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◇エイリーフ視点
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「派手にやったそうじゃないか」
「あれくらい抑えた方だよ。もう二度と手を離すつもりはないからね」
「相手の家を潰さなかっただけマシか。そうそう、妻に聞いてきたぞ。これが今の流行のお菓子だそうだ」
「ありがとう、兄さん。義姉さんにもお礼を伝えておいて」
「まったく兄とはいえ、第一王子を使いっ走りにするなどお前くらいなものだぞ」
「だって義姉さんに聞いた方が確実だから」
お茶を啜りながら、お菓子を摘まむアンナを想像する。アンナはどんな姿も可愛らしいが、美味しいものを食べる時と恥ずかしさをこらえる時が一番可愛いのだ。
エイリーフがアンナと出会ったのは十年以上前のこと。
アンナは覚えていないだろう。お茶会デビューの少し前。あの頃はまだ人前に出るのが得意ではなくて、小規模のお茶会を遠くで眺めていた。そんなエイリーフに、アンナは声をかけてくれたのだ。
『遠くで寂しくない? これ美味しいのよ。食べてみて』
そう言って彼女が差し出してくれたのはスコーンだった。いちごのジャムを載せて、お皿ごと持ってきてくれたのだ。全部少しずつ食べた中で一番美味しかったという。
まだデビューしたばかりで友達が少なく、今日はその友達さえいなくて寂しかったようだ。だからエイリーフも同じなのだろうと。
お日様みたいな朗らかな笑みを浮かべながら教えてくれた。すぐに心を奪われた。
『飲み物も持ってくるわ』
『いい。ここにいて』
『そう? ねぇお名前はなんていうの? 私はアンナ』
『エリック』
本当の名を伝える訳にはいかない。エイリーフのお茶会デビューはまだ先で、三ヶ月後だと正式発表されている。だからとっさに口から出たのは偽物の名前。昨晩読んでいた冒険小説の主人公の名前だった。
『エリック、私とお友達になって』
『もちろん』
彼女の手を取って、他のおやつを取りに向かった。
お皿におやつをたくさん載せて、今度はお茶も持って、同じ場所に腰掛けた。
他の参加者からは見えない物陰に、ピタリとくっつくように並ぶのである。
彼女はご機嫌で今まで楽しかったことを話してくれて、エイリーフは今まで読んだ物語を彼女に話した。本の中で経験した楽しかったことも悲しかったことも。彼女は目を丸く見開きながら驚いて、コクコクと頷いて、そして涙した。
自分で紡いだ物語ではないけれど、この短い時間だけでも彼女の心を奪えることが嬉しかった。幸せだった。こんな時間が長く続けば良いと、心の底から願った。
けれど幸せな時間が長くは続かない。
お茶会が終われば彼女とは離ればなれになってしまう。終わりの合図が聞こえると、彼女の表情も不安へと変わる。
『また会えるかしら……』
『いつか必ずアンナを迎えに行く』
けれどそんな不安も一瞬だ。自分がかき消してみせる。そんな思いで彼女の手を取った。
そして城に戻ってからアンナが伯爵令嬢であることを突き止めた。彼女からはふんわりと薬草の香りがしたので、すぐに特定することが出来た。それから父に彼女と婚約したいと頼んだ。
エイリーフは第四王子。兄達は健康そのもので、堅実な性格である。自分に王位が回ってこないことは分かりきっていた。努力をしたところで重役に据えられるくらい。
だから多少身分差があっても頷いてくれることだろう。物語の中の王子は皆、愛する女性の手を取った。だから自分もそうだと疑っていなかった。
けれど父はなかなか頷いてくれなかった。エイリーフが考えるほど、王子の婚約は単純ではないのだ。政治的な意味を持つ。
ヴェルン家は伯爵家であり、同時に薬師の家系でもある。薬師が扱うのは薬だけではない。必要とあれば毒さえも作ってしまう。だからこそ、王家がかの家の令嬢と縁を結んだと知れば警戒されてしまう。
