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投身自殺
第2章 服毒自殺 4
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「おい、刹那! どうしてここにいる?」
先程巳波警部と呼ばれていた無精髭の中年刑事は目の前に置かれた机を叩き、すごい剣幕で刹那を問いただした。
普通の人なら聞かれてもいない罪まで自白してしまいそうになるほどの恐ろしい形相であったが彼は動じることはなかった。
お互いの名前を知っているということはきっとこの人がさっき言っていた県警の知り合いなのだろう。
その割に仲が良くなさそうなのは何故なのだろうか。
「巳波、何故たまたま現場に居合わせた善良な市民にそんな態度をとる? 失礼ではないか」
「善良な市民? よく言う! 善良な市民がお前みたいにそう何度も事件に巻き込まれるか! この前だってなお前のせいで殺人未遂が起きたんだぞ!」
「さ、殺人未遂!?」
実月は巳波の言葉に目を丸くして隣に座る刹那を見た。
彼は不服そうに顔を歪めた。
「あれは相手が勝手にやったことだろう。むしろ俺は被害者だぞ?」
「ああ、確かにあれはオフ会で知り合った女性に交際を迫られ、それを断ったら『付き合ってくれなきゃ一緒に死んでやる』とナイフを突きつけられ警察の出る騒ぎになった。お前は被害者だ」
「そうだろ?」
刹那はうんうんと満足げに相槌を打つ。
「でもそれはお前が自殺サイトのオフ会に行ったからだろうが! 何度あんなものに手を出すなといえばわかる!?」
巳波は鼻息を荒くして再び机を叩くと、ドラム缶を叩いたような音が部屋中に響き渡った。
「じ、自殺サイトのオフ会って……」
彼なら行きかねないし、これほどの美形なら恋い焦がれる女性は多いだろう。
……性格が良ければもっとモテると思うけど。
しかし殺人未遂騒ぎまで起こすほどとは。
「別に俺が何処で誰に会おうが巳波には関係ないだろ」
「ほう、あれだけの問題を起こしておいてよくいけしゃあしゃあと……」
刹那のしれっとした態度に巳波の顔がみるみる赤くなる。
「ま、まあ、巳波さん。プライベートな話は一旦抜きにして話を聞きましょうよ」
その様子を見かねた相棒らしき若い刑事が宥めると、巳波はしばらく沈黙したのち「そ、そうだな」と息を整え、席に座り直した。
横で若い刑事は上着の右ポケットに手を入れる。
「え? あれ?」
すると若い刑事は焦りの表情を見せ、上着の他のポケットやズボンのポケットにも手を入れ何かを探し始めた。
「探し物はこれか?」
「あ、僕の手帳!」
出された刹那の左手には黒い無地の手帳があった。
若い刑事はそれを受け取ると中身を確認し、ホッと息をついた。
「よかったー。これどこにあったの?」
「机の下だ。大切なものなのだろ? 管理には気をつけるんだな」
「う、うん」
若い刑事は恥ずかしそうに苦笑いし、胸ポケットから取り出したボールペンの芯を出す。
でも部屋に入ってきた時、机の下に手帳なんて落ちてたかな?
巳波は若い刑事が手帳を開いたことを確認すると小さな咳払いをして切り出した。
「刹那は知っていると思うが神奈川県警の巳波だ。こっちは部下の石住。二人とも確認のためまず名前を教えてくれ」
「愛河刹那だ」
「樹塚井実月です」
刹那は足を組んで踏ん反り返り、実月は軽く頭を下げた。
巳波は刹那の態度に少し眉をしかめたが話を進める。
「二人は何時ぐらいにここに来たか覚えてるか?」
「え、えーと」
実月は店内に入ってきた時を思い出そうと記憶を辿っていると隣に座っている刹那が口を開けた。
「十三時三十五分だ」
「え?」
メモを取る石住の手が止まる。
「店内に入った時、時計を見た。間違えないだろう。店内には被害者の浮気相手以外がいた。カウンターに眼鏡の少年、実月の背後に女子三人組。横の席に明美という女。斜め後ろに被害者の男の計四組だ。そして十三時四十二分に浮気相手が店内に入ってきて被害者と話した後すぐに婚約者が乱入、言い争いになった」
よどみなく答える刹那に石住はあっけに取られた。
「よ、よく覚えているね」
「これぐらい普通覚えているだろう。なんなら秒数も言うか?」
刹那は面倒くさそうにため息をつく。
その内容を書こうか戸惑っている石住の肩に巳波は手を置いた。
「石住、大丈夫だ。こいつの記憶力だけは信用していい。嘘をついていなければの話だが」
巳波はそう言うと刹那を睨みつけた。
「ほぉ、人を嘘つき呼ばわりするとは失礼な刑事だな」
刹那もそう言って巳波を睨み返す。
二人の間に剣呑な空気が漂い始めた為、石住は慌てて話題を変えた。
「ふ、二人はどうしてこの店に?」
「ん? こいつと話をするためだ。外は暑いからな、たまたま目に止まったこの店に入った」
「ということは常連ではないんだね」
「ああ」
「私も初めてです」
刹那と実月は首を縦に振った。
