6 / 54
婚約者もとい当て馬選考会
しおりを挟む
それに、どうせ今回王子様の婚約者ポジションを勝ち取ったとしても、数年後には選ばれし力を保有した平民の少女に奪われるのだ。
射貫かれるハートは恋愛感情ではなく心臓で。
恐怖でドキドキと忙しなく動いた胸は、命の灯火が消えると同時に活動を停止する。
期限付きの婚約者というよりも、ヒヒーンと泣いて殺される当て馬。
不憫だ。悲しすぎる。
ワガママな性格をどうこうしたところで、運命のお相手さんはまさかの方向からやって来るだけなのだろう。
当て馬になる以前に当て馬選出レースすらも棄権したい。
けれどこの場所に足を運んでしまった時点で、私のエントリーは確定し、すでにレースで足を進め始めている。私がお馬さんにされる可能性はゼロではなくなった。
それはもう悔やんでも仕方ない。仮病が使えなかった時点で諦めた。
だから私は非情な判断だとは知りながら、その役目を誰かに押しつける気でいた。私は世渡り上手ではないのだ。
選ばれし令嬢もといお馬さんは、数年の婚約者生活の間に甘い蜜を存分に啜って断罪されないように上手くやればいいと思う。
全ては本人の手にかかっている!
私は知らない。関係ない。
そもそもろくにシナリオだって知らないのだ。ヒロインの名前とビジュアルと持ってる能力の名前くらいしか情報がないのに、戦える訳がない。
サポートも無理。というかアドリエンヌには自らの手を差し出すほど仲の良い友人などいない。
もっといえばお茶会で見かけたら声をかけるような相手さえいない。そこそこの地位はあるはずだが、完全なぼっちを貫いていた。
知らない相手が当て馬になろうとも痛む胸もない。
貴族は時に、冷酷非情であらねばならないのだ。
婚約者選出にのり気なご令嬢方を横目に食事スペースへと向かう。
多くのご令嬢が各地から集められるだけあって、テーブルの上には多くのデザートが並べられていた。ティータイムのお供としては欠かせない、クッキーやスコーン、カップケーキにサンドイッチからマカロンにゼリー、ケーキまで盛りだくさんだ。
お茶会開催中、ずっと食に徹していても飽きることはないだろう。
会場をくるくる回っている使用人達はそれぞれ異なるお茶をカップに淹れているらしい。ご丁寧にも腕のところに色違いのリボンを付けている。
この場に王子様と、彼を狙うギラギラ系令嬢さえいなければスイーツバイキング会場である。
早速お皿を片手に好きなものを載せては、会場の端っこで口に運んでいく。
初めこそドレスで悪目立ちをしていた私だが、今ではすっかり会場に馴染んでいた。時間が経つにつれて、候補から離脱した令嬢として認識され始めたのだ。
敵認定さえされなければ嘲笑すら向けられないのだから、意外と平和というかなんというか……。
「それ、美味しいですか?」
「ええ。そこにあるベリージャムと合わせると美味しいですわ。少し甘めなので、紅茶は濃いめのものがおすすめです」
「ありがとうございます」
彼女で、私に声をかけてきたのは五人目。
皆、揃いもそろって私にお菓子のおすすめを尋ねてくる。
見た感じ、全員田舎から出てきた子っぽい。
私が言うのもなんだか、ドレスの型が少し流行から遅れている。それに生地も、王都で見慣れているものよりも数段劣る。
おおかた、変なドレスを着て、開始からずっとお菓子を食べている私もお仲間だと思ったのだろう。
目を爛々と輝かせながら私が勧めたセットを取り、口に運んでいる。
彼女達と話を弾ませられれば、お友達一歩手前くらいにはなれるのかもしれない。だが5人のうち誰を選んだところでこのお茶会が終われば王都を去って行くのだ。
次いつ会えるかも分からない。前世でも積極性に欠けていた私は、彼女達を追うことはせずにケーキを口に運んでいく。
「美味しい」
一人で食べ続けるのも割と飽きるもので、遠くから王子を見物していれば目が合った。
たまたまかと思っていたが、これで八度目だ。そろそろ見られている可能性を考慮して、場所を変えた方がいいかもしれない。
王子もこのドレスに慣れてきたのか、驚く様子こそないが、死んだ目でこちらを見るのは辞めて頂きたい。
お菓子がまずくなる。
とはいえ、私が見ているから視線を感じて~という可能性もある。他の御令嬢も同じく王子観察をしているので、なぜ私とだけこんなに目が合うんだという話になるが、深く考えるのも面倒くさい。
その場から退避するように皿に載せられるだけお菓子を載せて、人のいない方向へと向かうのだった。
射貫かれるハートは恋愛感情ではなく心臓で。
恐怖でドキドキと忙しなく動いた胸は、命の灯火が消えると同時に活動を停止する。
期限付きの婚約者というよりも、ヒヒーンと泣いて殺される当て馬。
不憫だ。悲しすぎる。
ワガママな性格をどうこうしたところで、運命のお相手さんはまさかの方向からやって来るだけなのだろう。
当て馬になる以前に当て馬選出レースすらも棄権したい。
けれどこの場所に足を運んでしまった時点で、私のエントリーは確定し、すでにレースで足を進め始めている。私がお馬さんにされる可能性はゼロではなくなった。
それはもう悔やんでも仕方ない。仮病が使えなかった時点で諦めた。
だから私は非情な判断だとは知りながら、その役目を誰かに押しつける気でいた。私は世渡り上手ではないのだ。
選ばれし令嬢もといお馬さんは、数年の婚約者生活の間に甘い蜜を存分に啜って断罪されないように上手くやればいいと思う。
全ては本人の手にかかっている!
