4 / 59
4.天空城の姫を守るガーディアンは少しやりすぎた
しおりを挟む
「『ガーディアン』だよ。ちなみにキャサリンは『天空城の姫』」
「なにそれ」
「自分よりも弱い男に姉を渡すつもりはないからって次々に男達をのしているんだってね。キャサリンは今や強すぎる騎士に守られてとても手が届かない存在になりつつある」
「……もしかして私、やりすぎた?」
「騎士団入りを断っているのも病弱な姉を守るためで、初回以降優勝していないのは姉から引き離されないようにするためじゃないかってお茶会で噂になってる」
だってまだ結婚したらマズいと思って……。
特に私に挑んでくる相手は鍛錬場に頻繁に出入りしている脳筋連中である。それも目の前で叩きのめされているのを見ても歓声を上げて、次は自分だと勇んでくるような筋金入りの。
今のところ鍛錬場で挑んできた男達は皆、騎士団入りが確定とされているので出世間違いなしの優良物件といえばそうなのだが、こちらとしてはお断りである。何かの拍子で入れ替わりがバレそうで怖いというのもある。
だが冷静になって倒した人数を数えれば、三十を越えている。
それに加えて、手紙でやりとりしている貴族は別にいるので、やりすぎたのは確実。
「……ごめん」
肩を落として謝罪すれば、クアラはあっさりと私の暴走を許してくれた。
「それ自体はいいの。僕がいつまで経っても兄さんから一本も取れないのが悪いんだもん。元々入れ替わった理由だって僕のせいだし」
「クアラは悪くないわ!」
「ありがとう、姉さん。それに騒がれる理由は学園に入学しなかったからっていうのもあるだろうし」
「え、まだその件引きずっているの? 社交界って話題ないの?」
「それだけ僕たちとお近づきになりたかったってことでしょう」
学園入学義務があるのは、貴族の中でも次期当主となる者のみ。
それ以外の子どもは入学してもしなくても良い決まりになっている。我が家だと兄さんには入学義務があるが、私やクアラにはない。
なので入学しなくともルール違反ではないのだが、大抵の令嬢・令息は学園に入学する。
入学しない子どもは妾の子どもだとか、家督争いが熾烈な家系だとかで、入学をしないことで家を継ぐ権利を放棄したと示すことが目的だったりする。
そんな裏事情など一切ないバルバトルの双子が入学しなかったことは一時社交界を騒がせた。が、もう二年以上も前のことだ。
父さんも直前までいいのか? と何度も繰り返し聞いてくれたが、二人で話し合って『入学しない』という決断をした。後悔はない。多分、クアラも同じだ。
あと一回で剣術大会の参加義務もなくなる。
騎士団への入隊を断った『クアラ』はその大会を最後に公の場で剣を抜くことはなくなる。そしてそのタイミングで『キャサリン』がいなくなることを恐れているのだろう。
二人揃って親戚以外と深く関わるようなことはしなかったから。
「アイゼン様との顔合わせが上手く進んで入れ替わりが解消できたら、僕は姉さんを守っているフリをするから、何かあったら姉さんは適当に逃げてね」
「守ってはくれないのね」
「だって姉さんの方が強いじゃない。僕じゃ姉さんのガーディアンどころか盾にすらなれないよ~」
口に手を当てながらふふふと笑うクアラは女性的で、面倒くさいけど仕方ないと頭を掻く私はやはり彼のようにはなれそうもないと改めて実感するのだった。
アイゼン様に手紙を出せば、トントン拍子に話が進んだ。
そしてアイゼン様が鍛錬場にやってきた十日後、彼のお屋敷に招待されることになった。
「男性が苦手だって話を断り続けている女性をいきなり家に招待ってどうなの?」
「『キャサリン』もアイゼン様も目立つから仕方ないよ。それに姉さんにとっても初めから多くの人目に晒されるよりもいいんじゃない?」
「まぁそうだけど……。ねぇ、このドレスいろいろビラビラ付きすぎじゃない? 張り切っているって思われない?」
「ビラビラって……。それくらい普通だって」
今日の私はよそ行きドレススタイルである。
この二年間でドレスを着る回数が増えたとはいえ、正直慣れない。
屋敷で過ごす時のドレスは動きやすいよう、足下の辺りを工夫したデザインになっている。
パンツスタイルの時と比べれば動きやすさは劣るが、それでも簡単な鍛錬くらいなら問題なく行える。ダッシュも歩幅に注意すればいけなくもない。なのでとても気に入っている。
だが他の令嬢が着るようなドレスとは見た目が違うため、外に着ていくことは難しい。ましてやキャサリンとして会うならなおのこと。