「じゃあ、店にいた時に被害者たちの口論以外で何かおかしいな行動を取っている人は見なかった?」
「特に見てはいないな」
「私も」
「なるほど。どうもありがとう。巳波さん他に何かありますか?」
「……いや、ないな。二人ともありがとう。別室で待機してくれ」
巳波がぶっきらぼうに礼を言うと刹那は無造作にパイプ椅子から腰を上げた。
「そうだ。言い忘れていた」
ドアの方に踵を返す時、刹那は何かを思いついたように足を止めた。
「何かまだあるのか?」
「いや、一応忠告をと思ってな。小町か宮古のどちらかが犯人だと考えるのはまだ早いと思うぞ」
「は?」
わけのわからないアドバイスに呆然としている刑事二人をよそに刹那はスタッフルームをあとにした。
「あ、じゃあ私も失礼します……」
「ちょっと待って」
実月も部屋を出ようと立ち上がると巳波に呼び止められた。
「えーと、樹塚井さんだね。君は刹那とはどういう関係なんだ? 店長はカップルだと思っていたみたいだけど」
実月は巳波の言葉に目を見開いた。
「カップル!? 違います! 彼はその……友人です!」
友人っていうのも少し違う気がするが「出会ったきっかけは数時間彼が自殺しようとするところを目撃したからです」とは言えなかった。
その態度に違和感を覚えたのか巳波は疑いの眼差しを向けた。
「……まさかとは思うけど、自殺志願者とかじゃないよね?」
「ち、違いますよ! 本当にただの友人です!」
実月は慌てて両手を振り、全力で否定する。
巳波はそれを見て嘘を言ってはいないと思ったようで一息をついた。
「そうか。いやー、疑って悪かったな。あいつ常に上から目線だし、思ったことはすぐ言うし、色々性格に問題あるだろ。そのせいか俺もあいつと知り合って七年ぐらい経つが同学年の友達なんてあんまり見たことなかったんだよ。だから君みたいな子が友達だと聞いてちょっと意外でな」
「そ、そうなんですか……」
「でもあいつにもいいところはあるから友達としてこれからも仲良くしてくれないか?」
「え?」
思わぬ言葉に実月は巳波の顔を見た。
先程の恐ろしい形相とは違い、優しそうな表情していた。
「よろしく頼むよ」
先程巳波警部と呼ばれていた無精髭の中年刑事は目の前に置かれた机を叩き、すごい剣幕で刹那を問いただした。
普通の人なら聞かれてもいない罪まで自白してしまいそうになるほどの恐ろしい形相であったが彼は動じることはなかった。
お互いの名前を知っているということはきっとこの人がさっき言っていた県警の知り合いなのだろう。
その割に仲が良くなさそうなのは何故なのだろうか。
「巳波、何故たまたま現場に居合わせた善良な市民にそんな態度をとる? 失礼ではないか」
「善良な市民? よく言う! 善良な市民がお前みたいにそう何度も事件に巻き込まれるか! この前だってなお前のせいで殺人未遂が起きたんだぞ!」
「さ、殺人未遂!?」
実月は巳波の言葉に目を丸くして隣に座る刹那を見た。
彼は不服そうに顔を歪めた。
「あれは相手が勝手にやったことだろう。むしろ俺は被害者だぞ?」
「ああ、確かにあれはオフ会で知り合った女性に交際を迫られ、それを断ったら『付き合ってくれなきゃ一緒に死んでやる』とナイフを突きつけられ警察の出る騒ぎになった。お前は被害者だ」
「そうだろ?」
刹那はうんうんと満足げに相槌を打つ。
「でもそれはお前が自殺サイトのオフ会に行ったからだろうが! 何度あんなものに手を出すなといえばわかる!?」
巳波は鼻息を荒くして再び机を叩くと、ドラム缶を叩いたような音が部屋中に響き渡った。
「じ、自殺サイトのオフ会って……」
彼なら行きかねないし、これほどの美形なら恋い焦がれる女性は多いだろう。
……性格が良ければもっとモテると思うけど。
しかし殺人未遂騒ぎまで起こすほどとは。
「別に俺が何処で誰に会おうが巳波には関係ないだろ」
「ほう、あれだけの問題を起こしておいてよくいけしゃあしゃあと……」
刹那のしれっとした態度に巳波の顔がみるみる赤くなる。
「ま、まあ、巳波さん。プライベートな話は一旦抜きにして話を聞きましょうよ」
その様子を見かねた相棒らしき若い刑事が宥めると、巳波はしばらく沈黙したのち「そ、そうだな」と息を整え、席に座り直した。
横で若い刑事は上着の右ポケットに手を入れる。
「え? あれ?」
すると若い刑事は焦りの表情を見せ、上着の他のポケットやズボンのポケットにも手を入れ何かを探し始めた。
「探し物はこれか?」
「あ、僕の手帳!」
出された刹那の左手には黒い無地の手帳があった。
若い刑事はそれを受け取ると中身を確認し、ホッと息をついた。
「よかったー。これどこにあったの?」
「机の下だ。大切なものなのだろ? 管理には気をつけるんだな」
「う、うん」
若い刑事は恥ずかしそうに苦笑いし、胸ポケットから取り出したボールペンの芯を出す。
でも部屋に入ってきた時、机の下に手帳なんて落ちてたかな?
巳波は若い刑事が手帳を開いたことを確認すると小さな咳払いをして切り出した。
「刹那は知っていると思うが神奈川県警の巳波だ。こっちは部下の石住。二人とも確認のためまず名前を教えてくれ」
「愛河刹那だ」
「樹塚井実月です」
刹那は足を組んで踏ん反り返り、実月は軽く頭を下げた。
巳波は刹那の態度に少し眉をしかめたが話を進める。
「二人は何時ぐらいにここに来たか覚えてるか?」
「え、えーと」
実月は店内に入ってきた時を思い出そうと記憶を辿っていると隣に座っている刹那が口を開けた。
「十三時三十五分だ」
「え?」
メモを取る石住の手が止まる。
「店内に入った時、時計を見た。間違えないだろう。店内には被害者の浮気相手以外がいた。カウンターに眼鏡の少年、実月の背後に女子三人組。横の席に明美という女。斜め後ろに被害者の男の計四組だ。そして十三時四十二分に浮気相手が店内に入ってきて被害者と話した後すぐに婚約者が乱入、言い争いになった」
よどみなく答える刹那に石住はあっけに取られた。
「よ、よく覚えているね」
「これぐらい普通覚えているだろう。なんなら秒数も言うか?」
刹那は面倒くさそうにため息をつく。
その内容を書こうか戸惑っている石住の肩に巳波は手を置いた。
「石住、大丈夫だ。こいつの記憶力だけは信用していい。嘘をついていなければの話だが」
巳波はそう言うと刹那を睨みつけた。
「ほぉ、人を嘘つき呼ばわりするとは失礼な刑事だな」
刹那もそう言って巳波を睨み返す。
二人の間に剣呑な空気が漂い始めた為、石住は慌てて話題を変えた。
「ふ、二人はどうしてこの店に?」
「ん? こいつと話をするためだ。外は暑いからな、たまたま目に止まったこの店に入った」
「ということは常連ではないんだね」
「ああ」
「私も初めてです」
刹那と実月は首を縦に振った。
「じゃあ、店にいた時に被害者たちの口論以外で何かおかしいな行動を取っている人は見なかった?」
「特に見てはいないな」
「私も」
「なるほど。どうもありがとう。巳波さん他に何かありますか?」
「……いや、ないな。二人ともありがとう。別室で待機してくれ」
巳波がぶっきらぼうに礼を言うと刹那は無造作にパイプ椅子から腰を上げた。
「そうだ。言い忘れていた」
ドアの方に踵を返す時、刹那は何かを思いついたように足を止めた。
「何かまだあるのか?」
「いや、一応忠告をと思ってな。小町か宮古のどちらかが犯人だと考えるのはまだ早いと思うぞ」
「は?」
わけのわからないアドバイスに呆然としている刑事二人をよそに刹那はスタッフルームをあとにした。
「あ、じゃあ私も失礼します……」
「ちょっと待って」
実月も部屋を出ようと立ち上がると巳波に呼び止められた。
「えーと、樹塚井さんだね。君は刹那とはどういう関係なんだ? 店長はカップルだと思っていたみたいだけど」
実月は巳波の言葉に目を見開いた。
「カップル!? 違います! 彼はその……友人です!」
友人っていうのも少し違う気がするが「出会ったきっかけは数時間彼が自殺しようとするところを目撃したからです」とは言えなかった。
その態度に違和感を覚えたのか巳波は疑いの眼差しを向けた。
「……まさかとは思うけど、自殺志願者とかじゃないよね?」
「ち、違いますよ! 本当にただの友人です!」
実月は慌てて両手を振り、全力で否定する。
巳波はそれを見て嘘を言ってはいないと思ったようで一息をついた。
「そうか。いやー、疑って悪かったな。あいつ常に上から目線だし、思ったことはすぐ言うし、色々性格に問題あるだろ。そのせいか俺もあいつと知り合って七年ぐらい経つが同学年の友達なんてあんまり見たことなかったんだよ。だから君みたいな子が友達だと聞いてちょっと意外でな」
「そ、そうなんですか……」
「でもあいつにもいいところはあるから友達としてこれからも仲良くしてくれないか?」
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