4 / 4
26~35
しおりを挟む
26.
サクサクと音を立ててクッキーを食べていたルナだが、続けて二、三枚と食べているとヒューイがヒョイっと顔を出した。「そんなに食うと飯入らなくなるぞ」 もうすっかりルナの食べる量を把握したヒューイはすぐそこまで迫っている夕食の心配をした。彼はいつも食のバランスを気にして、率先してルナの皿に彩りを加えていた。ヒューイの言う通り、目の前のクッキーを全て平らげれば確実に夕食は入らなくなる。ルナが手を止めたのを確認すると、彼はミレーに向かって声をかけた。
「おい、ミレー。何か包むもんなかったか?」
「包むもんって、何よってああ……」
抽象的な言い方に眉をひそめていたミレーはルナの手元を見て理解したのか、食堂の外へ消えてはすぐに帰ってきた。
「はいどうぞ」
ルナへと差し出す手にはラッピング用の袋とそれを閉じるための可愛らしいレースのリボンがあった。……なぜか2つ。
「ありがとうございます」
「その……できれば片方もらえないかしら?」
ルナへと手渡すと言いづらそうに視線を逸らしながらミレーはルナへと言った。その姿にヒューイは呆れた様子だった。
「お前、まだ食うつもりか……。コニーの言うことも少しは気にした方がいいぞ?」
というのもミレーはすでに自分の分のクッキーを完食し終えているのだ。そしてもう少し待てば夕食が完成する。
「違うわよ! これはビーにあげようと思ったのよ!」
ヒューイの予想を打ち消すミレーは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして彼の背中をぽこぽこと叩く。コニーの言葉がまだ効いているようで、そして何より自覚しているからこそ恥ずかしいのだろう。
「ああ、そうか。そういうことか。カッツェ俺からも頼む」
ヒューイはミレーの弱々しい攻撃などは気にも止めずにルナに向かって頭を下げた。
「はい」
ビーという人物はつい先日コニーに怪我を負わせた人物ではあるが、この屋敷の人たちはどうやらその人物に対してマイナスの感情を持ち合わせていないようであった。むしろこの屋敷の住人にとってあの怪我は全てコニーが悪いということになっているほどだ。
ルナは貰った2つの袋に同じ数だけのクッキーを入れ、リボンで綺麗に結んでからそのうちの1つをミレーに渡した。
「ありがとう」
ミレーはまるで美味しいお菓子を弟にあげる姉のように嬉しそうに笑った。
「ご飯だぞー」
キッチンから出て来るブルックの手や腕にはいくつもの大皿が乗っていた。それを次々と男たちに渡してはまたキッチンに引っ込んでいく。それが5往復ほど終わるとヒューイがルナの肩を叩く。
「さっさと席につけ。ここ空いてっから」
一足先に近くの空席にと落ち着いたヒューイは目の前にポッカリと空いた部分を指差して早く席に着くように促した。
「え、あの……」
ルナが使っていたテーブルもまたいつも使われている場所で、それならこのままの場所でいいと思っていたのだ。だがどうやら今回はそれではいけないらしい。
そのテーブルはおろか、その周りのいくつかの席には誰も座ろうとはしないのだ。それどころか食堂の半分より少しドア側の、ヒューイが今まさに座っている場所こそが一番端の皿の乗ったテーブルだった。よく食堂内を見回してみれば、一番ドアに近い五つのテーブルには、皿も置かれていなければその席には誰も腰掛けてはいなかった。
「ん? ああ。今晩は出払ってて人少ねえからそこは使わねえんだ」
「そう……なのですか……」
ヒューイの言葉に引っかかりを感じたルナであった。
に今までだって何人かいないことあっただろ?」
だがそう言われるとそうだったような気がすると思わざるを得なかった。今回はテーブル5つ分の人が一気に居なくなったから気づいたものの、これが数人だったら、この屋敷の住人たちを全員把握しては居ないルナはきっと気づかないからだ。
それからいつも通り、皿にたくさんのオカズを乗せられていった。ここ数日でルナの食べられる量を把握したらしい男たちはルナの皿に山を築き上げることは止め、いろんな種類のオカズを少しずつ乗せるようになっていた。その中でも他よりも少しだけ量が多いものは、どれも美味い美味いと言って食べる男たちがとりわけ気に入っているものだった。ルナは今日もプレートのように種類ごとに区切って乗せられた皿を完食することに勤しんだ。
男たちが山盛りに乗せるだけあって、ここのご飯は美味しい。
ランドール家、そしてクロード家のシェフに引けを取らない腕前の持ち主が作っているのだろうと感心して尋ねてみると、基本的にはブルックが作っているのだと半分ほど予想のできていた答えが返って来た。彼らいわくブルックはこの屋敷のキッチンの番人らしく、よほどのことがない限り皿一つ取るのでさえもキッチンには足を踏み入れさせないのだと男たちは笑っていた。
「あいつがいるから俺たちは今でも元気でいられんだ……」
そう一人がボソリとつぶやくと、他の男たちもその言葉に何も言わずただ頷いていた。
27.
翌朝、食堂へ足を運ぶとすでに各々が食事を始めていた。少し遅かったかしら? もうこの屋敷内の時間には慣れたつもりでいたルナは少しだけ気落ちした。だが食堂内で慌てている人たちの様子を見ると、どうやらルナが特別遅くやってきたというわけでもないらしかった。
「急げ」
「あれ用意したか?」
「あとは引き取りだけだ」
「わかった。それは俺が行ってくる」
今日は何か特別忙しいらしい。誰もが慌てていて、出された皿の上の料理を手で持ち、皿だけをその場に残して立ち去るものもいた。椅子に座ってスプーンを持っているものでさえ、直接皿に口をつけてはかき込むようにしてスープを腹に流し込んで、食事を味わう暇さえなさそうだった。
「カッツェ!」
「わっ」
居場所が見つからず佇んでいたルナの肩をポンと叩いたのはミレーだった。
「今日は出入りが激しいと思うから前の方で食べましょ」
「何かあるんですか?」
「……ちょっと予定が押してきててね」
「え、じゃあ何か……」
そう言ってから気がついた。彼女は誘拐犯で、ルナはその被害者だ。何を手伝えるというのか。ルナも彼らとの関係を完全に忘れていたわけではない。ただ気を抜くと、彼らは昔からの知り合いのようにさえ感じるようになっていた。これはいい兆候ではない。約束の日まであと残りわずか。ルナのこれからが決まってしまうまでのタイムリミットは刻一刻と迫って来ているのだ。こうやって話しているうちにもそれは背後から迫り寄って来ている。
逃げたくとも逃げられない。
目を背けることすら許されない。
知ってしまった事実から。
突きつけられる現実から。
「カッツェ、元気ないわね……。大丈夫?」
パンを手に取り、止まった手を慌てて動かす。喉元で詰まりそうになったパンを無理矢理水で流し込んだ。
「えっと、その……あまりお腹が空いてなくて……」
ヘラっと笑って心配されないように言い訳をした。そして食事をいつもの半分も取らないうちに席を立つ。するとそれと同時にミレーも席を立ち、部屋に戻る途中、何度も「大丈夫?」とルナの顔を覗いた。
「ゆっくり休むのよ? それと……なんかあったら絶対私を呼ぶのよ?」
部屋の前まで来ると念を押してからミレーは去っていった。
足は床につけたまま、ベッドに背中を預けたルナは悪いことをしてしまったと罪悪感に満ちていた。思えばここ最近、色んな人に迷惑ばかりかけてしまっているような気がした。目を閉じると頭には絶え間なく人の顔が浮かんで来る。そして気は沈んでいく。
限界などないのではないかと思うほどに深く、深く。代替品で、死に神で、誘拐の被害者の自分がルナは嫌になる。沈んでは浮き、そして沈みを繰り返す。
それならいっそ底に沈んで浮いてこないように重りを乗せてしまいたいとルナは願った。
28.
木々の合間からほんの少し光が入るだけの暗い森の中で一人、ルナは立っていた。身を包む服はボロボロで、いたるところが裂けてしまっている。なぜいきなりこんな場所にいるのか……。それは夢だからだろうとルナはすぐに結論づける。
夢でもなければ今にも泣き出してしまいそうだったから、夢だ、夢だと必死に言い聞かせる。けれどやはりルナの中に確かにある恐怖は未だに闇に紛れて身を潜めていた。
周りは木ばかりで舗装された道はない。何処に進むのが正解かもわからず、近くには誰もいない。
そんな中一つだけ声がしたのだ。
「カッツェ」
ルナの名前を呼ぶ声だ。
「誰?」
けれどそれは遠すぎて、ルナの声は相手には届かない。だから相手は呼び続ける。
「カッツェ」
黒い影が木の間から遠くに見えた。その陰はルナを探してさまよっているように見えた。ルナはその陰に必死で手を伸ばした。顔も見えない誰かに助けを求めたのだ。
「ねぇ、誰なの? 待って、行かないで」
ルナの声はやはり相手に届かない。必死で手を伸ばしても黒い影は遠ざかっていくばかり。
「カッツェ」
そう呼びながら、呼んでおきながら声の主はルナの元を離れて行ってしまうのだ。
「待って……待ってよ。一人は、嫌なの」
そしてルナは一人、何もない空を掴んだ。
視界に入った手はすっかり見慣れた天井へと伸びていた。当然手の中には何もない。そしてルナを呼ぶ声も人もいない。この部屋にはルナしかいない。
「……夢……」
声に出して、それが夢であったことを頭に覚えこませる。
あれは現実などではないのだ――と。
ケモノが沢山いると初日にヒューイから聞かされた森は、ルナの夢のそれとよく似ていた。広葉樹で構成され、手入れをされていないように見える森は進めば進むほど外の光を通さなくなることだろう。
最近あの森を見たから、だから夢に出てきたのだ。
そう思い込ませないと身体が震え出しそうだった。正夢なんてそうそう見るものではない。だが望まぬとも見てしまうこともある。例えルナが占術師のように特殊な何かを持っていなくとも、近い未来に起こる出来事を予見しているということもあり得るのだ。
あれからずっと眠りについていたのか外はいつの間にかすっかり暗くなっていた。本来ならば今こそ寝る時間だ。けれどもう朝からたっぷりと寝たルナはこれ以上寝られる気がしなかった。
そんな時思い出したのは、二冊の本だった。ミレーに勧められた本と取り上げられた図鑑だ。布団を退けて、場所を知ったる二冊の本を本棚から取り出す。そしてこの数日ですっかりルナの定位置となった椅子へと腰を下ろし、目の前の机に二冊の本を重ねて置く。
初めは感想を求められているミレーオススメの本に手を伸ばす。
合皮の皮で包まれた表紙をめくり、そしてそれに続いて紙をめくる。一ページ、また一ページと進むたびに話の中へと誘われていった。だがその本一冊を読み終わってもルナの気持ちを落ち着かせることはなかった。
ミレーに勧められた本は魔法使いが幽閉された女の子を助け出す話だったのだが、その本は一冊では完結しなかったのだ。ルナの中で女の子はまだ魔法使いに会ったばかりで牢屋のような塔からは脱出できていない。時が止まったままなのだ。
ルナはどうしても女の子と魔法使いがどうなるのか知りたくなってすぐにその本があった場所へと足を進めた。……けれどその話の続きはなかった。
どうやらその話はシリーズものらしく、3.4.5.6とタイトルのほとんどが同じ本が並んでいるのにどうしてか2と刻まれた本だけがなかった。
以前に読んだ人が仕舞う場所を間違えてしまったのかと思い、その本がしまってあった場所の辺りを目で追ってみたもののやはり2と刻まれた背表紙だけが見つからなかった。だからといって2を抜かして3を読むなんてこともできない。一つ一つ本棚の全ての本の背表紙を目で追っていく、というのも一つの手ではあるが一面が本ばかりのこの部屋で、それは途方も無い行動のように思えた。となればやはり本を薦めた張本人ミレーに聞くのが一番いい手だろう。なにせ彼女はこの膨大な本の中からピタリとその本を見つけてみせたのだから。
そうと決まればルナは本を探すことを辞め、翌朝に備えて眠りにつくことにした。未だにルナの元へ睡魔はやってはこないけれど、それでもベッドに入って入ればそのうちやって来るだろう。
29.
「ふぁっふ……」
欠伸をかみ殺すとすぐにクリアな目覚めがやってきた。窓からは朝独特の柔らかい光が差し込む。その窓に手をつけて外を眺めるとそこにはまだ誰もいなかった。どうやら男たちが日課の素振りをするよりも早く目覚めたらしかった。
日は昇ってきていることだ。もう少しすれば彼らも庭へとやってくることだろう。だがそれにしても朝食までは結構な時間があった。どうやって時間をつぶそうか考えたルナの視界に入ったのは昨晩机の上に置いたままにしてあった図鑑であった。他の本を読もうかと頭を少しだけよぎった。けれどこの本を読むには今が絶好のタイミングなのだ。今この時間、屋敷のほとんどの人がまだ寝静まっている時間ならミレーもこの部屋を訪れてくることはないだろう。
すぐにルナはネグリジェからクローゼットの中にある白のワンピースへと着替えると、椅子に腰を下ろして図鑑の端から端まで、暗記するようにして視線を動かし続けた。
「カッツェ、まだ具合悪い?」
コンコンと弱い力でドアを叩く音に続いてやってきたのは、ミレーの心配そうな声だった。昨日、食欲がないといって帰ったっきりだったから心配しているのだろう。慌てて図鑑を閉じ、ミレーが部屋へと入ってくる前に机の適当な引き出しの中へと滑らせた。
「大丈夫です。今、行きます」
そう言葉を返すとバンっと勢いよくドアが開かれた。
「そう? 良かったわ!」
そして抱きついてくるミレーの肩から机の引き出しを窺い、気づかれていないことにルナは少しだけホッとした。
「朝食の時間になっても全然降りて来ないから、私心配で……」
食堂へと向かう最中もずっとルナの腕に自身の腕を絡ませ、言葉通り心配そうにルナを見下ろした。食堂に着いてもずっと隣を陣取り、せっせとルナの世話を焼いては「無理しなくてもいいからね?」とルナの顔を窺い見てはルナの皿にご飯を乗せていく男たちを牽制した。いつも以上に世話を焼かれていることに居心地の悪さを感じていると、ルナはそうだと絶好の話題を思い出した。
「ミレーさん、オススメしてもらった本、読みました」
「え! 本当に!?」
ミレーはどんぐりのようにまん丸いひとみを見開いて嬉しそうに手を合わせて微笑んだ。
「面白かった?」
「ええ、とても。ですが……続きが見当たらなくて……」
そして昨晩思い悩んだことを口にした。
ミレーならば知っているだろうか?――と。
「ああ、それなら私の部屋にあるかもしれないわ。ご飯食べ終わったら探してみるわ」
「本当ですか!」
「ええ」
ルナはあの続きが今日にでも読めるのかと思うと心が高鳴った。
すぐにでもあの少女と魔法使いのその後が見られるのかと。2.3.4と続いているのだから二人の苦難は続くのであろう。けれどあの少女が魔法使いの手をとることができればきっと幸せになれるはずだ、と出どころのわからない確証がルナの中にあった。
食事を終えるとミレーは「ちょっと探してくるわね」と告げて一直線に部屋へと帰っていった。よほど同士を見つけられたのが嬉しかったのだろう。あの本が全て読み終わったら、感想を言い合うのも楽しそうだと一足先に部屋へと向かった。
そしてミレーがこの部屋に本を届けに来るよりも早く図鑑を元の位置へと返してしまおうと、一時的に保管した引き出しへと手を伸ばした。開けてみるとそこには目当ての図鑑ともう一つ、眠気まなこだった昨晩は気づかなかった一枚の紙が入っていた。
「何かしら?」
目の近くへと持ってくると細々と書かれた字はどうやら人名と日付、それに撮影場所が書いてあるらしい。場所は庭とだけ書かれていて、その日付はもう20年近く前のものであったが、ルナの目を引いたのはそのどちらでもなく人名の方だった。
『グレン、エルナ、マルガレータ、ヒューイ』
これを見てはいけないとルナの本能が騒いでいた。けれどその反対に見なければいけないとも訴えていた。ルナはその後者に負け、その紙を裏返した。するとそれは写真だった。白と黒とで構成された写真。
そこにはカーティスによく似た人物、エルによく似ているが髪と瞳の色の違う女性、それに自分にそっくりな女性、そして少しだけ若返ったヒューイの姿が写っていたのだ。
「なに……これ?」
写真を握る手は震えた。神経質なほどに綺麗な文字が示しているのはこの四人の名前であることはおそらく間違えではない。
そしてグレンはルナを育ててくれた父であり、エルナはグレンの妻でカーティスたちの母であった。二人とともにいるヒューイはおそらくこの屋敷にいる、ルナを誘拐したと豪語するあのヒューイで間違えはないのだろう。写真の中の男も彼と同じように首に包帯をぐるぐると巻き付け、二カっと歯を見せて笑っている。
なぜ彼があの二人と一緒にいるのか?