久々の『ちゃんとした』女性用ドレスを着ることになった私は、朝から落ち着かずに何度もクアラに確認する。
「でも私が着るのはいつもこんなについてないし」
「それは姉さんが嫌だって毎回レースとかフリルを拒否するからだよ。僕がこの前夜会に着ていっている服なんて小さな宝石を散らしてあったんだから」
「宝石ってドレスにつけるものなの? ネックレスとか指輪があるのに、さらに? え、なんのために? 威嚇?」
「今の流行なの。宝石っていってもアクセサリーに加工出来るようなサイズはない石を使っていて、キラキラ光って綺麗なんだよ」
「ふ~ん」
宝石なんて首から一個提げとけば十分じゃないか。
元々ドレスやらアクセサリーやらに興味はない私にご令嬢の流行はよく分からない。一応、今回の顔合わせのためにいつもよりもしっかりめに知識を詰め込んだが、共感出来るポイントはほとんどなかった。
このレースがふんだんに使われたドレスもそう。
そういうものだと受け入れはするが、好きにはなれない。動きにくくてしょうがない。
「なにそれ」
「自分よりも弱い男に姉を渡すつもりはないからって次々に男達をのしているんだってね。キャサリンは今や強すぎる騎士に守られてとても手が届かない存在になりつつある」
「……もしかして私、やりすぎた?」
「騎士団入りを断っているのも病弱な姉を守るためで、初回以降優勝していないのは姉から引き離されないようにするためじゃないかってお茶会で噂になってる」
だってまだ結婚したらマズいと思って……。
特に私に挑んでくる相手は鍛錬場に頻繁に出入りしている脳筋連中である。それも目の前で叩きのめされているのを見ても歓声を上げて、次は自分だと勇んでくるような筋金入りの。
今のところ鍛錬場で挑んできた男達は皆、騎士団入りが確定とされているので出世間違いなしの優良物件といえばそうなのだが、こちらとしてはお断りである。何かの拍子で入れ替わりがバレそうで怖いというのもある。
だが冷静になって倒した人数を数えれば、三十を越えている。
それに加えて、手紙でやりとりしている貴族は別にいるので、やりすぎたのは確実。
「……ごめん」
肩を落として謝罪すれば、クアラはあっさりと私の暴走を許してくれた。
「それ自体はいいの。僕がいつまで経っても兄さんから一本も取れないのが悪いんだもん。元々入れ替わった理由だって僕のせいだし」
「クアラは悪くないわ!」
「ありがとう、姉さん。それに騒がれる理由は学園に入学しなかったからっていうのもあるだろうし」
「え、まだその件引きずっているの? 社交界って話題ないの?」
「それだけ僕たちとお近づきになりたかったってことでしょう」
学園入学義務があるのは、貴族の中でも次期当主となる者のみ。
それ以外の子どもは入学してもしなくても良い決まりになっている。我が家だと兄さんには入学義務があるが、私やクアラにはない。
なので入学しなくともルール違反ではないのだが、大抵の令嬢・令息は学園に入学する。
入学しない子どもは妾の子どもだとか、家督争いが熾烈な家系だとかで、入学をしないことで家を継ぐ権利を放棄したと示すことが目的だったりする。
そんな裏事情など一切ないバルバトルの双子が入学しなかったことは一時社交界を騒がせた。が、もう二年以上も前のことだ。
父さんも直前までいいのか? と何度も繰り返し聞いてくれたが、二人で話し合って『入学しない』という決断をした。後悔はない。多分、クアラも同じだ。
あと一回で剣術大会の参加義務もなくなる。
騎士団への入隊を断った『クアラ』はその大会を最後に公の場で剣を抜くことはなくなる。そしてそのタイミングで『キャサリン』がいなくなることを恐れているのだろう。
二人揃って親戚以外と深く関わるようなことはしなかったから。
「アイゼン様との顔合わせが上手く進んで入れ替わりが解消できたら、僕は姉さんを守っているフリをするから、何かあったら姉さんは適当に逃げてね」
「守ってはくれないのね」
「だって姉さんの方が強いじゃない。僕じゃ姉さんのガーディアンどころか盾にすらなれないよ~」
口に手を当てながらふふふと笑うクアラは女性的で、面倒くさいけど仕方ないと頭を掻く私はやはり彼のようにはなれそうもないと改めて実感するのだった。
アイゼン様に手紙を出せば、トントン拍子に話が進んだ。
そしてアイゼン様が鍛錬場にやってきた十日後、彼のお屋敷に招待されることになった。
「男性が苦手だって話を断り続けている女性をいきなり家に招待ってどうなの?」
「『キャサリン』もアイゼン様も目立つから仕方ないよ。それに姉さんにとっても初めから多くの人目に晒されるよりもいいんじゃない?」
「まぁそうだけど……。ねぇ、このドレスいろいろビラビラ付きすぎじゃない? 張り切っているって思われない?」
「ビラビラって……。それくらい普通だって」
今日の私はよそ行きドレススタイルである。
この二年間でドレスを着る回数が増えたとはいえ、正直慣れない。
屋敷で過ごす時のドレスは動きやすいよう、足下の辺りを工夫したデザインになっている。
パンツスタイルの時と比べれば動きやすさは劣るが、それでも簡単な鍛錬くらいなら問題なく行える。ダッシュも歩幅に注意すればいけなくもない。なのでとても気に入っている。
だが他の令嬢が着るようなドレスとは見た目が違うため、外に着ていくことは難しい。ましてやキャサリンとして会うならなおのこと。
久々の『ちゃんとした』女性用ドレスを着ることになった私は、朝から落ち着かずに何度もクアラに確認する。
「でも私が着るのはいつもこんなについてないし」
「それは姉さんが嫌だって毎回レースとかフリルを拒否するからだよ。僕がこの前夜会に着ていっている服なんて小さな宝石を散らしてあったんだから」
「宝石ってドレスにつけるものなの? ネックレスとか指輪があるのに、さらに? え、なんのために? 威嚇?」
「今の流行なの。宝石っていってもアクセサリーに加工出来るようなサイズはない石を使っていて、キラキラ光って綺麗なんだよ」
「ふ~ん」
宝石なんて首から一個提げとけば十分じゃないか。
元々ドレスやらアクセサリーやらに興味はない私にご令嬢の流行はよく分からない。一応、今回の顔合わせのためにいつもよりもしっかりめに知識を詰め込んだが、共感出来るポイントはほとんどなかった。
このレースがふんだんに使われたドレスもそう。
そういうものだと受け入れはするが、好きにはなれない。動きにくくてしょうがない。
3
あなたにおすすめの小説
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております
さくら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。
深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。
しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!?
毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。
「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。
けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。
「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」
血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。
やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。
社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。
――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。
異世界で神の化身は至極最高に楽しむ。
三月べに
恋愛
「聖女じゃないわ。私はただ自分らしく、正直に、堂々と自由に、傍若無人に。至極最高に人生を楽しみたい旅人よ」
作家の火心(ひごころ)あいなは、不運にも死んだ。そんな彼女を気まぐれに選んだ神は頼む。とある魔法に溢れたファンタジーな異世界で自分の化身になってほしい、と。神と同等に近い能力を与えてもらうと引き換えに、作家という能力を失うがあいなはそれでもよかった。物語を書いていて憧れていた生き方をするために、あいなは生まれ変わる!
自由に旅をするアイナは、やがて夢の中で美しい青年と出会う。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる