掴まれた。

「お前、ちょっと待て」
「よし、空間を“閉”ざしまーす」

 そんな言葉と同時に、周りの人が消えてしまった。
 おそらく、この2人のうち片方の能力で、私たちのいる空間を閉ざし、他の空間と切り離したのだろう。あくまで予想だけど……

「とりあえずお前、名前なんだ」

 すぐにやられると思い身構えていると、空間を“閉”ざすと言っていた方に名前を聞かれた。

「香寺……香寺 亜佑美……です……」
「そうか、亜佑美だな。俺は葉柴はしば すすむだ」

 何故この人は名前を聞いてきたのだろうか? 何故名前を教えているのか? と考えていると、もう片方の人も自己紹介をしてきた。

「俺は樫木かしわぎ 隆治りゅうじだ」

 続けて、隆治と名乗る人は私の疑問の答えを教えてくれた。

「何故名前を聞き、名前を教えるかって? それは、せめて1度は殺してしまう人の名前を覚えておこうという俺たちなりの責任感による義務と、冥土の土産だ! 遊戯の事を忘れて生き返るらしいから意味無いんだがな」

 初めの疑問は解消されたが新たな疑問が生まれる。
 何故その疑問が分かったのか?
 もしかして全員に言うようにしているのかな?
 そんなことを考えているとまたもや隆治という人が答えてくれた。

「俺の能力で心を“見”ているからお前の疑問がわかるんだ。ついでにお前の悩みとその原因も“見”えている」

 なら名前もわかるんじゃ……と思ったがそれも分かっているんだろうなと理解した。
 何を考えても無駄だと察し、言葉にする。

「どうか私を殺さないで」
「それは無理な頼みだな」

 まぁそうだよね。
 これは殺し合いなんだ。

「すまねぇな」

 おそらく私の考えを“見”て、攻撃してこないと思った、それか攻撃しようと思った時にやればいいという考えで、こんなに普通に話し合えているのだろう。
 私はもう、お母さんを助けられない……

「こっちにも色々事情があるんだ」
「勝ち残らないといけない事情がな……」

 2人してそんなことを言ってくる。
 私の考えが“視”える隆治という人は、もう片方より辛そうな顔をしている。
 先程、『お前の悩みとその原因も“見”えている』と言っていたから、私のお母さんの病気についての事も“見”たということだろう。

「そろそろ……やるぞ……」
「苦しまないように俺の能力でお前の人生を“閉”める」

 お母さんごめんね、助けるって言ったのに。
 お母さんごめんね、私は1度死ぬみたい。
 そんな罪悪感と共に嬉しさもあった。
 あぁ、これで人を殺さずに済む。
 勢いでこの遊戯に参加したが為に苦しんでいたが、やっと解放される。
 気持ちがごちゃ混ぜになって複雑な表情になっていたようで、目の前にいる2人は少し目をそらした。

「いくぞ……」

 晋と名乗っていた人が、胸に触れないように私の心臓のある胸部付近に手を出し、いざ能力を使おうとした時だった……

 “閉”ざされていた空間のなかにあの男が入ってきた。
 それと同時に彼は晋という人を殴り飛ばした。

「なっ!?」

 新たな能力者に驚く様子の晋と隆治。
 いや、驚いているのは2人だけではなかった。

 ほかのことを考えすぎて完全に忘れていた、この人の存在を。

「待たせたな」

 そんなことを言う彼はどこかかっこよく見えてしまった。

「お前なんなんだよ!」
「どうやって俺の能力を破ったんだ!」

 2人して疑問を口にする。

「お前らに教える情報は無い。どうせここで死ぬんだからな」

 そんな2人を無視して彼はそんなことを言い放った。
 私は彼らの様子をただ呆然と見ているだけだった。
 彼の言葉に唖然とする2人。
 完全に自分のペースで場を進めていく彼はすぐに行動に移った。

「移動スピード、“速”める。能力、“殺”」

 彼はそう言うと同時に2人の背後に回り、背中に触れた。

「「あっ、うっ」」

 彼に背中を触れられた2人は同時に言葉にならない声を出し、倒れた……
 同時に“閉”ざされていた空間は元に戻った。
 彼は空間が戻る寸前に、倒れた2人に触れ、何かを言ったが私には聞き取れなかった。
 彼のその発言か何かによるものなのか、空間が戻っても通行人達は全く倒れた2人に対して反応しなかった。

「え?」

 私はその様子を見て素っ頓狂な声を上げてしまった。
 この人は本当に一体何者で、どんな文字を使っているのだろうか……
 そんなことを考える私に対し彼は笑顔で声をかけてきた。

「危なかったな!」

 おそらく、先程まで私のことを殺そうとしていた2人はこの人によって殺されたのだろう。突然の出来事で、頭がついていけないけど……
 殺したのにそんな笑顔になれるなんて、どんな精神をしているのだろう。

「もっと喜べよ。俺が来なかったら死んでたぞ?」
「あ、うん…………ありがとう……」

 思考が停止し始めるのを感じる。
 この人と接する時は無駄なことを考えてはいけない気がした。

「また狩りに戻るから今度は気をつけろよ!」

 また何か話でもするのかと思っていたが、彼はすぐさまどこかに走っていった。
 遊戯無関係者からすると謎過ぎる会話だったためだろう。
 彼が走り去り、1人取り残された私は不気味なものを見る目で見られていた。
 恥ずかしくなり、私もすぐさま適当に走り出す。

 本当に彼は味方をしてくれているようだ。
 だけど私は彼に対して恐怖しか感じなかった……

「この先私、どうなるのかなぁ」

 初戦、vs“炎”、試合持ち越し。
 第二戦、vs“見閉ペア”、自称味方により逆転勝利。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

半世紀の契約

篠原皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

処理中です...