15 / 59
15.衝撃の告白と名前の知らぬ想い
しおりを挟む
「それで、その……謝罪をした直後にこんなことを言うのはとても厚かましいと思うのだが、もう一度、彼女に会わせてはもらえないだろうか」
なるほど、こちらが本題か。
前回はテンパって変なことを言ってしまったがやり直したいのだろう。
さすがに虫が良すぎる。
それに条件付きどうのこうのをとりあえず後回しにして、キャサリンを手に入れてから動く作戦にシフトしただけかもしれない。
言葉を濁しながらも明確な拒否を伝える。
「いくらアイゼン様でもそれは……」
だがそれはそれとして、なぜそこまでキャサリンを手に入れることにこだわろうとするのかは気になる。
「なぜもう一度姉と会おうと思ったのでしょう? 謝罪のことなら私の方から姉に伝えますが」
彼は先ほど『あなたの騎士団入りを要求した』とはっきり告げている。もう隠す理由がない。
ならば次に出るのはキャサリンともう一度会うことよりも、騎士団入りの話を持ってくる方が自然な流れと言えるだろう。何かあるのか。
まさか本当にキャサリンに惚れていて?
理由次第ではここで強くNOと提示する必要がある。
今から告げられる言葉が真実か偽りかを見極めるために彼を真っ直ぐと見つめる。
けれどアイゼン様の口から飛び出した言葉は予想もしていないものだった。
「あの日から彼女が頭から離れないんだ」
「は?」
「クアラ殿にキャサリン嬢を紹介して欲しいと頼んだのは、あなたともう一度戦うためだった。こんなことを言っては失礼に当たると思うが、正直、彼女自身に興味などなかったんだ」
「ではなぜ」
「あの日の彼女は表情がよく動いて、まるでクアラ殿みたいだった」
「私、ですか? 姉と私は別人ですよ」
もしかしてあの日屋敷に行ったのが私ってバレている!?
いや、だが表情がよく動くのはクアラだって同じである。むしろあの子の方が私よりも感情表現が豊かで、考えが顔に出やすいタイプだ。
外ではしっかり取り繕っていると言っていたが、私が見ている時はいつも朗らかに笑っていたし、おかしなことなんてなかったはずだ。
それで入れ替わりに気付かれるはずがない。
そう、きっと大丈夫と自分に言い聞かせ、なんとか平静を保つ。
「ああ分かっている。初めは似ているからだと思っていた。だが、違ったんだ。確かにきっかけは顔だったが、今の俺は彼女に興味がある。クアラ殿と戦うための口実なんかではなく、彼女自身と会って話したいと、彼女の特別になりたいと思った」
「それはつまり」
「キャサリン嬢に結婚を申し込みたいと思っている。もちろん、クアラ殿と戦いたい・騎士団入りして欲しいという欲がなくなった訳ではないが、それと同じくらい彼女を求めている」
「で、ですが、姉がアイゼン様と話したのはたった半刻も満たない時間だと聞いています。そんな短時間で相手への思いは変わるものでしょうか?」
「従兄弟が言うには、恋なんてそんなものだと。俺は今まで強さでしか人を判断してこなかったし、弱き者には興味すらなかった。だからこれが恋という感情かどうか見分ける手段を持たない。だが人の思いを変えるのに一瞬もあれば十分だということはもうずっと前にこの身で理解している。だから、頼む。もう一度キャサリン嬢に会わせて欲しい」
アイゼン様としては、シスコンな弟になんとか協力してもらおうと打ち明けているのだろう。目的を達成するために適当な嘘を吐いているようには見えない。
だが彼が惹かれたと話している相手はクアラ演じるキャサリンではなく、今し方クアラの格好をしている私である。
彼もまさかあの日のキャサリンが私なんて思ってもいないようで、頼む! と頭を下げて頼み込んでくる。
クアラとして求められたことは何度もある。
剣の腕を見込まれて男性達から求められたし、優良物件の一人として女性達からアプローチもされた。
けれどどちらもクアラとして、男性としてだった。女性として求められるのは初めてなのだ。
美人でおしとやかなクアラではなく、なぜ私なんだろう?
剣の腕だって見せていないし、たったあれだけの会話で分かることなんてないだろう。
少し前までふざけるな! って本気で思っていた相手に謝罪されて、心の内を打ち明けられただけ。
そう、思うのに、思いも寄らぬ方向からの熱烈な告白に胸を打たれる。
心臓はバクバクと脈打ち、目の前にいるアイゼン様に聞こえてしまわないかとヒヤヒヤしている。
この胸の高鳴りの正体を私は知らない。
初めてのことに戸惑っているだけかもしれないし、もしかしたら……。
幼い頃から剣を振ってばかりで、クアラや母さんの勧める恋愛小説を拒んでいた私には、正解を導き出す公式が浮かばない。だから赤く染まった顔をごまかすように撤退宣言をする。
「あ、姉と相談させてください」
「クアラ殿!」
「姉が拒んだ時は遠慮なく断らせて頂きますからね!」
「検討してもらえるだけでありがたい」
「あと、私は騎士団に入りませんから!」
言いたいことだけ告げて、逃げるように店を後にした。
店を出てからも顔の赤みは引かなくて、手芸屋の店長さんには「風邪かい?」なんて心配されてしまった。
なるほど、こちらが本題か。
前回はテンパって変なことを言ってしまったがやり直したいのだろう。
さすがに虫が良すぎる。
それに条件付きどうのこうのをとりあえず後回しにして、キャサリンを手に入れてから動く作戦にシフトしただけかもしれない。
言葉を濁しながらも明確な拒否を伝える。
「いくらアイゼン様でもそれは……」
だがそれはそれとして、なぜそこまでキャサリンを手に入れることにこだわろうとするのかは気になる。
「なぜもう一度姉と会おうと思ったのでしょう? 謝罪のことなら私の方から姉に伝えますが」
彼は先ほど『あなたの騎士団入りを要求した』とはっきり告げている。もう隠す理由がない。
ならば次に出るのはキャサリンともう一度会うことよりも、騎士団入りの話を持ってくる方が自然な流れと言えるだろう。何かあるのか。
まさか本当にキャサリンに惚れていて?