ルナには分からなかった。だがそれよりももう一人の、自分によく似た女性の存在に引きつけられる。
「マル、ガレータ……」
その名を口にして、震える手で写真を置いた。そしてゆっくりと力の入らない足で一歩、また一歩と鏡の前まで移動して自身の顔を見た。見慣れたそれはやはり写真の中の人物そのものだった。
笑い慣れていないせいで、引きつったように震える頬も。長く真っ直ぐに伸びた髪も。よく似ているなんてものじゃない。そのくせ目だけは楽しいのだと、幸せなのだと訴えているのだ。
写真の先のルナに向かって。
「ごめん……なさい……」
ルナは鏡の中の自分に、写真の中のマルガレータに謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
(ここはあなたの居場所なのに……。)
立ち去らなくてはとルナの頭に浮かんだ。この場にこれ以上いてはいけないのだと。ルナはフラフラと身体をよろめかせながら歩いた。ドアノブを掴む手は、部屋から一歩踏み出す足は震えていた。そして廊下へと一歩出るとそこは知らない場所のようだった。
この場所に初めて来た時なんかよりもずっと屋敷全体に拒まれているような気さえする。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
そして呟きながら廊下を走った。
この場所から一刻でも早く去るために。
ここを出ても行き宛なんてなかった。カーティスの元にも、エルの元にも、ルーカスの元にも帰れない。唯一受け入れてくれたグレンはもう最愛の妻、エルナの元へと旅立ってしまった。
それでも走った。
仕事で出払っているせいか誰もいない玄関先を抜けて、ゴールはおろか少し先すらろくに見えない暗い森の中へ逃げ出したのだ。夢で体験したのと同じように後ろは振り返らずに、ただ前だけを見て夢中で走る。途中、ルナの靴はいつの間にか片方だけなくなってしまった。それでもルナは構わず走り続けた。
裸の足は小さな石ころや木によって傷つけられて行く。息は苦しくて吸っているはずなのに一向に満たされることはない。
それでも走る、ただただ走る。
何処へ向かっているわけでもない。ましてやゴールなんてものはない。
あの、雨の日と同じだ。
あれから数日しか経っていないのにルナの心はあの屋敷の人たちで少しずつ、けれども確実に満たされていた。
だからこそ誰かの居場所を奪ってしまっていることが怖くてたまらなかった。
ルナは自分の居場所がいきなりなくなることを経験していた。
それはクシャクシャに読み潰された手紙で。
それは薔薇に添えられた花言葉で。
だから誰よりもその痛みを、悲しさをわかっていたはずなのに、無自覚にそれをしてしまったのだ。
そしてルナは他人の居場所を奪ってその場に居座ることの代償も知っていたはずだった。
誰かの代わりに成り代わってもいずれ捨てられてしまうことを。
だから逃げ出した。
捨てられる前に、完全に満たされてしまう前に。
前しか向いていなかったルナは足元にずっしりと佇む木の根元に足を取られた。不意だったので手をつけずに顔から地面に叩きつけられた。
「…………痛い」
鼻は折れてしまったのではないかと思うほどにじんじんと痛みがやってきて、中には違和感が広がった。
血、出てるんじゃないかしら。鼻を包み込んでも一向に何かが触れる様子はない。だから大丈夫、まだ大丈夫と自身に言い聞かせる。
溢れる涙をそのままに、ワンピースについた土を払った。新品同様の誰かのものだったワンピースはところどころ木を引っ掛けてしまっていたようで破けてしまっていた。けれどルナは気にしなかった。
痛む足をペチペチと叩いて鼓舞する。
どこへ行くかもわからないのに、足は健気にも動き出す。けれどその足は地を這うように伸びた木の根によって再び行く手を遮られる。
「助けて……」
それは無意識に出た言葉で、誰かに対して発した言葉ではなかった。ただ何かに縋らずにはいられなかった。夢と同じように手を伸ばすと、その手は暖かい手で包まれた。
「あなたがそう望むのであれば……」
そう微笑みかけたのはここにいるはずもない、門番の青年だった。
30.
「なんで……ここに……」
「俺は騎士、ですから」
温かい手はルナの身体を起こし、そしてルナの身体中に視線を巡らせた。
「すごい怪我ですね……。近くに町があるので、そこの病院で治療してもらいましょう」
門番はそう言って自分の痛みのように顔をしかめた。ルナもそれに倣ってじっと自分の手足を見てみると肘や膝の皮膚が擦り切れて、血まで出てしまっている。特に膝から足首にかけては木の根に躓いた時に怪我をしたのであろう、広範囲にわたって赤く染まり、鮮やかな血が垂れていた。それを見てしまったせいで痛みは次第に強くなっていく。知り合いに会えて気が抜けたというのも大きいのだろう。痛みでうっすらと涙が湧き出てくる。
「ええっと、痛いですよね……。でも、もうちょっとだけ我慢してください。すぐ連れて行きますから」
今にも涙で溢れかえりそうなルナの様子に焦った門番の青年は、彼女の膝の裏に腕を入れて横抱きにしたまま走り出した。
「あの……自分で歩けますから」
怪我は全て自分のせいなのだから、自分の足で歩くのが道理であろう。降ろしてほしいと訴えるルナに門番の青年は真面目な顔をした。
「こういうのは早く消毒するに限るんです! ばい菌が繁殖したら困りますから」
それはまるでヒューイが森にケモノが出るからとルナに言って聞かせた時に戻ったようだった。ヒューイもこの青年も、心の底からルナを心配しているのだということが伝わってくるのだ。……だがそんなヒューイとの約束をルナは破ってしまった。
彼らは心配しているだろうか?
そう考えはするものの、それでもあの場所に背を向けることはあれど再び足を向ける気にはなれなかった。
ルナは怖いのだ。
そしてその恐れは顔の上で笑みを浮かべる門番の青年への恐れへと変わる。
笑っている彼は何の利益があって伸ばされた手を取ったのか。わからないからこそ不安で仕方がない。
(今の私には何も残っていないのだから)
ルナが門番の青年の顔をじっと見つめていたせいか青年は首を傾けた。
「どうかしましたか? ってああ、俺の名前、知りませんよね? 俺、カイルって言います」
「カイル様……。えっと……私はルナ、です。」
今さらながらになぜか自己紹介をしてもらったルナは一応自分の名前を返すとカイルは嬉しそうに微笑んだ。
「今になって自己紹介するなんて変ですよね……。あ、俺のことは気軽にカイルと呼んでください」
門の前で会った時よりもいくぶん打ち解けた口調で話すカイル。ルナは変にかしこまって話されるよりもその方が楽だった。
遠くには街の景色が見え始め、空の大半を覆っていた木々はまるで出口が近づくにつれて中央を避けるようにして開けていった。明るく差し込む日差しは気持ちまでもを明るくする。
「これから行く町はお菓子が美味しいですから、治療が終わったらお茶でもして休みましょうか」
「え?」
「中でもオレンジのタルトは絶品です」
そして甘いものが好きらしいカイルはすぐ近くで待っているタルトに想いを馳せる。遠くを見据えるように目を細め、そして何度か口にしたことがあるだろうそれの美味しさに頬を緩める。こんな幸せそうな顔を間近で見せられたルナに拒否権などない。
カイルに抱かれたまま町に入り、そして治療を受ける。その後はお茶をする。そこまでの流れはカイルによって半ば強引に決定したのだった。だが嫌な気持ちにはならなかった。
「まぁ……ルナ様のハニークッキーには到底及びませんが」
……この言葉を聞くまでは。
「……ハニークッキー?」
カイルの言葉を反復するルナの声はわずかに震えている。胸の前で組んだ両手は互いを縛り合うことで震えることを抑えようとしているものの、小さな揺れはおさまることはない。
ルナが最近それを作ったのはあの屋敷にいた時のことだ。そしてその前は確か彼に出会う前、エルが第四王子の元へ嫁いでいく前のことだ。
それはグレンがこの世を去る少し前のことで、もう長くはないと判断したグレンがルナの作ったお菓子が食べたいのだとリクエストされたうちのひとつがそれだった。
美味しいと喜んでくれたお菓子はそのほとんどがグレンの腹の中に収まり、その他の、始めから避けておいた分はその後ルナとエルの二人きりのお茶会のお茶菓子として食べたのであった。つまりその時にカイルの手に渡ったという可能性はないのだ。
あるとすればあの屋敷で作った方で、ミレーがビーと呼ばれる人物にあげるのだと言って方のハニークッキーなのだ。
それが意味をするのはカイルが彼らの仲間だということだった。
「? ええ。美味しくいただきました。……少々守りきるのには苦労しましたが……」
「あなた、もしかして……」
手を掴んでくれたカイルが、彼らの仲間だなんてそんなこと、聞きたくはなかった。けれど聞かずにはいられなかった。例えどんな現実が突きつけられようとも、処理しきれない感情が心の中でこれ以上増えようとも、知らずにいるなんてそんな卑怯な真似は出来なかった。けれどカイルの言葉はルナを混乱させることこそあれど、傷つけることはなかった。
「俺は門番で、現近衛騎士。そしてもっといえば死に神の大鎌の一員であなたの家族にあたります」
「え……?」
どんな言葉よりも痛烈にルナの頭に残ったのは『家族』という言葉。ルナが喉の奥から手が伸びるほどに欲したそれをカイルはなんてことないように口にしたのだった。
31.
「どういう……こと、ですか?」
それは純粋なる疑問だった。ルナは抱き抱えられたまま、カイルは足を止めぬまま進み続ける。
「言葉の通りですよ。詳しい説明は治療後にお話ししましょう」
そしていつの間にか到着した町外れの小屋のドアを足で2回ほど蹴った。
「俺です」
乱暴そうに見えるが両手はルナを抱えるので精一杯で空いているのといえば足くらいだったのだろう。しばらくするとドアをゆっくりと開く。そこからは髪の伸びきった男が眠たそうに頭を掻きむしりながら顔を見せた。
「んぁ? ビーか……まだ昼じゃねぇか。なんだってこんな早い時間に……ってカッツェ?! 何でここに!」
男はカイルの腕の中のルナを見つけるやいなや急いで小屋の奥に引っ込んで行ってしまった。奥からは物が崩れ落ちるような音がけたたましく鳴り響いている。そんなことは全く気にせずに開けてもらったドアからカイルは小屋の奥へと入って行く。
「あ、あの……その、いいんですか?」
「何がです?」
「勝手に入ってしまって。私、お邪魔なら外で待っていますが……」
「あなたの治療に来たんですから本人が居なかったら意味ないですよ」
「は、はぁ……」
ルナから見た限り、男の態度はルナを歓迎しているようには見えなかった。けれどカイルはルナを抱えたままどんどん中へと進んでいく。
「エイ、救急箱借りますよ」
「あ、ああ。好きに使ってくれ! 俺は今、それどころじゃないんだ!」
「ったくエイも近々誕生日会があることを知っていただろ?」
「知ってたさ。けどそれは前日に通達がくるって話だっただろ! なのになんでこんな、突然……」
カイルはエイと呼んだ人物に呆れたようにはぁっと大きなため息をつきながらも、手元ではテキパキとルナの傷口を処置している。血だらけだった足は今ではガーゼでおおわれている。少しばかり大げさではないかと思ってしまうが、それもカイルなりに心配してくれている証拠なのだろう。
それよりもルナは『家族』という言葉が未だに気になっていた。それでも治療が終わった後で話してくれるのだというからルナからは口に出せずにいる。
「はい、終わりましたよ」
カイルはニコリとルナに微笑みかける。その笑顔にルナは待ってましたとばかりに口を開いた。
「カイル! 家族って「終わったぁ!」
だがその言葉はエイに簡単に遮られてしまう。
「エイ……。お前な!」
それにはさすがのカイルも頬をピクつかせる。けれど奥から出てきた人物はそんなことお構いなしにカイルの横を通り過ぎ、そしてルナの両手を握った。
「久しぶりだな、カッツェ。大きくなって……ずっと、ずっとまた会える日を楽しみにしていた」
涙ぐむエイの頬には涙が伝っていた。ずっと楽しみにしていたという彼の言葉に偽りはないようだった。それでもルナの記憶にはエイという男の存在はない。エイという名前も彼という人の顔も初めてなのだった。
するとルナの頭に過ったのはマーガレットという名の少女だった。ルナによく似た、いやルナがマーガレットという人物に似ているのかもしれない、その人物と勘違いをしているのではないかと……。
「エイ様」
「エイでいいぞ、カッツェ。で、なんだ?」
「私はルナです。カッツェでもマーガレットでもありません」
「ああそうだ。君はマーガレットではない。けれどカッツェでありルナでもあるんだ」
「どういう、ことですか?」
あの屋敷の彼らはマーガレットという少女の代わりにルナを屋敷まで連れてきて、そしてカッツェという名前を与えたのではないのか。
もしくはカッツェというマーガレットとはかけ離れた名前は彼女に与えられた愛称ではないのか。
ルナの溢れ出す疑問は顔にも出ていたのか、エイは軽く笑ってからビーの身体を軽く前へと押し出した。
「それは俺よりもビーのほうが適任だな」
「ああ、俺が話すよ。だからエイ、オレンジのタルトを買ってきてくれ」
「え、今?! いいところなのに?」
「今」
「……ああそうかよ。飲み物は用意してくか?」
「気が利くな」
「お前にじゃない! カッツェに、だ。喉乾いたままでいるなんてかわいそうだろ」
「でもついでに俺のも用意してくれるだろう?」
「二人も三人も同じだからな。ついでに冷めるまでの間にケーキ買ってきてやる! カッツェもオレンジのタルトでいいか?」
「あ、はい。お願いしてしまって申し訳ありません」
「いいって、いいって。んじゃ行ってくるから」
一方的に来ておいて、家の主人を使いっ走りにしてしまったことに申し訳なさを感じ、身体を縮こませてしまう。けれど当のエイはそれが身体に染み付いている行動であるかのように手早く三人分の紅茶を用意し、その二つをカイルとルナに手渡すと颯爽と小屋を後にした。
「エイが帰ってくるまでしばらくかかりますし……それでは話しましょう。あなたがカッツェで、そしてルナ様である理由を」
32.
さてと、どこから話しましょうか?
