転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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クリフ・マークィス・ゲイル 10

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「フォスキーア」

「おにいさま」
 
 領地に暮らしていた時、この一つ違いの妹との関係は、高位貴族の家庭としては非常に親密なものであったと言えると思う。

 父の存在がなく、伸び伸びと自然が豊富な領地で過ごしていた事もあるが、妹のその人懐っこさが大きい。

 しかし、父が私を王都に召喚した時から、私が領地に行く以外中々会えない事も相まって、二人の関係は他の貴族家の兄妹とそう変わりがないものとなっていたと私は思っていた。

 確かに彼女が精霊契約を成すまでは、領地に出向いた時には笑顔で出迎えていてくれたものであったのだ。

 ところが、精霊契約が無事に成ったその足で、逃げるように領地に戻ってからは、父の度々の召喚も体調の悪さを理由に初等学園に入る期限ギリギリまで王都に入ることを拒んでいた妹は、王都に来ることを拒むことと同じレベルで私や父と会うことを嫌がったのだ。

 初等学園では、私と同じく生徒会に所属する事になったので、時間が合えば同じ馬車で通うこともある。

 その時の馬車の中も、会話もほとんどなく、ただ沈黙が続くばかり。

 殿下の事も気になるので、同じクラスの妹から生徒会以外での殿下のことを聞きたかったのだが、そのような話に持っていく事もできず、例の魔術実技試験ののち殿下の姿は学園から消えたのだ。

 そういえば、精霊契約の時に殿下のことを恐ろしいと言っていたな……

 王都の屋敷の中庭で、母とお茶を楽しんでいる妹の姿を見つけて、いつもならば声も掛けず通り過ぎるところであるが、足が自然とその中庭に向かっていた。

「フォスキーア。母上。ご一緒しても……」

 私が庭に足を進めたことを目敏く見つけた、母の侍女は私の席と飲み物の準備をすでに終わらせていた。

 母の笑顔は若干かたく、その目の奥は少し冷たく感じた。

 母は貴族の高位貴族の夫人らしく、夫の陰で家を守ることを最上に考えている人であると思っていた。

 我々兄妹の幼少期は、領地に籠り領地経営のみに力を注いでいるものと思っていたが、王都の情報も王都以外の情報も父の伝手だけではなく、自分のもつ独自の情報網から得ていることを最近知った。

 そうでなければ、この宰相の家である、ゲイル侯爵家の女主人は務まらないのかも知れない。

 その女傑の魂は、確かに儚げに見えるフォスキーアにも受け継がれているのかも知れない。

 昔、その瞳を見る事で呪いから覚めるきっかけを作ってくれていた瞳。その瞳に久しぶりに正面から見つめられると、心の底まで見透かされているような気がする。

「忙しそうですねクリフ。まるでお父様を見ているよう」

 口元を扇子で隠しながら、笑ってはいない細めた眼差しで私を見とめる母。

 ただの嫋やかな優しい女性だという幻想は、幼い頃の領地に置いて来た。

 私と妹を立て続けに出産した事で、身体を少し壊した母は、それまでは見た目に装わない女傑と言われていたそうだ。

 その、母の言う父のようは決して褒め言葉ではないことを私は知っている。

 父は知らない。

 いまだに父は母は儚いままのか弱い女性なのである。

 なぜ、母の本質を父が知らないのか、それは、現在の学園でも起ころうとしている事に似たやらかしと、それに伴い、父には知らせれる事なく父を掌で転がす事ができる嫁をと言うことで、見た目は父の希望に沿う事はもちろん、母は先代侯爵お爺様に見出された女傑だと言う事。

 このように母の中で父の立ち位置はそれほど高いものではない。

 であるから父には内緒でいくつかの事を、フォスキーアが王立学園に入園した折にともに聞かされた。

「このようなことが起こるかも知れないから、特に当事者になりそうなクリフと、それに巻き込まれるかも知れないフォスキーアに教えておくわ」

 と、私にはおおまかな注意点のみ。フォスキーアにはその後も今日のような機会があれば、事細かく教えているらしい。

 母になぜ、私には詳しく教えてくれないのかと問えば

「これは、お父様達殿方にとってはとても大きな黒歴史。あなたが要職につくような事となれば、須く公式な文書で知る事ができるでしょう。私が知っていることは、その反対側。非公式な女性の側からのその黒歴史の顛末。尊敬する父の姿を壊したくなければ聞かないことよ」

「もし、そのようなことを言っていられなくなった時には、私かフォスキーアが詳らかにすることは約束してあげる。そのような事にならないように祈ってるわ」
  
 と言うことで、こちらからその話を聞くことはタブーとなってしまったのだ。

 そのような話を3人で行っている時にも、フォスキーアは私に話しかけることは無い。

 学園で、生徒会の場で必要な時にはあくまでも生徒会役員の一人として話をすると言う態度を崩す事はなかった。

 そんな妹も、学園内で今までとは何かが違うような、そんな雰囲気が漂い始めた頃から、彼女の侍女を通じてではあるが、枕の下に置く匂い袋を渡してくれるようになった。

 それは自然な花々を収めたポプリで、優しい香りがするものだ。

 香りがそれほど長時間保つようなものでは無いらしく、香りが薄くなってきたなと感じる頃になると、かえの新しい匂い袋が届けられる。

 それらが届けられる度、言葉を交わすことも目を合わす事も無くなってしまったが、確かに妹に思われていることは信じられていた。

 そんな妹が、久しぶりに目をあちらから合わせている。

 用意された席に座り、私はフォスキーアから話しかけられるのを待った。

「お兄様。アースクエイク殿下が全く学園にお出ましにならなくなってから、さらに学園内の空気が息苦しくなった事に気付いておいでですか……」
 
 なんでも、初めて会ったころの殿下を怖がっていたのは、感じるその魔力量の多さに怯えてしまっていただけで、教室の後ろに殿下がいた頃には、王都の中にあって領地にいるのと同じように、空気の重さを感じる事なく過ごせた、と言う。

「殿下が学園に来られない時にも、その感覚が変わる事はありませんでしたし、年を重ねるごとに、殿下のお力も研ぎ澄まされたのか、ゆっくり息のできる範囲が広がったように感じていたのです」
  

 
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