【R18】あなたが深く愛する人が、私じゃない他の人でも ~身代わりの花嫁は叶わぬ初恋に全てを捧げる~【完結】

瀬月 ゆな

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計画

これからの為に

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 腕の中で微睡んでいるエリアーヌの髪を優しく撫でる。
 そういえば、エリアーヌが知りたいであろう肝心なことを一つ、まだ話していなかった。

「エリアーヌ。疲れているかもしれないけれど、もう少し話ができる?」
「はい。大丈夫です」

 声をかければ反応がすぐさま返って来る。
 起きてはいるようだけれど、どこか眠そうな声だ。疲れさせてしまったことは間違いない。次からはさすがに少しは抑えようと反省し、ジェラルドは細い腰を抱いた。

「イザベル嬢の居場所について、まだ教えていなかったね」
「お姉様の……?」

 途端にエリアーヌの声が明るく弾んだ。
 話をしやすいようにジェラルドはエリアーヌの上半身を起こすと、自分の上に手をつかせて寝そべるような体勢に変えた。
 姉の居場所が聞けるとあってか、先程までは情欲に濡れていたエリアーヌの翠色の大きな瞳が無邪気に輝いている。様々な色を浮かべる瞳に自分だけが映っていることは、ジェラルドの心をこの上なく満足させた。

「オーベルハーク侯爵家を出てすぐに、チャールズの母方の祖父母が治める領地へと二人……いや、お腹の子供も含めて三人で向かっている。王都を挟んだ南側にあるから到着にはもう少し時間がかかると思うけれど、途中で腰を落ち着かせたら連絡はするように言ってあるから明日にでも最初の報せが来るはずだよ」
「王都の南の領地に……」
「さほど大きな領地ではないものの、温かくて過ごしやすい良いところだよ。僕も保養を目的に何度か行ったことがあるんだ」
「そうなのですね」

 エリアーヌは安心したように笑みを浮かべる。

「今は無理でも、いつかお姉様にお会いする為に私も行ってみたいです」
「うん。一緒に行こう」
「どんな場所なのか楽しみです」

 指を組み、エリアーヌは表情を綻ばせた。その頭を引き寄せ、小さな音をたてながら唇を何度も啄む。

「こ、これ以上は……今日は、もう無理です……」
「残念だね」

 お互いに素裸のままの甘やかなじゃれ合いに危機感を覚えたのか、エリアーヌは釘を刺した。
 情事の余韻を残し、未だしっとりと汗ばむ肌に触れれば心地良く吸いついて来る。背中を撫でると「ジェラルド様」と、聞き分けのない子供を叱るような声で咎められた。
 今日以外でもその肢体を散々貪って来たから仕方ないが、その辺りの信用はあまりないようだ。とは言え、しつこくして嫌われては元も子もない。ジェラルドは諦めて髪を梳くだけに留めた。

「他に、まだ聞きたいことはある?」
「聞きたい、こと……」

 エリアーヌは反芻し、気まずそうに視線を逸らす。

「どうしたの?」
「好きっていう言葉を……聞きたいです」

 甘やかなじゃれ合いを拒んだのに、甘い愛の囁きを求めることに気が引けているらしい。
 ジェラルドはエリアーヌの小さな唇を指でなぞった。

「好きじゃないと、だめ?」
「そ、それは……」
「愛しているよ、エリアーヌ。絶対に他の誰にも渡しはしない。僕だけのものだ。好きだっていう言葉以外にも、君に伝えたい言葉はたくさんある」
「だめじゃないです……」
「可愛いね。好きだよ。大好きだ。ずっと一緒にいよう、僕だけの可愛いエリアーヌ」

 ほんのりと耳まで赤く染めたエリアーヌは、ジェラルドの首筋に顔を埋めた。
 甘えるように頬を摺り寄せ、小さな声で尋ねる。

「もっと、わがままになっても、良いですか……?」
「いいよ。君の願いは僕が全て叶える」

 エリアーヌは口を噤んだ。
 覚悟を決める為か深呼吸の音が聞こえた。
 だがきっと、彼女の望みはジェラルドにとって覚悟なんて全く必要のないものだ。
 
「私を……奪って下さい」
「誰にも渡さないって、言ったばかりだろう?」

 エリアーヌの望みは案の定、最初からそのつもりでいることだった。
 時を戻してやり直したことで今回新しく発生した問題は、二人で乗り越えなければならない。
 現時点で立ちはだかるのはオーベルハーク侯爵と、友人であり隣国の王太子でもあるルーカスの二人だ。潜在的には他にもいるかもしれない。もっとも、いたとしても関係ない。エリアーヌとの未来を邪魔するのであれば誰であろうとなぎ倒すだけだ。

 王家の優位な立場も、侯爵家相手に下手に出た時点で失われているに等しい。そして維持したところでエリアーヌ以上に優先されるべきものなど、ジェラルドにははじめからなかった。

「私からジェラルド様に差し出せるものは、私自身しかありません。それで……も……」

 今度は軽く啄むだけでは満足しない。
 言葉を遮る為に唇を塞ぎ、舌を差し入れる。
 逃がさないように頬を包み込み、エリアーヌの吐息が甘やかなものに変わるまでその舌を吸い、絡め取った。

「ん……っ」

 ひくんと肩を弾ませ、エリアーヌが唇を離す。

「ジェラルド様……」
「君の全てを得られるなら聖水晶なんて足元にも及ばない極上の報酬だよ、エリアーヌ」

 それよりも、と濡れた桜色の唇を人差し指でなぞる。

「イザベル嬢の言葉をちゃんと聞いていただろう?」
「お姉様が、ですか?」
「コードナー伯爵家の夜会に向かう時、馬車の中で僕の嫉妬心は少し程度のものじゃないって言っていたのを忘れてしまった? それなら今度は決して忘れないように君の身体と心に刻み込むだけだけど」

 エリアーヌを逃がすつもりなんてない。
 だが、もしもエリアーヌが逃げたいと願うなら今が最後の意思表示の機会だ。

「あ……」

 思い出したのか、エリアーヌは小さく声をあげた。
 それから淡く微笑み、自らそっと唇を重ねる。

「後悔も、逃げたりもしないってお伝えしたのにジェラルド様こそ、お忘れになってしまいましたか? ですが私の全ては、ジェラルド様に捧げる為だけに存在しているのです」




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次回からはエリアーヌ視点に戻って最終章に入ります。
最後までもう少しお付き合いいただけますと嬉しいです!
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