諦めろと何度と繰り返されてもなお、エイリーフは諦めなかった。
政略なんて吹き飛ばせるほど個人で力を持てばきっと、父だって認めざるを得ないだろうと。お茶会デビューだって見事にこなしてみた。他国の文化や言語だって習得したし、図書館に入り浸っては様々な知識を習得していった。
全てはアンナと共にあるためだった。
けれど現実は非情だった。
エイリーフが努力を重ねているうちに、アンナと伯爵令息との婚約が決まってしまったのだ。アンナの婚約は貴族の令嬢にしては遅いくらいだった。だからこの先も、と知らぬうちに慢心していたのだ。
もっと早く、それこそ彼女と出会う前から努力をしていれば。そんな思いが胸に積もっていく。顔も知らない伯爵令息が羨ましくて、あからさまにホッとする家族が恨めしくてたまらなかった。
けれど邪魔をしようとは思わなかった。アンナには笑って欲しかった。だから見守ろうと心に決めた。今までの積み重ねはいつか、アンナが困った時に手を差し伸べるためだと自分に言い聞かせ、その先だって努力を止めることはなかった。
こうしてエイリーフは令嬢達が憧れるほど優秀な王子様へとなっていった。
アンナと再会するまで、エイリーフには何度と婚約の打診があった。けれど全て断った。アンナほど惹かれる女性はいなかったからだ。あの日から何年が経過しても、アンナこそが一番だった。アンナ以上に優先すべき存在などいなかった。エイリーフが積み上げてきたもの全てがアンナに捧げるためのものなのだ。
エイリーフの一途さを知る両親は無理強いするようなことはしなかった。
彼が第四王子だったというのも大きい。
それでもいつか、アンナが結婚した後でもいいから生涯を共にする女性を選んでくれればと心の底から彼の幸せを祈っていた。
王家がそんな調子であるため、いつからか上級貴族の間では『エイリーフ王子には愛する女性がいるのではないか』という噂が広まるようになった。親戚の姫だけは信じてくれず、度々結婚しようと迫ってきた。
だが相手の親もエイリーフと結婚させるつもりはなかったこともあり、適当に理由をつけて婚約話を交わし続けた。一人だけ、それも他国にいる彼女を巻くのはたやすかった。
会うたびにアタックし続ける彼女よりあの日出会ったアンナが愛おしい。どんなに時間が経ってもこの思いが色あせることはなく、年々深みが増していくかのよう。
ほおっと息を吐きながら、彼女のことを考える。
家族はそんなエイリーフを日々見ていた。
だからこそ第二王子と第三王子は、アンナの婚約者が他の伯爵令嬢の浮気を見逃すことは出来なかった。いつか何かのきっかけで耳に入るよりは、とすぐにエイリーフにこのことを伝えた。
兄達から聞かされた内容は、とても信じられるようなものではなかった。エイリーフの頭は真っ白になった。同時に腹の底からどす黒い感情がわき上がる。
自分なら幸せに出来るのに。幸運を手に入れながら、彼女を裏切る行為を平気でする男が許せなかった。だが学生もなく、正式にアンナとの付き合いがある訳でもないエイリーフが学園で行われている浮気に手を下すことは出来なかった。兄達も同じである。
婚約破棄させたい。だがそれで彼女が傷つくような自体は避けたい。
アンナ第一のエイリーフは葛藤した。どうすべきかと頭をフル回転させ、彼女の夜会デビューで攫ってしまえばいいのではないかと思いついた。
彼らは学園内では飽き足らず、夜会でも共に時間を過ごすようになっていたから。すぐに王子である自分が前に出れば、醜聞よりも注目が集まることだろうと。
その日はちょうどエイリーフの夜会デビューの日でもあった。
なので夜会でアンナを攫う計画を決行すると、父に宣言した。すでにアンナの婚約者が浮気していることは父の耳にも入っていた。
一年の後期からなので、もう二年だ。その間、エイリーフがどうやってあの男を潰すか考えていたのだ。気づかないはずがない。
アンナに浮気された令嬢というレッテルが貼られてしまえば、まともな令息との婚約なんて出来るはずがない。アンナは何も悪くなくとも、醜聞は醜聞。面白可笑しく塗り替えられた噂がすぐに社交界を巡ることだろう。
だがそんなのは日常茶飯事だ。何人もの令嬢・令息が似たような目に遭ってきた。よほどのことがなければ、それに王族が関わることはない。
エイリーフが愛する娘でさえなければ、アンナの婚約が結ばれてすぐにエイリーフが諦めていれば、かわいそうな娘だと思うだけで終わったことだろう。
だがエイリーフは今までずっとアンナのためだけに努力を続けたのだ。アンナだけを見つめていた。それこそ第一王子の地位を脅かすだけの力を持ちながら、権力になんて全く興味を持たず。だから身分差には目を瞑ることにした。
『その力を国のために役立てると約束するのなら、アンナ嬢との婚約を認めよう』
『ありがとうございます!』
エイリーフはぱあっと花が開くように笑い、王に頭を下げる。そして夜会の準備に奔走した。まさか二年も頭を悩ませていたことが、アンナ本人の目に触れ、婚約が破棄されることになるなんて予想もしていなかった。
アンナの悪い噂を耳にする度に、早く手を下していれば良かったと後悔した。
夜会当日、早々にアンナが会場から消え、誰かを待つように外のベンチに腰掛けていたことで後悔は焦りへと変わった。一刻も早く彼女を手に入れたい。その気持ちがアンナを舐めるという奇行に走らせた。
その行動を知った兄達は『既成事実を作らなかっただけマシ』と口を揃えたが、エイリーフがアンナを傷つけるようなことをするはずがない。好きだからこそ、大事にしたい。そして初めての夜も。
「アンナ……」
お菓子を食べながら息を吐くエイリーフからは色気があふれていた。
知らない者が見ればさぞ絵になる光景だろう。まさか婚約者の味を思い出しているなんて想像するはずもない。
「あまりやり過ぎるなよ?」
心配する兄の声など、エイリーフには聞こえていない。
やっと手に入ったのだ。必死にもなるというものだ。
「あれくらい抑えた方だよ。もう二度と手を離すつもりはないからね」
「相手の家を潰さなかっただけマシか。そうそう、妻に聞いてきたぞ。これが今の流行のお菓子だそうだ」
「ありがとう、兄さん。義姉さんにもお礼を伝えておいて」
「まったく兄とはいえ、第一王子を使いっ走りにするなどお前くらいなものだぞ」
「だって義姉さんに聞いた方が確実だから」
お茶を啜りながら、お菓子を摘まむアンナを想像する。アンナはどんな姿も可愛らしいが、美味しいものを食べる時と恥ずかしさをこらえる時が一番可愛いのだ。
エイリーフがアンナと出会ったのは十年以上前のこと。
アンナは覚えていないだろう。お茶会デビューの少し前。あの頃はまだ人前に出るのが得意ではなくて、小規模のお茶会を遠くで眺めていた。そんなエイリーフに、アンナは声をかけてくれたのだ。
『遠くで寂しくない? これ美味しいのよ。食べてみて』
そう言って彼女が差し出してくれたのはスコーンだった。いちごのジャムを載せて、お皿ごと持ってきてくれたのだ。全部少しずつ食べた中で一番美味しかったという。
まだデビューしたばかりで友達が少なく、今日はその友達さえいなくて寂しかったようだ。だからエイリーフも同じなのだろうと。
お日様みたいな朗らかな笑みを浮かべながら教えてくれた。すぐに心を奪われた。
『飲み物も持ってくるわ』
『いい。ここにいて』
『そう? ねぇお名前はなんていうの? 私はアンナ』
『エリック』
本当の名を伝える訳にはいかない。エイリーフのお茶会デビューはまだ先で、三ヶ月後だと正式発表されている。だからとっさに口から出たのは偽物の名前。昨晩読んでいた冒険小説の主人公の名前だった。
『エリック、私とお友達になって』
『もちろん』
彼女の手を取って、他のおやつを取りに向かった。
お皿におやつをたくさん載せて、今度はお茶も持って、同じ場所に腰掛けた。
他の参加者からは見えない物陰に、ピタリとくっつくように並ぶのである。
彼女はご機嫌で今まで楽しかったことを話してくれて、エイリーフは今まで読んだ物語を彼女に話した。本の中で経験した楽しかったことも悲しかったことも。彼女は目を丸く見開きながら驚いて、コクコクと頷いて、そして涙した。
自分で紡いだ物語ではないけれど、この短い時間だけでも彼女の心を奪えることが嬉しかった。幸せだった。こんな時間が長く続けば良いと、心の底から願った。
けれど幸せな時間が長くは続かない。
お茶会が終われば彼女とは離ればなれになってしまう。終わりの合図が聞こえると、彼女の表情も不安へと変わる。
『また会えるかしら……』
『いつか必ずアンナを迎えに行く』
けれどそんな不安も一瞬だ。自分がかき消してみせる。そんな思いで彼女の手を取った。
そして城に戻ってからアンナが伯爵令嬢であることを突き止めた。彼女からはふんわりと薬草の香りがしたので、すぐに特定することが出来た。それから父に彼女と婚約したいと頼んだ。
エイリーフは第四王子。兄達は健康そのもので、堅実な性格である。自分に王位が回ってこないことは分かりきっていた。努力をしたところで重役に据えられるくらい。
だから多少身分差があっても頷いてくれることだろう。物語の中の王子は皆、愛する女性の手を取った。だから自分もそうだと疑っていなかった。
けれど父はなかなか頷いてくれなかった。エイリーフが考えるほど、王子の婚約は単純ではないのだ。政治的な意味を持つ。
ヴェルン家は伯爵家であり、同時に薬師の家系でもある。薬師が扱うのは薬だけではない。必要とあれば毒さえも作ってしまう。だからこそ、王家がかの家の令嬢と縁を結んだと知れば警戒されてしまう。
諦めろと何度と繰り返されてもなお、エイリーフは諦めなかった。
政略なんて吹き飛ばせるほど個人で力を持てばきっと、父だって認めざるを得ないだろうと。お茶会デビューだって見事にこなしてみた。他国の文化や言語だって習得したし、図書館に入り浸っては様々な知識を習得していった。
全てはアンナと共にあるためだった。
けれど現実は非情だった。
エイリーフが努力を重ねているうちに、アンナと伯爵令息との婚約が決まってしまったのだ。アンナの婚約は貴族の令嬢にしては遅いくらいだった。だからこの先も、と知らぬうちに慢心していたのだ。
もっと早く、それこそ彼女と出会う前から努力をしていれば。そんな思いが胸に積もっていく。顔も知らない伯爵令息が羨ましくて、あからさまにホッとする家族が恨めしくてたまらなかった。
けれど邪魔をしようとは思わなかった。アンナには笑って欲しかった。だから見守ろうと心に決めた。今までの積み重ねはいつか、アンナが困った時に手を差し伸べるためだと自分に言い聞かせ、その先だって努力を止めることはなかった。
こうしてエイリーフは令嬢達が憧れるほど優秀な王子様へとなっていった。
アンナと再会するまで、エイリーフには何度と婚約の打診があった。けれど全て断った。アンナほど惹かれる女性はいなかったからだ。あの日から何年が経過しても、アンナこそが一番だった。アンナ以上に優先すべき存在などいなかった。エイリーフが積み上げてきたもの全てがアンナに捧げるためのものなのだ。
エイリーフの一途さを知る両親は無理強いするようなことはしなかった。
彼が第四王子だったというのも大きい。
それでもいつか、アンナが結婚した後でもいいから生涯を共にする女性を選んでくれればと心の底から彼の幸せを祈っていた。
王家がそんな調子であるため、いつからか上級貴族の間では『エイリーフ王子には愛する女性がいるのではないか』という噂が広まるようになった。親戚の姫だけは信じてくれず、度々結婚しようと迫ってきた。
だが相手の親もエイリーフと結婚させるつもりはなかったこともあり、適当に理由をつけて婚約話を交わし続けた。一人だけ、それも他国にいる彼女を巻くのはたやすかった。
