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4.天空城の姫を守るガーディアンは少しやりすぎた

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「『ガーディアン』だよ。ちなみにキャサリンは『天空城の姫』」

「なにそれ」

「自分よりも弱い男に姉を渡すつもりはないからって次々に男達をのしているんだってね。キャサリンは今や強すぎる騎士に守られてとても手が届かない存在になりつつある」

「……もしかして私、やりすぎた?」

「騎士団入りを断っているのも病弱な姉を守るためで、初回以降優勝していないのは姉から引き離されないようにするためじゃないかってお茶会で噂になってる」



 だってまだ結婚したらマズいと思って……。

 特に私に挑んでくる相手は鍛錬場に頻繁に出入りしている脳筋連中である。それも目の前で叩きのめされているのを見ても歓声を上げて、次は自分だと勇んでくるような筋金入りの。



 今のところ鍛錬場で挑んできた男達は皆、騎士団入りが確定とされているので出世間違いなしの優良物件といえばそうなのだが、こちらとしてはお断りである。何かの拍子で入れ替わりがバレそうで怖いというのもある。



 だが冷静になって倒した人数を数えれば、三十を越えている。

 それに加えて、手紙でやりとりしている貴族は別にいるので、やりすぎたのは確実。



「……ごめん」

 肩を落として謝罪すれば、クアラはあっさりと私の暴走を許してくれた。

「それ自体はいいの。僕がいつまで経っても兄さんから一本も取れないのが悪いんだもん。元々入れ替わった理由だって僕のせいだし」

「クアラは悪くないわ!」

「ありがとう、姉さん。それに騒がれる理由は学園に入学しなかったからっていうのもあるだろうし」

「え、まだその件引きずっているの? 社交界って話題ないの?」

「それだけ僕たちとお近づきになりたかったってことでしょう」



 学園入学義務があるのは、貴族の中でも次期当主となる者のみ。

 それ以外の子どもは入学してもしなくても良い決まりになっている。我が家だと兄さんには入学義務があるが、私やクアラにはない。



 なので入学しなくともルール違反ではないのだが、大抵の令嬢・令息は学園に入学する。

 入学しない子どもは妾の子どもだとか、家督争いが熾烈な家系だとかで、入学をしないことで家を継ぐ権利を放棄したと示すことが目的だったりする。



 そんな裏事情など一切ないバルバトルの双子が入学しなかったことは一時社交界を騒がせた。が、もう二年以上も前のことだ。



 父さんも直前までいいのか? と何度も繰り返し聞いてくれたが、二人で話し合って『入学しない』という決断をした。後悔はない。多分、クアラも同じだ。



 あと一回で剣術大会の参加義務もなくなる。

 騎士団への入隊を断った『クアラ』はその大会を最後に公の場で剣を抜くことはなくなる。そしてそのタイミングで『キャサリン』がいなくなることを恐れているのだろう。



 二人揃って親戚以外と深く関わるようなことはしなかったから。



「アイゼン様との顔合わせが上手く進んで入れ替わりが解消できたら、僕は姉さんを守っているフリをするから、何かあったら姉さんは適当に逃げてね」

「守ってはくれないのね」

「だって姉さんの方が強いじゃない。僕じゃ姉さんのガーディアンどころか盾にすらなれないよ~」



 口に手を当てながらふふふと笑うクアラは女性的で、面倒くさいけど仕方ないと頭を掻く私はやはり彼のようにはなれそうもないと改めて実感するのだった。







 アイゼン様に手紙を出せば、トントン拍子に話が進んだ。

 そしてアイゼン様が鍛錬場にやってきた十日後、彼のお屋敷に招待されることになった。



「男性が苦手だって話を断り続けている女性をいきなり家に招待ってどうなの?」

「『キャサリン』もアイゼン様も目立つから仕方ないよ。それに姉さんにとっても初めから多くの人目に晒されるよりもいいんじゃない?」

「まぁそうだけど……。ねぇ、このドレスいろいろビラビラ付きすぎじゃない? 張り切っているって思われない?」

「ビラビラって……。それくらい普通だって」



 今日の私はよそ行きドレススタイルである。

 この二年間でドレスを着る回数が増えたとはいえ、正直慣れない。



 屋敷で過ごす時のドレスは動きやすいよう、足下の辺りを工夫したデザインになっている。

 パンツスタイルの時と比べれば動きやすさは劣るが、それでも簡単な鍛錬くらいなら問題なく行える。ダッシュも歩幅に注意すればいけなくもない。なのでとても気に入っている。



 だが他の令嬢が着るようなドレスとは見た目が違うため、外に着ていくことは難しい。ましてやキャサリンとして会うならなおのこと。



 久々の『ちゃんとした』女性用ドレスを着ることになった私は、朝から落ち着かずに何度もクアラに確認する。



「でも私が着るのはいつもこんなについてないし」

「それは姉さんが嫌だって毎回レースとかフリルを拒否するからだよ。僕がこの前夜会に着ていっている服なんて小さな宝石を散らしてあったんだから」

「宝石ってドレスにつけるものなの? ネックレスとか指輪があるのに、さらに? え、なんのために? 威嚇?」

「今の流行なの。宝石っていってもアクセサリーに加工出来るようなサイズはない石を使っていて、キラキラ光って綺麗なんだよ」

「ふ~ん」



 宝石なんて首から一個提げとけば十分じゃないか。

 元々ドレスやらアクセサリーやらに興味はない私にご令嬢の流行はよく分からない。一応、今回の顔合わせのためにいつもよりもしっかりめに知識を詰め込んだが、共感出来るポイントはほとんどなかった。



 このレースがふんだんに使われたドレスもそう。

 そういうものだと受け入れはするが、好きにはなれない。動きにくくてしょうがない。

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