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番外編
メリーズと写真②
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「アルガ様はそれでいいんですか?」
俯いて声を震わせるメリーズに、アルガはあっけらんかんと答えた。
「俺が好きでやってることだ、気にするな」
「でも私はアルガ様のして欲しいこととか何も出来ていないですし」
「甲斐甲斐しく世話を焼いてくるメリーズなんて想像しただけで気持ち悪いから、そのままでいてくれ」
「それは酷すぎませんか!?」
夢の中のメリーズは研究に熱中するアルガの世話を焼いていた。目の下にクマを作る彼を強引に寝かせ、手作りのサンドイッチを持ち込んで、生活改善に努め、そこから関係を進展させーー。家族がなくなったメリーズにとってアルガは放っておけない存在だったのだ。現実は真逆の関係となっているが、サンドイッチくらい作れる。いや、サンドイッチどころか料理のレパートリーだって決して少なくはない。繕いものだって出来るし、洗濯もお手の物だ。……どれもアルガが率先してやってくれるため、披露する機会が全くないのだが。現状、出来るくせに全て相手に押しつけて自分は趣味に没頭している。そう考えると途端に自分が最低な人間のように思えてきた。今さらやろうとしても気持ちが悪いと言われても仕方ないのではないか。
癒やしの聖女の力を使うには男女同士の信頼が必須。アルガがいなければ力を使うことも出来ないので、共に行動する必要もある。だから彼はメリーズと結婚し、側にいてくれている。だが平民とは違い、貴族が愛人を作ることは珍しくない。癒やしの力が正常に機能しなくなることを恐れて今までの聖女とそのパートナーは他に相手を作らなかったが、今からでも癒やしの聖女のシステムの抜け穴を見つけるべきか。
アルガと過ごす時間が減ってしまうのは寂しいが、仕事上のパートナーをこれ以上拘束するのもよくない。
「私、少しずつ頑張りますから」
像の生産があるのですぐは難しいかもしれないが、少しずつ生活力を見せていけば彼も安心してくれるのではないか。初めの目標は夜更かしをしないことと、食事をしっかり取ること。……まぁ頑張ればいけるだろう。こんな時に努力しなければパートナーとして信頼を築き続けることすら難しい。最悪アルガの前だけ実行して、後はごまかせばなんとかなる。いや、なんとかせねばならないのだ。
アルガの幸せのために。
カップを掴む手に自然と力が入る。表情を隠そうとしてカップを傾けてから中身がないことに気付いた。小さくため息を吐けば、アルガがひょいっと取り上げる。
「今日はもう休め。そんなに力が入っても怪我するだけだろ」
「あ、いえそっちじゃなくて」
「?」
「家事、とか」
「そのままでいいだろ」
「でも!」
それでは今と何も変わらない。誰かを犠牲にしてどうにかしようとしたところでいつか破綻する。誰かが影で苦しんでいるのに知らない振りをして笑い続けることの愚かさを、メリーズは理解しているつもりだ。慈愛の聖女と剣聖はどちらも人々を守るために犠牲となった人達だから。今代の、マリアとリガロは良き理解者を見つけた。だが迷惑をかけてばかりのアルガにとっての理解者になれる気がしない。足を引っ張って沼に引き釣り込んでいるだけだろろう。
笑っていて欲しいのに。
幸せになって欲しいのに。
なぜその気持ちを声にのせられないのだろう。胸がじくじくと痛む。
「無理に変わろうとしなくていい。俺が惚れた奴は前だけ見て爆走する女だ。これからも好きなことをすればいい」
「え、惚れたって、嘘……。そんな素振り一度も!」
「好きでもない女の健康管理するほど俺は優しくない」
アルガは優しいからメリーズのために嘘を吐いているのだろう。面倒臭いから、早くベッドに突っ込むために適当に流しているだけかもしれない。そうでなければこんな告白じみた爆弾発言を顔色一つ変えずに言えるはずがない。きっとそうだ。そうに違いない。そう思うのに、なぜこんなに嬉しくてたまらないのだろう。
「……私、布教ついでに癒やしの聖女としての活動を行うような女ですよ?」
「これから先ずっと癒やしの聖女と呼ばれて、望まれるんだ。長い旅の最中に楽しみが一つくらいあってもいいんじゃないか?」
「旅先で良い木材が見つかったら飛びつきます」
「俺も最近目利きが得意になってきた」
「休みの日にカルドレッドに行こうとか言い出しますし」
「マルクに日程調整頼んでいるのは俺だから気にするな」
「いつの間に!?」
「メリーズが像を彫っている間に俺はいつも報告書を書いている」
「……ごめんなさい」
これがウソでも、もう手が離せそうにない。
変な女が捕まえてしまってごめんなさい。
「そんなどうでもいいこと気にするなんて今日なんかおかしいぞ?」
「どうでもいいことって……」
「どれも今さらだろ。疲れているなら今日はもう寝ろ」
アルガはため息を吐いて、メリーズの手を引く。行先は寝室。今日も布団に突っ込まれるのだろう。残りの作業は後日になりそうだ。明日、疲れが残っていたら例の苦い薬を用意されてしまう。だから今日は素直に眠るしかないのだが……眠れる気がしない。
俯いて声を震わせるメリーズに、アルガはあっけらんかんと答えた。
「俺が好きでやってることだ、気にするな」
「でも私はアルガ様のして欲しいこととか何も出来ていないですし」
「甲斐甲斐しく世話を焼いてくるメリーズなんて想像しただけで気持ち悪いから、そのままでいてくれ」
「それは酷すぎませんか!?」
夢の中のメリーズは研究に熱中するアルガの世話を焼いていた。目の下にクマを作る彼を強引に寝かせ、手作りのサンドイッチを持ち込んで、生活改善に努め、そこから関係を進展させーー。家族がなくなったメリーズにとってアルガは放っておけない存在だったのだ。現実は真逆の関係となっているが、サンドイッチくらい作れる。いや、サンドイッチどころか料理のレパートリーだって決して少なくはない。繕いものだって出来るし、洗濯もお手の物だ。……どれもアルガが率先してやってくれるため、披露する機会が全くないのだが。現状、出来るくせに全て相手に押しつけて自分は趣味に没頭している。そう考えると途端に自分が最低な人間のように思えてきた。今さらやろうとしても気持ちが悪いと言われても仕方ないのではないか。
癒やしの聖女の力を使うには男女同士の信頼が必須。アルガがいなければ力を使うことも出来ないので、共に行動する必要もある。だから彼はメリーズと結婚し、側にいてくれている。だが平民とは違い、貴族が愛人を作ることは珍しくない。癒やしの力が正常に機能しなくなることを恐れて今までの聖女とそのパートナーは他に相手を作らなかったが、今からでも癒やしの聖女のシステムの抜け穴を見つけるべきか。
アルガと過ごす時間が減ってしまうのは寂しいが、仕事上のパートナーをこれ以上拘束するのもよくない。
「私、少しずつ頑張りますから」
像の生産があるのですぐは難しいかもしれないが、少しずつ生活力を見せていけば彼も安心してくれるのではないか。初めの目標は夜更かしをしないことと、食事をしっかり取ること。……まぁ頑張ればいけるだろう。こんな時に努力しなければパートナーとして信頼を築き続けることすら難しい。最悪アルガの前だけ実行して、後はごまかせばなんとかなる。いや、なんとかせねばならないのだ。
アルガの幸せのために。
カップを掴む手に自然と力が入る。表情を隠そうとしてカップを傾けてから中身がないことに気付いた。小さくため息を吐けば、アルガがひょいっと取り上げる。
「今日はもう休め。そんなに力が入っても怪我するだけだろ」
「あ、いえそっちじゃなくて」
「?」
「家事、とか」
「そのままでいいだろ」
「でも!」
それでは今と何も変わらない。誰かを犠牲にしてどうにかしようとしたところでいつか破綻する。誰かが影で苦しんでいるのに知らない振りをして笑い続けることの愚かさを、メリーズは理解しているつもりだ。慈愛の聖女と剣聖はどちらも人々を守るために犠牲となった人達だから。今代の、マリアとリガロは良き理解者を見つけた。だが迷惑をかけてばかりのアルガにとっての理解者になれる気がしない。足を引っ張って沼に引き釣り込んでいるだけだろろう。
笑っていて欲しいのに。
幸せになって欲しいのに。
なぜその気持ちを声にのせられないのだろう。胸がじくじくと痛む。
「無理に変わろうとしなくていい。俺が惚れた奴は前だけ見て爆走する女だ。これからも好きなことをすればいい」
「え、惚れたって、嘘……。そんな素振り一度も!」
「好きでもない女の健康管理するほど俺は優しくない」
アルガは優しいからメリーズのために嘘を吐いているのだろう。面倒臭いから、早くベッドに突っ込むために適当に流しているだけかもしれない。そうでなければこんな告白じみた爆弾発言を顔色一つ変えずに言えるはずがない。きっとそうだ。そうに違いない。そう思うのに、なぜこんなに嬉しくてたまらないのだろう。
「……私、布教ついでに癒やしの聖女としての活動を行うような女ですよ?」
「これから先ずっと癒やしの聖女と呼ばれて、望まれるんだ。長い旅の最中に楽しみが一つくらいあってもいいんじゃないか?」
「旅先で良い木材が見つかったら飛びつきます」
「俺も最近目利きが得意になってきた」
「休みの日にカルドレッドに行こうとか言い出しますし」
「マルクに日程調整頼んでいるのは俺だから気にするな」
「いつの間に!?」
「メリーズが像を彫っている間に俺はいつも報告書を書いている」
「……ごめんなさい」
これがウソでも、もう手が離せそうにない。
変な女が捕まえてしまってごめんなさい。
「そんなどうでもいいこと気にするなんて今日なんかおかしいぞ?」
「どうでもいいことって……」
「どれも今さらだろ。疲れているなら今日はもう寝ろ」
アルガはため息を吐いて、メリーズの手を引く。行先は寝室。今日も布団に突っ込まれるのだろう。残りの作業は後日になりそうだ。明日、疲れが残っていたら例の苦い薬を用意されてしまう。だから今日は素直に眠るしかないのだが……眠れる気がしない。
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