転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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クリフ・マークィス・ゲイル 11

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「お母様はもちろんご存知のことですが、私の水の加護は癒しの力に特化している様で、攻撃系の魔法は使う事ができません。癒しの力はお母様もお持ちの緑の手に増幅される様で、今までの水の癒しとは若干違ったものになってしまったようです」

 この事はお父様には知らせておりません。

 はっきりとそう言い切った妹に驚き、横に座る母の顔を凝視してしまった。

 母はいつもの微笑みを口元に乗せたまま小さくなずいた。

「彼の方はこの家の家長でありこの国の宰相です。家のため国のためであれば、家族といえども切り捨てる事ができる、それを求められます。私はその様なことを彼に行わせたくなかった。だから知らせることをよしとしなかったのです」

 この様な重要な事、父に知らせる事なく、なぜこの私には教えるのか。

 私の心の中が手に取るようにわかっているのか、母は私が何も言えない事には構わずに、話を進める。

「あなたは将来宰相に成るかも知れませんが、ならないかも知れない。今現在はフォスキーアの兄。あなたは父親とは違って妹に愛情を持っているでしょ?この頃は、あなたの状況や、フォスキーアの状況がうまく噛み合わずすれ違うことも多かったやも知れませんが、今のあなたならば、何よりも妹を取るでしょう?」

 違いますか。と言うその瞳を私から全く逸らさずそう言い切る母は、そう、とても強い人なのだ。

 まだ学生ではあるが、それなりに様々なことを学んできた今、確かに宰相として働いている父は優秀かも知れないが、我々家族から見た父は、頼り甲斐の無い、口先だけの約束をし、それに満足し完結する人。

 侯爵家の中の事を表向きは全て父が決めている様に見えているが、内向きのことを含めて全てを差配しているのはここ王都とは離れた領地にいても母であったし、この家で働いている使用人が、父と母どちらの意見に従うかと言えば、心の底では母であることが子供の私たちにもわかる、この家の中では父は母に踊らされている偉ぶった人形の様なものなのだ。

「彼の方の一番大切な人は、婚姻を結んで子の父となった後も、大好きな陛下ただお一人。幼馴染で、幼い頃から憧れの的で、どの様な行いも容認し、肯定し、王子が行われることは全て正義なのだ。と全く疑わず生きてきて、いまだにその続きをただまっすぐに進んでいる。そんな男なのです、彼の方は……」

 そう言って、苦く笑う母の微笑みはとても寂しく見えた。

 手を伸ばしても伸ばしても、こちらを見ている様で見ていない、そんな父を私も幾度となく体験してきた。

 血のつながった私であっても、父としてではなく宰相としてしか見る事ができなくなってどれほど経つのか……。

「この様な事、子供であるあなた達に話をするのもどうかとは思うけれど…・」

 そう言うと母は一つ小さく息を零して、後ろに控えている侍女に合図を送った。

 その合図を受けてか、比較的地下に控えていた数人の使用人達が気配がかろうじてわかる範囲声が聞こえない所まで下がった。

「政略とは言え、将来を約束された侯爵家の嫡男で見た目も良い彼の方と結婚し、すぐに嫡男を産む事もできて、時をおかずに娘まで授かった時は、これこそ貴族の娘としては最高の幸せなのだと……思えていた時も確かにあったわ」

 突如として始まった母の父との馴れ初めに近い話に、どのような顔をして聴けばいいのか戸惑った私は、思わず斜め前に座っているフォスキーアの様子を窺った。

 フォスキーアは動じる様な様子を全く見せず、距離を取る前に侍女が入れ直した紅茶に口をつけている。

 母のこの手の話はきっと以前から何度も聞いているのだろう。

 私の知らない領地で過ごす時間が二人の間をより強く結びつけているのだ。

 その二人が領地で過ごした同じ時間、王都で父と過ごした筈の私には、全くそのような絆も何も得る事はできていないが……

 心の中でため息を吐きながら、母の受け止めるのには息子として恥ずかしいが、正面から母の顔を見つめて、腹に力を入れた。
 
 母の口調も普段よりも随分と砕けているものに変わっている。

「所詮政略なのだから、とわかっていたのだけれど、私もまだ若かったし、純粋に愛して貰えていると錯覚してしまった時もあったのよ、婚姻の時期も令息の希望で婚約期間を最短にして欲しいとせかされたと聞いたことも、そう思うに足る原因の一つね。……実際は陛下の子供と生まれる時期を合わせたかっただけなの…うち以外の誰も間に合わなかったけれどね」

 学園に在学中に妊娠など、普通の貴族令嬢はしないもの。

「生まれたのはギリギリ卒園後。あの時の卒園式は最悪だったわね。思い出したくもない……」
 
 淑女の嗜みの一つである扇子を持つ手に力が入っているのがわかる……。

「間に合わない。など、当たり前ではないの……。私の人を見る目のなさに絶望したのは、あの時が一番初めだった……」

 生まれた当人の近くにいる者はあえて話す事ない内容で、どちらかといえば禁句タブーとされている事。極近しい側近扱いの私には、今の母の様に面と向かって話を聞かされた事はない内容だ。

 しかし、高位貴族であればどの家でも知っているだろうことで、私も色々な人から、言葉の端端で察することもできていた、つもりであった……。

「二度あることは何度もあるのよね。この国ではなぜか、王家に男子が一人、多くても二人しかその代で生まれなければ、その王子殿下が王立学園在学中に、王位継承に関わるような事件が起きるの」

 母は扇子でテーブルの上の焼き菓子を突きながら、気だるそうに私を見る。

「お母様、お行儀がお悪いですわよ」
 
 ナプキンで口元を抑えながら、妹が小さい声で嗜める。

「いいのよ。私は今侯爵夫人の立場ではなく、貴方達の母親の立場であり、私の実家の本業を継ぐ立場の者として話しているのだから」

 確かに、いつもの侯爵夫人然とした座り方でもなく、話し方も少し中位貴族あたりのものである様にも聞こえる。

「私の実家は、表向きはしがないギリギリ伯爵家を拝領している法衣貴族だけれど、歴史だけは長くて、この王国が生まれる以前からあったと、文章では残っているの。それは公式扱いされていないけれど」

 一旦は母言葉を切って、遠くに控えていた次女を呼び。改めてお茶を用意させると、また下がらせてから話し始めた。

「このことは今の宰相閣下旦那様が、知っているのか、覚えていないのかはわからないけれど、わが一族は記録魔が多くて、代々これでもかってほど、記録を残し続けた一族なの。その当時の新聞の様なものは勿論、噂話から何からとにかく記録に残すの。それは正史とされていることと矛盾していることの方が多いけれど、それが使命であるが如く記録に残している。一方的なものではなくありとあらゆる角度、立場の人の言葉や、色々な人の日記そのものも収集対象で、前代の者が集めたものを次代が整理すると言う形をとって、当主だけではなく一族総出で行うことで、なんとか物理的な物を捌いてね。屋敷の床が抜けない様に」

 
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