【R18】あなたが深く愛する人が、私じゃない他の人でも ~身代わりの花嫁は叶わぬ初恋に全てを捧げる~【完結】

瀬月 ゆな

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その先

不誠実な恋

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 ジェラルドもルーカスも、共に次の国王となる身だ。
 今回の対応はいずれ彼らが王位を継いだ時に、そのまま両国間の関係性に大きく影響することだろう。どちらも魔法国家、軍事国家としてそれぞれに大きな力を持つ国だ。周辺国家の情勢すら変えてしまいかねない。

 だからこそ二つの国家は長きに渡って友好関係を築いて来た。
 それが険悪な関係となった理由の一つに、妃を巡っての諍いがあることはとても些末でくだらないのではないのか。
 エリアーヌ自身、時間を必要としたもののルーカスに嫁ぐことは拒絶しなかった。その行動が不誠実だと弾劾されたら返す言葉はない。事実だからだ。
 いかに周りを考えていない浅慮な行動か、それはエリアーヌ自身がいちばんよく分かっている。

「エリアーヌ一人が我慢したら良いという問題でもないよ。君がやっぱりルーカスの下に嫁ぐことを選ぶのなら、僕の血を継ぐ子供が生まれずにいずれこの国では王位継承争いが起きる」

 エリアーヌは便箋の文字を追っていた視線をジェラルドに移した。
 きっと、以前のエリアーヌならそう考えていただろう。
 自分一人が恋を諦めたら良いのだと。

(――でも、それはいちばん不誠実じゃないかしら)

 欲しがるだけ欲しがって、自分の手に負えなくなったらそれらしい理由をつけて手放す。
 それを恋と呼べるのだろうか。

「私のせいでジェラルド様とルーカス様が、かつての先人たちが築き上げて来たものを壊してしまうのかもしれないと思うと、とても怖いです。それでもやっぱり、逃げたり後悔はしたくありません」
「傾国の悪女と呼ばれる君も魅力的だと思うけど、それだけで壊れたりはしないよ」
「そう仰られると……ひどく自惚れていて恥ずかしいです」

 エリアーヌは両手で顔を覆った。
 確かに、思い上がりも甚だしい言葉だ。頬がみるみる熱を帯びて行く。

「大国の王太子二人が対立する原因になっているのは、立派に傾国の悪女だと思うよ」

 笑みを浮かべてフォローされても今さらだ。恥ずかしい。自分にそこまでの影響力があると無意識に思っていたなんて。
 ジェラルドはエリアーヌの手首を掴むと顔から手を離させた。

「エリアーヌと謁見した時に父上が言っていただろう? 今後の外交の為に僕と対応をさせる、と。それは君に傾国の悪女といった悪評を立てさせない為でもある。僕とルーカス、どちらが君を妃に迎えるかで揉めていることも事実だからね」
「――はい」

 いつまでも恥ずかしがっていては先に進まない。
 エリアーヌは深呼吸を繰り返して何とか心を切り替えると頷いた。

 大きな責任が小さな肩に重くのしかかるのを感じる。
 でも、この先エリアーヌが負い続けなければならない責任はもっと重いものだ。今は自分が選んだ恋が根底にあるだけ、まだ易しい難関だと言えた。国王による王太子妃の適正の確認の役割も兼ねているのであれば、妥当なものなのかもしれない。

「私にお父様を説得できるかは分かりません。でも、できる限り精一杯頑張ります」
「それだけで十分頼もしい王太子妃だよ」
「今はお飾りだとしても、いつか陛下をはじめ、ジェラルド様以外の方々にもそう判断していただきたいです」

 前回とは何もかもが違っても、ジェラルドの為に全てを捧げたいと願う気持ちに変わりはない。
 そして一緒に生きて行く為にまずは父の呪縛を解き放つのだ。
 
 □■□

 連名による抗議文が届いた半月後、父とルーカスを交えた面談が行われることになった。
 場所は王都と隣国の中心辺りに位置する、とある領地に建つ宿の一室が選ばれた。王城を警戒したルーカスによる指定だ。場所柄、王都へ向かう貴族の利用も多いようで、宿とは言え下手な貴族の屋敷よりよほど豪華な出で立ちだった。

 指定をしたということは、ルーカスの息がかかった存在がどこかに潜んでいるのかもしれない。それこそ警戒はするに越したことはない。

 広い一室で長方形のテーブルを挟み、並んで座るジェラルドとエリアーヌにルーカスと父が向かい合う形で腰を下ろす。父は、どこか痩せたようにも見えた。娘が立て続けにあのような形で家を出ることになり、思うことがあるのかもしれない――それは未だ父に、家族の情を求めすぎだろうか。

 給仕がグラスに飲み物を注ぎ、部屋を後にする。
 先程の給仕に限らず、この宿に務める従業員の身元は全て身元を確認済みだ。飲み物に細工をしてはいないだろう。
 そこから心配をしていてはキリがないのかもしれない。けれど、万が一という可能性もある。

 最初に口を開いたのは、この場の年長者である父だった。

「抗議文に書かれた内容をしっかりとご理解いただけたかと思います」
「内容の理解は確かにしたが、抗議は理解しかねる」
「少なくともオーベルハーク侯爵家からは、再三に渡って申し上げたことにございます」

 ジェラルドの返事を受けた父は白々しいと言わんばかりに眉を吊り上げた。

「では、こちらも同じ返事をしているはずだ。オーベルハーク侯爵家と王家との間の取り決めは、聖水晶の所有権を得る代わりに侯爵家の娘を王妃に迎え入れること。それに従って私と長女のイザベル嬢の婚約が結ばれたが、婚姻前に事情によってそれは果たせなくなった」

 エリアーヌもジェラルドに言ったように詭弁を多々含む言葉ながら、父は強い反論には出られない。
 婚約解消の理由とするには駆け落ちはあまりにも分が悪いからだ。たとえそれが裏でイザベルとジェラルドが手を組んでのことであったとしても、父は知らない。また公になれば王家もオーベルハーク侯爵家も無傷では済まされず、痛み分けというには侯爵家の方が損害が大きいのは目に見えていた。

「そこは確かに我々の落ち度であると認めましょう。しかしエリアーヌを代わりの婚約者に、というのはいくら王家でも度が過ぎた要求ではございませんか。しかもエリアーヌには、こちらのルーカス王太子殿下より求婚が……」
「お父様」

 エリアーヌは静かに口を挟んだ。

 正面に座る父と目が合う。
 それはいつ以来のことになるだろうか。
 話を聞いてもらえないからと、エリアーヌが目を合わせずにいたせいもある。

「お姉様が家を出られてジェラルド様の婚約者の座が空席にならざるをえなかった時、ルーカス殿下からの求婚がなければ私が次の婚約者になっていたのではありませんか?」




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22時更新時より大幅に加筆修正しております。
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