召喚探偵の推理回想録

玻璃斗

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緋色の宿命

2-1 登場! レスレード警部

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音がしたほうへ視線をやるとドアの前には二つの人影。

あれ? こいつらも警官……だよな?

俺はこちらに近づいてくる二人の顔を交互に見やりながら首を捻った。

何故ならどっからどう見ても警察ですと言わんばかりの先程の厳つい警官達と違い、現れた二人は警官という職業らしくない容姿だったからだ。

一人は三つ編みにした栗色の髪を後ろでまとめ、帽子と同じ紺色で統一された洋服を身に纏った女性。
おそらく二十歳は超えていると思われるがパッチリした大きな瞳に薄いピンク色に染まった丸顔の頬。
その愛くるしい容姿から高校生、もしくは中学生にも見える。

もう一人は絹のように艶やかな金髪を後ろで一つに束ね、ひだのついた胸飾りがある十九世紀の貴族が着るようなタキシード。
長いまつ毛に透き通るような白い肌。
それに西洋風の彫りが深い端正な顔立ち。

二人とも警察というよりモデルと言われたほうがしっくりくる。



こいつら本当に警察か?

訝しげにじまじまと眺めていると、二人は俺がいる牢屋の前で足を止めた。

そして金髪のほうが顰めっ面で俺とイレーネを睨み付けたのち口を開いた。

「取り調べをした警官の話からもしかしたらと思ったが、魔女。やはりお前の仕業か」

……ん?

俺は金髪の声に違和感を覚えた。

変な声だからではない。
むしろ凜とした綺麗な声。
だが女の声ではないのだ。

まさか。

「そこの金髪の人。もしかして男?」

思わず漏れた俺の言葉に金髪は赤面した。

「もしかしなくても男だ!」

金髪はそう声を張り上げると自身の胸元を強く叩く。

言われてみればスラっとしていて身体つきは華奢だが、部分部分はごついし喉仏もある。
それに良く見ると服も前ボタンが右についており男物だ。

確かに顔は女みたいなのに男だ。この人。

「お前の目は節穴か! 節穴なのか!  普通見ればわかるだろ!」
「いや、こんだけ女っぽいと一目見ただけじゃわからないって……あっ」

火に油。

金髪の金髪はますます顔を真っ赤にし、隣にいた帽子の女性に目配せすると踵を返した。

「メアリー! 話を聞こうと思ったがやめだ! このままこの二人を名誉毀損で牢屋にぶち込んでおけ!」
「話を聞こうとって……ちょっ! 待て! いや、待ってください!」

俺は慌てて立ち去ろうとする金髪の裾を掴む。

彼の話し口からしてどうやら彼らは先程の警官とは別に俺の話を聞きに来たようだ。
魔女のことも知っているようだし、もしかしたら俺の主張に耳を傾けてくれるかもしれない。
このチャンスを逃してなるものか。

俺は必死に謝罪の言葉を並べた。

「すみません! 髪が長いからつい……いや! 俺の勘違いです。あなた様は男らしく見えます。はい!」

………………うん。わかってる。
俺に語彙力がないのは。
友人の泉にも散々『慎司は言葉の選び方がなってないよね』と注意された。

だからその『お前それで機嫌を取れると思ってんのか?』って憐れむような目で俺を見るのはやめてくれ。

すると今まで黙って俺らの様子を見ていたメアリーと呼ばれた帽子の女性が苦笑いをしながら俺と金髪の間に割って入ってくれた。

「まぁまぁ、落ち着いてよ、アルヴァン。あなたのことを『女っぽく見える』って言った人をいちいち名誉毀損で捕まえてたらこの町の大半が牢屋送りになってしまうわ。それにこの子も必死なんだしそんなことで腹を立てず話を聞いてあげましょうよ」

「そんなことって! メアリー、喧嘩を先に売ってきたのはこいつで……」
「アルヴァン?」

帽子の女性にじろりと睨まれたアルヴァンというらしい金髪はその鋭い目にたじろぐ。

「しかし……」

金髪は対抗しようとするが帽子の女性は笑顔のまま威圧感を発し有無を言わせない。

どうやら彼らの力関係はこのメアリーという女性のほうが上らしい。

そして金髪が黙ること数秒間。

帽子の女性を説得することを諦めたのか、金髪は服を整えると咳払いをした。

「……取り乱して悪かったな」

なんとか許しはもらえたようだ。
よかった。

俺はホッと胸をなで下ろす。

「ごめんなさいね。驚かせちゃって」

そう言って帽子の女性は俺に視線を合わせるようにしゃがむと朗らかに微笑んだ。

「改めまして。私は『メアリー・ザネッティ』。ここ『スコフィールド』で刑事をしているわ。気軽に『メアリー』とでも呼んで。それでこっちの彼が……ほら」

メアリーさんに責付かれた金髪は仏頂面でボソッと答えた。

「……『アルヴァン・レスレード』だ」

え?

「レストレードだって!?」

突然俺が上げた大声に金髪は後退りする。

「な、なんだいきなり!」

困惑する金髪。

だが俺はお構いなしに興奮しながら金髪に詰め寄った。

「なあなあ、お前も刑事? もしかして階級は警部だったりする!?」
「そ、そうだが……」

マジか!

レストレードと言えばあの俺が好きな小説に出てくる刑事。
しかも階級も同じときた。

「レストレード警部に聴取されるとかテンション上がる―!」

自分が置かれている状況も忘れ牢屋の中で小躍りする俺に金髪は目頭を押さえると声を張り上げた。

「違う! じゃない! だ!」
「……へ? レスレード?」

俺が首を傾げるとレスレード警部は強く頷いた。

「そうだ! 俺の名前はアルヴァン・。トはいらん!」

……あ、なんだ。レストレードじゃなく
ただ名前が似てるだけか。

そうだよな。
よくよく考えてみるとレストレード警部は『少し血色の悪い、ネズミのような顔をした黒目の男』。

こんな女顔のイケメンじゃない。
それに名前が一緒だったとしてもこいつと小説のレストレード警部は別人だ。

「パチモンに喜んで損した……」
「……メアリー。帰るぞ」
「ごめんなさい! 冗談! 冗談です!」

帰ろうとするレスレード警部を引き留める俺。
アルヴァンは涙目の俺を見下ろしため息を漏らした。

「あのな。お前、殺人犯として捕まってるんだぞ。魔女の使い魔だからって罪を逃れられるわけじゃないんだ。もっと危機感を持てないのか?」

「勿論まずい状況だということはわかってます。だから話を……ん? あの、今言った使い魔って誰の事ですか?」

意味がわからずキョトンとする俺に向かってレスレード警部とメアリーさんは同時に指さす。

ですよね。
今ここで殺人犯として捕まっているの俺しかいないしね。

って!

「ちょ、違う!だ、誰が! 俺はこの魔女に召喚されただけで……」

「召喚されたなら使い魔じゃないのか?」

レスレード警部の指摘に数秒間の沈黙。

俺は顎に手をやり小首を傾げた。

……言われてみればそうかも。

ファンタジー通の泉の話だと『使い魔』というのは魔女や魔法使いが異世界などから召喚し強制的に使役する生物のことを言うらしいし。

そう考えると魔女に召喚された俺は条件に当てはまるっちゃ当てはまる。

「だ、だけど俺、無実だし! 人殺しなんてしてねー!」

思わず叫んでしまう俺。

レスレード警部とメアリーさんは目を瞬かせた。

……あ、しまった。

これじゃあまた可哀想な人呼ばわりされる。

だが予想と反し、レスレード警部とメアリーさんは俺の主張を『嘘だ』と一蹴することなく真摯な眼差しを俺に向けていた。

そして俺が期待していた言葉を口にした。

「わかった。そう言うなら詳しく話を聞かせろ」
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