西遊記・亜

宵闇 歩

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※今回はWikipediaの情報をもとに書いたものです。

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悟空「あのさあ、坊さん。」
三蔵「何です?」
悟空「なんで坊さんみたいなひょろっこいのがわざわざ国の代表に選ばれたんだ?他に候補者がいなかったのか?」
三蔵「・・・ちょっとした縁ですよ。」
悟空「しかしあんたって何かとセンサイだろ。何かみえてたりもするんじゃないのか?」

三蔵「人のプライバシーに干渉するとは、礼儀知らずなこと。]


悟空「悪い。失礼じゃなかったら教えてほしいんだが。」
三蔵「どうしてです?」
悟空「・・・いや、どうしてって・・・・・そりゃまだ一緒に旅に出てから数週間?しか経ってないけど・・・なんか最近思いつめたような顔してっから・・・・それに俺、あんたには何かと世話になってるし・・・つまり。。。その。。。。。」
三蔵「悩み事を打ち明けてほしいと?」
悟空「・・・・・・そう、デス」
三蔵「悟空」
悟空「何、です?」
三蔵「あなたはとても素直で、人情に篤い。あなたがいるとそれだけでこちらも頼もしくなれる。私はあなたのそういうところが好きです。」
悟空「・・・!」
三蔵「悩み、というほどではありませんが、話しておく必要はありそうです。ただ、覚悟をしてください。」

悟空「わかった。」


三蔵「私が西域への旅に行くことになったのは、身分ではありません。そもそも私は金山寺に拾われた「孤児」でした。周囲の目は冷たく、私を拾ってくださった師にさえ見向きもされない日々。・・・でも寂しいとか辛いとか、ちっとも思わなかった。ひたすら経典の文字に埋没していました。よって地位だけは上がったのです。ただ、ある時、禁忌を犯してしまいました。これが私が旅に出ることになった原因(わけ)です。

自分の義父を殺害する。
金山寺の高僧が、女性と交遊をもつ。

私に父母がいることを知ったのは、法名を授かった時でした。
師からそれを聞いたとき、頭がガァンと殴られたような気がしました。「父母が生きている」。
そのことだけをたよりに、必死に消息を辿りました。果たしてそこに、病に臥した母がいました。本当に・・・・
母から真実を聞かされました。私はそこで、ひどい憤りを覚えたのです。私の出生は母と、その前にいた「本当の」父親。今の父はその私の父を殺した人物だったのだと。
聞いたとき、もう決心がついていました。
晩に酒に酔って帰ってきた「父」を寂しい道で待ち伏せていました。
「私を覚えているか?」
まだ寒い冬のころだったので、貼り合わせた袖に両腕を入れ片手から空になった酒瓶をゆらしながら、しばらくぼうっとしていましたが
「・・・江流(コウリュウ)か?」
そうたずねました。子がいたこと、その名前(幼名)は母が、私を逃がしたときに自分も死ぬ覚悟で打ち明けたと聞いていました。
「そうだ。」
いい終わらないうちに彼が、抱きついてきたのです。涙を流しながら、「よかった、よかった 無事でよかった」と。
私は戸惑いました。意外にも力のないこの老人が涙をぬぐおうともせず、声をあげてないている。
この懐の内に隠したナイフが震えているのに気づきました。
憎くないのか。お前は私が憎くないのか。
それを聞くのが怖くて、決心が鈍りそうで・・・でも、私はゆるせなかった。なにせこの男は母が病にもかかわらず、ふらふらと外で酒を飲んだりしている。
「ゆるせ。」
躊躇なく、ナイフを心の臓につき刺しました。鈍い、生物の音がしました。
一瞬の凝固のあと、彼は地面に崩れました。

私はお前をこうしなければならないんだ
こうしなければ・・・お前が父母を奪わなければ今頃。私と母と、父は・・・いや、私が?
この男を殺した本当の理由が、「私が」幸せになりたかったからなのだということに。
気づいたときにはもう遅かったのです。
いままでためてきた感情の切なさが溢れ、今度は私が泣きました。
亡骸を山の土に埋め、帰ってくると、母が弱弱しい笑みを浮かべてそこにいました。
そしてその数日後、母が自殺しました。
床にあった文には、ごめんなさい。と、ただ一言、書かれていました。

もう全てがどうでもよくなりました。

結局、私は自分の「我欲」のために、大事な母までなくしてしまった。生きる、とはこんなにも重いのか。だが自らも死を選ぶとなると、恐怖が押しのけてきて、結局どうすれば死ねるかなんて考えているうちに、国に戻っていました。涙の出なくなった顔を貼り付けたまま、
さめざめとした気持ちで帰路につく、その道でした。そのころの私は、当然のことながら異性に興味がありました。それを許さない寺や教えに疑問を抱いていました。だから、知りたくてしかたなかった。またこの悲しみを忘れ去りたいという気持ちもあった。
ちょうど遊郭があったので、どうにでもなれと入りました。実際、高揚感なんてものにもならないくらいの情を覚えましたし、そこに至っては文字、教えというものがどんなに無意味かをよく痛感しました。
そう、あの事件も、この快楽も・・・実覚なくては結局、教えなんてものはただの紙に過ぎないのです。
また、こんなことがあってからはタダじゃすまないと、向こうも承知の上での逢瀬で、私は寺からくすねた金銀を握らせ、彼女たちを国から逃亡させ無事を見届けました。

世間からは非難轟々、仏の道から外れた罪人として死刑は確定。そんなところ、
どういうわけか皇帝自らがお赦しになったのです。その代わり、皇帝は私に勅命を下されました。
「天竺から経典を持って帰る事」。
聞けば、天竺にある大雷音寺という寺に、一切衆生を救う「教え」があるとのこと。まだこの国は出来上がったばかりで民衆の心も揺らいでいる。その安らぎのために。という名目で。
この道は長く、途中には多くの困難があることは自明です。半ば遠回しに「死刑宣告」をされたようなものです。しかし同時に鳥かごから放たれたような心地を覚えました。私は感謝し、その夜は宮殿にて宴と祝杯を交わし・・・ここで彼、皇帝は器の大きい、慈悲深いお方だと分かりました。この勅命はチャンスなのだと。
そんな晩、「夢」をみたのです。」



三蔵「この国は滅びます。いつの時代もそうであったように。知らぬ男が泣いている。主君万歳!と叫びながら、皇帝を殺した男が、悲しそうに・・・!
私は、もうこりごりです。こんなの経典がなんだというのか。経典が何を救うというのか・・・・・
そう思いました。」

三蔵「でもやめました。私、諦めの悪い僧侶ですから。後にも先にも今しかないんです。これが私の選んだ道です。義兄弟の契りを交わした彼への感謝です。もしかしたらその経典の教えによって、新たな実覚を得るものが現れるかもしれない。とも。」
 

三蔵「私は善を望みます。そして善は影響し合うだけです。その結果がどうなるか、なんて分かりません。しかし、だからこそ行動する価値がある。そして私たちは結果に対し「幸」か「不幸」かさえも選ぶことができる。何度も生きなおすことができる。だったらそれは人生の強みだとは思いませんか。」
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