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第一章 妖精と呼ばれし娘
三、カラスとの約束(4)
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次期伯爵は、狩り場でその時を待っていた。
森林の生きている音に体をゆだね、ずっとその場を動かなかった。瞬きさえも慎重に管理するほどだった。
今日は、彼のあまり好きではないボウガンをも傍らに用意し、矢筒を三本持ってきていた。
ボウガンは対人用兵器としては有能だが、狩りにはむかないとアルフレッドは考えていた。
弓矢の絃が響く音のそれよりも、ボウガンの器械音は大きく、そして野生の動物は矢が刺さるよりも先に、その音で逃げてしまうからだ。
無心に、白い物体が来ないかと眼を皿にするアルフレッドは、その頬に蟻が上ってきても、耳元を蜜蜂が不思議そうに漂っても、歯を食いしばって動かなかった。
そうしているうちに、木陰がすっかり小さくなった。
正午になったのだ。
朝食はとっくに消化され、新たな食物を求める腹の音を制御するのに、アルフレッドは一苦労していた。
「……今、出てきてくれたら、あいつを昼飯にしてやるのに……」
そう思いながら彼は矢をつがえ続ける。
そしてその狙いを、先日、白いうさぎがいた切り株に定める。
「……そう、都合良く行くわけが……」
さすがにそろそろ肩周りの筋肉に疲労感を覚え始めてきた。
ため息をつき、構える腕を下げようとしたアルフレッドの灰色の瞳に、白くまばゆい毛並みが見えた。
瞳孔が開くのを感じ、彼はすかさず矢を持つ右腕に力を込める。
きりきりと弓がしなる音が、自身の腕の震えを音で如実に表現していた。
緊張の一瞬。
それを、一本の矢が切り裂く。
連続で四発、打ち込む。
森では異質な金属音がまたもや彼の耳に届く。
アルフレッドはすぐさま弓に首を通し上半身に固定すると、ボウガンを片手に白いうさぎめがけて走り込んだ。
そして、走りながら何発も打ち込む。
狩人の出した音で、狩り場一帯に潜んでいた野生の生き物達は、その翼や足を使ってあちらこちらに散らばっていった。
しかし彼はそれを気にも留めず、目標の白樺の切り株まで一直線に走った。
「……どういうことだ……?」
切り株のある開けた場所。
そこが獲物である白いうさぎの倒れている場所のはずだった。
しかし、そこには真っ白な髪をもつ人間が倒れているだけだった。
そして、その人間の周りには、ぽっきりと折れた大量の矢が落ちているのだった。
どういうわけか、円形を描いて草花も倒れている。
その光景を見て、アルフレッドはただ立ちつくすほかなかった。
「……死んで、ないよな……?」
彼は自身が過ちを犯していないことを確かめるべく、折れた矢の中心に倒れる人間に、恐る恐る近付いた。
背中まである髪からして、女性だろうと彼は思った。
さらに、真っ白な髪であるからして、高齢者であろうとも。
森林の生きている音に体をゆだね、ずっとその場を動かなかった。瞬きさえも慎重に管理するほどだった。
今日は、彼のあまり好きではないボウガンをも傍らに用意し、矢筒を三本持ってきていた。
ボウガンは対人用兵器としては有能だが、狩りにはむかないとアルフレッドは考えていた。
弓矢の絃が響く音のそれよりも、ボウガンの器械音は大きく、そして野生の動物は矢が刺さるよりも先に、その音で逃げてしまうからだ。
無心に、白い物体が来ないかと眼を皿にするアルフレッドは、その頬に蟻が上ってきても、耳元を蜜蜂が不思議そうに漂っても、歯を食いしばって動かなかった。
そうしているうちに、木陰がすっかり小さくなった。
正午になったのだ。
朝食はとっくに消化され、新たな食物を求める腹の音を制御するのに、アルフレッドは一苦労していた。
「……今、出てきてくれたら、あいつを昼飯にしてやるのに……」
そう思いながら彼は矢をつがえ続ける。
そしてその狙いを、先日、白いうさぎがいた切り株に定める。
「……そう、都合良く行くわけが……」
さすがにそろそろ肩周りの筋肉に疲労感を覚え始めてきた。
ため息をつき、構える腕を下げようとしたアルフレッドの灰色の瞳に、白くまばゆい毛並みが見えた。
瞳孔が開くのを感じ、彼はすかさず矢を持つ右腕に力を込める。
きりきりと弓がしなる音が、自身の腕の震えを音で如実に表現していた。
緊張の一瞬。
それを、一本の矢が切り裂く。
連続で四発、打ち込む。
森では異質な金属音がまたもや彼の耳に届く。
アルフレッドはすぐさま弓に首を通し上半身に固定すると、ボウガンを片手に白いうさぎめがけて走り込んだ。
そして、走りながら何発も打ち込む。
狩人の出した音で、狩り場一帯に潜んでいた野生の生き物達は、その翼や足を使ってあちらこちらに散らばっていった。
しかし彼はそれを気にも留めず、目標の白樺の切り株まで一直線に走った。
「……どういうことだ……?」
切り株のある開けた場所。
そこが獲物である白いうさぎの倒れている場所のはずだった。
しかし、そこには真っ白な髪をもつ人間が倒れているだけだった。
そして、その人間の周りには、ぽっきりと折れた大量の矢が落ちているのだった。
どういうわけか、円形を描いて草花も倒れている。
その光景を見て、アルフレッドはただ立ちつくすほかなかった。
「……死んで、ないよな……?」
彼は自身が過ちを犯していないことを確かめるべく、折れた矢の中心に倒れる人間に、恐る恐る近付いた。
背中まである髪からして、女性だろうと彼は思った。
さらに、真っ白な髪であるからして、高齢者であろうとも。
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