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三章
6.魔法道具
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二人でグッと悲しみをこらえていれば、キースは不思議そうに首を傾げた。
「そんなに何冊も魔法道具が題材となった本があるのか? あんな物騒なものをテーマにすれば禁書認定を受けそうなものだが……」
彼が不思議がるのも無理はない。この世界での魔法道具は危険物の一種なのだ。前世の創作物の中にも頻繁に登場していた魔法道具の多くは魔石や魔物のドロップアイテムを使用したり、魔法を使える者が魔力を込めて作成する。だがこの世界の魔法道具は魔界から溢れ出した魔素が物質と結合することで『発生』する。魔法道具が暴走すると、村一つが消滅したり、精神を乗っ取られてしまうのである。とはいえ魔法道具の発生は一番新しいもので数百年前。文献もほとんど残っておらず、実際人間にどれほどの危険を及ぼすのかは定かではない。
「どちらの本に出てくる魔法道具も危険なものではないのです。舞台が魔法が人々に浸透している世界で、この世界でいうところの冷蔵庫やオーブンみたいなものですね」
「空想物の一種として扱っているのか。それでなぜそこからどうして地層学に繋がるんだ?」
「この世界の魔法道具を調べているうちにカルドレット特別領についての文献を見つけまして、そこから」
カルドレッド特別領とはどの国にも属さぬ唯一の領土である。大きさはこの学園の五倍ほどと領地としてはさほど大きなものではないが、地層がやや特殊なのだ。他の場所では見られないほど多くの魔素を地面に含んでおり、大気中には魔素が充満しているとされる。数十年に一度、数キロ単位で拡大していくかの領だが、過去に魔法道具が発生したという報告はなく、各国が研究者を送り込んで解明を進めているという。乙女ゲームでも名前は登場するものの、謎の場所として処理されていただけだった。友人は近々発売予定のファンディスクで触れられるのではないか? と話していたが、今のイーディスにはそれを確かめる手段はない。
「なるほどな。地質学ならちょうど俺も取ろうと思っていたところだ」
「キース様も?」
「この学園の地質学担当教諭はこの道では有名な学者でな、父からもしっかりと学んでくるように言われている」
「? お義父様は地質に詳しい方ですの?」
「え、あ、ああ。実は地層マニアでな」
キースの目は泳いでおり、妙に歯切れが悪い。ギルバート家は魔界へのゲートを管理する一族であり、かの領もまた他の場所と異なる地層を持つ土地がいくつか存在する。だが一般に知られているのはゲートがあるということだけ。イーディスが少しだけ多くの情報を知っているのも乙女ゲーム知識があってこそだが、この様子だとマリアにもあまり情報が与えられていないようだ。怪しい。じいっと彼を見つめれば「そういえばこちらの授業も受けてこいと言われていたな~」とあからさまに話を逸らし始めた。よほど触れて欲しくない話題らしい。悪い人ではないだろうし、何かあったときは彼がマリアを守ってくれるだろう。小さくため息を吐き、イーディスは話に乗ってやることにした。
「畜産業ですか。ギルバート領はこの数年で酪農に力を入れているとか」
「あ、ああ! 乳製品、特にチーズの生産を強化しようと思っていてな!」
「私、チーズ大好きですの!」
マリアの興味はチーズに移ると、キースはホッとしたように胸をなで下ろした。そこから再び授業選択へと話が戻り、リガロがやって来る頃には三人で受講科目は決め終えていた。
「マリア嬢がいて良かったな」
二人と別れ、馬車に乗り込むとリガロは笑みを浮かべながらそう切り出した。表情の割に声がやや低い気がするのは気疲れでもしているのだろうか。彼とは正反対に水を得た魚のように元気いっぱいのイーディスは、両手を組みながら明日からの学園生活に思いを馳せる。少しでも色のついた学生生活はイーディスの気分を大幅に向上させてくれた。前世のように帰り道に買い食いなんてマネは出来ないが、休み時間の読書談義くらいは出来そうだ。