そうだ。とりあえず俺の過去から話しましょう。あまり耳心地いいものではないのですが、よければ聞いてやってください。
俺は物心ついた時から親というものを知らずに過ごしました。代わりに俺と同じような人達がたくさんいて、生きる術を身体に教え込んでくれました。そのおかげで俺は今も生きているのですが……俺は生きる代償として何でもしました。
今の、騎士の仕事ではすっかり昔の俺と同じようなことをした人達を捕まえる側になっているのは皮肉なものですね。それでも、昔の仲間たちを裏切ってでも俺はそこに立ちたいと願ったんです。
それは一人の死に神に出会ったからです。
死に神は昔の仲間たちの間で有名な通り名で、彼にあったら最期を覚悟しなければいけないと言われるほどでした。会わないに越したことはないと誰もが彼の足取りにアンテナを張りながら生活していました。けれど俺はある日ヘマをしてしまって、出会ってしまったんです。
死に神、グレン=ランドール様に。
彼は俺の目の前で、全てを壊していきました。躊躇なく、冷徹に冷血に。
その姿に俺は目を奪われました。……動けなかったんです。その剣さばきに、瞳を、そして心すら奪われたんです。
彼はその場から離れられなくなった俺を見つけると仲間たちに声をかけました。
「連れて帰れ」――と。それは俺にとって死の宣告と同じでした。
けれど彼は俺を殺しませんでした。
それどころか薄汚れた俺を風呂に入れてくれました。その間、恥ずかしいとかは思いませんでした。死ぬかもしれない恐怖に比べたらよく知らない人間に身体を洗われることなんて大したことではなかったのです。
初めて石鹸というものを使った俺はあまりの汚れでうまく泡立たなかったのか、それとも洗い手が致命的なほどにセンスがないのかはわかりませんが、いつの間にか頭と身体を洗う手がごつごつとした男の手から女の手に変わっていました。
変わった柔らかい手は優しくて、いつ死ぬかもわからない俺は母がいればこんな感じだったのだろうと思ってしまいました。
綺麗になった俺はどこかの一室に連れて行かれ、そして再び死に神と対面することになりました。
汚れが落ちたのと同時に恐れまで落ちてしまったのか、彼を怖いとは思いませんでした。それは彼の横で騒ぐ真っ白な少女のせいもあったのでしょうが。
少女は白ウサギのような、可愛らしい姿で俺の周りをクルクル回っては次々に「これとこれと」と服を手渡してきました。
とりあえず受け取ったそれは貴族のお坊ちゃんが着るほどの服で、売れば一ヶ月以上食べ物に困らないだろうとすぐに計算できるほどの品でした。
「サイズは多分大丈夫! だから着てみて」
「はい?」
「今はとりあえずブルックのを着せてるけど、それじゃあサイズ大きいでしょう?」
どうやら誰かの所有物であったらしい服を強引に脱がせて、真っ白な少女、エルナは俺の手の中にあった服を着せました。それはもう見事なもので、俺の抵抗なんてなかったものみたいに、5つもあったボタンすら全て止めてしまいました。
「マーガレットみたいにお風呂では洗ってあげられないけど、着替えさせるのは慣れてるのよ!」
エルナは自慢げに、膨らみの全くない胸を逸らしていました。
「私は着替えさせるの、得意ではないから」
そしてその声に続いて俺の背後からエルナと全く顔の作りの似た、けれど彼女ほど表情の動きが多いわけではない少女がすっと顔を出しました。その少女こそあなたが似ていると判断した少女、マーガレットです。
二人の少女はソファに座りながらこちらをじっと見ている死に神に目もくれず、俺の手を引いて部屋を出ました。死に神は何も言わずにただ俺たちの後をついて着ました。
そして着いた先で俺はたくさんの子どもたちを見ました。
その時の俺と同じ、大層な服に身を包んでいても俺には彼らが俺と同じ子どもであることがすぐにわかりました。
長くあんなことをやっていたせいか、仲間はすぐにわかるんです。纏う空気といいますか、同じ何かを感じたんです。
目を見開く俺の隣で少女たちは声をあげました。
「この子、今日から家族だから」
「ほらほらみんな、自己紹介しないとでしょう? 並んで並んで」
少女たちの呼びかけに応えた子どもたちは俺を囲み、すぐに余所者の俺を受け入れてくれました。
それからしばらくは夢の中にいるようで、彼らの好意が信じられなかった俺がどんなにひどい態度をとっても彼らは全く気にする様子を見せなった。気にせず話しかけて、食べ物を山盛りにして、そして俺の隣でスヤスヤと寝息を立てて寝るんです。
それが俺には不思議で仕方がなかった。
彼らがそうする意味がわからなかったんです。他意があるのではないかと疑わずにはいられなかった。けれど俺には彼らが良くしたところで流せる情報なんてなくて、いずれ申し訳なさが上回るようになっていました。
そして俺はある日、決心して彼らに聞いてみたんです。
「なぜよくしてくれるのか?」って。そしたら彼ら、なんて答えたと思います? 「家族だから」ですよ。
初日にマーガレットとエルナが宣言したことと同じことを言ったんです。信じられなくて屋敷中を駆け回りましたよ。それでも返ってくる答えは同じで、最後には笑うしかありませんでした。
壊れたように笑って、そして泣き続ける俺の元に死に神はやってきました。
「何かあるなら言え。家族とはそういうものだ」――と。
死に神と呼ばれる彼までも俺を家族として認識していたんです。多分それは目があった時からなのでしょう。
そのことを俺はずっと先になってから知りました。
長い時間かけて水を吸い上げるスポンジみたいに俺たちは家族になっていったんです。
知らなかった愛情を、死に神と二人の真っ白な少女と、そして屋敷の彼らに注がれて、限界があるのが恐ろしくなるほどに俺はそれに溺れていきました。
屋敷の彼らが自分たちのことを『死に神の大鎌』なのだと、いつかこの恩を返すのだと笑っていたのを見ていただけの俺はいつか彼らと同じになっていきました。
俺はどん底から救ってくれたあの人の役に立ちたいと思ったんです。そんな俺に彼らは俺に生きる方法を教えてくれました。昔みたいに汚れた仕事ではなく、真っ当な仕事です。人を守るために剣を振るい、人を助けるために各地に物を流す仕事を。
そしてここでは誰もが自分のやりたいことをするのだと教えてもらいました。
自分らしく生きるのだと。
そのために俺を連れてきたのだと。
俺のようにどこからか連れて来られる、自分らしく生きることが出来なかった子どもに俺も同じように愛を注ぎました。ここにやって来た頃の俺と同じく彼らは怯えていた。だから彼らがしてくれたように、愛を知らない彼らに家族を教えました。
ずっとずっと幸せだった。
エルナはグレン様に似ている我が子を何度も屋敷に連れてきては、私も幸せになれたのだとシミジミと幸せを実感して笑いました。
その隣にはグレン様とマーガレット、そしてこの屋敷の父ともいえるヒューイが並んで、なんてことないことでも幸せを嬉しそうに、大事そうに抱えては笑いました。
だけどそんな幸せは長くは続きませんでした。
エルナが病にかかったんです。よりによって特効薬も何もない、死を待つしかない病に。
俺たちは誰も、エルナを、家族を救えなかった。
何も出来ない俺にエルナは、周りに誰もいないことを確認してからそっと耳打ちをしました。
「死ぬには少し人よりも早いけど、でも私、人より多くの幸せをもらえたから。だからね、仕方ないかなって思うの。私は先にここから出て行ってしまうけれど、それでもずっと家族だから。遠いけど、ずっと見てるから。だからビー、あなたは近くで家族を、あの子たちを助けてあげて」
最期まで彼女は彼女らしく笑っていた。エルナは最期まで俺たち家族の母で姉だったんです。
残される家族のことを心配して、弱い俺を強くしてくれました。だからエルナに俺は誓いました。
彼女の代わりに家族を守るのだと。
エルナの死後、それからグレン様はその事実が信じられずに、ひたすら働き続けました。
冷酷に、冷血に見えて、その瞳がもうここにはいないエルナをずっと探し続けていたんです。そんなグレン様を見ているのは正直とても辛かった……。
それにエルナとグレン様の間に産まれた、残された子どもたちはもう生きているのか死んでいるのかわからないほどで、ずっとエルナの名前を呼んでは、姿の見えない母親を探し続けていました。
「お母様」「お母様」と小さな声が呼ぶたびに誰もが心を痛めました。もういないのだと告げることはできなかったんです。
そしてマルガレータはよく部屋にふさぎ込むようになりました。エルナと過ごしたのだという自室でたくさんの思い出の詰まった本に囲まれて。
ヒューイはずっと二人の身体を心配してはあの屋敷とランドール屋敷を往復しては無理にでも食事を食べさせていました。
俺は、いやヒューイ以外の誰もがどうすることも出来ずに、ただ身体を動かし続けていました。
ある日、隣国の市場に栄養価の高い果物が流通していると小耳にはさんだ俺はすぐに荷馬車を飛ばして隣国へと向かいました。残念ながら着いた時にはもう遅くて、念願のそれは手に入らなかった。だから仕方なく隣国の名産品である魚の日干しを何種類か買って帰ることにしました。
行きは辛くなかった長い山道も気分が重ければ辛くなって、俺は山の途中で一度休憩を取ることにしました。
どうせここを通る馬車など少ないからと、横道に逸れたところに馬車を止めてご飯でも食べようとしているとどこからかニャーニャーと猫の鳴く声が聞こえ出しました。荷馬車に乗せてあるのは魚ばかりでその匂いを嗅ぎつけた猫が寄って来たのだろう。そう勘ぐって、数匹くらいなら分けてやろうかと用意したものの当の猫たちと言えば全くやってくる気配がない。となるとどこかに脚でも絡ませてしまったかと心配になって辺りの草をかき分けると箱に入れられた猫と、そしてカッツェ、あなたを見つけました。
子猫と一緒に子どもが置き去りになっていることにも驚きましたが、何より赤子の髪の色に目を囚われました。それはマーガレットやエルナと同じ、雪のような真っ白な毛だったからです。
それを見た途端、屋敷に来て少しした頃にエルナが内緒話のように俺に話してくれたことが頭に浮かびました。
『私やマーガレットの村は滅ぼされてしまったの。だからグレンやヒューイ、マーガレットと私は同じ環境にいる子どもを、そして自分と同じ色を持つ人を探しているんだ』――と。
俺はその猫の入った箱を荷馬車に隠して、そしてカッツェは手元の毛布の中に隠しました。すぐ近くに隣国と自国を結ぶ関門があって、そこを通過できるかは正直賭けでした。
その頃は年々人身売買に対する方が厳しくなっていくのと同時に、孤児を引き取るのだって一年以上にも渡る審査が必要になっていたんです。そんな中、他国からパスポートも持っていない、戸籍すらあるのか怪しい子どもを入国させるなんてありえないことで、賭けに勝てる見込みなんてなかった。
それでも俺にはこの子を置き去りにすることなんて出来なかったんです。守らなければと思ったから。
どうか突破させてくれと、先に天へと昇っていったエルナに願いながら何度も『カッツェ』と呼び続けました。後ろでニャーニャーと泣き続けている猫が答えてくれることを祈って。
本当は猫すら自国へ入れることは禁止されていたんです。それほどまでに入国審査は厳しかった。けれどその猫たちは俺のいない間あなたを守り続けてくれたナイトたちだったから連れてきたことに後悔はなかった。
この行動でグレン様や他のみんなに迷惑がかかるかも知れないと思ったけれど、それでも彼らなら許してくれると信じて突き進むだけでした。
関門に差し掛かると門番のおじいさんはネコの鳴き声に一瞬だけ顔をしかめました。けれどヒューイの飲み仲間である彼は「ヒューイんとこの子どもだろ? あいつのとこの子なら悪さしないのはわかってる。見逃してやるから他に気づかれる前にはよぉ行け」と投げやりにパスポートに印を捺して俺の馬車を送り出してくれました。彼の言っているのはおそらく後ろのネコのことで、まさか手元の毛布が子どもだなんて思いもしなかったんでしょう。知っていたらいくら知り合いのところの子どもであっても通すことはなかったでしょうから。優しい彼を騙してしまったようで心は多少痛みましたけど、感謝の方が優りました。
それから山を越えたばかりの愛馬の身体にムチを打ち、屋敷に急いで帰りました。
この子が誰にも見つからないようにと祈りながら。
そして屋敷の前に着くと、後ろに乗せていたネコも毛布の中に入れて、一直線にマルガレータの部屋へと向かって、閉ざされたドアを強引に脚で蹴破りました。……行儀は悪いんですけど、必死だったんです。
「子猫を拾った」
急いでいたせいか額から噴き出た汗が伝って目に入って来ていたのにも気づきませんでした。それよりも四匹のナイトと彼らに守られた白い髪の赤子をマルガレータに見せることに必死だったんです。
半ば強引にマルガレータに毛布ごと渡すと彼女はその固まりを優しく抱きしめました。
そして今まで寝込んでいたのも嘘かと思うほどに、毛布を抱きしめ、彼女は勢いよく部屋を後にしました。
マルガレータにバトンを渡した俺は気が抜けると同時に腰まで抜けてその場にへたり込みました。
そしてその夜、カッツェはランドール家の娘として、ルナ=ランドールとして育てられるとヒューイとマルガレータから聞かされました。そして名前の由来はエルナの名前から取って『ルナ』なのだとも。
きっと月のように夜道を照らす女性になってくれるだろう。あの子も幸せになれるのかと思うと一晩中涙が止まりませんでした。
この屋敷にいる者は誰でも語ることを躊躇うような過去を持っていて、辛いことを乗り越えてきた子どもばっかりだったから。
それはエルナもマルガレータも例外ではなくて……だからこそ幸せになってほしいと心から祈りました。
◇◇◇
「だからあなたはカッツェでルナで、そして俺にとってもあの屋敷のみんなにとっても家族なんです」
ルナは開いた口がふさがらなかった。
代わりなんかじゃなくて、彼らはずっとルナ自身を見ていて、思ってくれていたのだということに。
「あり、がとう……ございます」
ルナは目の前の恩人にお礼を言って、そして深々と頭を下げた。そんな短い言葉なんかでは今まで受けてきたことのお礼は返せないことはわかっていても、それでも伝えなければと思ったのだ。
「お礼を言うのはこちらの方です。幸せを運んできてくれてありがとうございます」
ルナの手を取って、包み込んだカイルは幸せそうに笑った。心の底からルナの存在を喜んでくれているように。
33.
「それで、なんですが……俺とどこかへ行きませんか?」
カイルはルナと繋いだ手を少しだけ上にあげて提案してみせた。それはちょっと近くに、それこそ一度空気でも吸いに外に出ましょうか? とでもいうほどの気軽さで。
「行き先は決まってないんですけどね……」
そして遅れてくすっと笑って付け足した。カイルはカップに入った、まだ暖かい紅茶を冷ますためかクルクルと円を描いて回す。その間も決して目の前のルナから目を離すことなく。ただ口を開くのを、回答を導き出すのを待っていた。
「わ、私は……」
ルナを家族だと言ってくれたカイルが提示しているのは色んなものから逃げてきたルナがこれからも逃げ続けるための道で。だからこそその手に頼り続けてはいけないのだと強く頭が叫んでいた。
この手を、優しい手を拒んでルナはもう一度、戻らなければならないのだ。こわごわと張り付いた唇を開く。
「私、戻らないと。地位もお金も、何もないけれど。それでも……」
捨てられるかもしれないと、戻ったところでいらないと切り捨てられるかもしれないと今でも心の中で怯えている。怖くて、カイルと繋いだままの手の甲には涙がこぼれ落ちた。
それでもルナは進むことを、前を見ることを決めたのだ。
カイルは机にカップを置き、そしてカップの熱で温まった指先でルナの目元にたまった涙を拭き取った。
「何もないなんて悲しいこと、言わないでください。あなたの側にはいつだってあなたを愛する人が、大切に思う人がいるんです」
「……っ」
「今だってあなたの目の前には俺がいます。あなたが本当にどこかへ行ってしまいたいと願うなら、何処へだって攫ってしまいましょう。でも……きっとそれをしてしまったらあなたはもう二度と笑顔を浮かべてはくれないでしょう。あなたが掴みたいのは俺の手じゃないんです。指の皮はペンが当たるところだけ固くなっている彼が、ルーカス様がいいのでしょう?」
どこまでも優しい彼は、ルナの言えなかった先の言葉を問いかけてくれる。
「……ルーカス様が愛しているのはエル様です。それでも私は……」
好きになってしまったのだと、彼の元に帰りたいのだと、言い切ることが出来なかった。 あの日、エルとマイクが結婚式を挙げた日のように愛してくれなくてもいいと思うことはもう出来なくなってしまっているから。 同じだけ思ってほしいと願ってしまったからこそ臆病になるのだ。
「伝えましょう? 怖くても、あなたには俺がいます。頼りないだろうけど、エイもいますし、空ではグレン様やエルナが見ていてくれているでしょうし、何なら今からでも屋敷の仲間たちだって呼びましょうか。あなたは一人じゃないんです。怖い思いをしたら全員で抱きしめますから、だから……」
カイルはその先の言葉を口にしなかった。その代わりにルナを抱きしめた。それは旅立とうとする家族に向けて、精一杯の激励だった。
「あり、がとう」
ルナもカイルの背中に手を回し、伝わったことを自分なりに表現した。
34.
突然ドアが開くような音が聞こえると続いてルナとカイルのいる方向へ近づく足音が小さな小屋に響く。ルナはカイルからゆっくりと離れ、そして彼も同じくそうした。そして落ち着かせるようにルナの頭を撫でた。
「タルト、絶品なんですよ」
「楽しみです」
エイの帰宅により、お茶会の時間へと突入しようとした2人の視界に入ってきたのはエイだけではなかった。黄色いバラの花束の頭だけだした、ルナが数日前に渡した籠を手にするルーカスもまたそこに佇んでいたのである。
「ただいま。ビー、カッツェ、迷ってた宰相さん拾ってきた」
机の上にケーキの箱を置いて、増えたお客さんのためにとエイはキッチンへと入り、お茶を用意し始める。カイルは初めこそ驚いていたものの、それは一瞬のことでルーカスのために席を譲る。ルナはといえば……固まっていた。 まさかこんなに早く再会するとは思っていなかったのだ。心の準備など完璧ではない。むしろ動揺によって固まりかけていた意思は再び瓦解寸前になっていた。
「なに、している」
明らかなる怒りを向けてルーカスはカイルに向けて言い放った。だがカイルは動じずにエイが購入してきたケーキを包丁で切り分ける。
「なにしているか聞いているんだ、答えろカイル」
「なに、と言いますと?」
なぜ怒りを向けられなければいけないのかわからないと言ったようにようやくルーカスの方へと視線を向けたカイルは首を右に傾けた。
「ルナは私の妻だとわかっての行為か!」
「はい」
怒りが収まることを知らないルーカスにあくまでカイルは淡々と返す。
「知っていて、ルナを誘拐したというのか!」
「誘拐はしていません。保護です。すでにエル様とカーティス様には連絡済みですし、あなたにも送られてきたでしょう?」
「連絡とはあのふざけた手紙のことか!」
「はい。読んだからあなたは今ここに、花束を持ちながらいるのでしょう?」
「それは……」
「おおよそその籠にはもう一つの持参品があるのでしょう? でも少しだけ遅かったですね」
「何?」
「つい先ほど、彼女は俺と生きることに決めました。あなたほどではないですけど、騎士の仕事というのも結構給金がいいですから、しばらくは2人でお金の心配もなく暮らしていけそうです」
「ルナは私の妻だぞ?」
「今はまだ……でしょう? その花束一つと彼女の直筆のサイン、そしてランドール家当主、カーティス=ランドールのサインがあれば晴れて離縁は成立します。せいぜいかかって一ヶ月といったところでしょうか? 確定し次第、俺と彼女はこの国を去ろうと思います。どうかあなたは次の奥様と幸せになさってください」「そんなふざけたことが成立するとでも思っているのか!」
「その花束の意味をご存じないのですか? その花束は相手に離縁を乞うことを意味しています。花屋自体は小さいですが、認知度は抜群に良くて、大抵の者がその意味を知っています。だからあなたが離縁を願ったという証拠として十分に役立つのですよ」
「そんなこと……」
「知らなかったとでもいうおつもりですか? 天下の宰相様が?」
ルナに勇気をくれたカイルは躊躇なくルーカスを苦しめて行く。気持ちを伝えろと言った口で、ルナの出番がないほどにルーカスを責め立てる。
いつも通りの表情で、ただ事実を伝えるように。
「……知らなかった、んだ。知っていたら贈るはずがない。俺はただルナに帰ってきてほしくて……」
「ではそのアクセサリーは何でしょう? 慰謝料代わりのものじゃないんですか?」
「これはその……誕生日に渡そうとして、渡せなかったもので……」
次第に縮こまってしまうルーカスを横目にカイルはルナの耳元でそっと囁いた。
「さぁカッツェ、出番ですよ?」
そっと離れた彼は口の端に指を当てて、声には出さずに『ガンバレ』と応援する。
ここまでしてくれたのはルーカスを前に固まってしまったルナへの、彼なりのエールのようなものなのだろう。 ルナも彼がここまでしてくれたお膳をひっくり返すような真似はしない。固くなってしまった足を動かして、そしてルーカスのもとへと歩み寄る。
「ルーカス様、よろしければその花束をいただけますか?」
「……俺は君と離縁をする気などない」
「私もありません。ただ……ルーカス様からの贈り物を頂きたいのです」
「あ、ああ」
ルナの手に再び渡った花束はやはり白のリボンに赤字で刻印されている、あの日受け取ったものと全く同じものだった。だが今のルナにとってはあの日の花束と違う意味を持つ。 例えこの花束にどんな逸話があろうとも、これは、ルーカスからの貰ったこの花束だけはルナにとって大切な、宝物となるのだ。
「ルナ……帰ってきてくれないか?」
「ええ、もちろんです」
ルナはカイルとエイに、家族に見守られながら、幸せを噛み締める。 きっとマーガレットやエルナもそうであったのだろうと思いながら、繋がった手に視線を注いだ。
するとその場に似つかわしくない、乱暴な音がやってくる。
「カッツェ! ここにいたのか」
ドアを壊すようにして小屋へと侵入を果たしたのはヒューイだ。どうやらいなくなったルナを探してくれていたらしい。首に巻かれた包帯は急いでいたせいか緩んでしまっている。
「遅かったですね」
「コニーが抜けた穴はデカイんだよ! ったく老体を労れ!」
「ヒューイはまだまだ現役でしょう?」
「おぅ? 言ってくれるじゃねえか……。久しぶりに一戦交えるか? とまぁ今はそんなことより……カッツェ」
「は、はい!」
一通り戯れたような会話をしたヒューイはルナの元へとズンズンと突き進む。わずか数センチといったところでやっと止まると一気に顔を近づける。それには数日で慣れたはずのルナのビクッと身体を震わせてしまう。
「約束、破ったな」
「……すみません」
「こんなに怪我までして」
「……」
「約束を破ったからにはもちろん罰則がある。罰則は一つ、俺たちの言うことをなんでも聞くんだ」
「……はい」
何を言われるのかとビクビクしているとゆっくりとその判決は降り立った。
「俺たちに誕生日を祝われろ」
「……え?」
ルナは耳を疑った。なぜならそれはとても優しい罰則だからだ。数日前に祝われることなく、また一つ歳をとったルナへ対する思いやりといってもいいだろう。
「それが俺たち、あの屋敷にいるやつらの総意だ。日時は3日後、ブルックとルーシィを使いにやるから絶対に参加すること。いいな?」
「ちょっと待て、何を勝手に決めて……」
3本の指を立てながらそう宣言すると、状態をよく理解できていないルーカスがヒューイに詰め寄った。だがヒューイはそんなことに屈するような男ではない。
「勝手だと!? 嫁にやったとはいえ、カッツェは元を正せばウチの娘だ。娘の誕生日を家族が祝って何が悪い?」
「堂々と嘘をつくな! ルナはランドール家の娘だろう!」
「ランドール家の娘でもあるから、エル嬢とカーティス坊はちゃんと招待してあるから問題ない。宰相様はお城で難しいこと書かれた紙束とでも睨めっこしてるといいさ」
あの時の、ドアを閉めて部屋に入れなくしたのと同じ表情で、ヒューイはいくばくか自分より背の低いルーカスをからかった。そしてカイルもまた楽しそうにそれに便乗する。
「ルーカス様もお誘いしようと思ったのですが、有給はまだまだ残っているものの、処理待ちの書類もまだまだ残っているということで休みをもぎ取るのは困難だそうです」
「カイル、お前いつの間にそんな……」
「みんな揃っていた方が喜ぶかと思ったのですが、仕事なら仕方ありませんよね」
「……書類を処理し終えればいいんだな?」
「ええ。ここ数日、全く機能しなかったルーカス様の処理能力をフル稼働させれば特に問題なく有給は獲得できると思いますよ?」
「やってやる!」
「はい、頑張ってください」
カイルはさすがルーカスと共に働いているだけあって、やる気にさせるのが上手い。
(この一年同じ屋根の下で暮らしている私よりもずっとカイルの方がルーカス様のことを知っているんじゃないかしら?)
ルナは少しだけカイルに嫉妬してしまったのだった。
35.
これから屋敷に戻るのだというヒューイとカイル、そしてエイを小屋に残して、街に待たせていたらしいクロード家の馬車に乗った。道中、何も言わずに繋がれた手は馬車に乗り込んだいまなおルナとルーカスを結んでいる。 広い馬車の中で寄り添った身体はおもむろにルーカスによって離され、そして彼はルナの前のソファへと移動した。目の前に座るルナの目を見据えながら、ルーカスはゆっくりと口を開く。
「ルナ、今度はちゃんと言おうと思う。だから聞いてくれ」
「はい……」
「俺は君を愛している。これからも俺と共に歩いていってくれるだろうか?」
「ええ、もちろんです……」
ルーカスと一緒になる前から、もしかしたらあの日、初めてルーカスに心惹かれた日からずっとルナが欲していた言葉だ。決して手に入ることなどないのだと思いながらも、ずっと諦められなかったその言葉にルナの頬には涙が伝った。
「それと、だな……。突き返されたのをまた渡すというのはどうかと思うし、気に入らなかったら今度はまた違うものを買ってくる。だから嫌だったら嫌といって欲しいんだが、その……これを受け取ってはもらえないだろうか」
前置きを長々としたルーカスが取り出したのはルナがカゴに入れて突き返したアクセサリーケースだった。
「開けても?」
「ああ」
「これは……」
ルーカスの手から小さな箱を受け取ったルナは初めてそれを開いた。自分へ贈られたものとして再びやってきた箱の中身はイヤリングだった。金具の先端についている球体はルーカスの瞳と同じ、紫色に輝いていた。
「さっき、あのヒューイという男から聞かされた。大事そうにいつも身に付けているそれは君の父親からの贈り物だということも、ランドール家は代々父から娘へ、そして夫から妻へ瞳の色と同じアクセサリーが贈られるのだと……」
小屋を出る直前、ヒューイが何か耳打ちをしていると思ってはいたが、隣にいるルナですらその内容は聞き取れていなかった。だが彼が最後に別れ際に伝えたその内容がまさかルナですら初めて聞かされる内容だとは思わず、その内容に驚きを隠せなかった。
グレンから贈られたこのイヤリングの意味を、贈られたルナ本人でさえも知らなかったのだ。けれどグレンから、父から最後にもらった特別なものだからとずっと身に付けていたのだった。
「それがルナにとってどんなに大切なものなのかはわかるから無理にとは言わない。……だがつけて欲しいんだ」
ルナは今も変わらず身に付けている、グレンからもらった黄色いイヤリングの片方だけを外して、代わりにルーカスからの贈り物を身に付けた。
「どう、でしょうか?」
イヤリングがよく見えるように髪を耳にかけて、ルーカスに問いかける。
「よく……似合ってる」
黄色いイヤリングはいうなればグレンからの家族の証といったところだろう。
そして紫色のイヤリングはルーカスからの愛の形なのだった。
帰宅後、2人を待っていたのは玄関先でオロオロとしていたクロード家の筆頭執事のシンラだった。
「今帰った」
シンラはルーカスの声に反応し、ぐるりと首を回し、ルナとルーカスを視界に捉えると一直線に、長年支え続けているルーカス、ではなくルナめがけて歩み寄った。
「ルナ様! お帰りになっていただけたのですね!」
「心配かけてごめんなさい」
「もう一度この屋敷に帰ってきてくださっただけで私はもう……」
「そんなことよりシンラ、昼食の準備は?」
ルーカスがシンラとルナの間を遮るようにして身体を差し込み、邪魔をするとシンラはその端正な顔を惜しげもなく崩してしまう。
「……今日の朝まで全く手をつけなかったあなたがよく言いますね」
そしてルーカスにしか聞こえないほど小さな声で主人に向かって吐き捨てる。それは長年築き上げてきた一風変わった信頼関係がそうさせていたのだ。態度では全くわからないがシンラもシンラなりに主人を心配していたのだ。
ただそれ以上にこの一年、ずっとお世話をしていた、寂しそうな表情ばかり浮かべるルナを心配していただけである。 使用人のことを気遣ってくれ、なおかつ幼い頃から感情を表に出すことが下手なルーカスのお嫁さんとしてクロード家に嫁いできてくれたルナを、シンラだけではなくクロード家の使用人の誰もが慕っていたのだ。
「昼食なら今日もちゃんと2人分、用意してありますからご安心ください」
「今から食べるから準備しろ」
「かしこまりました」
思えばルナは昨日の夜以来何も口にしていなかった。結局小屋で出された紅茶も飲まずじまいで、カイルの一押しのタルトはその全貌をしっかりと見る前に去ってしまったのだ。そんなルナのお腹の虫は昼食と聞いてはしたなくも根をあげた。
「ルナ?」
音は当然隣のルーカスの耳にも入ったらしく、不思議そうな顔で覗かれる。ルナは恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだ。ルーカスは今すぐにでも逃げ出したいと願うルナの手を握った。
「ダイニングで待っていればすぐに料理が運ばれてくる。……だからそれまでこの数日の出来事を、いやルナのことを教えてくれないか?」
「……はい」
そしてルナはその日、初めてルーカスと夜を共にした。
「狭くないか?」
「大丈夫です」
それは一年以上も経つ夫婦生活で初めてのことで、ルナもルーカスも緊張で今まで以上にぎくしゃくとしていた。
「心配、だから。その……手、つないでいてもいいか?」
「はい……」
けれど、やがて布団の中で弱弱しくルーカスがルナの手を握ることによって二人の仲の空気は柔らかいものへと変わった。
その夜、本当の夫婦になることができたのだとルナは実感することができた。 利害など何も絡まない、愛し合った者のみが入れるその先へ足を踏み入れたのだ。
寂しさに俯きがちに歩く少女はもういない。 いるのは姉や兄、はたまたたくさんの家族に愛される少女と、気持ちが通じ合ってからも少女の家族に嫉妬の火を燃やす男だけだ。
(完)
サクサクと音を立ててクッキーを食べていたルナだが、続けて二、三枚と食べているとヒューイがヒョイっと顔を出した。「そんなに食うと飯入らなくなるぞ」 もうすっかりルナの食べる量を把握したヒューイはすぐそこまで迫っている夕食の心配をした。彼はいつも食のバランスを気にして、率先してルナの皿に彩りを加えていた。ヒューイの言う通り、目の前のクッキーを全て平らげれば確実に夕食は入らなくなる。ルナが手を止めたのを確認すると、彼はミレーに向かって声をかけた。
「おい、ミレー。何か包むもんなかったか?」
「包むもんって、何よってああ……」
抽象的な言い方に眉をひそめていたミレーはルナの手元を見て理解したのか、食堂の外へ消えてはすぐに帰ってきた。
「はいどうぞ」
ルナへと差し出す手にはラッピング用の袋とそれを閉じるための可愛らしいレースのリボンがあった。……なぜか2つ。
「ありがとうございます」
「その……できれば片方もらえないかしら?」
ルナへと手渡すと言いづらそうに視線を逸らしながらミレーはルナへと言った。その姿にヒューイは呆れた様子だった。
「お前、まだ食うつもりか……。コニーの言うことも少しは気にした方がいいぞ?」
というのもミレーはすでに自分の分のクッキーを完食し終えているのだ。そしてもう少し待てば夕食が完成する。
「違うわよ! これはビーにあげようと思ったのよ!」
ヒューイの予想を打ち消すミレーは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして彼の背中をぽこぽこと叩く。コニーの言葉がまだ効いているようで、そして何より自覚しているからこそ恥ずかしいのだろう。
「ああ、そうか。そういうことか。カッツェ俺からも頼む」
ヒューイはミレーの弱々しい攻撃などは気にも止めずにルナに向かって頭を下げた。
「はい」
ビーという人物はつい先日コニーに怪我を負わせた人物ではあるが、この屋敷の人たちはどうやらその人物に対してマイナスの感情を持ち合わせていないようであった。むしろこの屋敷の住人にとってあの怪我は全てコニーが悪いということになっているほどだ。
ルナは貰った2つの袋に同じ数だけのクッキーを入れ、リボンで綺麗に結んでからそのうちの1つをミレーに渡した。
「ありがとう」
ミレーはまるで美味しいお菓子を弟にあげる姉のように嬉しそうに笑った。
「ご飯だぞー」
キッチンから出て来るブルックの手や腕にはいくつもの大皿が乗っていた。それを次々と男たちに渡してはまたキッチンに引っ込んでいく。それが5往復ほど終わるとヒューイがルナの肩を叩く。
「さっさと席につけ。ここ空いてっから」
一足先に近くの空席にと落ち着いたヒューイは目の前にポッカリと空いた部分を指差して早く席に着くように促した。
「え、あの……」
ルナが使っていたテーブルもまたいつも使われている場所で、それならこのままの場所でいいと思っていたのだ。だがどうやら今回はそれではいけないらしい。
そのテーブルはおろか、その周りのいくつかの席には誰も座ろうとはしないのだ。それどころか食堂の半分より少しドア側の、ヒューイが今まさに座っている場所こそが一番端の皿の乗ったテーブルだった。よく食堂内を見回してみれば、一番ドアに近い五つのテーブルには、皿も置かれていなければその席には誰も腰掛けてはいなかった。
「ん? ああ。今晩は出払ってて人少ねえからそこは使わねえんだ」
「そう……なのですか……」
ヒューイの言葉に引っかかりを感じたルナであった。
に今までだって何人かいないことあっただろ?」
だがそう言われるとそうだったような気がすると思わざるを得なかった。今回はテーブル5つ分の人が一気に居なくなったから気づいたものの、これが数人だったら、この屋敷の住人たちを全員把握しては居ないルナはきっと気づかないからだ。
それからいつも通り、皿にたくさんのオカズを乗せられていった。ここ数日でルナの食べられる量を把握したらしい男たちはルナの皿に山を築き上げることは止め、いろんな種類のオカズを少しずつ乗せるようになっていた。その中でも他よりも少しだけ量が多いものは、どれも美味い美味いと言って食べる男たちがとりわけ気に入っているものだった。ルナは今日もプレートのように種類ごとに区切って乗せられた皿を完食することに勤しんだ。
男たちが山盛りに乗せるだけあって、ここのご飯は美味しい。
ランドール家、そしてクロード家のシェフに引けを取らない腕前の持ち主が作っているのだろうと感心して尋ねてみると、基本的にはブルックが作っているのだと半分ほど予想のできていた答えが返って来た。彼らいわくブルックはこの屋敷のキッチンの番人らしく、よほどのことがない限り皿一つ取るのでさえもキッチンには足を踏み入れさせないのだと男たちは笑っていた。
「あいつがいるから俺たちは今でも元気でいられんだ……」
そう一人がボソリとつぶやくと、他の男たちもその言葉に何も言わずただ頷いていた。
27.
翌朝、食堂へ足を運ぶとすでに各々が食事を始めていた。少し遅かったかしら? もうこの屋敷内の時間には慣れたつもりでいたルナは少しだけ気落ちした。だが食堂内で慌てている人たちの様子を見ると、どうやらルナが特別遅くやってきたというわけでもないらしかった。
「急げ」
「あれ用意したか?」
「あとは引き取りだけだ」
「わかった。それは俺が行ってくる」
今日は何か特別忙しいらしい。誰もが慌てていて、出された皿の上の料理を手で持ち、皿だけをその場に残して立ち去るものもいた。椅子に座ってスプーンを持っているものでさえ、直接皿に口をつけてはかき込むようにしてスープを腹に流し込んで、食事を味わう暇さえなさそうだった。
「カッツェ!」
「わっ」
居場所が見つからず佇んでいたルナの肩をポンと叩いたのはミレーだった。
「今日は出入りが激しいと思うから前の方で食べましょ」
「何かあるんですか?」
「……ちょっと予定が押してきててね」
「え、じゃあ何か……」
そう言ってから気がついた。彼女は誘拐犯で、ルナはその被害者だ。何を手伝えるというのか。ルナも彼らとの関係を完全に忘れていたわけではない。ただ気を抜くと、彼らは昔からの知り合いのようにさえ感じるようになっていた。これはいい兆候ではない。約束の日まであと残りわずか。ルナのこれからが決まってしまうまでのタイムリミットは刻一刻と迫って来ているのだ。こうやって話しているうちにもそれは背後から迫り寄って来ている。
逃げたくとも逃げられない。
目を背けることすら許されない。
知ってしまった事実から。
突きつけられる現実から。
「カッツェ、元気ないわね……。大丈夫?」
パンを手に取り、止まった手を慌てて動かす。喉元で詰まりそうになったパンを無理矢理水で流し込んだ。
「えっと、その……あまりお腹が空いてなくて……」
ヘラっと笑って心配されないように言い訳をした。そして食事をいつもの半分も取らないうちに席を立つ。するとそれと同時にミレーも席を立ち、部屋に戻る途中、何度も「大丈夫?」とルナの顔を覗いた。
「ゆっくり休むのよ? それと……なんかあったら絶対私を呼ぶのよ?」
部屋の前まで来ると念を押してからミレーは去っていった。
足は床につけたまま、ベッドに背中を預けたルナは悪いことをしてしまったと罪悪感に満ちていた。思えばここ最近、色んな人に迷惑ばかりかけてしまっているような気がした。目を閉じると頭には絶え間なく人の顔が浮かんで来る。そして気は沈んでいく。
限界などないのではないかと思うほどに深く、深く。代替品で、死に神で、誘拐の被害者の自分がルナは嫌になる。沈んでは浮き、そして沈みを繰り返す。
それならいっそ底に沈んで浮いてこないように重りを乗せてしまいたいとルナは願った。
28.
木々の合間からほんの少し光が入るだけの暗い森の中で一人、ルナは立っていた。身を包む服はボロボロで、いたるところが裂けてしまっている。なぜいきなりこんな場所にいるのか……。それは夢だからだろうとルナはすぐに結論づける。
夢でもなければ今にも泣き出してしまいそうだったから、夢だ、夢だと必死に言い聞かせる。けれどやはりルナの中に確かにある恐怖は未だに闇に紛れて身を潜めていた。
周りは木ばかりで舗装された道はない。何処に進むのが正解かもわからず、近くには誰もいない。
そんな中一つだけ声がしたのだ。
「カッツェ」
ルナの名前を呼ぶ声だ。
「誰?」
けれどそれは遠すぎて、ルナの声は相手には届かない。だから相手は呼び続ける。
「カッツェ」
黒い影が木の間から遠くに見えた。その陰はルナを探してさまよっているように見えた。ルナはその陰に必死で手を伸ばした。顔も見えない誰かに助けを求めたのだ。
「ねぇ、誰なの? 待って、行かないで」
ルナの声はやはり相手に届かない。必死で手を伸ばしても黒い影は遠ざかっていくばかり。
「カッツェ」
そう呼びながら、呼んでおきながら声の主はルナの元を離れて行ってしまうのだ。
「待って……待ってよ。一人は、嫌なの」
そしてルナは一人、何もない空を掴んだ。
視界に入った手はすっかり見慣れた天井へと伸びていた。当然手の中には何もない。そしてルナを呼ぶ声も人もいない。この部屋にはルナしかいない。
「……夢……」
声に出して、それが夢であったことを頭に覚えこませる。
あれは現実などではないのだ――と。
ケモノが沢山いると初日にヒューイから聞かされた森は、ルナの夢のそれとよく似ていた。広葉樹で構成され、手入れをされていないように見える森は進めば進むほど外の光を通さなくなることだろう。
最近あの森を見たから、だから夢に出てきたのだ。
そう思い込ませないと身体が震え出しそうだった。正夢なんてそうそう見るものではない。だが望まぬとも見てしまうこともある。例えルナが占術師のように特殊な何かを持っていなくとも、近い未来に起こる出来事を予見しているということもあり得るのだ。
あれからずっと眠りについていたのか外はいつの間にかすっかり暗くなっていた。本来ならば今こそ寝る時間だ。けれどもう朝からたっぷりと寝たルナはこれ以上寝られる気がしなかった。
そんな時思い出したのは、二冊の本だった。ミレーに勧められた本と取り上げられた図鑑だ。布団を退けて、場所を知ったる二冊の本を本棚から取り出す。そしてこの数日ですっかりルナの定位置となった椅子へと腰を下ろし、目の前の机に二冊の本を重ねて置く。
初めは感想を求められているミレーオススメの本に手を伸ばす。
合皮の皮で包まれた表紙をめくり、そしてそれに続いて紙をめくる。一ページ、また一ページと進むたびに話の中へと誘われていった。だがその本一冊を読み終わってもルナの気持ちを落ち着かせることはなかった。
ミレーに勧められた本は魔法使いが幽閉された女の子を助け出す話だったのだが、その本は一冊では完結しなかったのだ。ルナの中で女の子はまだ魔法使いに会ったばかりで牢屋のような塔からは脱出できていない。時が止まったままなのだ。
ルナはどうしても女の子と魔法使いがどうなるのか知りたくなってすぐにその本があった場所へと足を進めた。……けれどその話の続きはなかった。
どうやらその話はシリーズものらしく、3.4.5.6とタイトルのほとんどが同じ本が並んでいるのにどうしてか2と刻まれた本だけがなかった。
以前に読んだ人が仕舞う場所を間違えてしまったのかと思い、その本がしまってあった場所の辺りを目で追ってみたもののやはり2と刻まれた背表紙だけが見つからなかった。だからといって2を抜かして3を読むなんてこともできない。一つ一つ本棚の全ての本の背表紙を目で追っていく、というのも一つの手ではあるが一面が本ばかりのこの部屋で、それは途方も無い行動のように思えた。となればやはり本を薦めた張本人ミレーに聞くのが一番いい手だろう。なにせ彼女はこの膨大な本の中からピタリとその本を見つけてみせたのだから。
そうと決まればルナは本を探すことを辞め、翌朝に備えて眠りにつくことにした。未だにルナの元へ睡魔はやってはこないけれど、それでもベッドに入って入ればそのうちやって来るだろう。
29.
「ふぁっふ……」
欠伸をかみ殺すとすぐにクリアな目覚めがやってきた。窓からは朝独特の柔らかい光が差し込む。その窓に手をつけて外を眺めるとそこにはまだ誰もいなかった。どうやら男たちが日課の素振りをするよりも早く目覚めたらしかった。
日は昇ってきていることだ。もう少しすれば彼らも庭へとやってくることだろう。だがそれにしても朝食までは結構な時間があった。どうやって時間をつぶそうか考えたルナの視界に入ったのは昨晩机の上に置いたままにしてあった図鑑であった。他の本を読もうかと頭を少しだけよぎった。けれどこの本を読むには今が絶好のタイミングなのだ。今この時間、屋敷のほとんどの人がまだ寝静まっている時間ならミレーもこの部屋を訪れてくることはないだろう。
すぐにルナはネグリジェからクローゼットの中にある白のワンピースへと着替えると、椅子に腰を下ろして図鑑の端から端まで、暗記するようにして視線を動かし続けた。
「カッツェ、まだ具合悪い?」
コンコンと弱い力でドアを叩く音に続いてやってきたのは、ミレーの心配そうな声だった。昨日、食欲がないといって帰ったっきりだったから心配しているのだろう。慌てて図鑑を閉じ、ミレーが部屋へと入ってくる前に机の適当な引き出しの中へと滑らせた。
「大丈夫です。今、行きます」
そう言葉を返すとバンっと勢いよくドアが開かれた。
「そう? 良かったわ!」
そして抱きついてくるミレーの肩から机の引き出しを窺い、気づかれていないことにルナは少しだけホッとした。
「朝食の時間になっても全然降りて来ないから、私心配で……」
食堂へと向かう最中もずっとルナの腕に自身の腕を絡ませ、言葉通り心配そうにルナを見下ろした。食堂に着いてもずっと隣を陣取り、せっせとルナの世話を焼いては「無理しなくてもいいからね?」とルナの顔を窺い見てはルナの皿にご飯を乗せていく男たちを牽制した。いつも以上に世話を焼かれていることに居心地の悪さを感じていると、ルナはそうだと絶好の話題を思い出した。
「ミレーさん、オススメしてもらった本、読みました」
「え! 本当に!?」
ミレーはどんぐりのようにまん丸いひとみを見開いて嬉しそうに手を合わせて微笑んだ。
「面白かった?」
「ええ、とても。ですが……続きが見当たらなくて……」
そして昨晩思い悩んだことを口にした。
ミレーならば知っているだろうか?――と。
「ああ、それなら私の部屋にあるかもしれないわ。ご飯食べ終わったら探してみるわ」
「本当ですか!」
「ええ」
ルナはあの続きが今日にでも読めるのかと思うと心が高鳴った。
すぐにでもあの少女と魔法使いのその後が見られるのかと。2.3.4と続いているのだから二人の苦難は続くのであろう。けれどあの少女が魔法使いの手をとることができればきっと幸せになれるはずだ、と出どころのわからない確証がルナの中にあった。
食事を終えるとミレーは「ちょっと探してくるわね」と告げて一直線に部屋へと帰っていった。よほど同士を見つけられたのが嬉しかったのだろう。あの本が全て読み終わったら、感想を言い合うのも楽しそうだと一足先に部屋へと向かった。
そしてミレーがこの部屋に本を届けに来るよりも早く図鑑を元の位置へと返してしまおうと、一時的に保管した引き出しへと手を伸ばした。開けてみるとそこには目当ての図鑑ともう一つ、眠気まなこだった昨晩は気づかなかった一枚の紙が入っていた。
「何かしら?」
目の近くへと持ってくると細々と書かれた字はどうやら人名と日付、それに撮影場所が書いてあるらしい。場所は庭とだけ書かれていて、その日付はもう20年近く前のものであったが、ルナの目を引いたのはそのどちらでもなく人名の方だった。
『グレン、エルナ、マルガレータ、ヒューイ』
これを見てはいけないとルナの本能が騒いでいた。けれどその反対に見なければいけないとも訴えていた。ルナはその後者に負け、その紙を裏返した。するとそれは写真だった。白と黒とで構成された写真。
そこにはカーティスによく似た人物、エルによく似ているが髪と瞳の色の違う女性、それに自分にそっくりな女性、そして少しだけ若返ったヒューイの姿が写っていたのだ。
「なに……これ?」
写真を握る手は震えた。神経質なほどに綺麗な文字が示しているのはこの四人の名前であることはおそらく間違えではない。
そしてグレンはルナを育ててくれた父であり、エルナはグレンの妻でカーティスたちの母であった。二人とともにいるヒューイはおそらくこの屋敷にいる、ルナを誘拐したと豪語するあのヒューイで間違えはないのだろう。写真の中の男も彼と同じように首に包帯をぐるぐると巻き付け、二カっと歯を見せて笑っている。
なぜ彼があの二人と一緒にいるのか?
