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緋色の宿命
1-5 牢獄にぶち込まれ
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こうして殺人犯の疑いをかけられ警察に捕まった俺はひと通り取り調べを受けた後、時計台が見えるこの埃まみれの牢屋にぶち込まれてしまったのだ。
勿論捕まる際、俺は『偶々居合わせただけ!』『人殺しなんてしてない!』と必死に訴えた。
だが警官達は聞く耳を持ってくれなかった。
そりゃあ、腹から大量の血を流し息絶えた男の隣で、学ランというこの世界に存在しない怪しげな服装をした男が立っていたら有無を言わさず逮捕するは当たり前かもしれないが。
しかし丸腰の相手にいきなり拳銃を突き付けるのはどうかと思うぞ。この世界の警察。
「だけどこれからどうする? 警察は全く俺の言い分を聞いてくれないし……ま、まさか死刑になったりしないよな!? それは困る! まだやり残したことが沢山あるのに! 来月発売の『トマトジュース殺人事件』の結末を読むとか! どうして現場をトマトまみれにしたか知りたいのに……」
「調子はどう?」
「うわぁ!?」
突然背後からかけられた声に俺は飛び跳ねた。
振り返るとそこにはどこからともなく現れたイレーネがニマニマしながら俺を覗き込んでいた。
「え? あれ? お前、どこから……」
「私は魔女よ。こんな所に侵入するぐらいお茶の子さいさいよ」
鼻を鳴らしピースするイレーネ。
「お茶の子さいさいって……」
マジかよ。こんな怪しい奴があっさり入り込めるなんて警備ザル過ぎないか?
対応といいもっと頑張れよ、この世界の警察。
いや、今はそれよりも……
「おい、一体何なんだよ! ここ!」
「何って?」
「この世界のことだよ! 人に話しかけようとしても無視されるし、いきなり目の前に死にかけの人が空から降ってくるし! 殺人犯として捕まるし! それに……」
俺は一番の疑問を大きく息を吸い叫んだ。
「この世の殆どの人間が魔法使えるなんてどうなってるんだ!」
*
牢屋にぶち込まれ、これは夢ではない。このままではまずいと考えた俺は、今自分の身に起きている状況を整理することにした。
魔女が言っていた情報や街中ですれ違った通行人の会話からこの世界、というか俺のいるこの国は『ベルベール』と呼ばれる主権国家らしく、警官の会話から警察や裁判所のなどの行政機関や病院のような医療機関もあるということがわかった。
基本的な文明の発達具合は街並みと同じく十九世紀のイギリス似ているようだが、違う点が一つある。
それは人々が不思議な力。
つまり魔法が使えるという所だ。
どうして非科学的なものを決して信じない俺がこうもあっさり魔法を信じているかというと魔女の存在もあったが、やはり一番は取り調べたをした警官達のせい……いや、おかげだ。
どうやらこの世界は人間の殆どが最低一つの魔法が使えるらしく、その能力の情報は事件が起こり容疑者となると身分情報と共に国が管理されるらしい。
俺の世界でいうなら指紋みたいなものだ。
その身分確認のため俺は魔法を警官達の前で使うことを求められた。
だが『魔法』という概念があるということに理解が追い付かず俺はどうすればいいのかわからず戸惑った。
すると警官達は俺の様子を見て動揺していて状況が理解できていないと思ったようで目の前で瞬間移動したり、火を出してくれたり。
わざわざ実演を交えつついちから魔法について説明してくれたのだ。
流石に警官達の真面目な対応と現物の魔法を見せられたら信じるしかなかったというわけだ。
しかし説明を受けたからといって急に魔法が使えるようになるはずもない。
