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第一章 妖精と呼ばれし娘
一、愛を探す少女(4)
しおりを挟む今はヴィスタ歴1150年。
どこからともなくやってきた異国の青年魔術師が、新しく女王の摂政という地位に就いて六年が経った。
彼は成人を迎えていない女王に代わり、このヴィスタ王国を保護する眼に見えぬ防護壁を《魔法のギフト》で作り、保持し続けている。
王家がつかさどる豊穣も少なからず負ってくれ、国内の自然資源もまずまずというところだ。
途切れることのない魔法の防壁に、彼の底しれぬ才能が垣間見たようで、元老院の面々は不本意ながらも彼を王宮に置かざるを得なかった。
彼は公の場には必ず仮面を着けて現れた。
出自も素顔も知れぬこの若い男に、臣下の者は不信感を露わにした。
なぜあのような素姓の明らかではない者を城に入れたかと、女王に直談判する者もいた。
しかし彼女はにっこりとほほ笑んでこう言うだけだった。
「今にわかる時が来る」
この年、齢は十六になろうとしており、女王は成人の儀を控えていた。
ヴィスタの国政をまとめる議長として、これからは摂政を立てず一人で決断を下さねばならない。
それは同時に国家の守護者――すなわち国を覆う魔力の防壁の担い手となることでもあった。
「陛下……」
女王の寝室を月明かりが照らす中、魔術師は陰から音もなく現れた。
魔法の力の証である翠の瞳は月光を受け止め、さながらエメラルドのように妖しく煌めく。
しかし、女王にはそれを知る術がなかった。
窓際の寝椅子に腰かけていた女王は彼の来訪にさして驚かず、背で呼びかけを受け止めた。
「あら、来たの、ジークフリート?」
少女の声はまだあどけなさを残しており、リンゴを思わせるような堅さと甘ずっぱい音色を持っていた。
つんとした言い方ではあったが、公務における支配者らしい響きは微塵も含まれてはいない。
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