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第一部『第006世界』
2-7:メッセージ
しおりを挟むこの世界の渚は、人間関係をあまり築けていないらしい。
メッセージの履歴に並んだ相手は両手の指にも満たず、そのほとんどが業務連絡のよう。椎野渚という人物像を探れるほどの情報はなかった。
今ある通知は赤い丸が三つ。
未読のメッセージが三件、残っていた。
【from ゆかり】明日、ほんとに復帰するの? ほんとに大丈夫?……
【from 副隊長】こんばんは。復帰するって聞いたけど、もし……
【from 絢瀬】元気?
昨晩届いたメッセージが二つ。『ゆかり』と『副隊長』という人物からのメッセージを、渚はまだ開くことが出来なかった。返信の内容にも困る。
未読はもう一件あった。しかし受信日時を見る限り、それは渚が目覚めるよりもずいぶん前から放置されていたようだ。
他人の生活を覗き込んでいるようで、胸の奥に重苦しさが募る。渚はため息をつき、画面を閉じた。
電車が減速を始める。降りる駅が近づいていた。
通勤時間にはまだ早いはずなのに、霞ヶ関から流れてくるスーツ姿の人々の群れが足早にすれ違っていく。やがて黒い制服を着た人々の波に飲み込まれ、自然と足はその流れに合わせていた。
流れに身を任せて歩いていると、渚の目の前に現れたのは、黒々とした高層ビルだった。
周囲の高いビルよりも頭二つほど飛び抜けていた。
下の階にはカフェやレストランが並び、早朝にもかかわらず多くの人で溢れている。
中層以上は黒硝子に覆われ、磨き上げられた壁面が空を反射している。内側の様子は一切見えなかった。
四十階か五十階はあるだろうか。圧倒されて首を傾け続ける渚の横を、職員たちは何事もないように追い越していく。
「うわ、広い」
まだ就業前のはずなのに、ロビーは慌ただしく職員たちが行き交っている。背筋が自然と伸び、渚は何度も深呼吸を繰り返した。
(――必ず、七瀬の手がかりを見つける)
検索しても、七瀬の名前は出てこなかった。考えられる可能性は三つある。
ひとつは、この世界ではまだ七瀬が能力を覚醒させていない可能性。
あるいは、駆け出しの界律者として無名のままなのかもしれない。
そして最後は――そもそも、この世界に七瀬が存在していないという可能性。
最後の一つは、渚にとって最も絶望的な状況だ。その可能性だけは否定したかった。
渚は入口の警備ゲートをくぐり、ロビー階にある受付へと足を向けた。事務職員の白い制服を着た華やかな女性が、にこやかな顔で渚を迎えた。
渚は受付の女性に声をかけた。
「すみません、お聞きしてもいいですか?」
ポケットにあった職員証を見せると、女性は「もちろんです」とさらに笑みを深めた。
「えっと……おかしいかもしれないですけど」
「なんでしょうか?」
崩れない笑顔のまま、女性は小首を傾げる。
「私、何階に行ったらいいのか、分かりますか?」
「――はい?」
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