会うたびにアタックし続ける彼女よりあの日出会ったアンナが愛おしい。どんなに時間が経ってもこの思いが色あせることはなく、年々深みが増していくかのよう。
ほおっと息を吐きながら、彼女のことを考える。
家族はそんなエイリーフを日々見ていた。
だからこそ第二王子と第三王子は、アンナの婚約者が他の伯爵令嬢の浮気を見逃すことは出来なかった。いつか何かのきっかけで耳に入るよりは、とすぐにエイリーフにこのことを伝えた。
兄達から聞かされた内容は、とても信じられるようなものではなかった。エイリーフの頭は真っ白になった。同時に腹の底からどす黒い感情がわき上がる。
自分なら幸せに出来るのに。幸運を手に入れながら、彼女を裏切る行為を平気でする男が許せなかった。だが学生もなく、正式にアンナとの付き合いがある訳でもないエイリーフが学園で行われている浮気に手を下すことは出来なかった。兄達も同じである。
婚約破棄させたい。だがそれで彼女が傷つくような自体は避けたい。
アンナ第一のエイリーフは葛藤した。どうすべきかと頭をフル回転させ、彼女の夜会デビューで攫ってしまえばいいのではないかと思いついた。
彼らは学園内では飽き足らず、夜会でも共に時間を過ごすようになっていたから。すぐに王子である自分が前に出れば、醜聞よりも注目が集まることだろうと。
その日はちょうどエイリーフの夜会デビューの日でもあった。
なので夜会でアンナを攫う計画を決行すると、父に宣言した。すでにアンナの婚約者が浮気していることは父の耳にも入っていた。
一年の後期からなので、もう二年だ。その間、エイリーフがどうやってあの男を潰すか考えていたのだ。気づかないはずがない。
アンナに浮気された令嬢というレッテルが貼られてしまえば、まともな令息との婚約なんて出来るはずがない。アンナは何も悪くなくとも、醜聞は醜聞。面白可笑しく塗り替えられた噂がすぐに社交界を巡ることだろう。
だがそんなのは日常茶飯事だ。何人もの令嬢・令息が似たような目に遭ってきた。よほどのことがなければ、それに王族が関わることはない。
エイリーフが愛する娘でさえなければ、アンナの婚約が結ばれてすぐにエイリーフが諦めていれば、かわいそうな娘だと思うだけで終わったことだろう。
だがエイリーフは今までずっとアンナのためだけに努力を続けたのだ。アンナだけを見つめていた。それこそ第一王子の地位を脅かすだけの力を持ちながら、権力になんて全く興味を持たず。だから身分差には目を瞑ることにした。
『その力を国のために役立てると約束するのなら、アンナ嬢との婚約を認めよう』
『ありがとうございます!』
エイリーフはぱあっと花が開くように笑い、王に頭を下げる。そして夜会の準備に奔走した。まさか二年も頭を悩ませていたことが、アンナ本人の目に触れ、婚約が破棄されることになるなんて予想もしていなかった。
アンナの悪い噂を耳にする度に、早く手を下していれば良かったと後悔した。
夜会当日、早々にアンナが会場から消え、誰かを待つように外のベンチに腰掛けていたことで後悔は焦りへと変わった。一刻も早く彼女を手に入れたい。その気持ちがアンナを舐めるという奇行に走らせた。
その行動を知った兄達は『既成事実を作らなかっただけマシ』と口を揃えたが、エイリーフがアンナを傷つけるようなことをするはずがない。好きだからこそ、大事にしたい。そして初めての夜も。
「アンナ……」
お菓子を食べながら息を吐くエイリーフからは色気があふれていた。
知らない者が見ればさぞ絵になる光景だろう。まさか婚約者の味を思い出しているなんて想像するはずもない。
「あまりやり過ぎるなよ?」
心配する兄の声など、エイリーフには聞こえていない。
やっと手に入ったのだ。必死にもなるというものだ。
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