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第2部

33:アドバイス!①

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「どうかされました?――――――――――あれ、ライアンじゃないか。おかえり、なんで店にいるんだ?」



「ただいま。こいつに店ん中見せてた。」




「へぇ、友達?店に連れてくるなんて珍しいね?こんなにかわいい子、どうしたの?まさか、さらってきてないよね?」




「あ゛?さらってきてねーよ。道であったんだよ。」




「えっと、きみ、こいつに変なことされてない?お母さんとお父さんが心配する前に帰るんだよ。」




「兄貴、こいつちっちぇーけど、おれと同い年。」




「え!?――――――あ、ごめんね、えっと、僕は、このバカの兄のレイ。」




「わ、わたしはエレナです。ライアン君には困っているところを助けていただいたんです。とても助かりました。」




話しかけてきたのは、ライアン君のお兄さんだった。

15,6歳くらいかな?

ライアン君より礼儀ただしそう、っていうか、んー、紳士的だけどちょっと腹黒いところがありそう?

なんていうか、いかにも商人ってかんじ。




「これは、2番目の兄貴。おれより6歳年上だ。いまは、ここで経営について学ぶために親父の代わりに経営代理をやってるんだ。」




「へぇー、……あれ?それじゃあ1番上のお兄さんは?」




「自分で新しく店を開いたんだ。今はアリフォニアにいる。この商会は兄貴が継ぐ。」




「エレナちゃん、それで、さっき言ってたの、どういうことかな?」




ライアン君との会話にレイさんが割り込んできた。

なんか、獲物を前にした猛獣みたいな目をしてる。

冷静な声なのに、その目が輝いているのが、なんかちょっと怖い。

草食動物の気持ちがわかるよ……。

でも、なんのことだろ?

わたし、この人を猛獣化させるようなこと、なんか言ったっけ?




「何のことですか?」




「『でも、気になる』って言ってたじゃないか。この店内を見渡していただろう?何が気になったのかな?」




あー、聞かれてたのか。

確かに、『どうかされました?』って言われてたもんね。




経営者からすれば、自分の店を見渡して、気になる、なんてつぶやいてたら、それこそ気になる、というものだろう。

小さくつぶやいただけだったと思ったのに、とんだ地獄耳だ。




うーん、本当のことを言うべきかな?でも、こんな小娘の言葉なんて、聞き流されるかもしれないし、馬鹿にしてるのか、って思うかもだよね?

わたしだったら、小さい子に自分の管理下にあるものを事細かに指摘されたら、その通りだ、直さなくては、と思う一方で、なんだか小さい子に指摘されるのって悔しい、と思うと思う。




「あ、ええと、そ、そうです!あのポーションの効果が気になって!」




「ふうん?そうなんだぁ。で、ほんとうは?」




「こ、この店の商品配置について気になる点がいくつか!」




ライアンの兄、恐るべし。

ごまかされてはくれなかったらしい。

目の中から光が消えてこちらを見つめてくる様子は、何とも形容しがたい。

思わず本当のことを言ってしまったではないか。

心の中を見透かされる気分だったっていうか、心を氷漬けにしてくる感じだったっていうか。

わたしよりずいぶん背が高いから、上からの目線、っていうのも恐怖に拍車をかけてる。




寒気がしたよ……。




「へぇ、どのあたりが?具体的に言うと、どんな感じ?」




お、おう、レイさんの勢いが、すごい……。

やっぱ猛獣のような目になってる!

経営者魂、っていうのかな?食いつきがすごいよ。

さっきまでの紳士的な感じが消えかけているよ……。




「おい、兄貴、こいつ困ってんじゃねーか。こわがらせんなよ。おれより兄貴の方が誘拐犯に向いてるぜ?」




お、ライアン君、さすが!!

ていうか、何気にさっき誘拐してきたと思われたこと、気にしてたんだね。




「あ゛ぁ?ライアンは黙ってようか?」




レ、レイさんの笑顔、めちゃくちゃ怖い。

ライアン君の言葉づかいなんてかわいいものだよ。レイさんのはやくざ顔負けだよ……!?




あ、ライアン君がちっちゃくなっちゃった。

レイさんには勝てなかったか。

やっぱ、実の弟であっても怖いものは怖いよね。




わたしにはレイさんの周りにブリザードが見えるよ。




「で?どんなところだったのかな?」




さっきの暴風雪はなくなって、表情も穏やかそうになったものの、目の熱は温度が上昇中だ。




そのまま発火しないことを切に願う。




「ええっと、素直に申し上げますと、一部の商品棚が他に比べて改善の余地があると思いまして。――――――例えば、そうですね、入口入ってすぐにあった、今日の特売品のコーナーですね。」




「それは具体的には?」




「んー、今日の特売品コーナーには、4種類の商品がありましたよね。台所用布巾、ハンドタオル、石鹸、ティッシュペーパー。その中でも、今日は石鹸が目玉だったに違いありません。けれど、あの並べ方では、どれも同列に見えますし、何よりほかの商品との差がうまくあらわされていないのです。」




「この町で3日後に豚の解体祭りがあると聞きました。そのためにあれらは今一番売り時なのだと思います。しかし、ほかの商品よりも目立つことがなく、必要と感じている人しか買おうと思わないし、追加でもうちょっと買った方がいいかしら、とか、今買わないと無くなっちゃうから多めに、とか、そういう風に思えません。」




そう、町の、主に商店街が活気づいてるなぁ、と思っていたが、原因は豚の解体祭りだった。ここに来るまでの道でライアン君が教えてくれたのだ。

今は春の終わり。夏に向けて力を蓄えよう、とかそういう理由ではじめられたらしい。歴史は長いんだとか。




男の人数人ごとのグループに分かれ、町の外の森につくられた柵の中で豚を追いかけ、捕まえる。それをこんどは女も混ざって解体。そして、こんどはあの作業台を設置していた広場に持って行ってトン汁みたいなものをつくる。

豚はなくなり次第終了だから、男たちは少しでも多く手に入れるために戦略を練ったり、女たちはそんな男にプレッシャーをかけるかのように大量のスパイスを買って見せつける。

トン汁にしない豚は持ち帰り可能なのだから、ただで食料を得るチャンスでもある。




さらに、この町では豚を多く捕まえられた男のほうが女にもてる。

豚を多く仕留められる人ほど、その年はステータスが高いらしい。




わたし的には、トン汁は冬の方がおいしい、とか、いろいろ思うところはあるのだが、まあ、伝統的なお祭りだし、それには大きな経済効果があるし、何もつっこむまい。




「それなら、エレナちゃんならどうするの?」




レイさんは、いつの間にかメモを取出して、私の言葉を書き留めていた。

顔は真剣そのものである。




「そうですね、私なら―――――――。」
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