だからひと通りの説明が終わった後、俺は正直に『異世界人なので魔法なんて使えません』と答えた。
すると警官達は信じられないものを見るようにあんぐりと口を開けた。
そしてひそひそと相談しあったのち同情的な視線を俺に向けた。
『魔法が一つも使えないなんて可哀想に』とか。
『こんな髪色で生まれたから捨てられたんだろう。可哀想に』とか。
『自分のことを異世界人というなんて頭を打ったんじゃないか。可哀想に』とか。
なんだか知らんが取り調べをした警官一同は俺を過酷な境遇から犯行に及んでしまった可哀想な人と判断したようだ。
だけど同情はしてくれても俺を犯人だと疑わない警官達はこちらの話は一切信じてくれず、しかも世界の理を理解出来ていない危険人物として早々に牢屋にぶち込まれることとなったのだ。
*
「まぁ、そこは隠れて覗いていたから知っているんだけどね。しかしいきなり殺人事件に遭遇するなんて。そこは予想外だったわ。運がいいわね」
「良くねーよ! 殺人犯として捕まってんだぞ! どうにかしろ!」
「どうにかって? 牢屋から出せってこと?」
「そうだよ! お前が俺をこんなところに連れてきたんだ! 少しぐらい責任取れ!」
俺の訴えにイレーネは少し考えたのち口を尖らせた。
「やだ」
「……はぁ?」
イレーネの反応に俺はポカンと口を開けた。
「な、なんで……」
「確かにこの警備なら私の魔法ですぐにあなたを外に出すことは出来るわ。でもそれだと面白くない。せっかく事件に巻き込まれたのよ。もっと関わっていこうという気概を見せなさい!」
「殺人犯として捕まってんのにどうやって関われっていうんだよ! それに現実で人が死んでんのに面白くないって、てめぇ……!」
本当になんなんだよ! こいつは!
俺に何をさせたいんだ!
歯ぎしりしながら睨みつけると、数秒の沈黙ののちイレーネは悲しげに目を細め小さく呟いた。
「……だけど相変わらずそういうところ優しいわね」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ」
イレーネは首を左右に振ると、元の不敵な笑みを浮かべた顔に戻り肩をすくめた。
「それはともかく殺人の疑惑をかけられた件なら大丈夫よ。すぐに容疑は晴れるから。それに多分この事件の担当あいつらだろうし嫌でも事件に関わることになると思うわ」
「あいつら?」
俺が怪訝な表情を浮かべると同時に、ドアが開く鈍い音が牢獄内に響いた。
勿論捕まる際、俺は『偶々居合わせただけ!』『人殺しなんてしてない!』と必死に訴えた。
だが警官達は聞く耳を持ってくれなかった。
そりゃあ、腹から大量の血を流し息絶えた男の隣で、学ランというこの世界に存在しない怪しげな服装をした男が立っていたら有無を言わさず逮捕するは当たり前かもしれないが。
しかし丸腰の相手にいきなり拳銃を突き付けるのはどうかと思うぞ。この世界の警察。
「だけどこれからどうする? 警察は全く俺の言い分を聞いてくれないし……ま、まさか死刑になったりしないよな!? それは困る! まだやり残したことが沢山あるのに! 来月発売の『トマトジュース殺人事件』の結末を読むとか! どうして現場をトマトまみれにしたか知りたいのに……」
「調子はどう?」
「うわぁ!?」
突然背後からかけられた声に俺は飛び跳ねた。
振り返るとそこにはどこからともなく現れたイレーネがニマニマしながら俺を覗き込んでいた。
「え? あれ? お前、どこから……」
「私は魔女よ。こんな所に侵入するぐらいお茶の子さいさいよ」
鼻を鳴らしピースするイレーネ。
「お茶の子さいさいって……」
マジかよ。こんな怪しい奴があっさり入り込めるなんて警備ザル過ぎないか?
