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三章
4.入学式
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「イーディス」
それよりも問題はイーディスの背後にいる男である。先ほど手を振り払ったからか、声には怒気が含まれている。名前を呼ばれただけなのに背中がゾワッとする。
「すみません。マリア様と学園に通えると思わず、ついはしゃいでしまいました」
こういう時は素直に謝るが吉。彼に向き合って気持ち深めに頭を下げれば、リガロは小さく「マリア嬢なら仕方ないか……」と呟いた。
「イーディスから話は聞いている。これからも彼女と仲良くして欲しい」
「もちろんですわ!」
マリアがパチンと両手を会わせると講堂内から式開始五分前のアナウンスが流れる。誘われるように会場内へと移動し、四人で並んで席に着く。真ん中にイーディスとマリアが座り、両端はそれぞれの婚約者が座った。
学長の挨拶から始まり、しばらくが経った頃。
ついにプログラムは『新入生の挨拶』へと辿り着く。
「新入生代表の挨拶、特待生・メリーズ=シャランデル」
進行役の先生によって告げられた名前に会場はざわめいた。それもそうだろう。今年入学予定の生徒の中には第一王子、スチュワート=シンドレアがいる。順当に考えて彼が選ばれるはず。けれど選ばれたのは今まで一度も社交界に姿を見せなかったシャランデル家の令嬢ときた。正確にはつい最近養子に迎えられた少女であり、彼女の存在を知らない生徒や保護者も多いだろう。イーディスもゲーム知識さえなければ誰だろう、と首を傾げていた。そう、桃色の髪をなびかせて壇上に上がる女子生徒こそゲームヒロインなのである。
「あの髪色……もしかして文献にある聖女様?」
「おそらく」
マリアは息を飲み、リガロは表情一つ変えない。事前に話でも聞いていたのだろうか。乙女ゲームではメリーズ視点で進むため、その辺りの事情は分からない。だが冷静になってみれば彼女を囲っていた男性陣、攻略対象者達は身分が高いもしくは特定の分野において優秀な成績を納めている。王家から世話をするように、もとい囲い込むように指示が出ていてもおかしくはない。どうせ声をかけるのならば男だけではなく女にも声をかけろと思うが、聖女様にスピーディーに恋に落ちてもらわなければいけないという背景を考えれば仕方のないことかもしれない。それに王家が協力を仰げる女子生徒って大概攻略対象の婚約者達だし……。令嬢達の虐めすらも恋のスパイスに変えてしまうのだから、事情も知らずに舞台に上げられた令嬢達にはたまったものではない。これで泥沼にならないはずない。画面と向き合っていた時よりも情報の少ない現状にため息を吐きたくなる。
恋愛ゲーム自体が王家に仕組まれたものだとしたら、断罪された悪役令嬢は意外と悪くない追放ライフを送っていたのかもしれない。そもそも罪を重ねる婚約者を放っておいた王子にも罪がある、というよりも彼女を追い込んだのは彼自身な訳で……。
「続きまして、スチュワート王子のご挨拶です」
「今日という日が新生活のスタートに相応しい晴れの日になったこと……」
ヒロインと入れ替わるように呼ばれた王子につい冷ややかな目を向けてしまう。現実の王子様も悪役令嬢を精神的に追い詰める存在と確定した訳ではないが、前世からの嫌悪感はそう簡単に拭えるものでもない。とはいえ、変な態度を取って不敬罪に問われても困る。一瞬、目が合ったような気がしたが気のせいだろう。歪めた顔を見られないように俯けながら心の中でケッと毒を吐く。彼はイーディスにとってリガロよりも厄介な相手なのだ。なるべく関わらないようにしようと心に決め、式が終わるのを待った。
「悪いが先に馬車まで戻っていてくれないか?」
式が終わるや否や立ち上がったリガロはそわそわとしている。身体の方向は出口とは別の方向を向いており、その先には特待生達の座席がある。壇上で挨拶をした王子様もその辺りに座っているのだが、イーディスには彼に挨拶に行くとは思えなかった。なにせヒロインとリガロの初対面イベントは入学式後に起こるのだから。