理由次第ではここで強くNOと提示する必要がある。
今から告げられる言葉が真実か偽りかを見極めるために彼を真っ直ぐと見つめる。
けれどアイゼン様の口から飛び出した言葉は予想もしていないものだった。
「あの日から彼女が頭から離れないんだ」
「は?」
「クアラ殿にキャサリン嬢を紹介して欲しいと頼んだのは、あなたともう一度戦うためだった。こんなことを言っては失礼に当たると思うが、正直、彼女自身に興味などなかったんだ」
「ではなぜ」
「あの日の彼女は表情がよく動いて、まるでクアラ殿みたいだった」
「私、ですか? 姉と私は別人ですよ」
もしかしてあの日屋敷に行ったのが私ってバレている!?
いや、だが表情がよく動くのはクアラだって同じである。むしろあの子の方が私よりも感情表現が豊かで、考えが顔に出やすいタイプだ。
外ではしっかり取り繕っていると言っていたが、私が見ている時はいつも朗らかに笑っていたし、おかしなことなんてなかったはずだ。
それで入れ替わりに気付かれるはずがない。
そう、きっと大丈夫と自分に言い聞かせ、なんとか平静を保つ。
「ああ分かっている。初めは似ているからだと思っていた。だが、違ったんだ。確かにきっかけは顔だったが、今の俺は彼女に興味がある。クアラ殿と戦うための口実なんかではなく、彼女自身と会って話したいと、彼女の特別になりたいと思った」
「それはつまり」
「キャサリン嬢に結婚を申し込みたいと思っている。もちろん、クアラ殿と戦いたい・騎士団入りして欲しいという欲がなくなった訳ではないが、それと同じくらい彼女を求めている」
「で、ですが、姉がアイゼン様と話したのはたった半刻も満たない時間だと聞いています。そんな短時間で相手への思いは変わるものでしょうか?」
「従兄弟が言うには、恋なんてそんなものだと。俺は今まで強さでしか人を判断してこなかったし、弱き者には興味すらなかった。だからこれが恋という感情かどうか見分ける手段を持たない。だが人の思いを変えるのに一瞬もあれば十分だということはもうずっと前にこの身で理解している。だから、頼む。もう一度キャサリン嬢に会わせて欲しい」
アイゼン様としては、シスコンな弟になんとか協力してもらおうと打ち明けているのだろう。目的を達成するために適当な嘘を吐いているようには見えない。
だが彼が惹かれたと話している相手はクアラ演じるキャサリンではなく、今し方クアラの格好をしている私である。
彼もまさかあの日のキャサリンが私なんて思ってもいないようで、頼む! と頭を下げて頼み込んでくる。
クアラとして求められたことは何度もある。
剣の腕を見込まれて男性達から求められたし、優良物件の一人として女性達からアプローチもされた。
けれどどちらもクアラとして、男性としてだった。女性として求められるのは初めてなのだ。
美人でおしとやかなクアラではなく、なぜ私なんだろう?
剣の腕だって見せていないし、たったあれだけの会話で分かることなんてないだろう。
少し前までふざけるな! って本気で思っていた相手に謝罪されて、心の内を打ち明けられただけ。
そう、思うのに、思いも寄らぬ方向からの熱烈な告白に胸を打たれる。
心臓はバクバクと脈打ち、目の前にいるアイゼン様に聞こえてしまわないかとヒヤヒヤしている。
この胸の高鳴りの正体を私は知らない。
初めてのことに戸惑っているだけかもしれないし、もしかしたら……。
幼い頃から剣を振ってばかりで、クアラや母さんの勧める恋愛小説を拒んでいた私には、正解を導き出す公式が浮かばない。だから赤く染まった顔をごまかすように撤退宣言をする。
「あ、姉と相談させてください」
「クアラ殿!」
「姉が拒んだ時は遠慮なく断らせて頂きますからね!」
「検討してもらえるだけでありがたい」
「あと、私は騎士団に入りませんから!」
言いたいことだけ告げて、逃げるように店を後にした。
店を出てからも顔の赤みは引かなくて、手芸屋の店長さんには「風邪かい?」なんて心配されてしまった。
2
あなたにおすすめの小説
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さくら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる