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第一章 妖精と呼ばれし娘
二、五月雨の心は(2)
しおりを挟む「来週は仮面舞踏会ですわね。そうそう、この間、あなたにお話したお嬢さんがデビューするのですって」
「……」
「ル・マンシュ侯のご親族なのよ。ご存知?」
「……」
「お歳は……ちょうどわたくしの女王陛下と同じくらいのはずですけれど……。いやだわ、思い出せないだなんて」
彼は、なかなか本題に辿り着かない彼女の話を黙って聞き、出された紅茶を飲むだけで、うんとも嫌とも言わない。
二人の視線が交わることもまた無い。
見えない壁が、二人のあいだに立ちはだかっているかのようだ。
しかしこれは毎度のことであるから、未亡人はそれを気に留めることもなくなっていた。
「わたくし、娘時代にはあなたにいつもエスコートをしてもらっていたでしょう。リチャードさまがいらっしゃったときは……」
ある単語に反応し、彼は眉をピクリと一つ動かす。
「そうよ、あなたのお兄さまは十八でわたくしを娶られたのですわ。アル。あなたもう二四じゃありませんの。行き遅れならぬ、貰い遅れになってしまうわ」
義弟は茶器に唇を付けたまま、伏し目がちにカップの中に移り込んだ景色なのか、どこか一点を見据えているようだった。
未亡人はその様子を、特に反論が無いもの―すなわち承諾と解釈し、口を閉じない。
「ですから、先方のご婦人―小さなレディのお母様―と意見が合いましたの。あちらのお嬢さんも何かと手仕事に夢中になるものだから、成人してすぐにでも社交界に出さなければ、オールド・ミスになりそうだと仰るものですから、これまた奇遇とお約束を取り付けてしまいましたの。ねえ、せっかくですもの、わたくしと……」
義弟が音を立てて空っぽの茶器を置く。
未亡人はか細い声を上げてすくみあがった。
彼は未亡人を怒りに燃えたぎる瞳で見据えながら言った。
「俺は行きませんよ」
発せられた言葉の物腰の丁寧さとは裏腹に、その声色は苛立ちで毛羽立っていた。
そして彼は立ち上がり、傍らに置いてあった狩り道具を襷掛けにすると、大きな足取りでずかずかと日当たりの良いテラスを背にした。
いつもそうする通り、貴婦人の部屋を出て行こうというのだ。
「アル、アルフレッド、あなたはいつもそうですわ。どうしていつも、わたくしのお話をきちんと聞いてくださらないの?」
頑なな拒否の態度に、貴婦人はたまらず席から腰を浮かせ、苛立ちを隠さない義弟の背中に、波立った声をかけた。
一瞬、彼がその歩みを止めたように見えたが、それは彼女の望んだ幻想だったようだ。
彼は虹色の羽を刺したくすんだ色の帽子をその頭に深く被せ、足早に扉へ向かった。
「こうして聞いている、いつも」
部屋の扉が空虚な音を立てて、義理の姉弟を隔てた。
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