姉弟で入れ替わって十一年、今日も私たちは元気です

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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14.会いたくない人

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「彼は真っ直ぐすぎるところがあるので、そこを突いたまでです。あのパワーで潰されていたら、私はその場で膝をついていたでしょう」

「私にはクアラ殿ほど短時間かつ的確に敵の弱点を見極めることは出来ない。もしもあなたが多くの剣士達の上に立ったなら、きっとこの国は今よりももっと強くなるのでしょうな……」

「そんなことは……」



 ない、と言い切れない。

 ビルド様のような教育は出来ずとも、指摘は出来る。少なくとも記憶に残っている数人は弱点さえどうにかすれば格段に強くなるだろう。



 だが私もクアラも人の上に立とうという気はさらさらない。兄さんも似たようなものだ。



 兄さんは強い。

 実力を出し切れば第一騎士団に入れると言われてはいるが、そもそもバルバトル家の嫡男として騎士団に属しているだけで本人に戦闘意欲はまるでない。



 兄さんの口癖は「俺には事務仕事が向いているんだよな~」であり、クアラが最後の大会を終えたタイミングで領地に引っ込もうともくろんでいる。一方で父さんは後数年で面倒な机仕事を息子に押しつけられると生き生きしていたりする。



 私の性格はどちらかと言えば父さん寄りだ。

 戦いたくない訳ではない。それでも私は騎士団に入るつもりはないし、このまま退くことへの異論もない。国を強くしたいという向上意欲もなく、ただただ好きなことをしていたいだけ。



 子どものワガママでしかないと理解しているから飲み込んで、欲されても拒むしかないのだ。



「クアラ殿、もう一度私と」

「よぉ、二人揃ってどうしたんだ? 俺の店に用事か?」

「親父さん!」



 真剣な面持ちのビルド様が紡ごうとした言葉は、外出中だったらしい武器屋の親父さんに阻まれた。



 これ幸いと大荷物の彼に駆け寄る。

 ビルド様は言葉を続けることはなく、代わりに小さく息を吐いた。



「カージス殿! お出かけでしたか」

「ああ、ちょっとアイゼンに付き添ってもらって材料採取にな。今、開けるから待ってろ」



 いつも通りの明るい声にホッとしたのも束の間、親父さんの後ろには今一番会いたくない人物の姿が見えた。



 アイゼン様だ。



 今日は非番なのか赤いマントを羽織っていない。

 だがあの日以上のプレッシャーが私に降り注ぐ。手元の剣は普段使いのものではなく、その上、調整が必要であることもこの場から逃げ出したい衝動を引き起こす要因の一つなのだろう。



 ドアを開けた親父さんに続いて、ビルド様も店の中に入っていく。二人に続いて店の中に入ってしまえば逃げられないことは分かっている。一刻も早く逃げ出したい。けれど道は他でもないアイゼン様に塞がれている。



「買い物か?」

「剣の調整をお願いしたくて」

「そうか。それが終わったら、少し時間をもらってもいいだろうか」

「……はい」



 どうしようかと迷っているうちに完全に道は塞がれてしまった。調整の時間をもらえただけラッキーと割り切れるほどの余裕はない。



 店に入り、親父さんに剣を渡してからも少しでも時間を引き延ばすために、テーピングを吟味する。



 けれど親父さんが「お前さんはこっちだろ」とひょひょいといつものセットを回収して、慣れた手つきで調整してくれる。いつもはありがたい親父さんのスピードが今日はとても恨めしい。



 ライドから頼まれたテーピングと一緒に調整分の支払いを終えると、背後にはすでにアイゼン様が控えていた。行きたくないが、親父さんとビルド様はすでに話し合いを始めており、時間を伸ばすことは不可能だった。





 武器屋からほど近い店に案内され、店の一番奥の個室へと通される。

 真っ黒い革張りの椅子は明らかに父さんが使っているものよりもすべすべで、出されたカップはクアラや母さんが目を輝かせて喜びそうなほど装飾が凝っている。コーヒーの味も多分美味しいのだろう。出された直後に勧められて少し口を付けたが味なんて分かるはずがない。



「突然の申し出、受けて頂き感謝する」

「いえ、それでお話とは」

「先日はキャサリン嬢に大変不快な思いをさせてしまった。クアラ殿もすでにご存じかもしれないが、あの日、俺はキャサリン嬢を妻として迎える代わりにあなたの騎士団入りを要求した。俺の言葉はあなたたち双子の個を否定する行為であると後日気づき、文面での謝罪だけではなく今日改めて謝罪させて頂きたいと思い、お呼びした。本当に申し訳なかった」

「はぁ」



 敵対するつもりはないとの意思表示と受け取って良いのだろうか。ここしばらく構えていただけに拍子抜けである。



 そんな謝罪をするためだけにここに呼んだのかと思うと、ついふぬけた声まで出てしまった。



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