ルナには分からなかった。だがそれよりももう一人の、自分によく似た女性の存在に引きつけられる。
「マル、ガレータ……」
その名を口にして、震える手で写真を置いた。そしてゆっくりと力の入らない足で一歩、また一歩と鏡の前まで移動して自身の顔を見た。見慣れたそれはやはり写真の中の人物そのものだった。
笑い慣れていないせいで、引きつったように震える頬も。長く真っ直ぐに伸びた髪も。よく似ているなんてものじゃない。そのくせ目だけは楽しいのだと、幸せなのだと訴えているのだ。
写真の先のルナに向かって。
「ごめん……なさい……」
ルナは鏡の中の自分に、写真の中のマルガレータに謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
(ここはあなたの居場所なのに……。)
立ち去らなくてはとルナの頭に浮かんだ。この場にこれ以上いてはいけないのだと。ルナはフラフラと身体をよろめかせながら歩いた。ドアノブを掴む手は、部屋から一歩踏み出す足は震えていた。そして廊下へと一歩出るとそこは知らない場所のようだった。
この場所に初めて来た時なんかよりもずっと屋敷全体に拒まれているような気さえする。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
そして呟きながら廊下を走った。
この場所から一刻でも早く去るために。
ここを出ても行き宛なんてなかった。カーティスの元にも、エルの元にも、ルーカスの元にも帰れない。唯一受け入れてくれたグレンはもう最愛の妻、エルナの元へと旅立ってしまった。
それでも走った。
仕事で出払っているせいか誰もいない玄関先を抜けて、ゴールはおろか少し先すらろくに見えない暗い森の中へ逃げ出したのだ。夢で体験したのと同じように後ろは振り返らずに、ただ前だけを見て夢中で走る。途中、ルナの靴はいつの間にか片方だけなくなってしまった。それでもルナは構わず走り続けた。
裸の足は小さな石ころや木によって傷つけられて行く。息は苦しくて吸っているはずなのに一向に満たされることはない。
それでも走る、ただただ走る。
何処へ向かっているわけでもない。ましてやゴールなんてものはない。
あの、雨の日と同じだ。
あれから数日しか経っていないのにルナの心はあの屋敷の人たちで少しずつ、けれども確実に満たされていた。
だからこそ誰かの居場所を奪ってしまっていることが怖くてたまらなかった。
ルナは自分の居場所がいきなりなくなることを経験していた。
それはクシャクシャに読み潰された手紙で。
それは薔薇に添えられた花言葉で。
だから誰よりもその痛みを、悲しさをわかっていたはずなのに、無自覚にそれをしてしまったのだ。
そしてルナは他人の居場所を奪ってその場に居座ることの代償も知っていたはずだった。
誰かの代わりに成り代わってもいずれ捨てられてしまうことを。
だから逃げ出した。
捨てられる前に、完全に満たされてしまう前に。
前しか向いていなかったルナは足元にずっしりと佇む木の根元に足を取られた。不意だったので手をつけずに顔から地面に叩きつけられた。
「…………痛い」
鼻は折れてしまったのではないかと思うほどにじんじんと痛みがやってきて、中には違和感が広がった。
血、出てるんじゃないかしら。鼻を包み込んでも一向に何かが触れる様子はない。だから大丈夫、まだ大丈夫と自身に言い聞かせる。
溢れる涙をそのままに、ワンピースについた土を払った。新品同様の誰かのものだったワンピースはところどころ木を引っ掛けてしまっていたようで破けてしまっていた。けれどルナは気にしなかった。
痛む足をペチペチと叩いて鼓舞する。
どこへ行くかもわからないのに、足は健気にも動き出す。けれどその足は地を這うように伸びた木の根によって再び行く手を遮られる。
「助けて……」
それは無意識に出た言葉で、誰かに対して発した言葉ではなかった。ただ何かに縋らずにはいられなかった。夢と同じように手を伸ばすと、その手は暖かい手で包まれた。
「あなたがそう望むのであれば……」
そう微笑みかけたのはここにいるはずもない、門番の青年だった。
30.
「なんで……ここに……」
「俺は騎士、ですから」
温かい手はルナの身体を起こし、そしてルナの身体中に視線を巡らせた。
「すごい怪我ですね……。近くに町があるので、そこの病院で治療してもらいましょう」
門番はそう言って自分の痛みのように顔をしかめた。ルナもそれに倣ってじっと自分の手足を見てみると肘や膝の皮膚が擦り切れて、血まで出てしまっている。特に膝から足首にかけては木の根に躓いた時に怪我をしたのであろう、広範囲にわたって赤く染まり、鮮やかな血が垂れていた。それを見てしまったせいで痛みは次第に強くなっていく。知り合いに会えて気が抜けたというのも大きいのだろう。痛みでうっすらと涙が湧き出てくる。
「ええっと、痛いですよね……。でも、もうちょっとだけ我慢してください。すぐ連れて行きますから」
今にも涙で溢れかえりそうなルナの様子に焦った門番の青年は、彼女の膝の裏に腕を入れて横抱きにしたまま走り出した。
「あの……自分で歩けますから」
怪我は全て自分のせいなのだから、自分の足で歩くのが道理であろう。降ろしてほしいと訴えるルナに門番の青年は真面目な顔をした。
「こういうのは早く消毒するに限るんです! ばい菌が繁殖したら困りますから」
それはまるでヒューイが森にケモノが出るからとルナに言って聞かせた時に戻ったようだった。ヒューイもこの青年も、心の底からルナを心配しているのだということが伝わってくるのだ。……だがそんなヒューイとの約束をルナは破ってしまった。
彼らは心配しているだろうか?
そう考えはするものの、それでもあの場所に背を向けることはあれど再び足を向ける気にはなれなかった。
ルナは怖いのだ。
そしてその恐れは顔の上で笑みを浮かべる門番の青年への恐れへと変わる。
笑っている彼は何の利益があって伸ばされた手を取ったのか。わからないからこそ不安で仕方がない。
(今の私には何も残っていないのだから)
ルナが門番の青年の顔をじっと見つめていたせいか青年は首を傾けた。
「どうかしましたか? ってああ、俺の名前、知りませんよね? 俺、カイルって言います」
「カイル様……。えっと……私はルナ、です。」
今さらながらになぜか自己紹介をしてもらったルナは一応自分の名前を返すとカイルは嬉しそうに微笑んだ。
「今になって自己紹介するなんて変ですよね……。あ、俺のことは気軽にカイルと呼んでください」
門の前で会った時よりもいくぶん打ち解けた口調で話すカイル。ルナは変にかしこまって話されるよりもその方が楽だった。
遠くには街の景色が見え始め、空の大半を覆っていた木々はまるで出口が近づくにつれて中央を避けるようにして開けていった。明るく差し込む日差しは気持ちまでもを明るくする。
「これから行く町はお菓子が美味しいですから、治療が終わったらお茶でもして休みましょうか」
「え?」
「中でもオレンジのタルトは絶品です」
そして甘いものが好きらしいカイルはすぐ近くで待っているタルトに想いを馳せる。遠くを見据えるように目を細め、そして何度か口にしたことがあるだろうそれの美味しさに頬を緩める。こんな幸せそうな顔を間近で見せられたルナに拒否権などない。
カイルに抱かれたまま町に入り、そして治療を受ける。その後はお茶をする。そこまでの流れはカイルによって半ば強引に決定したのだった。だが嫌な気持ちにはならなかった。
「まぁ……ルナ様のハニークッキーには到底及びませんが」
……この言葉を聞くまでは。
「……ハニークッキー?」
カイルの言葉を反復するルナの声はわずかに震えている。胸の前で組んだ両手は互いを縛り合うことで震えることを抑えようとしているものの、小さな揺れはおさまることはない。
ルナが最近それを作ったのはあの屋敷にいた時のことだ。そしてその前は確か彼に出会う前、エルが第四王子の元へ嫁いでいく前のことだ。
それはグレンがこの世を去る少し前のことで、もう長くはないと判断したグレンがルナの作ったお菓子が食べたいのだとリクエストされたうちのひとつがそれだった。
美味しいと喜んでくれたお菓子はそのほとんどがグレンの腹の中に収まり、その他の、始めから避けておいた分はその後ルナとエルの二人きりのお茶会のお茶菓子として食べたのであった。つまりその時にカイルの手に渡ったという可能性はないのだ。
あるとすればあの屋敷で作った方で、ミレーがビーと呼ばれる人物にあげるのだと言って方のハニークッキーなのだ。
それが意味をするのはカイルが彼らの仲間だということだった。
「? ええ。美味しくいただきました。……少々守りきるのには苦労しましたが……」
「あなた、もしかして……」
手を掴んでくれたカイルが、彼らの仲間だなんてそんなこと、聞きたくはなかった。けれど聞かずにはいられなかった。例えどんな現実が突きつけられようとも、処理しきれない感情が心の中でこれ以上増えようとも、知らずにいるなんてそんな卑怯な真似は出来なかった。けれどカイルの言葉はルナを混乱させることこそあれど、傷つけることはなかった。
「俺は門番で、現近衛騎士。そしてもっといえば死に神の大鎌の一員であなたの家族にあたります」
「え……?」
どんな言葉よりも痛烈にルナの頭に残ったのは『家族』という言葉。ルナが喉の奥から手が伸びるほどに欲したそれをカイルはなんてことないように口にしたのだった。
31.
「どういう……こと、ですか?」
それは純粋なる疑問だった。ルナは抱き抱えられたまま、カイルは足を止めぬまま進み続ける。
「言葉の通りですよ。詳しい説明は治療後にお話ししましょう」
そしていつの間にか到着した町外れの小屋のドアを足で2回ほど蹴った。
「俺です」
乱暴そうに見えるが両手はルナを抱えるので精一杯で空いているのといえば足くらいだったのだろう。しばらくするとドアをゆっくりと開く。そこからは髪の伸びきった男が眠たそうに頭を掻きむしりながら顔を見せた。
「んぁ? ビーか……まだ昼じゃねぇか。なんだってこんな早い時間に……ってカッツェ?! 何でここに!」
男はカイルの腕の中のルナを見つけるやいなや急いで小屋の奥に引っ込んで行ってしまった。奥からは物が崩れ落ちるような音がけたたましく鳴り響いている。そんなことは全く気にせずに開けてもらったドアからカイルは小屋の奥へと入って行く。
「あ、あの……その、いいんですか?」
「何がです?」
「勝手に入ってしまって。私、お邪魔なら外で待っていますが……」
「あなたの治療に来たんですから本人が居なかったら意味ないですよ」
「は、はぁ……」
ルナから見た限り、男の態度はルナを歓迎しているようには見えなかった。けれどカイルはルナを抱えたままどんどん中へと進んでいく。
「エイ、救急箱借りますよ」
「あ、ああ。好きに使ってくれ! 俺は今、それどころじゃないんだ!」
「ったくエイも近々誕生日会があることを知っていただろ?」
「知ってたさ。けどそれは前日に通達がくるって話だっただろ! なのになんでこんな、突然……」
カイルはエイと呼んだ人物に呆れたようにはぁっと大きなため息をつきながらも、手元ではテキパキとルナの傷口を処置している。血だらけだった足は今ではガーゼでおおわれている。少しばかり大げさではないかと思ってしまうが、それもカイルなりに心配してくれている証拠なのだろう。
それよりもルナは『家族』という言葉が未だに気になっていた。それでも治療が終わった後で話してくれるのだというからルナからは口に出せずにいる。
「はい、終わりましたよ」
カイルはニコリとルナに微笑みかける。その笑顔にルナは待ってましたとばかりに口を開いた。
「カイル! 家族って「終わったぁ!」
だがその言葉はエイに簡単に遮られてしまう。
「エイ……。お前な!」
それにはさすがのカイルも頬をピクつかせる。けれど奥から出てきた人物はそんなことお構いなしにカイルの横を通り過ぎ、そしてルナの両手を握った。
「久しぶりだな、カッツェ。大きくなって……ずっと、ずっとまた会える日を楽しみにしていた」
涙ぐむエイの頬には涙が伝っていた。ずっと楽しみにしていたという彼の言葉に偽りはないようだった。それでもルナの記憶にはエイという男の存在はない。エイという名前も彼という人の顔も初めてなのだった。
するとルナの頭に過ったのはマーガレットという名の少女だった。ルナによく似た、いやルナがマーガレットという人物に似ているのかもしれない、その人物と勘違いをしているのではないかと……。
「エイ様」
「エイでいいぞ、カッツェ。で、なんだ?」
「私はルナです。カッツェでもマーガレットでもありません」
「ああそうだ。君はマーガレットではない。けれどカッツェでありルナでもあるんだ」
「どういう、ことですか?」
あの屋敷の彼らはマーガレットという少女の代わりにルナを屋敷まで連れてきて、そしてカッツェという名前を与えたのではないのか。
もしくはカッツェというマーガレットとはかけ離れた名前は彼女に与えられた愛称ではないのか。
ルナの溢れ出す疑問は顔にも出ていたのか、エイは軽く笑ってからビーの身体を軽く前へと押し出した。
「それは俺よりもビーのほうが適任だな」
「ああ、俺が話すよ。だからエイ、オレンジのタルトを買ってきてくれ」
「え、今?! いいところなのに?」
「今」
「……ああそうかよ。飲み物は用意してくか?」
「気が利くな」
「お前にじゃない! カッツェに、だ。喉乾いたままでいるなんてかわいそうだろ」
「でもついでに俺のも用意してくれるだろう?」
「二人も三人も同じだからな。ついでに冷めるまでの間にケーキ買ってきてやる! カッツェもオレンジのタルトでいいか?」
「あ、はい。お願いしてしまって申し訳ありません」
「いいって、いいって。んじゃ行ってくるから」
一方的に来ておいて、家の主人を使いっ走りにしてしまったことに申し訳なさを感じ、身体を縮こませてしまう。けれど当のエイはそれが身体に染み付いている行動であるかのように手早く三人分の紅茶を用意し、その二つをカイルとルナに手渡すと颯爽と小屋を後にした。
「エイが帰ってくるまでしばらくかかりますし……それでは話しましょう。あなたがカッツェで、そしてルナ様である理由を」
32.
さてと、どこから話しましょうか?
