王子をテイムした悪役令嬢【連載版】

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無関心万歳

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「良い天気ですね~」
「ああ」
「王子様の婚約者も早く決まるといいですね~」
「……ああ」

 返事をするまでに少し間があった。賛同をすることに迷いがあるのだろう。
 初対面の令嬢との世話話。二度目があるとも知らない、この場限りの間柄だ。どんな思いがあろうとも、適当に返事をすればいいだけ。

 フレイムさんと、フレインボルド王子もしくは王族の間には何かあるんだろう。

 だからお茶会参加者であろう私に声をかけたの?
 空を見上げ、雲を目で追いながら隠された何かについて思考を巡らせる。

 けれど五分もしないで飽きる。
 やっぱり私は考え事には向いていないようだ。
 変なことに巻き込まれませんように、と祈りながらフレイムさんを撫でることにした。


 そこから数十分。
 抵抗されることはなく、特別な見返りを欲っされることもなかった。
 代わりにただ一つ。フレイムさんは会場に戻る私に声をかけた。

「お茶会の日、またここで待っている」
 彼の口から告げられた次の約束が嬉しくて、満面の笑みを返す。
 バッサバッサと空を切りながら飛んでいくフレイムさんにブンブンと手を降って見送った後で、私は重大なことに気づいた。


「帰り道、聞いとけば良かった」
 私は迷子だったってことに。


「やっと帰れた……」
 フレイムさんと別れてから実に十数分。
 迷いに迷って会場付近のお手洗いまで辿り着いた私は、そこからたまたま見つけたご令嬢の後ろを追いかけるようにして会場に戻った。

 空になったお皿を手に持っていれば確実に目立つので、リボンの中に隠した。
 さすがはどでかリボン。お皿の一枚くらい隠すのは余裕だった。トトトと歩いたところで全く落ちないし、安定感が半端ない。

 もしかしてこのリボン、何かを隠す用だったりするのかしら?
 よく分からないけれどとりあえず今のところはリボンに感謝である。


 会場の端っこでリボンからお皿を回収し、適当な机に置いておく。
 これで城の使用人が回収してくれることだろう。ついでにお茶ももらって会場を軽く見渡す。


 あれ、なんか違和感が……。
 カップを傾けながら違和感の正体を探ろうとした私だが、そのタイミングでお茶会の終了が告げられた。

 なんだったんだろう?
 首を捻ったところで答えは出ることはなかった。そのまま順番に迎えに来た馬車に乗り込むご令嬢方。


「アドリエンヌ、帰るぞ」
「はい」
 ちなみに親が会場までやってきたのはうちだけだ。
 手を引かれ、回収されるように馬車に乗り込んだ。

 娘を王子の婚約者にしたいならせめて馬車の中で待っていてくれればいいのに。

 私がお茶会を抜け出したことはおそらく父にはバレていないはず……。
 なのにわんでわざわざ。馬車が走り出してからも父は無言でこちらをじっと見つめるだけだ。

 何を考えているのだろうか。
 まぁ父が何を考えていても私は彼の意思に従うだけ。そんなことよりも今はもっと大事なことがある。


「お父様」
「なんだ」
「ドラゴンのブラシが欲しいです」

 そう、父の意思よりフレイムさんとの交流グッズの方がずっと大事なのだ。

「は?」
 父は素っ頓狂な声をあげたが、その顔には全く変化はない。
 多分、突然言い出したために少し驚いただけだろう。
 どうせ目の前の父親は私に興味などないのだ。

「ドラゴンのブラシと牛革の手袋が欲しいです」
 ちゃっかりアイテムをもう一品増やして、真っ直ぐと父を見つめる。

 見つめ合うこと数十秒。
 いつもは二つ返事で「用意させる」と言ってくれる父が初めて異なる言葉を返した。

「アドリエンヌと年の近い女の子の間では今、ドラゴンのブラシが流行っているのか?」
「は?」

 父の言葉に今度は私が驚く番だ。
 なぜ『私』が欲しいと言っているのに『年の近い女の子の間』で流行っているという話になるのだ。

 もしかして流行っていないと買ってくれないのだろうか? 
 今まで何を欲しがっても与えてくれていたというのに、ドラゴンのブラシはさすがに例外扱いされたとか?

「あ、いえ、ダメならいいのです」
 私が自由に出来るお金はない。
 父に断られればドラゴンのブラシを手に入れる手段は断たれたといっても過言ではない。

 悲しいかな、子どもの無力さよ。
 欲しかったなぁ、ドラゴンのブラシ……。

 窓の外を眺めながら、真っ赤なうろこに思いを馳せる。
 すると前方から長く息が吐き出される音がした。

「ダメではないが、その……いや、用意させよう」

 よっしあああああ。考えるのが面倒くさいのが勝った!
 これでいつブラッシングのお許しが出ても大丈夫だ! 無関心万歳。
 頭の中でガッツポーズから万歳三唱を繰り広げ、眉間に皺を寄せる父に勢いよく頭を下げる。


「ありがとうございます!」
「っ」

 目を細め、皺を深くする父はきっと誰にも見られていないとはいえ、行儀が悪いと思っているのだろう。

 けれど何も言われないのを良いことに、私は背後の意味など気づいていませんよとばかりにニコニコとした笑みを向け続ける。

 結局、父は屋敷に到着してからもブラシについて触れることはなかった。

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