【R18】破滅の王子は無垢な天使に跪く

瀬月 ゆな

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おねだり  ☆

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「ふぁっ、あ……っ! あ――っ!」

 なおも敏感な場所ばかりを責められ、フィーナは悲鳴のような啼き声をあげ続ける。
 手足の拘束を振りほどこうともがいても、胴体部分が伸びるだけで肝心の巻きついた部分はびくともしない。それに暴れると体力を消耗してしまって、余計に苦しくなるばかりだった。

 ベッドが軋み、涙で滲む視線を向ける。
 ドアが開いたことにさえ気がつかなかった。いつの間にか戻って来ていたレイジがベッドの端に座って見下ろしている。

「俺のいない間に一人でずいぶん楽しんでるようだな」
「た、の……し、んで、な……っ」

 これが楽しんでいるように見えるなんて、この男はやはり人でなしだ。
 だけどフィーナは腕に蛇を絡みつかせたままレイジの指に触れた。ひんやりとしたその熱に、逆に安堵する。赤子のようにレイジの指を握り込んだ。

「――何がサービスだクソ親父が。部屋のあちこちが粘液でベタベタじゃねえか」

 レイジはこの場にいない誰かに毒づきながら、フィーナの肌を濡らす粘液をさらに身体に塗りつけた。
 ふくらみを撫で、桃色の乳首をしっかりと咥え込んだ異形の口を指で突く。それに合わせて口の中の繊毛も刺激を与えて来る。

「や、あっ、あ――!」

 フィーナは背中をのけぞらせた。

 レイジに直接触れて欲しい。
 レイジの熱杭で貫いて欲しい。

「レ、イ……、ジ、れ、て……。お願い、なか……欲しいの……っ」

 恥ずかしいとかみっともないとか、そんな想いはどこにもなかった。
 フィーナの身体が唯一知る男である彼に、奥深い場所に渦巻く疼きを早く慰めて欲しい。それだけだ。
 だけど"それだけ"のことが神に背き、貞淑に暮らして来たフィーナの全てを否定する。

 それでも、欲しい。

「今帰って来たばかりでってるわけねえだろ」
「じゃ、あ、勃たせて……っ」
「お前……」

 レイジは珍しく苦笑いを浮かべた。フィーナの頬を濡らす涙を、らしくもなく親指で拭いながら問いかける。

「そんなに挿れて欲しいのか」
「ん……っ。欲し……、挿れて……」
「――素直で可愛いな」

 耳元で小さく囁かれて身体に火が灯る。蛇が這った痕跡のない耳を食まれて吐息がこぼれた。
 唇を重ね、舌を迎え入れる。フィーナの咥内で深く絡まり合う舌が奏でる音は、自らが分泌した粘液の上を蛇に似た生き物が這いずり回る音よりずっと淫らだ。

 口づけを交わしながら腰を浮かせ、揺する。早くその気になって欲しくて太ももでレイジの身体を探った。

「あ……っ」

 布地越しにでも中で変化が起きているのが分かる。
 レイジが舌打ちするのが聞こえた。
 でも、その屹立の存在を知ったフィーナは吐息をうっとりとこぼすだけだ。

「そんなに欲しいならくれてやる」

 唇を離し、レイジが獰猛な獣の目で見下ろす。
 待ち焦がれ続けたその時がようやく訪れたのだと、フィーナの中の獣もうごめい気がする。

 蜜口を突いては悪戯するそれは、帰還した王の凱旋を待っていたかのように一斉に引いて行った。代わりに、ずっと大きくて硬いものが押し当てられる。その熱にフィーナの身体が歓喜に震えた。

 入って来る。
 ゆっくりと、けれど確実に、レイジの熱杭がフィーナを深く貫いて行く。

「レ、イ……、おっき……の、入っ、て……っ!」

 何日も飢餓状態に陥っているところに食べ物を与えられたように、フィーナは全身でレイジを貪る。
 猛々しい雄芯に淫らな蜜を纏わせ、ただの雌と化したはしたない秘所が懸命に咥え込んだ。

「高貴な天使様は下等生物の触手に嬲られるのがお気に召したのか?」
「違……っ」
「違わねえだろ」

 穿たれる快楽に飲み込まれながらも首を振って否定すると、レイジは酷薄な笑みで触手と称した生き物をつまむ。
 軽く引っ張って剥がそうとし、そんなことをされたら余計にくっついて肌を傷めてしまいそうで不安になる。
 そしてフィーナが危惧した通り、触手は剥がされまいとさらに強く吸いついた。

「それ……っ、しちゃいやぁ……っ」
「こうされるともっと気持ちイイだろ?」

 触手越しに乳首を捏ねられ、身体がのけぞる。

「そ、なこと、ない……! 取って、も……。いや……っ。それ、嫌い……!」
「嘘をつくなよ」

 信じて欲しくて、媚びを売るように蜜壺はフィーナの意思とは別にレイジをきつく締めつける。健気な肉体の奉仕を受けた剛直はさらに硬度を増し、その主が吐息をこぼした。

「は……っ。――そんなに締めるな」
「知ら、な……。取って……! レイジに、して欲しい……」

 魔力の供給を断ったのか、あんなに吸いついていた触手がはらりと離れる。手足に絡みついていたものも同様だった。
 思わず安堵の息を吐くと首元に引っかかるワンピースを脱がされた。それから繋がったまま持ち上げられ、レイジの膝に向かい合って座る形になる。

「あぁ……っ!」

 熱く硬い肉槍に容赦なく柔らかな内側を抉られ、目の前に白い光が激しく瞬く。たまらずにレイジの首に両手を回して縋りついた。指先に髪が触れる。無神経な男の髪の感触なんて想像したことすらないけれど、さらりとしていて心地良い。くしゃりと撫で、指先を埋めるように銀色の髪を絡めた。

「っは……。あ、あぁ……」

 快楽を覚えさせられ、堕とされてしまった身体は奥深くへ侵入して来る剛直を嬉々として締めつける。

 自分の身体なのに、淫らに弾んで気持ち悪い。
 けれど――とても、気持ちが良い。

「言ってみろよ」
「な、にを……っ?」

 心を見透かされたようでどきりとした。
 蜜壺がキュッと締まる。
 違う。いやいやと首を振ったけれど、それが却ってレイジを煽ったらしい。唇を吊り上げて冷ややかに囁く。

「触手に嬲られて、人間の男を咥え込んで気持ち良くなってるんだろ?」
「ち、が……! なって、な……」
「――へぇ」

 レイジがフィーナの腰を掴んだ。
 両手で上下に揺さぶりながら下からも激しく突き上げる。

「やだっ、やだあああっ!」

 強すぎる快楽に悲鳴があがった。

「はげ、し……っ。そん、な、しちゃだめ……っ!」
「奥を突かれて気持ちイイだろ? ほら、いい子だから素直になれって」

 囁かれると、駄目になる。
 優しくされるのも怖いなんて知らなかった。でも耳から注がれた媚薬のような甘い言葉は、あっという間にフィーナを絡め取ってしまう。迷いも躊躇ためらいも残さずに突き動かした。

「あっ、や、やだぁっ……! 気持ち、いい、の、止まらな……!」

 勝手に腰が揺れて快楽を貪る。動く度に自らの愛蜜と触手の粘液に塗れた蕾が押し潰されて捏ねられ、胎内に収められた切っ先がざらついた場所を擦りたてる。それが気持ち良くてフィーナはさらに夢中で腰を振った。

 目の前で揺れるふくらみに煽られたのか、レイジが乳首を口に含んだ。身体が反応し、蜜壺がうごめく。ゆっくりと舌で舐め転がされると、フィーナは華奢な背中を大きくのけぞらせた。

「だめ、だめぇ……っ! いっちゃ、あ――!」

 いくら身体を重ねたって、愛情なんてない。
 けれどその温かさに錯覚しそうになる。
 優しく触れてくれるようになった手に縋りついて離せなくなる。

 熱い精液を奥深くに注がれ、身体中が歓喜にわなないた。
 穢れを知った身体の中に何も変わらない魂と、変わってしまった魂が入っている自分が怖かった。

「あ……。はぁ……っ」

 身体が離れ、シーツの海に沈んでいると破裂音と、何かが潰れる音がした。
 ゆっくりと視線を向けるとレイジがテーブルの近くに立っている。右手に持った白い拳銃の銃口からかすかな煙があがっており、床にうずたかく盛り上がった赤黒い泥の塊のようなものにもう一発撃ち込んだ。
 何か、魔力のようなものが弾けた衝撃で空気が揺れる。それから泥の塊は跡形もなく消えてなくなった。

「この部屋はしばらく使いものにならねえ。他の部屋に行くぞ」
「――抱っこ、して」

 他にも部屋があるなんて初めて知った。
 だけど疲れ果てて今は動けない。
 駄目元で甘えれば拳銃をホルスターに戻したレイジは驚いたような顔をし、腰の両側にホルスターをくくりつけた。そしてベッドに歩み寄ると、フィーナを横抱きで持ち上げる。

「ふふ……。ありがとう、レイジ」

 まさかしてくれるなんて思わなかった。
 でも、嬉しい。落ちないようにレイジの首に手を回し、ふと思い出したことを問いかける。

「こういうの、《下界》では"お姫様抱っこ"って言うんでしょう?」
「俺が知るかよ」

 ドアへと歩きながらレイジが不機嫌そうに答えた。

「喋れるくらいの元気があるなら自分で歩け」
「――もう喋れない」

 せっかくレイジがおねだりを聞いてくれたのに、下ろされたら意味がない。フィーナはしがみつき直して口を噤んだ。

 ドアを出ると長い廊下が伸び、左の斜向かいにはドアがある。
 鍵はかけられていないのか簡単に開いた。
 部屋の広さはレイジの部屋とほぼ同じだ。けれど内装が全く違う。
 黒づくめなレイジの部屋とは対照的なまでに、暖かみのあるベージュピンク系でまとめられていた。花瓶には花も活けられており、見るからに女性の為の部屋だ。

「あの……。いいの? 私、このお部屋に入っても……」

 もしかしてレイジの大切な女性が過ごす部屋なのではないだろうか。
 そう思った瞬間、フィーナの胸が痛んだ。
 何故だか泣きたい気持ちになって来る。きつく唇を噛みしめて涙をこらえた。でもやっぱり胸は苦しいままだ。

「いいも悪いも二年前に死んだ俺の母親が使っていた部屋だ」
「レイジのお母様が?」

 レイジはこの国の王子だと以前リュシフェルが言っていた。
 なら彼の母親ということは王妃だったのだろう。

(だけど……レイジのお部屋もだけど、王族の居住地としては何だか……)

 それを口にして良いのか分からず、フィーナは何も言えずに押し黙った。



 いつもは目が覚めないのに、今日は夜中に目が覚めた。
 自然とレイジに甘えるようにすり寄り、その身体がやけに冷たいことにどきりとする。
 緩やかに胸は上下しているから具合を悪くしているわけではなさそうだ。でも穏やかに眠っているとも思えなくて、かすかに動いていることに気がついた口元に耳を近づける。

「やめ……っ、は、はうえ……」

 レイジはひどくうなされているようだった。

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