15 / 18
14話 修練場
しおりを挟む集落の外れには子供たちのための修練場が設けられている。
小さな崖を背に木製の的と木偶を配置しただけの粗末なものだが、集落と地続きなったこの場所は子供たちが遊びの延長線として気軽に立ち寄るには十分な仕掛けとなった。
集落から続く道に茂っていた草木はそこを境になくなり、往来が激しく子供たちに踏み荒らされた地面は土や岩が剥き出しになっている。
「どうしてみんな石投げの練習をするの?」
「どうしてってお前、そんなの狩りをするからに決まってるだろ」
住居の位置を確認した二人はその足で修練場を訪れていた。
それぞれの小屋にいる年長の子供からの指示がなかったり、道具の製作や獲物の加工作業が割り当てられていない子供たちは、森に食用の草や木の実を採集に行くか修練場で遊ぶかするのが彼らの日課だった。
修練場ではすでに大勢の暇な子供たちが的や木偶に向けて石やナイフ、槍を当ててはしゃいでいる。
「よぉカルラ。今日は森に行かねぇのか?」
「うん。おんぶしてくれるお兄ちゃんがいないから、材料がくるまで石当ての練習」
女の子たちが集まる一角で楽し気に談笑していたカルラが不躾に尋ねるテオに応じる。
「ねぇテオ、おんぶってどういうこと?」
「ああ? 逃げられなきゃ獣に食われるからに決まってるだろ。お前って本当に何も知らねぇのな」
両の足首に痣のあるカルラは思うように走ることができない。
本来は狩り以外の時間を道具の製作、或いはその材料や木の実の採集に出るのが普通だが、大型の獣に遭遇した際に逃げる「足」、つまりカルラの面倒を見る年長者が今は不在とのことだ。
「えいっ! ――やったぁ!」
腕だけを振るって投げられた石は小さな弧を描き手近の的に当たった。
体勢を崩したカルラの周りに女の子たちが駆け寄り、手を取って互いに喜び合っている。
「ダメだね。全然なってねぇ。そんな近くじゃなんの意味もねぇっての」
女の子の集団が集めたであろう手頃な大きさの小石の山から一つを拾い上げたテオはアルを一瞥し、軽く弄んだ石を目にも止まらぬ速さで的に投げつけた。
――ガッ!
動きに遅れて崖のすぐ下の的が鳴った。
アルたちが立っている場所から最も遠い位置に配されたその的まで裕に百メートルはある。
「す、すごい!」
「へへっ、こんなのできて当たり前だぜ。兄ちゃんたちはもっとすげぇからな」
テオは手を打ち褒め湛えるアルのことを軽くあしらいながらも、存外にまんざらでもない表情を浮かべる。
「本当にすごいよテオ! お兄ちゃんたちみたい!」
「だろぉ? カルラも俺の子が産みたくなっただろ?」
「うわぁ、テオさいてー。調子に乗らせちゃダメだよカルラ」
カルラを始めとして純粋に褒めていた女子たちはテオのあらぬ一言で興醒めし、後ろ髪引かれるカルラの手を取りまとめて去って行った。
「……うっし! そんじゃあアルもやってみるか!」
気を取り直したテオは手頃な石を見繕いアルの手に握らせる。
「先ずはそこの的に当てるとこからだな」
テオは十メートルほど離れた手近の的を指して言った。
先程カルラが当てていたその的は他の物に比べて大きく、付けられた打痕の数も多い。
躊躇いながら構えたアルは、見よう見まねで生まれて初めての投石を行う。
スッ――カッ……
「……ぷっ! アル、なんだよいまのぉ!」
「だだだだって! 初めてやったんだもん!」
的に当てることはおろか届きもしなかったことに加え、そのことを殊更に同年代のテオにからかわれたこと、それにムキになって言い訳する自分が恥ずかしくなったアルの表情は見る見るうちに赤くなっていく。
あのカルラにもできたことが自分にもできなかったという事実が幼いアルの心の奥深くに突き刺さった。
「はぁ――ま、しょうがねぇよな。生まれて初めて石を見るんだもんなぁ?」
「い、石くらい見たことあるよ!」
「まぁまぁ落ち着けって。一先ずこれで俺とお前の実力差ってのが分かったわけだ」
「……うん。確かにテオはすごいよ」
「だろぉ? じゃあ今日から俺のことは『兄貴』と呼べ」
ポカンとするアルの肩を叩き得意気な顔で手の平の小石を転がすテオ。
その様子を目の当たりにしたアルは不意に手足が震え、動悸が激しくなるのを感じた。
「――アニキ」
「おう! ――あ、でも兄ちゃんがいるときは言うなよ!」
年長者を敬う集落の慣習に怯んだテオは一応の保険のためアルに釘を刺した。
しかし、生まれて初めて感じる負の感情に捉われテオが言ったことなど気にも留めなかった。
――負けたくない!
自分の中に「負けず嫌い」の一面があることを知ったアルは投石の修練への意欲を燃やし始めた。
0
あなたにおすすめの小説
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる