【R18】あなたが深く愛する人が、私じゃない他の人でも ~身代わりの花嫁は叶わぬ初恋に全てを捧げる~【完結】

瀬月 ゆな

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その先

幸せを願う人

「隣国の狙いは聖水晶と、その鉱山なのですよね? ですが、魔法国家ではなく軍事国家がどうしてでしょうか」
「僕の考えでしかないけれど武具にはめ込んで魔力を帯びさせたり、魔術への耐性を強めるのが目的じゃないかな」

 魔力を持たない品に魔力を込めることは優秀な魔術師でも難しいと言われている。もし仮に成功したとしても一時的な効果にしか過ぎず、時間の経過と共に魔力が流れ出して消えてしまう。
 故にわすがではあってもそれ自体が魔力を持つ聖水晶に価値があり、王家は他国への流出を恐れているのだ。

 それを武力に優れた国が一つでも所持したらどうなるのか。
 聖水晶の持つ魔力の利用も、魔力適正のない人物には難しい。だけどそれは存在が確認されて三十年ほとしか経っておらず、研究がさほど進んでいないからでもあった。
 たった一つの石ですぐに情勢が変わらなくても、長い目で見れば間違いなく脅威になる。隣国も研究を進める価値を見出したが故に婚姻による縁組みを求めたはずだ。
 そして聖水晶を採掘できる唯一の鉱山を持つ領主として、父が加担しようとしている。

「人々の助けにならないのなら、聖水晶が発見されなければ良かったのに」

 俯くエリアーヌの瞳から涙がこぼれた。

 父は最初から恐ろしい人だったわけではない。
 厳しいところもあるけれど家族や領民思いの優しい人だった。
 でも、そんな父を聖水晶の存在が変えてしまったのだ。

「僕はオーベルハーク侯爵家の所有する鉱山から採掘されて良かったと思っているよ」

 ジェラルドが優しく頭を引き寄せる。エリアーヌはその肩に額を押し当てた。

「ジェラルド様……」
「侯爵よりさらに非情な野心家が所有権を得ていたら、最初から王家と隣国とを天秤にかけたうえで向こうを選んでいた可能性が高かった。けれど侯爵だったから、取り返しのつかない事態は防げる段階でまだ踏み止まれている」
「お父様の考えを、変えられるでしょうか」

 隣国に近く、希少性や利用価値の極めて高い鉱石が採掘される領地でありながら今なお平穏なのは、強大な魔法国家を統べる王家というこのうえない後ろ盾があるからだ。その庇護下にあるからこそ、領地のみならずオーベルハーク侯爵家は保たれている。そしてその見返りもまた聖水晶の所有権と、婚姻だった。

 父とて、自分の力だけで成り立っていると思ってはいないだろう。
 けれどこのままでは領民たちまで危険な状況に巻き込まれかねない。さらに父を頑なにして、立ち位置を悪化させてしまうのではないか。
 そんな気がして自信は全くなかった。

「侯爵だってエリアーヌの幸せを望んでないわけじゃないと思うよ」

 今の父を思えば素直に肯定できず、けれど否定するには悲しくて何も言えずにいると、ジェラルドはエリアーヌを自らの膝の上へと抱き上げた。

「少なくとも僕にはそう見えた。エリアーヌを政略の駒としか思っていないのなら、イザベル嬢の幸せを見届けたい君の意思を汲んで一年の猶予をくれたりはしなかったんじゃないかな」
「あ……」

 エリアーヌの気持ちなど無視して一方的に決めてしまうことも父はできた。
 だけど、結局はそうしなかった。

「イザベル嬢に対しても、王家に嫁ぐとされている彼女を徹底的に監視することもできた。それこそ手紙のチェックも、やろうと思えば全てできていたはずだ。差出人を女性の名前に偽るなんて簡単で初歩的なことだからね」

 心の一部を覆っていた真っ黒な霧が少しずつ晴れて行く。
 父親と領主、二つの面の間でオーベルハーク侯爵も迷い揺れていたことはたくさんあったのかもしれない。

「隣国が明確に絡んでいる以上、父上にも説得の場に参加してもらったり、エリアーヌにとってつらいことがあるかもしれない。けれど、今度こそ僕が必ず守りきるから一緒に幸せになろう。僕の幸せには君が必要不可欠なんだよ、エリアーヌ」
「……はい」

 エリアーヌ一人では何もできなくても、エリアーヌは一人じゃない。ジェラルドに縋りつくと、彼がエリアーヌにとっての聖水晶であるかのように力を与えてくれた。

 □■□

 ジェラルドの別邸に戻ると、準備もほどほどに王城に向かった。

 必要な品は途中で都度調達しつつ、十日近くかけて到着した王城はジェラルドと一緒であるにも関わらず、エリアーヌを一切歓迎してなどいない様相で聳え立っている。
 長旅の疲れを癒す暇もなく国王と謁見することになり、ジェラルドの後に従って謁見の間へと進んだ。
 そうして、五分ほど待った頃だろうか。国王が謁見の間に姿を見せた。

「初めてお目にかかれまして光栄に存じます。オーベルハーク侯爵家が次女、エリアーヌにございます」

 〝イザベル〟は王太子妃の役割を与えられていなかったからか、王城に上がったエリアーヌは一度として国王に会うこともなかった。
 それが初めて謁見の席を設けられ、エリアーヌはひどく緊張しながら淑女の礼で挨拶をする。

「遠路はるばるご苦労であった」
「恐れ入ります」

 国王らしく、その低い声は肌を刺すような威厳に満ちている。
 圧倒的な存在感に気圧され、前回は会わずにいてむしろ正解だったのではないかと思った。
 ジェラルドも頼れなかったのだ。変化魔法を維持し続けられるほど、平穏を装えていた気がしない。

「話も粗方のことはジェラルドから聞いておる。二人の王太子から同時に求婚されて心労も大きいかもしれぬが、できればジェラルドを選んでやって欲しい」
「は……はい」

 何かがおかしい。

 丁重に腰を折ったままのエリアーヌは姿勢を正すように言われ、思わず眉を寄せてしまった。

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