純白の抒情詩〈リューリカ〉

黒井ここあ

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〈組曲〉Prelude

プレリュード(3)

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 次の一年は、びっくりするような出来事があった。
 まず、一緒に暮らしていた家の家長が彼の娘を妻にしないかと、アラムに持ち掛けたのだ。その娘さんとは、あの優しい声の彼女である。
 つまり、二人が結婚すれば彼女は僕の母になるのだ。
 母という存在に彼女はぴったりだと常々思っていた僕は舞い上がった。
 しかし、当のアラムは渋い顔をして、なかなか相手のお家へ返事をしに行かなかった。
 しかし僕はこんなに良い話はないと、彼の心持なぞ気にかけず無神経に勧めていた。

「アラム、僕はあの人のこと好きだよ。アラムは?」

「俺だってそうだ。彼女以外いないと思ってる。でも……」

 彼は吐き捨てるように言った。まるで悩んでいる自分に言い訳をしているみたいに。

「でも、なあに?」

 僕は本当に子供だった。
 そして彼はそれに比べて随分と大人だった。
 彼は最後まで僕に本音を言わなかった。
 今なら判る。
 彼は、僕という存在と彼女の間で板挟みになっていたのだ。
 血の繋がっていない子供をいきなり持つという大きなハンディキャップを、彼女が背負ってくれるのか。
 そして、その子どもを実の子同様に愛せるのか……。
 でも、僕には判っていた。あの女性がそんな石ころにつまづく人間ではないと。
 ある日の僕のテントで、僕は彼女に聞いてみた。
 アラムはうたた寝をしていて、彼女の物語と僕の優しい時間が過ぎる間のことだった。
 その日聞いた話は、たまたま継母が継子をいじめる話だったからだ。

「アラムは僕のままちちだよね。アラムも僕のこと嫌いになる時が来るのかなあ」

 彼女は、膝に乗せていた僕を自分の方に向き直らせて、まっすぐな瞳で言った。

「シュウは、アラムが嘘をつくような人だと思う?」

「ううん」

「わたしもそう思うわ」

 彼女は僕の答えに優しく頷いてくれた。
 温かい気持ちが僕の心に充ちていき、彼女の銀色の瞳がほんのりと潤んで細められる。
 柔らかそうなほっぺたが薔薇色になって、それはそれは素敵な表情だった。

「血なんか繋がっていなくても家族になれるのよ。大事っていう、それだけで。シュウの大事な人は誰かしら?」

「アラム! それから、お姉さんもだいじだよ!」

***

 アラムと彼女が結婚した次の年は、本当に素晴らしいものになった。
 なぜかって、僕に妹が出来たんだ。
 髪も瞳もアラムとそっくりだけど、その甘い顔立ちは彼女にそっくりだった。
 七歳の僕は子供心に思った。
 こんなに愛らしい赤ん坊が成長したらどうなるんだろうと。
 想像の中の妹は、義母のようにすらりと緑の大地に立ちこちらへ振り向くと柔らかく微笑んだ。
 純白の癖毛をたなびかせ、翠の瞳を煌めかせる世界一の女の子だ。
 僕は馬鹿だったんだろうな。
 その女の子にすっかり心を奪われてしまったんだから。
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