対応といいもっと頑張れよ、この世界の警察。
いや、今はそれよりも……
「おい、一体何なんだよ! ここ!」
「何って?」
「この世界のことだよ! 人に話しかけようとしても無視されるし、いきなり目の前に死にかけの人が空から降ってくるし! 殺人犯として捕まるし! それに……」
俺は一番の疑問を大きく息を吸い叫んだ。
「この世の殆どの人間が魔法使えるなんてどうなってるんだ!」
*
牢屋にぶち込まれ、これは夢ではない。このままではまずいと考えた俺は、今自分の身に起きている状況を整理することにした。
魔女が言っていた情報や街中ですれ違った通行人の会話からこの世界、というか俺のいるこの国は『ベルベール』と呼ばれる主権国家らしく、警官の会話から警察や裁判所のなどの行政機関や病院のような医療機関もあるということがわかった。
基本的な文明の発達具合は街並みと同じく十九世紀のイギリス似ているようだが、違う点が一つある。
それは人々が不思議な力。
つまり魔法が使えるという所だ。
どうして非科学的なものを決して信じない俺がこうもあっさり魔法を信じているかというと魔女の存在もあったが、やはり一番は取り調べたをした警官達のせい……いや、おかげだ。
どうやらこの世界は人間の殆どが最低一つの魔法が使えるらしく、その能力の情報は事件が起こり容疑者となると身分情報と共に国が管理されるらしい。
俺の世界でいうなら指紋みたいなものだ。
その身分確認のため俺は魔法を警官達の前で使うことを求められた。
だが『魔法』という概念があるということに理解が追い付かず俺はどうすればいいのかわからず戸惑った。
すると警官達は俺の様子を見て動揺していて状況が理解できていないと思ったようで目の前で瞬間移動したり、火を出してくれたり。
わざわざ実演を交えつついちから魔法について説明してくれたのだ。
流石に警官達の真面目な対応と現物の魔法を見せられたら信じるしかなかったというわけだ。
しかし説明を受けたからといって急に魔法が使えるようになるはずもない。
だからひと通りの説明が終わった後、俺は正直に『異世界人なので魔法なんて使えません』と答えた。
すると警官達は信じられないものを見るようにあんぐりと口を開けた。
そしてひそひそと相談しあったのち同情的な視線を俺に向けた。
『魔法が一つも使えないなんて可哀想に』とか。
『こんな髪色で生まれたから捨てられたんだろう。可哀想に』とか。
『自分のことを異世界人というなんて頭を打ったんじゃないか。可哀想に』とか。
なんだか知らんが取り調べをした警官一同は俺を過酷な境遇から犯行に及んでしまった可哀想な人と判断したようだ。
だけど同情はしてくれても俺を犯人だと疑わない警官達はこちらの話は一切信じてくれず、しかも世界の理を理解出来ていない危険人物として早々に牢屋にぶち込まれることとなったのだ。
*
「まぁ、そこは隠れて覗いていたから知っているんだけどね。しかしいきなり殺人事件に遭遇するなんて。そこは予想外だったわ。運がいいわね」
「良くねーよ! 殺人犯として捕まってんだぞ! どうにかしろ!」
「どうにかって? 牢屋から出せってこと?」
「そうだよ! お前が俺をこんなところに連れてきたんだ! 少しぐらい責任取れ!」
俺の訴えにイレーネは少し考えたのち口を尖らせた。
「やだ」
「……はぁ?」
イレーネの反応に俺はポカンと口を開けた。
「な、なんで……」
「確かにこの警備なら私の魔法ですぐにあなたを外に出すことは出来るわ。でもそれだと面白くない。せっかく事件に巻き込まれたのよ。もっと関わっていこうという気概を見せなさい!」
「殺人犯として捕まってんのにどうやって関われっていうんだよ! それに現実で人が死んでんのに面白くないって、てめぇ……!」
本当になんなんだよ! こいつは!
俺に何をさせたいんだ!
歯ぎしりしながら睨みつけると、数秒の沈黙ののちイレーネは悲しげに目を細め小さく呟いた。
「……だけど相変わらずそういうところ優しいわね」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ」
イレーネは首を左右に振ると、元の不敵な笑みを浮かべた顔に戻り肩をすくめた。
「それはともかく殺人の疑惑をかけられた件なら大丈夫よ。すぐに容疑は晴れるから。それに多分この事件の担当あいつらだろうし嫌でも事件に関わることになると思うわ」
「あいつら?」
俺が怪訝な表情を浮かべると同時に、ドアが開く鈍い音が牢獄内に響いた。
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