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4-4 火の権能
しおりを挟む「ズィンイ。君に火の権能を授けよう。いや、これは君にこそ相応しい力だ。
――すまなかった。我々が長いこと放置してきた付けが君に回ってしまった。まさかそこまで腐敗していたとは……しかし、よくぞ思い立ってくれた。我々が為し得なかったことも、聖女を含めた全ての権能者の助力を得た強固な意志ある今の君なら為せるだろう。
火の権能は、権能の中でも特に破壊の力に特化している。必ず君の力となるはずだ。それと、これは今まで誰にも話さなかったことだが、火には人の意思を知る<千里眼>の力がある。それは人の感情という些細なものを覗き込むことで察することができる。明確な意思や感情を直接的に認識することはできないが、訓練次第では人が放つ微細な情動から推し量ることもできるだろう。私はこれまで、人の意識を覗き込むような後ろめたさを持つその能力を避けてきたが、重要な局面では必ず使用してきた。加えて、これは物理的にどれだけ離れていても対象に向けて行使することができる。
もう一つ。火は魔素をくべることでいつまでも燃え続ける。魔素をそのまま生命力に直結することができる能力だ。軽蔑するだろうか。奇しくも島の動力と同じ仕組みであるこの能力を。
しかし、注意しなければならないことがある。それは、魔素から生命力への変換の際に自身の心身に負荷が掛かるということだ。負荷の大きさはその変換量が多いほど大きい傾向にある。体への負担は痛みとして現れる。全身を焦がすような熱が這いずり回る。精神への負担は記憶の欠落だ。それまで当たり前のように知っていたものが未知のものに変わる――これは想像しているよりも遥かに辛いものだ。特に忘れたくないものは文字にして残しておくといい。
最後になったが、改めて君の決断に感謝しよう。たとえこの島ごと落ちることになろうとも、誰一人として君を責めることはできない。むしろ多くの者が君に賛同するだろう。そうであってほしい。それと、この問題は一人だけで抱え込まないように。君は聡明で、問題の核を十分に理解しているし、どうすれば収束するかも分かっている。けれど、これは一人で抱えるには余りにも事が大き過ぎる。ここは年長者の私に騙されたと思って周囲に頼ってもらいたい。君の周りには既に心強い味方がいる。必死な声は必ず多くの人を動かすだろう。全ての人が関わるべき問題に、少しくらいは責任を取らせてあげてもいいんじゃないだろうか。それが本来あるべき姿だ――
いけないな。ついつい説教臭くなるのは私の悪い癖だ。私が言うよりもずっと多くのことを知っているのにね。
さて、権能の引き継ぎも完了したよ。私は今ある魔素が尽きればいずれはただの骸か灰になる。だから何も心配することはない。権能がなくたって私には魔法があるからね。ゴドウやサチさんには聞かれるまで言わないでおいてほしい。まぁ、君を見れば分かるだろうけどね。ゴドウはきっと既に予知していただろう。それでも悲しいお別れにはしたくないんだ。だからいつものように、何も言わずに『旅に出ます』って方がいいと思う。
……ありがとうズィンイ、いや、カツミ。君と出会えて本当に良かった。それこそ何かのお導きがあったのかもしれないね。
では、そろそろ私は行くよ。そんなに悲しい顔をしないでくれ。君は魔法を知っているね。いずれ私は魔素となり世界と一体になるんだ。君や君の扱う魔法のどこかに、必ず私はある。そのことを思い続けていてくれると非常に嬉しい。であれば、私を構成していた固有の魔素が多く集まって、より早く私に近い存在が生まれるからね。それで再び君に会えることもあるだろう。
或いはそうでなくても、時空を超越する魔素がどこかの世界と交錯して、全く新しい形で私は元気にやっていくつもりだ。だから君も元気でやってほしい。
じゃ、この世界の魔法師に倣って君の前途を祝福しよう。
『汝の行く先々に神々のささやかな恩恵のあらんことを』」
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