そうだ。とりあえず俺の過去から話しましょう。あまり耳心地いいものではないのですが、よければ聞いてやってください。
俺は物心ついた時から親というものを知らずに過ごしました。代わりに俺と同じような人達がたくさんいて、生きる術を身体に教え込んでくれました。そのおかげで俺は今も生きているのですが……俺は生きる代償として何でもしました。
今の、騎士の仕事ではすっかり昔の俺と同じようなことをした人達を捕まえる側になっているのは皮肉なものですね。それでも、昔の仲間たちを裏切ってでも俺はそこに立ちたいと願ったんです。
それは一人の死に神に出会ったからです。
死に神は昔の仲間たちの間で有名な通り名で、彼にあったら最期を覚悟しなければいけないと言われるほどでした。会わないに越したことはないと誰もが彼の足取りにアンテナを張りながら生活していました。けれど俺はある日ヘマをしてしまって、出会ってしまったんです。
死に神、グレン=ランドール様に。
彼は俺の目の前で、全てを壊していきました。躊躇なく、冷徹に冷血に。
その姿に俺は目を奪われました。……動けなかったんです。その剣さばきに、瞳を、そして心すら奪われたんです。
彼はその場から離れられなくなった俺を見つけると仲間たちに声をかけました。
「連れて帰れ」――と。それは俺にとって死の宣告と同じでした。
けれど彼は俺を殺しませんでした。
それどころか薄汚れた俺を風呂に入れてくれました。その間、恥ずかしいとかは思いませんでした。死ぬかもしれない恐怖に比べたらよく知らない人間に身体を洗われることなんて大したことではなかったのです。
初めて石鹸というものを使った俺はあまりの汚れでうまく泡立たなかったのか、それとも洗い手が致命的なほどにセンスがないのかはわかりませんが、いつの間にか頭と身体を洗う手がごつごつとした男の手から女の手に変わっていました。
変わった柔らかい手は優しくて、いつ死ぬかもわからない俺は母がいればこんな感じだったのだろうと思ってしまいました。
綺麗になった俺はどこかの一室に連れて行かれ、そして再び死に神と対面することになりました。
汚れが落ちたのと同時に恐れまで落ちてしまったのか、彼を怖いとは思いませんでした。それは彼の横で騒ぐ真っ白な少女のせいもあったのでしょうが。
少女は白ウサギのような、可愛らしい姿で俺の周りをクルクル回っては次々に「これとこれと」と服を手渡してきました。
とりあえず受け取ったそれは貴族のお坊ちゃんが着るほどの服で、売れば一ヶ月以上食べ物に困らないだろうとすぐに計算できるほどの品でした。
「サイズは多分大丈夫! だから着てみて」
「はい?」
「今はとりあえずブルックのを着せてるけど、それじゃあサイズ大きいでしょう?」
どうやら誰かの所有物であったらしい服を強引に脱がせて、真っ白な少女、エルナは俺の手の中にあった服を着せました。それはもう見事なもので、俺の抵抗なんてなかったものみたいに、5つもあったボタンすら全て止めてしまいました。
「マーガレットみたいにお風呂では洗ってあげられないけど、着替えさせるのは慣れてるのよ!」
エルナは自慢げに、膨らみの全くない胸を逸らしていました。
「私は着替えさせるの、得意ではないから」
そしてその声に続いて俺の背後からエルナと全く顔の作りの似た、けれど彼女ほど表情の動きが多いわけではない少女がすっと顔を出しました。その少女こそあなたが似ていると判断した少女、マーガレットです。
二人の少女はソファに座りながらこちらをじっと見ている死に神に目もくれず、俺の手を引いて部屋を出ました。死に神は何も言わずにただ俺たちの後をついて着ました。
そして着いた先で俺はたくさんの子どもたちを見ました。
その時の俺と同じ、大層な服に身を包んでいても俺には彼らが俺と同じ子どもであることがすぐにわかりました。
長くあんなことをやっていたせいか、仲間はすぐにわかるんです。纏う空気といいますか、同じ何かを感じたんです。
目を見開く俺の隣で少女たちは声をあげました。
「この子、今日から家族だから」
「ほらほらみんな、自己紹介しないとでしょう? 並んで並んで」
少女たちの呼びかけに応えた子どもたちは俺を囲み、すぐに余所者の俺を受け入れてくれました。
それからしばらくは夢の中にいるようで、彼らの好意が信じられなかった俺がどんなにひどい態度をとっても彼らは全く気にする様子を見せなった。気にせず話しかけて、食べ物を山盛りにして、そして俺の隣でスヤスヤと寝息を立てて寝るんです。
それが俺には不思議で仕方がなかった。
彼らがそうする意味がわからなかったんです。他意があるのではないかと疑わずにはいられなかった。けれど俺には彼らが良くしたところで流せる情報なんてなくて、いずれ申し訳なさが上回るようになっていました。
そして俺はある日、決心して彼らに聞いてみたんです。
「なぜよくしてくれるのか?」って。そしたら彼ら、なんて答えたと思います? 「家族だから」ですよ。
初日にマーガレットとエルナが宣言したことと同じことを言ったんです。信じられなくて屋敷中を駆け回りましたよ。それでも返ってくる答えは同じで、最後には笑うしかありませんでした。
壊れたように笑って、そして泣き続ける俺の元に死に神はやってきました。
「何かあるなら言え。家族とはそういうものだ」――と。
死に神と呼ばれる彼までも俺を家族として認識していたんです。多分それは目があった時からなのでしょう。
そのことを俺はずっと先になってから知りました。
長い時間かけて水を吸い上げるスポンジみたいに俺たちは家族になっていったんです。
知らなかった愛情を、死に神と二人の真っ白な少女と、そして屋敷の彼らに注がれて、限界があるのが恐ろしくなるほどに俺はそれに溺れていきました。
屋敷の彼らが自分たちのことを『死に神の大鎌』なのだと、いつかこの恩を返すのだと笑っていたのを見ていただけの俺はいつか彼らと同じになっていきました。
俺はどん底から救ってくれたあの人の役に立ちたいと思ったんです。そんな俺に彼らは俺に生きる方法を教えてくれました。昔みたいに汚れた仕事ではなく、真っ当な仕事です。人を守るために剣を振るい、人を助けるために各地に物を流す仕事を。
そしてここでは誰もが自分のやりたいことをするのだと教えてもらいました。
自分らしく生きるのだと。
そのために俺を連れてきたのだと。
俺のようにどこからか連れて来られる、自分らしく生きることが出来なかった子どもに俺も同じように愛を注ぎました。ここにやって来た頃の俺と同じく彼らは怯えていた。だから彼らがしてくれたように、愛を知らない彼らに家族を教えました。
ずっとずっと幸せだった。
エルナはグレン様に似ている我が子を何度も屋敷に連れてきては、私も幸せになれたのだとシミジミと幸せを実感して笑いました。
その隣にはグレン様とマーガレット、そしてこの屋敷の父ともいえるヒューイが並んで、なんてことないことでも幸せを嬉しそうに、大事そうに抱えては笑いました。
だけどそんな幸せは長くは続きませんでした。
エルナが病にかかったんです。よりによって特効薬も何もない、死を待つしかない病に。
俺たちは誰も、エルナを、家族を救えなかった。
何も出来ない俺にエルナは、周りに誰もいないことを確認してからそっと耳打ちをしました。
「死ぬには少し人よりも早いけど、でも私、人より多くの幸せをもらえたから。だからね、仕方ないかなって思うの。私は先にここから出て行ってしまうけれど、それでもずっと家族だから。遠いけど、ずっと見てるから。だからビー、あなたは近くで家族を、あの子たちを助けてあげて」
最期まで彼女は彼女らしく笑っていた。エルナは最期まで俺たち家族の母で姉だったんです。
残される家族のことを心配して、弱い俺を強くしてくれました。だからエルナに俺は誓いました。
彼女の代わりに家族を守るのだと。
エルナの死後、それからグレン様はその事実が信じられずに、ひたすら働き続けました。
冷酷に、冷血に見えて、その瞳がもうここにはいないエルナをずっと探し続けていたんです。そんなグレン様を見ているのは正直とても辛かった……。
それにエルナとグレン様の間に産まれた、残された子どもたちはもう生きているのか死んでいるのかわからないほどで、ずっとエルナの名前を呼んでは、姿の見えない母親を探し続けていました。
「お母様」「お母様」と小さな声が呼ぶたびに誰もが心を痛めました。もういないのだと告げることはできなかったんです。
そしてマルガレータはよく部屋にふさぎ込むようになりました。エルナと過ごしたのだという自室でたくさんの思い出の詰まった本に囲まれて。
ヒューイはずっと二人の身体を心配してはあの屋敷とランドール屋敷を往復しては無理にでも食事を食べさせていました。
俺は、いやヒューイ以外の誰もがどうすることも出来ずに、ただ身体を動かし続けていました。
ある日、隣国の市場に栄養価の高い果物が流通していると小耳にはさんだ俺はすぐに荷馬車を飛ばして隣国へと向かいました。残念ながら着いた時にはもう遅くて、念願のそれは手に入らなかった。だから仕方なく隣国の名産品である魚の日干しを何種類か買って帰ることにしました。
行きは辛くなかった長い山道も気分が重ければ辛くなって、俺は山の途中で一度休憩を取ることにしました。
どうせここを通る馬車など少ないからと、横道に逸れたところに馬車を止めてご飯でも食べようとしているとどこからかニャーニャーと猫の鳴く声が聞こえ出しました。荷馬車に乗せてあるのは魚ばかりでその匂いを嗅ぎつけた猫が寄って来たのだろう。そう勘ぐって、数匹くらいなら分けてやろうかと用意したものの当の猫たちと言えば全くやってくる気配がない。となるとどこかに脚でも絡ませてしまったかと心配になって辺りの草をかき分けると箱に入れられた猫と、そしてカッツェ、あなたを見つけました。
子猫と一緒に子どもが置き去りになっていることにも驚きましたが、何より赤子の髪の色に目を囚われました。それはマーガレットやエルナと同じ、雪のような真っ白な毛だったからです。
それを見た途端、屋敷に来て少しした頃にエルナが内緒話のように俺に話してくれたことが頭に浮かびました。
『私やマーガレットの村は滅ぼされてしまったの。だからグレンやヒューイ、マーガレットと私は同じ環境にいる子どもを、そして自分と同じ色を持つ人を探しているんだ』――と。
俺はその猫の入った箱を荷馬車に隠して、そしてカッツェは手元の毛布の中に隠しました。すぐ近くに隣国と自国を結ぶ関門があって、そこを通過できるかは正直賭けでした。
その頃は年々人身売買に対する方が厳しくなっていくのと同時に、孤児を引き取るのだって一年以上にも渡る審査が必要になっていたんです。そんな中、他国からパスポートも持っていない、戸籍すらあるのか怪しい子どもを入国させるなんてありえないことで、賭けに勝てる見込みなんてなかった。
それでも俺にはこの子を置き去りにすることなんて出来なかったんです。守らなければと思ったから。
どうか突破させてくれと、先に天へと昇っていったエルナに願いながら何度も『カッツェ』と呼び続けました。後ろでニャーニャーと泣き続けている猫が答えてくれることを祈って。
本当は猫すら自国へ入れることは禁止されていたんです。それほどまでに入国審査は厳しかった。けれどその猫たちは俺のいない間あなたを守り続けてくれたナイトたちだったから連れてきたことに後悔はなかった。
この行動でグレン様や他のみんなに迷惑がかかるかも知れないと思ったけれど、それでも彼らなら許してくれると信じて突き進むだけでした。
関門に差し掛かると門番のおじいさんはネコの鳴き声に一瞬だけ顔をしかめました。けれどヒューイの飲み仲間である彼は「ヒューイんとこの子どもだろ? あいつのとこの子なら悪さしないのはわかってる。見逃してやるから他に気づかれる前にはよぉ行け」と投げやりにパスポートに印を捺して俺の馬車を送り出してくれました。彼の言っているのはおそらく後ろのネコのことで、まさか手元の毛布が子どもだなんて思いもしなかったんでしょう。知っていたらいくら知り合いのところの子どもであっても通すことはなかったでしょうから。優しい彼を騙してしまったようで心は多少痛みましたけど、感謝の方が優りました。
それから山を越えたばかりの愛馬の身体にムチを打ち、屋敷に急いで帰りました。
この子が誰にも見つからないようにと祈りながら。
そして屋敷の前に着くと、後ろに乗せていたネコも毛布の中に入れて、一直線にマルガレータの部屋へと向かって、閉ざされたドアを強引に脚で蹴破りました。……行儀は悪いんですけど、必死だったんです。
「子猫を拾った」
急いでいたせいか額から噴き出た汗が伝って目に入って来ていたのにも気づきませんでした。それよりも四匹のナイトと彼らに守られた白い髪の赤子をマルガレータに見せることに必死だったんです。
半ば強引にマルガレータに毛布ごと渡すと彼女はその固まりを優しく抱きしめました。
そして今まで寝込んでいたのも嘘かと思うほどに、毛布を抱きしめ、彼女は勢いよく部屋を後にしました。
マルガレータにバトンを渡した俺は気が抜けると同時に腰まで抜けてその場にへたり込みました。
そしてその夜、カッツェはランドール家の娘として、ルナ=ランドールとして育てられるとヒューイとマルガレータから聞かされました。そして名前の由来はエルナの名前から取って『ルナ』なのだとも。
きっと月のように夜道を照らす女性になってくれるだろう。あの子も幸せになれるのかと思うと一晩中涙が止まりませんでした。
この屋敷にいる者は誰でも語ることを躊躇うような過去を持っていて、辛いことを乗り越えてきた子どもばっかりだったから。
それはエルナもマルガレータも例外ではなくて……だからこそ幸せになってほしいと心から祈りました。
◇◇◇
「だからあなたはカッツェでルナで、そして俺にとってもあの屋敷のみんなにとっても家族なんです」
ルナは開いた口がふさがらなかった。
代わりなんかじゃなくて、彼らはずっとルナ自身を見ていて、思ってくれていたのだということに。
「あり、がとう……ございます」
ルナは目の前の恩人にお礼を言って、そして深々と頭を下げた。そんな短い言葉なんかでは今まで受けてきたことのお礼は返せないことはわかっていても、それでも伝えなければと思ったのだ。
「お礼を言うのはこちらの方です。幸せを運んできてくれてありがとうございます」
ルナの手を取って、包み込んだカイルは幸せそうに笑った。心の底からルナの存在を喜んでくれているように。
33.
「それで、なんですが……俺とどこかへ行きませんか?」
カイルはルナと繋いだ手を少しだけ上にあげて提案してみせた。それはちょっと近くに、それこそ一度空気でも吸いに外に出ましょうか? とでもいうほどの気軽さで。
「行き先は決まってないんですけどね……」
そして遅れてくすっと笑って付け足した。カイルはカップに入った、まだ暖かい紅茶を冷ますためかクルクルと円を描いて回す。その間も決して目の前のルナから目を離すことなく。ただ口を開くのを、回答を導き出すのを待っていた。
「わ、私は……」
ルナを家族だと言ってくれたカイルが提示しているのは色んなものから逃げてきたルナがこれからも逃げ続けるための道で。だからこそその手に頼り続けてはいけないのだと強く頭が叫んでいた。
この手を、優しい手を拒んでルナはもう一度、戻らなければならないのだ。こわごわと張り付いた唇を開く。
「私、戻らないと。地位もお金も、何もないけれど。それでも……」
捨てられるかもしれないと、戻ったところでいらないと切り捨てられるかもしれないと今でも心の中で怯えている。怖くて、カイルと繋いだままの手の甲には涙がこぼれ落ちた。
それでもルナは進むことを、前を見ることを決めたのだ。
カイルは机にカップを置き、そしてカップの熱で温まった指先でルナの目元にたまった涙を拭き取った。
「何もないなんて悲しいこと、言わないでください。あなたの側にはいつだってあなたを愛する人が、大切に思う人がいるんです」
「……っ」
「今だってあなたの目の前には俺がいます。あなたが本当にどこかへ行ってしまいたいと願うなら、何処へだって攫ってしまいましょう。でも……きっとそれをしてしまったらあなたはもう二度と笑顔を浮かべてはくれないでしょう。あなたが掴みたいのは俺の手じゃないんです。指の皮はペンが当たるところだけ固くなっている彼が、ルーカス様がいいのでしょう?」
どこまでも優しい彼は、ルナの言えなかった先の言葉を問いかけてくれる。
「……ルーカス様が愛しているのはエル様です。それでも私は……」
好きになってしまったのだと、彼の元に帰りたいのだと、言い切ることが出来なかった。 あの日、エルとマイクが結婚式を挙げた日のように愛してくれなくてもいいと思うことはもう出来なくなってしまっているから。 同じだけ思ってほしいと願ってしまったからこそ臆病になるのだ。
「伝えましょう? 怖くても、あなたには俺がいます。頼りないだろうけど、エイもいますし、空ではグレン様やエルナが見ていてくれているでしょうし、何なら今からでも屋敷の仲間たちだって呼びましょうか。あなたは一人じゃないんです。怖い思いをしたら全員で抱きしめますから、だから……」
カイルはその先の言葉を口にしなかった。その代わりにルナを抱きしめた。それは旅立とうとする家族に向けて、精一杯の激励だった。
「あり、がとう」
ルナもカイルの背中に手を回し、伝わったことを自分なりに表現した。
34.
突然ドアが開くような音が聞こえると続いてルナとカイルのいる方向へ近づく足音が小さな小屋に響く。ルナはカイルからゆっくりと離れ、そして彼も同じくそうした。そして落ち着かせるようにルナの頭を撫でた。
「タルト、絶品なんですよ」
「楽しみです」
エイの帰宅により、お茶会の時間へと突入しようとした2人の視界に入ってきたのはエイだけではなかった。黄色いバラの花束の頭だけだした、ルナが数日前に渡した籠を手にするルーカスもまたそこに佇んでいたのである。
「ただいま。ビー、カッツェ、迷ってた宰相さん拾ってきた」
机の上にケーキの箱を置いて、増えたお客さんのためにとエイはキッチンへと入り、お茶を用意し始める。カイルは初めこそ驚いていたものの、それは一瞬のことでルーカスのために席を譲る。ルナはといえば……固まっていた。 まさかこんなに早く再会するとは思っていなかったのだ。心の準備など完璧ではない。むしろ動揺によって固まりかけていた意思は再び瓦解寸前になっていた。
「なに、している」
明らかなる怒りを向けてルーカスはカイルに向けて言い放った。だがカイルは動じずにエイが購入してきたケーキを包丁で切り分ける。
「なにしているか聞いているんだ、答えろカイル」
「なに、と言いますと?」
なぜ怒りを向けられなければいけないのかわからないと言ったようにようやくルーカスの方へと視線を向けたカイルは首を右に傾けた。
「ルナは私の妻だとわかっての行為か!」
「はい」
怒りが収まることを知らないルーカスにあくまでカイルは淡々と返す。
「知っていて、ルナを誘拐したというのか!」
「誘拐はしていません。保護です。すでにエル様とカーティス様には連絡済みですし、あなたにも送られてきたでしょう?」
「連絡とはあのふざけた手紙のことか!」
「はい。読んだからあなたは今ここに、花束を持ちながらいるのでしょう?」
「それは……」
「おおよそその籠にはもう一つの持参品があるのでしょう? でも少しだけ遅かったですね」
「何?」
「つい先ほど、彼女は俺と生きることに決めました。あなたほどではないですけど、騎士の仕事というのも結構給金がいいですから、しばらくは2人でお金の心配もなく暮らしていけそうです」
「ルナは私の妻だぞ?」
「今はまだ……でしょう? その花束一つと彼女の直筆のサイン、そしてランドール家当主、カーティス=ランドールのサインがあれば晴れて離縁は成立します。せいぜいかかって一ヶ月といったところでしょうか? 確定し次第、俺と彼女はこの国を去ろうと思います。どうかあなたは次の奥様と幸せになさってください」「そんなふざけたことが成立するとでも思っているのか!」
「その花束の意味をご存じないのですか? その花束は相手に離縁を乞うことを意味しています。花屋自体は小さいですが、認知度は抜群に良くて、大抵の者がその意味を知っています。だからあなたが離縁を願ったという証拠として十分に役立つのですよ」
「そんなこと……」
「知らなかったとでもいうおつもりですか? 天下の宰相様が?」
ルナに勇気をくれたカイルは躊躇なくルーカスを苦しめて行く。気持ちを伝えろと言った口で、ルナの出番がないほどにルーカスを責め立てる。
いつも通りの表情で、ただ事実を伝えるように。
「……知らなかった、んだ。知っていたら贈るはずがない。俺はただルナに帰ってきてほしくて……」
「ではそのアクセサリーは何でしょう? 慰謝料代わりのものじゃないんですか?」
「これはその……誕生日に渡そうとして、渡せなかったもので……」
次第に縮こまってしまうルーカスを横目にカイルはルナの耳元でそっと囁いた。
「さぁカッツェ、出番ですよ?」
そっと離れた彼は口の端に指を当てて、声には出さずに『ガンバレ』と応援する。
ここまでしてくれたのはルーカスを前に固まってしまったルナへの、彼なりのエールのようなものなのだろう。 ルナも彼がここまでしてくれたお膳をひっくり返すような真似はしない。固くなってしまった足を動かして、そしてルーカスのもとへと歩み寄る。
「ルーカス様、よろしければその花束をいただけますか?」
「……俺は君と離縁をする気などない」
「私もありません。ただ……ルーカス様からの贈り物を頂きたいのです」
「あ、ああ」
ルナの手に再び渡った花束はやはり白のリボンに赤字で刻印されている、あの日受け取ったものと全く同じものだった。だが今のルナにとってはあの日の花束と違う意味を持つ。 例えこの花束にどんな逸話があろうとも、これは、ルーカスからの貰ったこの花束だけはルナにとって大切な、宝物となるのだ。
「ルナ……帰ってきてくれないか?」
「ええ、もちろんです」
ルナはカイルとエイに、家族に見守られながら、幸せを噛み締める。 きっとマーガレットやエルナもそうであったのだろうと思いながら、繋がった手に視線を注いだ。
するとその場に似つかわしくない、乱暴な音がやってくる。
「カッツェ! ここにいたのか」
ドアを壊すようにして小屋へと侵入を果たしたのはヒューイだ。どうやらいなくなったルナを探してくれていたらしい。首に巻かれた包帯は急いでいたせいか緩んでしまっている。
「遅かったですね」
「コニーが抜けた穴はデカイんだよ! ったく老体を労れ!」
「ヒューイはまだまだ現役でしょう?」
「おぅ? 言ってくれるじゃねえか……。久しぶりに一戦交えるか? とまぁ今はそんなことより……カッツェ」
「は、はい!」
一通り戯れたような会話をしたヒューイはルナの元へとズンズンと突き進む。わずか数センチといったところでやっと止まると一気に顔を近づける。それには数日で慣れたはずのルナのビクッと身体を震わせてしまう。
「約束、破ったな」
「……すみません」
「こんなに怪我までして」
「……」
「約束を破ったからにはもちろん罰則がある。罰則は一つ、俺たちの言うことをなんでも聞くんだ」
「……はい」
何を言われるのかとビクビクしているとゆっくりとその判決は降り立った。
「俺たちに誕生日を祝われろ」
「……え?」
ルナは耳を疑った。なぜならそれはとても優しい罰則だからだ。数日前に祝われることなく、また一つ歳をとったルナへ対する思いやりといってもいいだろう。
「それが俺たち、あの屋敷にいるやつらの総意だ。日時は3日後、ブルックとルーシィを使いにやるから絶対に参加すること。いいな?」
「ちょっと待て、何を勝手に決めて……」
3本の指を立てながらそう宣言すると、状態をよく理解できていないルーカスがヒューイに詰め寄った。だがヒューイはそんなことに屈するような男ではない。
「勝手だと!? 嫁にやったとはいえ、カッツェは元を正せばウチの娘だ。娘の誕生日を家族が祝って何が悪い?」
「堂々と嘘をつくな! ルナはランドール家の娘だろう!」
「ランドール家の娘でもあるから、エル嬢とカーティス坊はちゃんと招待してあるから問題ない。宰相様はお城で難しいこと書かれた紙束とでも睨めっこしてるといいさ」
あの時の、ドアを閉めて部屋に入れなくしたのと同じ表情で、ヒューイはいくばくか自分より背の低いルーカスをからかった。そしてカイルもまた楽しそうにそれに便乗する。
「ルーカス様もお誘いしようと思ったのですが、有給はまだまだ残っているものの、処理待ちの書類もまだまだ残っているということで休みをもぎ取るのは困難だそうです」
「カイル、お前いつの間にそんな……」
「みんな揃っていた方が喜ぶかと思ったのですが、仕事なら仕方ありませんよね」
「……書類を処理し終えればいいんだな?」
「ええ。ここ数日、全く機能しなかったルーカス様の処理能力をフル稼働させれば特に問題なく有給は獲得できると思いますよ?」
「やってやる!」
「はい、頑張ってください」
カイルはさすがルーカスと共に働いているだけあって、やる気にさせるのが上手い。
(この一年同じ屋根の下で暮らしている私よりもずっとカイルの方がルーカス様のことを知っているんじゃないかしら?)
ルナは少しだけカイルに嫉妬してしまったのだった。
35.
これから屋敷に戻るのだというヒューイとカイル、そしてエイを小屋に残して、街に待たせていたらしいクロード家の馬車に乗った。道中、何も言わずに繋がれた手は馬車に乗り込んだいまなおルナとルーカスを結んでいる。 広い馬車の中で寄り添った身体はおもむろにルーカスによって離され、そして彼はルナの前のソファへと移動した。目の前に座るルナの目を見据えながら、ルーカスはゆっくりと口を開く。
「ルナ、今度はちゃんと言おうと思う。だから聞いてくれ」
「はい……」
「俺は君を愛している。これからも俺と共に歩いていってくれるだろうか?」
「ええ、もちろんです……」
ルーカスと一緒になる前から、もしかしたらあの日、初めてルーカスに心惹かれた日からずっとルナが欲していた言葉だ。決して手に入ることなどないのだと思いながらも、ずっと諦められなかったその言葉にルナの頬には涙が伝った。
「それと、だな……。突き返されたのをまた渡すというのはどうかと思うし、気に入らなかったら今度はまた違うものを買ってくる。だから嫌だったら嫌といって欲しいんだが、その……これを受け取ってはもらえないだろうか」
前置きを長々としたルーカスが取り出したのはルナがカゴに入れて突き返したアクセサリーケースだった。
「開けても?」
「ああ」
「これは……」
ルーカスの手から小さな箱を受け取ったルナは初めてそれを開いた。自分へ贈られたものとして再びやってきた箱の中身はイヤリングだった。金具の先端についている球体はルーカスの瞳と同じ、紫色に輝いていた。
「さっき、あのヒューイという男から聞かされた。大事そうにいつも身に付けているそれは君の父親からの贈り物だということも、ランドール家は代々父から娘へ、そして夫から妻へ瞳の色と同じアクセサリーが贈られるのだと……」
小屋を出る直前、ヒューイが何か耳打ちをしていると思ってはいたが、隣にいるルナですらその内容は聞き取れていなかった。だが彼が最後に別れ際に伝えたその内容がまさかルナですら初めて聞かされる内容だとは思わず、その内容に驚きを隠せなかった。
グレンから贈られたこのイヤリングの意味を、贈られたルナ本人でさえも知らなかったのだ。けれどグレンから、父から最後にもらった特別なものだからとずっと身に付けていたのだった。
「それがルナにとってどんなに大切なものなのかはわかるから無理にとは言わない。……だがつけて欲しいんだ」
ルナは今も変わらず身に付けている、グレンからもらった黄色いイヤリングの片方だけを外して、代わりにルーカスからの贈り物を身に付けた。
「どう、でしょうか?」
イヤリングがよく見えるように髪を耳にかけて、ルーカスに問いかける。
「よく……似合ってる」
黄色いイヤリングはいうなればグレンからの家族の証といったところだろう。
そして紫色のイヤリングはルーカスからの愛の形なのだった。
帰宅後、2人を待っていたのは玄関先でオロオロとしていたクロード家の筆頭執事のシンラだった。
「今帰った」
シンラはルーカスの声に反応し、ぐるりと首を回し、ルナとルーカスを視界に捉えると一直線に、長年支え続けているルーカス、ではなくルナめがけて歩み寄った。
「ルナ様! お帰りになっていただけたのですね!」
「心配かけてごめんなさい」
「もう一度この屋敷に帰ってきてくださっただけで私はもう……」
「そんなことよりシンラ、昼食の準備は?」
ルーカスがシンラとルナの間を遮るようにして身体を差し込み、邪魔をするとシンラはその端正な顔を惜しげもなく崩してしまう。
「……今日の朝まで全く手をつけなかったあなたがよく言いますね」
そしてルーカスにしか聞こえないほど小さな声で主人に向かって吐き捨てる。それは長年築き上げてきた一風変わった信頼関係がそうさせていたのだ。態度では全くわからないがシンラもシンラなりに主人を心配していたのだ。
ただそれ以上にこの一年、ずっとお世話をしていた、寂しそうな表情ばかり浮かべるルナを心配していただけである。 使用人のことを気遣ってくれ、なおかつ幼い頃から感情を表に出すことが下手なルーカスのお嫁さんとしてクロード家に嫁いできてくれたルナを、シンラだけではなくクロード家の使用人の誰もが慕っていたのだ。
「昼食なら今日もちゃんと2人分、用意してありますからご安心ください」
「今から食べるから準備しろ」
「かしこまりました」
思えばルナは昨日の夜以来何も口にしていなかった。結局小屋で出された紅茶も飲まずじまいで、カイルの一押しのタルトはその全貌をしっかりと見る前に去ってしまったのだ。そんなルナのお腹の虫は昼食と聞いてはしたなくも根をあげた。
「ルナ?」
音は当然隣のルーカスの耳にも入ったらしく、不思議そうな顔で覗かれる。ルナは恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだ。ルーカスは今すぐにでも逃げ出したいと願うルナの手を握った。
「ダイニングで待っていればすぐに料理が運ばれてくる。……だからそれまでこの数日の出来事を、いやルナのことを教えてくれないか?」
「……はい」
そしてルナはその日、初めてルーカスと夜を共にした。
「狭くないか?」
「大丈夫です」
それは一年以上も経つ夫婦生活で初めてのことで、ルナもルーカスも緊張で今まで以上にぎくしゃくとしていた。
「心配、だから。その……手、つないでいてもいいか?」
「はい……」
けれど、やがて布団の中で弱弱しくルーカスがルナの手を握ることによって二人の仲の空気は柔らかいものへと変わった。
その夜、本当の夫婦になることができたのだとルナは実感することができた。 利害など何も絡まない、愛し合った者のみが入れるその先へ足を踏み入れたのだ。
寂しさに俯きがちに歩く少女はもういない。 いるのは姉や兄、はたまたたくさんの家族に愛される少女と、気持ちが通じ合ってからも少女の家族に嫉妬の火を燃やす男だけだ。
(完)
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く
禅
恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。
だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。
しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。
こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは……
※完結まで毎日投稿します
※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
カイル、かっこいい〜!
「家族」も素敵。
ただ、ヒーローのいいところ全然ないから何処に惹かれるのか分かんない。
カイルと家族を気に入って頂けて嬉しいです!
幼い時に沢山の知識を持っている彼がキラキラして見えた、みたいなよくある初恋ですね(*´∇`*)社交界に出ると嫌な顔されたり、奇異なものを見るような目で見られる中で、初めから普通に接してくれたというのも大きいのかもしれません……
王子の義理の妹を死神呼ばわりして陰口を叩くとは王城勤めの割に低脳無能の出来損ないを飼っているようですね。王城はもう少し家畜の躾に気を使うべきでは。
貴族の三男以降とかの所謂コネ入社みたいなのが一定数いて、その中にはオツムの弱い方も少しばかりいらっしゃいまして……。しかもコネに限っていいポジションに就くので王族に近くなる仕組みです。こればかりは財源問題や国の形態的にどうしようも出来ず、切りたいけど切れない状態になっております。お姉ちゃんはズバズバ切ってますが、いいところの出の相手だと異動か謹慎くらいで終わりなのです。
でも今回はそれでは我慢できないし、ちょうどいいところに空きがあったから飛ばしちゃおう!逃げ出せずに見事切り抜けられたらそれはそれで戦力になるし、その頃には一定の教育も済んでいるという設計になっております。
おそらく王子が国王の座を引き継ぐ同時に人種差別系の法律を筆頭に色々と厳しくなると思います。
その時に無礼を働いた人達から一気に色々と巻き上げて、国のために生かして欲しいですね!
めっちゃ良かったです。
まさかのルナの生い立ちにはびっくりしましたたが。皆、幸せになれて良かったです。
北に飛ばされたのは、死に神と、噂話してた男性陣ですよね。設定の作り込みがニクイです。
幸せなお話、ありがとうございました
ありがとうございます!
楽しんでいただけて嬉しいです!
彼らには北に飛んでいただきました!
腐った根性共々バシバシと鍛えなおしてもらって国のために活躍してくれるといいな~と思います。