それよりも問題はイーディスの背後にいる男である。先ほど手を振り払ったからか、声には怒気が含まれている。名前を呼ばれただけなのに背中がゾワッとする。
「すみません。マリア様と学園に通えると思わず、ついはしゃいでしまいました」
こういう時は素直に謝るが吉。彼に向き合って気持ち深めに頭を下げれば、リガロは小さく「マリア嬢なら仕方ないか……」と呟いた。
「イーディスから話は聞いている。これからも彼女と仲良くして欲しい」
「もちろんですわ!」
マリアがパチンと両手を会わせると講堂内から式開始五分前のアナウンスが流れる。誘われるように会場内へと移動し、四人で並んで席に着く。真ん中にイーディスとマリアが座り、両端はそれぞれの婚約者が座った。
学長の挨拶から始まり、しばらくが経った頃。
ついにプログラムは『新入生の挨拶』へと辿り着く。
「新入生代表の挨拶、特待生・メリーズ=シャランデル」
進行役の先生によって告げられた名前に会場はざわめいた。それもそうだろう。今年入学予定の生徒の中には第一王子、スチュワート=シンドレアがいる。順当に考えて彼が選ばれるはず。けれど選ばれたのは今まで一度も社交界に姿を見せなかったシャランデル家の令嬢ときた。正確にはつい最近養子に迎えられた少女であり、彼女の存在を知らない生徒や保護者も多いだろう。イーディスもゲーム知識さえなければ誰だろう、と首を傾げていた。そう、桃色の髪をなびかせて壇上に上がる女子生徒こそゲームヒロインなのである。
「あの髪色……もしかして文献にある聖女様?」
「おそらく」
マリアは息を飲み、リガロは表情一つ変えない。事前に話でも聞いていたのだろうか。乙女ゲームではメリーズ視点で進むため、その辺りの事情は分からない。だが冷静になってみれば彼女を囲っていた男性陣、攻略対象者達は身分が高いもしくは特定の分野において優秀な成績を納めている。王家から世話をするように、もとい囲い込むように指示が出ていてもおかしくはない。どうせ声をかけるのならば男だけではなく女にも声をかけろと思うが、聖女様にスピーディーに恋に落ちてもらわなければいけないという背景を考えれば仕方のないことかもしれない。それに王家が協力を仰げる女子生徒って大概攻略対象の婚約者達だし……。令嬢達の虐めすらも恋のスパイスに変えてしまうのだから、事情も知らずに舞台に上げられた令嬢達にはたまったものではない。これで泥沼にならないはずない。画面と向き合っていた時よりも情報の少ない現状にため息を吐きたくなる。
恋愛ゲーム自体が王家に仕組まれたものだとしたら、断罪された悪役令嬢は意外と悪くない追放ライフを送っていたのかもしれない。そもそも罪を重ねる婚約者を放っておいた王子にも罪がある、というよりも彼女を追い込んだのは彼自身な訳で……。
「続きまして、スチュワート王子のご挨拶です」
「今日という日が新生活のスタートに相応しい晴れの日になったこと……」
ヒロインと入れ替わるように呼ばれた王子につい冷ややかな目を向けてしまう。現実の王子様も悪役令嬢を精神的に追い詰める存在と確定した訳ではないが、前世からの嫌悪感はそう簡単に拭えるものでもない。とはいえ、変な態度を取って不敬罪に問われても困る。一瞬、目が合ったような気がしたが気のせいだろう。歪めた顔を見られないように俯けながら心の中でケッと毒を吐く。彼はイーディスにとってリガロよりも厄介な相手なのだ。なるべく関わらないようにしようと心に決め、式が終わるのを待った。
「悪いが先に馬車まで戻っていてくれないか?」
式が終わるや否や立ち上がったリガロはそわそわとしている。身体の方向は出口とは別の方向を向いており、その先には特待生達の座席がある。壇上で挨拶をした王子様もその辺りに座っているのだが、イーディスには彼に挨拶に行くとは思えなかった。なにせヒロインとリガロの初対面イベントは入学式後に起こるのだから。
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