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第一章 青き誓い
9、金色の姉弟(5)
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全ては、国王ブレンディアン五世の企みだった。
その目的と手段は、マルティータを含め、騎士団長、神子姫、セルゲイなど全ての関係者に伝えられた。
しかし、たった一人、父が心から鍛え上げたがっている息子グレイズにだけは、伏せられた。
国王の目的は三つあった。
一つ目は、グレイズ――王太子グラスタンを真の男に目覚めさせること。十八年経った今でも現状にまったく満足していない父は、ついに、息子を戦地に向かわせる決断を下した。
それで、魔術師によって最愛の姫君がさらわれるという寸劇を打つことにしたのだ。
目前で妻を奪われれば、慈悲(グラスタ)の名を体現する――国王に言わせれば優しすぎるグレイズでも、さすがに剣を手に立ち上がらざるを得なくなる。
筋書は奇しくも、グレイズが愛読する『ルスランとリュドミラ』に酷似していた。
同じ英雄譚でも騎士道物語など読まない国王であるのに、なんという偶然だろう。
さらに、犯人が海賊となれば世論は王室に味方し、正義が王冠の上に輝くはずだという。
そうなれば、海賊を騙った騎士団同士の茶番――サフィーラ島の戦いは海賊団ルジアダズの耳に遅かれ早かれ届く。縄張りを侵され、プライドを傷つけられた彼らは武力行使をする。
こうして、二つ目の目的が達成される。それはつまり、海賊を戦に乗り出させることだ。
睨み合うのに飽きたのか、ブレンディアン五世は海賊を殴るつもりなのだ。
そして海賊を打ち倒した暁には、ヴァニアス王家はペローラ諸島を救った英雄となり、大手を振って一帯を属国化することができる。これが三つ目の目的だった。
ペローラ諸島を管轄下に置ければ王国の海域も広がり、税収入の向上も見込めるという。
要するに、国王は王子の教育という建前の下、敵陣にて自ら誘発した戦で勝利を収め海賊団の代わりにペローラ諸島を支配するつもりなのだ。
一応、反対の声はあったようだ。けれど覇道を行きたがる国王を誰も止められなかった。
なんて利己的で、なんて恐ろしいことに、わたくしは加担してしまったのかしら。
「……グレイズ様……」
マルティータが体を震わせたその時、かちゃりとドアが大きな音を立てた。
「お嬢様」
マルティータが驚いて振り向くと、小さなランプを手にした寝間着の侍女が入ってきた。
明かりが赤く照らし出した侍女の顔で眉が傾いている。その下の琥珀色の瞳が金色に輝いた。
「申し訳ございません。お返事がありませんでしたから」
「いいのよ、イーリス」
イーリスは檜皮色(ひわだいろ)の頭を下げながら深々と膝を折ると古びたテーブルの上にランプを置いて、代わりに窓を閉じてくれた。
その目的と手段は、マルティータを含め、騎士団長、神子姫、セルゲイなど全ての関係者に伝えられた。
しかし、たった一人、父が心から鍛え上げたがっている息子グレイズにだけは、伏せられた。
国王の目的は三つあった。
一つ目は、グレイズ――王太子グラスタンを真の男に目覚めさせること。十八年経った今でも現状にまったく満足していない父は、ついに、息子を戦地に向かわせる決断を下した。
それで、魔術師によって最愛の姫君がさらわれるという寸劇を打つことにしたのだ。
目前で妻を奪われれば、慈悲(グラスタ)の名を体現する――国王に言わせれば優しすぎるグレイズでも、さすがに剣を手に立ち上がらざるを得なくなる。
筋書は奇しくも、グレイズが愛読する『ルスランとリュドミラ』に酷似していた。
同じ英雄譚でも騎士道物語など読まない国王であるのに、なんという偶然だろう。
さらに、犯人が海賊となれば世論は王室に味方し、正義が王冠の上に輝くはずだという。
そうなれば、海賊を騙った騎士団同士の茶番――サフィーラ島の戦いは海賊団ルジアダズの耳に遅かれ早かれ届く。縄張りを侵され、プライドを傷つけられた彼らは武力行使をする。
こうして、二つ目の目的が達成される。それはつまり、海賊を戦に乗り出させることだ。
睨み合うのに飽きたのか、ブレンディアン五世は海賊を殴るつもりなのだ。
そして海賊を打ち倒した暁には、ヴァニアス王家はペローラ諸島を救った英雄となり、大手を振って一帯を属国化することができる。これが三つ目の目的だった。
ペローラ諸島を管轄下に置ければ王国の海域も広がり、税収入の向上も見込めるという。
要するに、国王は王子の教育という建前の下、敵陣にて自ら誘発した戦で勝利を収め海賊団の代わりにペローラ諸島を支配するつもりなのだ。
一応、反対の声はあったようだ。けれど覇道を行きたがる国王を誰も止められなかった。
なんて利己的で、なんて恐ろしいことに、わたくしは加担してしまったのかしら。
「……グレイズ様……」
マルティータが体を震わせたその時、かちゃりとドアが大きな音を立てた。
「お嬢様」
マルティータが驚いて振り向くと、小さなランプを手にした寝間着の侍女が入ってきた。
明かりが赤く照らし出した侍女の顔で眉が傾いている。その下の琥珀色の瞳が金色に輝いた。
「申し訳ございません。お返事がありませんでしたから」
「いいのよ、イーリス」
イーリスは檜皮色(ひわだいろ)の頭を下げながら深々と膝を折ると古びたテーブルの上にランプを置いて、代わりに窓を閉じてくれた。
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