「そんなに何冊も魔法道具が題材となった本があるのか? あんな物騒なものをテーマにすれば禁書認定を受けそうなものだが……」
彼が不思議がるのも無理はない。この世界での魔法道具は危険物の一種なのだ。前世の創作物の中にも頻繁に登場していた魔法道具の多くは魔石や魔物のドロップアイテムを使用したり、魔法を使える者が魔力を込めて作成する。だがこの世界の魔法道具は魔界から溢れ出した魔素が物質と結合することで『発生』する。魔法道具が暴走すると、村一つが消滅したり、精神を乗っ取られてしまうのである。とはいえ魔法道具の発生は一番新しいもので数百年前。文献もほとんど残っておらず、実際人間にどれほどの危険を及ぼすのかは定かではない。
「どちらの本に出てくる魔法道具も危険なものではないのです。舞台が魔法が人々に浸透している世界で、この世界でいうところの冷蔵庫やオーブンみたいなものですね」
「空想物の一種として扱っているのか。それでなぜそこからどうして地層学に繋がるんだ?」
「この世界の魔法道具を調べているうちにカルドレット特別領についての文献を見つけまして、そこから」
カルドレッド特別領とはどの国にも属さぬ唯一の領土である。大きさはこの学園の五倍ほどと領地としてはさほど大きなものではないが、地層がやや特殊なのだ。他の場所では見られないほど多くの魔素を地面に含んでおり、大気中には魔素が充満しているとされる。数十年に一度、数キロ単位で拡大していくかの領だが、過去に魔法道具が発生したという報告はなく、各国が研究者を送り込んで解明を進めているという。乙女ゲームでも名前は登場するものの、謎の場所として処理されていただけだった。友人は近々発売予定のファンディスクで触れられるのではないか? と話していたが、今のイーディスにはそれを確かめる手段はない。
「なるほどな。地質学ならちょうど俺も取ろうと思っていたところだ」
「キース様も?」
「この学園の地質学担当教諭はこの道では有名な学者でな、父からもしっかりと学んでくるように言われている」
「? お義父様は地質に詳しい方ですの?」
「え、あ、ああ。実は地層マニアでな」
キースの目は泳いでおり、妙に歯切れが悪い。ギルバート家は魔界へのゲートを管理する一族であり、かの領もまた他の場所と異なる地層を持つ土地がいくつか存在する。だが一般に知られているのはゲートがあるということだけ。イーディスが少しだけ多くの情報を知っているのも乙女ゲーム知識があってこそだが、この様子だとマリアにもあまり情報が与えられていないようだ。怪しい。じいっと彼を見つめれば「そういえばこちらの授業も受けてこいと言われていたな~」とあからさまに話を逸らし始めた。よほど触れて欲しくない話題らしい。悪い人ではないだろうし、何かあったときは彼がマリアを守ってくれるだろう。小さくため息を吐き、イーディスは話に乗ってやることにした。
「畜産業ですか。ギルバート領はこの数年で酪農に力を入れているとか」
「あ、ああ! 乳製品、特にチーズの生産を強化しようと思っていてな!」
「私、チーズ大好きですの!」
マリアの興味はチーズに移ると、キースはホッとしたように胸をなで下ろした。そこから再び授業選択へと話が戻り、リガロがやって来る頃には三人で受講科目は決め終えていた。
「マリア嬢がいて良かったな」
二人と別れ、馬車に乗り込むとリガロは笑みを浮かべながらそう切り出した。表情の割に声がやや低い気がするのは気疲れでもしているのだろうか。彼とは正反対に水を得た魚のように元気いっぱいのイーディスは、両手を組みながら明日からの学園生活に思いを馳せる。少しでも色のついた学生生活はイーディスの気分を大幅に向上させてくれた。前世のように帰り道に買い食いなんてマネは出来ないが、休み時間の読書談義くらいは出来そうだ。
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