回帰の果てに逢いましょう ――滅亡する世界で、回帰の英雄に殺されないための六つの方略――

藤橋峰妙

文字の大きさ
13 / 26
第一部『第006世界』

2-7:メッセージ

しおりを挟む

 この世界の渚は、人間関係をあまり築けていないらしい。
 
 メッセージの履歴に並んだ相手は両手の指にも満たず、そのほとんどが業務連絡のよう。椎野渚という人物像を探れるほどの情報はなかった。

 
 今ある通知は赤い丸が三つ。

 未読のメッセージが三件、残っていた。

 
【from ゆかり】明日、ほんとに復帰するの? ほんとに大丈夫?……
 
【from 副隊長】こんばんは。復帰するって聞いたけど、もし……
 
【from 絢瀬】元気?
 

 昨晩届いたメッセージが二つ。『ゆかり』と『副隊長』という人物からのメッセージを、渚はまだ開くことが出来なかった。返信の内容にも困る。
 

 未読はもう一件あった。しかし受信日時を見る限り、それは渚が目覚めるよりもずいぶん前から放置されていたようだ。

 
 他人の生活を覗き込んでいるようで、胸の奥に重苦しさが募る。渚はため息をつき、画面を閉じた。
 

 電車が減速を始める。降りる駅が近づいていた。
 
 通勤時間にはまだ早いはずなのに、霞ヶ関から流れてくるスーツ姿の人々の群れが足早にすれ違っていく。やがて黒い制服を着た人々の波に飲み込まれ、自然と足はその流れに合わせていた。
 

 流れに身を任せて歩いていると、渚の目の前に現れたのは、黒々とした高層ビルだった。

 
 周囲の高いビルよりも頭二つほど飛び抜けていた。
 下の階にはカフェやレストランが並び、早朝にもかかわらず多くの人で溢れている。
 
 中層以上は黒硝子に覆われ、磨き上げられた壁面が空を反射している。内側の様子は一切見えなかった。
 
 四十階か五十階はあるだろうか。圧倒されて首を傾け続ける渚の横を、職員たちは何事もないように追い越していく。
 

「うわ、広い」

 
 まだ就業前のはずなのに、ロビーは慌ただしく職員たちが行き交っている。背筋が自然と伸び、渚は何度も深呼吸を繰り返した。

 
(――必ず、七瀬の手がかりを見つける)
 

 検索しても、七瀬の名前は出てこなかった。考えられる可能性は三つある。
 

 ひとつは、この世界ではまだ七瀬が能力を覚醒させていない可能性。
 
 あるいは、駆け出しの界律者として無名のままなのかもしれない。
 
 そして最後は――そもそも、この世界に七瀬が存在していないという可能性。
 

 最後の一つは、渚にとって最も絶望的な状況だ。その可能性だけは否定したかった。
 

 渚は入口の警備ゲートをくぐり、ロビー階にある受付へと足を向けた。事務職員の白い制服を着た華やかな女性が、にこやかな顔で渚を迎えた。
 

 渚は受付の女性に声をかけた。


「すみません、お聞きしてもいいですか?」

 
 ポケットにあった職員証を見せると、女性は「もちろんです」とさらに笑みを深めた。

 
「えっと……おかしいかもしれないですけど」
 
「なんでしょうか?」


 崩れない笑顔のまま、女性は小首を傾げる。

 
「私、何階に行ったらいいのか、分かりますか?」
 
「――はい?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...