私は知らない。関係ない。
そもそもろくにシナリオだって知らないのだ。ヒロインの名前とビジュアルと持ってる能力の名前くらいしか情報がないのに、戦える訳がない。
サポートも無理。というかアドリエンヌには自らの手を差し出すほど仲の良い友人などいない。
もっといえばお茶会で見かけたら声をかけるような相手さえいない。そこそこの地位はあるはずだが、完全なぼっちを貫いていた。
知らない相手が当て馬になろうとも痛む胸もない。
貴族は時に、冷酷非情であらねばならないのだ。
婚約者選出にのり気なご令嬢方を横目に食事スペースへと向かう。
多くのご令嬢が各地から集められるだけあって、テーブルの上には多くのデザートが並べられていた。ティータイムのお供としては欠かせない、クッキーやスコーン、カップケーキにサンドイッチからマカロンにゼリー、ケーキまで盛りだくさんだ。
お茶会開催中、ずっと食に徹していても飽きることはないだろう。
会場をくるくる回っている使用人達はそれぞれ異なるお茶をカップに淹れているらしい。ご丁寧にも腕のところに色違いのリボンを付けている。
この場に王子様と、彼を狙うギラギラ系令嬢さえいなければスイーツバイキング会場である。
早速お皿を片手に好きなものを載せては、会場の端っこで口に運んでいく。
初めこそドレスで悪目立ちをしていた私だが、今ではすっかり会場に馴染んでいた。時間が経つにつれて、候補から離脱した令嬢として認識され始めたのだ。
敵認定さえされなければ嘲笑すら向けられないのだから、意外と平和というかなんというか……。
「それ、美味しいですか?」
「ええ。そこにあるベリージャムと合わせると美味しいですわ。少し甘めなので、紅茶は濃いめのものがおすすめです」
「ありがとうございます」
彼女で、私に声をかけてきたのは五人目。
皆、揃いもそろって私にお菓子のおすすめを尋ねてくる。
見た感じ、全員田舎から出てきた子っぽい。
私が言うのもなんだか、ドレスの型が少し流行から遅れている。それに生地も、王都で見慣れているものよりも数段劣る。
おおかた、変なドレスを着て、開始からずっとお菓子を食べている私もお仲間だと思ったのだろう。
目を爛々と輝かせながら私が勧めたセットを取り、口に運んでいる。
彼女達と話を弾ませられれば、お友達一歩手前くらいにはなれるのかもしれない。だが5人のうち誰を選んだところでこのお茶会が終われば王都を去って行くのだ。
次いつ会えるかも分からない。前世でも積極性に欠けていた私は、彼女達を追うことはせずにケーキを口に運んでいく。
「美味しい」
一人で食べ続けるのも割と飽きるもので、遠くから王子を見物していれば目が合った。
たまたまかと思っていたが、これで八度目だ。そろそろ見られている可能性を考慮して、場所を変えた方がいいかもしれない。
王子もこのドレスに慣れてきたのか、驚く様子こそないが、死んだ目でこちらを見るのは辞めて頂きたい。
お菓子がまずくなる。
とはいえ、私が見ているから視線を感じて~という可能性もある。他の御令嬢も同じく王子観察をしているので、なぜ私とだけこんなに目が合うんだという話になるが、深く考えるのも面倒くさい。
その場から退避するように皿に載せられるだけお菓子を載せて、人のいない方向へと向かうのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
383
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる