転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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クリフ・マークィス・ゲイル 13

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  たしかに私は、自身の記憶と日記との乖離に気づいてから、度々大した用事がなくても、側近であり従者であり友人でもあるターナーを領地に送っていた。

 私自身、領地に戻りフォスキーアを見とめると、頭の霧が晴れて、肩から重しが取れた気がする。

 ターナーも私と同じ感覚を持ち、その度にこの王都の生活での矛盾に気付かされるのだ。

「この王国にはそれこそ建国した当時から呪いのようなものがあるの。そのことはこの国で口にすることはタブーというか、ほとんどの人はその呪いに気づく事なく暮らしているの。なんと言っても、この世界を形作っているとされている女神様が掛けた呪いだからよ」
 
 この事も我が一族が記録し続けた事で知り得た事。私は、自分達の血を信じているから、これこそ真実であると思っているけど……

 母の話は、耳から入ってはくるが、一部霧の晴れていない今の自分の頭では理解することが難しいのかもしれない。

「私の一族に流れる血は業は一種の呪いのようなもの。この呪いは何よりも強いらしくて、女神様がこの国にかけた呪いよりも。だから我が一族のものは、呪いに歪められた歴史ではなく、真実を綴ってくることが出来たのかもしれないわね」

 この世界に掛けられた女神様の呪い?

「さっきも話したけれど何代かごとに、必要条件としては王位継承者の男児が二人以下というのがあるのだけど、その時に、貴族としては必ず卒園しなければならないとなぜか・・・思い込まされている王立学園で、その時の婚約者ではない平民の特待生、もしくは男爵家以下の下級貴族のそれもこの前まで平民でしたという庶子と『真実の愛』というものに陥り、卒園式等の大きな行事で公開婚約破棄をかます。という事件。が起きるのよ」

 そこで、今まで黙って座っていたフォスキーアが、私に向かって声を出した。

「今学園で、お母様が話された事と同じような流れになりそうな、特待生が存在している事を認識されていますか?」

 王立学園は、ほぼ貴族の子女しか在学していないが、なぜか特待生という制度がある。
 魔力を持ち学力やマナーが基準に達していれば入園できるというもので、今年度も幾人かが入園を果たしていると、たしかに生徒会に名簿が上がっていたことを覚えている。

「学園で必ずというほど問題を起こす特待生の特徴教えてあげましょうか」

 フォスキーアの質問に私が答える前に母が話を流して行く。

 母は私の答えなど鼻から期待していないのだ。

「なぜか、平民か下級貴族の庶子で、桃色の髪色をした儚い雰囲気を醸し出している女子。桃色がどの精霊と契約できてのかは不明。ただし若干の火の精霊と光の精霊が契約したから生まれた色ではないかと推測。その根拠としては、水精霊とは違う治癒の魔法を使える者も存在したため」

 今学園に在学しているお嬢さんはどうか知らないけれど、そう前置きして母は続けた。

「ここからは私でなくても、私と同年代以上の貴族はほぼ知っている事なのだけどね……今の陛下が学生時代、つまり貴方達の父親もそう。まぁ私も同じ場所にいたと言えば関係者だし、結果的にはその中の重要人物の配偶者になってしまったから、十分そうなのだけどね。簡単に言うと先程話した特徴とほぼ変わらない平民で、一応伯爵の庶子であったと言う程で、今は伯爵令嬢とされているそのお嬢さんに、その当時ただ一人の王位継承者であった現陛下と、その側近、お父様達がね、言い方は悪いけど手玉に取られて、自分達の婚約者に婚約破棄を突きつけて、結果誰もがはじめの婚約者とは結婚できずで、伯爵令嬢が男の子を、元婚約者の妹の公爵令嬢も男の子を産んだ」

 ついでに言えば、冴えない伯爵令嬢は侯爵家の二人の子供を生んだって事ね。

「この一番最近に起こった繰り返される愚かな歴史は、一人の公爵令嬢の自死という事実を隠して、その妹を王妃にするという事で、全てのことに蓋をした。と言う事実は、ごく中心にいた関係者しか知らされていない事実」

 さりげなく、話の続きのように話した内容に、私は息が止まるほど驚いた。

 人払いはしてあるはずであるが、思わず周りに誰もいないか確認したほどだ。

「慎重なことはいい事だわ」

 そんな、重要なことをさらりと告げて、母は薄っすら微笑んでいる。

「お母様。私はわざわざ、そんな死んでしまわなければならない役回りは御免被りますわ」

 フォスキーアの母への返答にも唖然として声が出ない。そんな、私の様子に全く頓着せずに目の前で、二人の会話が続いて行く。

「人死が出るなんて、ほとんど無かった事なのよ。今回のはとっても酷い結末。誰一人として幸せになっていないのだもの……まぁ、どのような形でも婚約破棄された令嬢の末路は喜ばしいものではないし。他国に嫁ぐということがこの国では選択出来ないから、尚更辛いのよね。でも、旦那様の前の婚約者は、身分は低いけれど元々思い合っていたらしい幼馴染と婚姻されて、彼女の実家の領地で仲睦まじくしているから、誰もが幸せになれなかったという事はなかったわね」

 母の話した事を、ゆっくりと頭の中で咀嚼する。

 王妃殿下は、自死された姉上の代わりに王妃になられたというのか?相手の陛下にはすでに伯爵令嬢との間に子がいると言うのに?まるで、壊れた物の代わりの品のように?たしかに立場的には同じ公爵家の令嬢だ。しかし、姉の死の原因が相手である陛下とその相手の令嬢であるとしたら?そのようなところに喜んで嫁いでいくものなのか?それが貴族。それが王族と言われても……。

「私も似たような立場であったといえばそうだけど。あれがダメだからこれって言う感じ。それに、これは中心にいた旦那様も知っているかどうか、もしかしたらその当時まだ子供であった陛下も知らないかもしれない話し、姉の方の公爵令嬢が自死した時にその責任をとらされて死を賜った護衛騎士がいるの」

「まさか……」

 今まで感情を全く現さなかったフォスキーアが、驚愕の表情を浮かべて息をのんでいる。

「?」

 私には全くわからない、その驚愕に母は感心したような声音で答えた。

「そう……よくわかったわねフォスキーア。その護衛騎士は妹の婚約者。3人は幼馴染で妹とその騎士との婚約を姉もとても喜んでいたのよ。姉の方は生まれた時から今の陛下の婚約者、将来の王妃として育てられたから、親子間の情はとても薄かったようなのだけど、姉妹間の関係はとても良かったのですって」

 公爵家は、情ではなく貴族の対面、王家との繋がりを尊重した。貴族としては当然のことであったとしてもそれを今の我々と同じ位の年齢の令嬢が一人、いや姉も含めて二人、の犠牲で済ませてしまったのだ。

「王妃様は、自分がお生みになった殿下に全く関心を持たれていないと言われてるけど、女性であればこの事実を知ったら同情しない者はいないかもしれないわ。王家に一点の曇りもあってはいけないと考えた大人達は、保険として殺した護衛騎士の事は全くなかったことにして、公爵令嬢の姉の存在すら無かったかのように、妹の名を姉のそれとして嫁がせたのよ」

 フォスキーアの顔は真っ青である。私の顔色も良くはないだろう。

「そんなことを平気でしている奴らのいる今の王家に、フォスキーアをあげたりしないわ」

 母は、ニヤリと口だけの笑みを浮かべて続ける。

「今、王立学園に、例の簒奪令嬢もどきが発生しているのでしょ。ここはその令嬢もどきに頑張ってもらって、初めから婚約者になっていただけば良いのじゃないかしら。伯爵王子も偽物、令嬢も偽物。偽物同士ちょうど良いじゃない」


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