姉弟で入れ替わって十一年、今日も私たちは元気です

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54.ドラゴンの傷

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 魔物は騎士達に任せ、私達はゲートを破壊して回る。
 初めは何をしているんだ?  と不審がられたが、口で言うより実際に見せたほうが早い。
 いくつも壊していけば彼らもゲートが破壊出来るものだと理解してくれたらしい。手が空いた人もゲートの破壊に協力してくれるようになった。


 そのおかげで会場内の魔物も一掃し終えてもドラゴンは前足と少し出た程度。
 動きだす様子はない。動けるようになるまでまだ時間があるのだろう。今のうちに少しでも多くのダメージを貯めとかなければ。

 会場内に散らばっていた騎士達は皆、ドラゴンの足元に集まって剣を振るう。もちろん私も。
 だがゲートを壊している時のような手応えがない。まるで空を切っているかのよう。周りの騎士達も眉をひそめている。

「手応えがなくても、とにかくダメージを貯めろ!」
 それでも手を止めないのはアイゼン様が声を上げ続けるから。彼はクアラの言葉を信じてくれているのだ。

 私も彼らと同じようにひたすら剣を振り続ける。
 同時にもっと効率よくダメージを貯める方法は、弱点はないのだろうかと考えることも止めない。目の前の巨体を観察していると、大きな傷を見つけた。


「アイゼン様!  あそこに傷があります!」
「どこだ?」
「左足の、ちょうど影になっているところです」
「見当たらないが」
「ありますよ。あ、今ゲートから出てきたところにも大きな傷が!  あそこを狙えば」
「すまない。俺には見えない」

 あそこですって指を指すが、アイゼン様はふるふると首を振る。近くの騎士達に声をかけても同じような反応を返されるばかり。

 だが確かにどちらにも大きな傷がある。鱗は剥がれ、皮膚がつながったような痕が。

 なぜ見えないのか。
 足の部分はともかく、腹部の傷が見えないはずがない。だがごく最近、似たような状況に遭遇している。

 もしかしてーー。

「すみません、少し外します」
「ああ」
 アイゼン様に声をかけて、一度離脱する。そしてもう片方の足に向かったクアラの元に走った。

「クアラ!」
 少し離れた場所から叫ぶように問いかける。クアラはドラゴンから視線を外すことなく、同じく大きな声を上げる。
「姉さん、どうかした?」
「お腹のとこに傷見える?」
「傷?  見えるけどそれがどうかした?」
「他の人には見えないみたい!」
「え、それって......」

 やはりそうだ。私達だけに見える。クアラもそのことに気づいたようだ。
 ということはゲートのヒビと同じような特性を持っている可能性が高い。あくまで推論だが、試してみる価値はありそうだ。

 足は影になってしまっているので、狙うなら腹部。あの辺りはちょうど人もいない。ぐるりと身体を反転させて階段の方へと向かう。

「キャサリン嬢、どうした!」
 私がどこかに行こうとしていることに気づいたアイゼン様はこちらへと駆け寄ってくる。

「傷痕に何かあるかもしれません。上から傷の部分を狙います!」
「なら俺も行こう」
 他の騎士に声をかけてから二人で二階へと急ぐ。途中、使えそうな貸出用の剣を回収して観客席の一番前へと向かった。


「傷はどこに見える?」
「あそこです」
 私が指差した方向を見て目を細めるが、やはりアイゼン様には見えていないようだ。だが見える私がその都度指し示していけばいい。

 問題はここからドラゴンの身体までは少し距離があることだ。
 傷口を狙うにしてもどうすれば……。下からは狙えないと上の階に登ったまではいいが、飛び道具なんてこの場所にはない。

 頭を悩ませる私とは違い、アイゼン様は途中で手に入れた剣を手に取った。

「あの辺りだな。位置がズレていたら教えてくれ」

 そう告げるや否や、槍投げの要領で傷口に向かって剣を投げ始めた。だが驚くべきはそこではない。見事に的中した剣がドラゴンの身体を割いたのである。

「驚いたな」
「空っぽ、でしたね」
 すぐに閉じてしまったが、わずかにできた裂け目から見えたのはスカスカな空間。骨が見えなければ異空間かと疑ってしまうところだったが、あれはおそらくドラゴンの内部である。

 傷自体は見えなくとも、中は見えるようでアイゼン様も目を丸くしている。やはりあの傷痕には何かがある。

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