転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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マーシュ・スリート 12 人の口に戸は立てられぬ

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 あの、悪夢としか思えないような『帯剣の儀』は、それに余りある歓喜をもたらせてくれるきかっけとなったわけであるが、離宮の中の温かな営みの外では、今だに殿下を排除するような動きが蠢いている。

 私は、殿下の侍従長である。

 殿下の命をお守りするためならば、自分の命など如何ばかりのものか。

 このような気持ちは,私をあの地獄のような境遇から引き揚げてくださった、あの時の第一王子殿下にも抱いていたものであるが、いまの陛下にも同じ思いを持てるかと問われれば答えは……。

 きっと、あの時私と同じ気持であった、『赤』と『青』は今でもあの時のままであろうか?

 陛下は王立学園に入られて変わってしまわれた。

 純情な少年が大人になったのだと言われればそうかもしれない。

 恋を知ったから、世の不条理を体験したから……。

 純粋なままでは国王とはなれない、いくら賢い稀に見る逸材であったとしても、青臭い青年であったことには疑いのない事実であって、それは、側近である我々も同じであった。

 ただ、伯爵子息からただの騎士爵位となり、側近というよりは従者として控えるようになった私を、あちらの方が相手にしなかったということが、その後の事態に巻き込まれなかった大きな要因であったのだ。

 つまり、私が特別思慮深かったとか、慎重であったとか、そういうことではなく、ただ私が相手にされなかっただけ。

 王族だろうが、上級貴族だろうが、結局ただの性少年であっただけ、といえるのだ。

 しかし、あれから幾年も過ぎ、王子であった殿下が国王たる陛下になられ、正妃を立てられて内政を立て直し、曲がりなりにも平和と言われる現在を構築された今、あの黒歴史と言える出来事が、次代を担うアーク殿下に重く暗くのしかかっていることは、その原因の排除に失敗した私にも責任の一環はあるといえるのかもしれない。

 結局、アーク殿下の味方は、私が侍従を務める中で培った、陛下たちと全く接点のない私の同業者と、悪夢の王立学園で、毒牙にかからず真実を知るごく一部の常識的上級貴族と、多くの下級貴族たちである。

 しかし、表立っては意見や行動を取ることが非常に難しいことは承知している。今も静観という形で私を支援してくれている者は多くいるのだ。

 
 今回の、『帯剣の儀』暗殺未遂を知る貴族は多い。

 王家の力で箝口令を敷いているが、そもそも今回のこの儀式が子供連れで行われるものであったのだから、なにがしかの事件が起きた事を全く隠すということは無理がある。

 あの時、殿下以外の子供達のほとんどは大広間から退出させられていたが、ごく一部の上位貴族子息は広間の隅に残っていたのだ。『赤』の息子もこれからのことを考えて、儀式後に殿下と顔を合わせる心づもりで残していたらしい。

 そこにあの騒ぎである。

 脳筋の息子も脳筋。まだ5歳でそれはかわいそうかもしれないが、黙っていろと言っても無理であろう。

 退出させられていた子供達も、あの事件後の騒ぎが気付けるほどの距離にはいたのだから、王城外に事件のことが全く漏れないということはあり得なかった。

 その上、その後の犯人探しも、とても秘匿性を持って行なわれていたと思えるような行動ではなかった。

 信じられないほどの手際の悪さを露呈して、犯人に繋がる何物も発見することに至っていない。城の中枢で、国王が臨席するような場面で起こったのに、である。

 まるでそれは、中枢にある誰かが犯人であるのではないかと、まことしやかに噂されるほどには、確信をついているのではなかろうか。何にせよ、今だに何も表に出されていないのだから。


 そのように世間とても騒がしい中、この離宮の中は、そんな城外城内の騒ぎに関係なく穏やかな時間が流れていった。

 私は、この平穏な時間を守るためにも、この離宮の塀に沿わせて張っている結界の強化に日々努め、会話の中で殿下が漏らされた隠蔽を結界に施すことで、この離宮の敷地内はどこも覗き見ることができない一種の要塞のようになった。
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