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チュート殿下 48 伯爵王子と教練場 2
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それぞれを隔てている結界には、消音もかけられているからここから個別の音を拾うことはできないが、中央の突っ立ってた人たちの上には結界が張られていなかったようで……。
つまり、そのことからもこの集団が教師たちからも全く相手にされていないことがわかるのだが……。
結界が張られていないところを良いことに、すぐ近くで演習を行っていたチームだけではなく、攻撃魔法が届く範囲の結界に、だれかれ構わず魔法を打ち込んでいる。
まるで幼子が癇癪を起している様子と変わらない。
その暴れん坊たちの真ん中で、我関せず、ただ立っているのが「伯爵王子様」。
勿論、周りに攻撃はしていない、できる魔法も持っていないのかもしれない。
しかし、取り巻きたちに対して諫めるわけでもなし、何の表情も浮かべず佇む姿は、騒ぎまくっている取り巻きたちと相まって、より一層不気味だ。
何を考えているのか全く分からない。
この場を諫めることができるのは自分だけだろうに、その義務を果たさない伯爵王子に、憤りを感じるのは俺だけか。
この実習の教師たちに問題がなかったとは言えないが、騒ぎを収めるように叫んでいる教師たちの声が聞こえていないかのような振る舞いだ。
張られていなかった、奴らの天井にも結界を張ることで、攻撃魔法が外に飛んでいくことを阻止すると、教場の緊急装置なのか、この空間の中で管理者以外が魔法自体を使えないようにしたようだ。
この時間に管理者たる教師が、魔法が使えないことに気付いて、帯剣していた剣を振り回し始めた、「伯爵王子」の取り巻きたちに、緊縛魔法をかける。
大人と子供、教師たちには全く歯が立たないのはわかりきったものなのに、それでも暴れようとする奴がいる姿に、精神系の何かの魔法でもかけられているのかと心配するほどだ。
授業を途中で強制終了された生徒たちは、不満な表情を隠さない。
そんな、一見阿鼻叫喚の状態の中でも、彼は何の行動も起こさず、周りの生徒たちと同じ立ち位置で、その様子を眺めている者とかしていた。
そんな彼に、教師の一人が怒りを抑えながら声をかける。
「君は何をしているのかね?」
自分に声をかけられたことが、如何にも予想外だという表情で、彼は教師の顔を見ることなく答えた。
「私は……私は何もしておりません」
それは、今ただ眺めて見ていたことを指した答えと捉えられるし、また、確かに、彼はこの教場に入ってきてから突っ立ていただけで何にもしていないのだから、そのことを指して答えたものと言えるかもしれない。
しかし、教師が今彼にした質問はそのことを指して聞いた訳ではないことは、誰が聞いてもわかる。
それなのに、このような返答をするのは、はぐらかしているためなのか、それとも本気で質問の意味が分からず答えたものなのか……。
いつの間にか、先ほどまで騒ぎまくっていた彼の取り巻きたちも、彼のそのような答えを聞いたのか、静かになっていた。
質問をした教師は深く息を一つつくと、声を少し和らげて質問をした。
「では、聞き方を変えよう。君は、なぜ何もしないのかね?」
その質問に対しても、彼はなぜそのようなことを聞かれるのか、全く理解できていない顔で、教師の質問を繰り返した。
「なぜ、何もしない?なぜ?」
その様子を見ていた誰もが、無表情で繰り返し呟いている彼に、何か危ういものを感じた。
俺も、彼を注視していたからか、彼の纏う魔力の波動が視えた。
今までキールを通して間接的に波動を視ることはあっても、直接視ることがほぼ無かった俺には、その波動がとても「気持ちが悪い」ものとして見えた。
時間が止まったように誰も動き出さない。
授業の時間が終わったのか、教練場の入口から次にここを使うクラスの生徒が連れ立って入って来て、フィールド上の異様な雰囲気に、入口付近で急ブレーキをかける。
教練場の中を見ることができた生徒は、とても中に足を踏み入れることができる状態でないことが体感できるが、後ろから教練場に入ろうとしている生徒にはその異様な状態がわからないから、入り口を先頭にできた渋滞に、疑問の声が上がるのは当然のことで、騒ぎは時間を追うごとに大きくなっていく。
次の時間を担当する教師も到着したようで、人波を縫って教練場の中に入ってきた。
入ってきた教師もその場の異様さと共に、その中心にいるのが、違う学年の担任も知っているいろんな意味での有名人であることにも同時に気が付いた。
そして、それは巻き込まれればとても面倒くさくなるということも。
その教師は、素早く前の時間の担当教師に合図を送ると、中の騒動には全く気が付いていない芝居をしながら、授業が終わった子供たちを教練場から出すことにしたようだ。
「オーイ、お前たち何してる。次の授業に遅れることになるぞ、早く教練場から立ち去れ!」
自分の受け持ちの生徒に道を開けさせて、騒ぎに全く関係ない生徒から教練場の外へ出す。
誰も皆、本能的に厄介なものには巻き込まれたくないと感じるものだ。それは子供であっても変わらないし、貴族であればその感覚は顕著なものかもしれない。
誰もが口を開くことなく、教練場の外に早歩きで出ていく。
入ってくる者も居ない。
残ったのは、俺たちのターゲットであった彼と、その取り巻きたち、そして教師たちだけだった。
つまり、そのことからもこの集団が教師たちからも全く相手にされていないことがわかるのだが……。
結界が張られていないところを良いことに、すぐ近くで演習を行っていたチームだけではなく、攻撃魔法が届く範囲の結界に、だれかれ構わず魔法を打ち込んでいる。
まるで幼子が癇癪を起している様子と変わらない。
その暴れん坊たちの真ん中で、我関せず、ただ立っているのが「伯爵王子様」。
勿論、周りに攻撃はしていない、できる魔法も持っていないのかもしれない。
しかし、取り巻きたちに対して諫めるわけでもなし、何の表情も浮かべず佇む姿は、騒ぎまくっている取り巻きたちと相まって、より一層不気味だ。
何を考えているのか全く分からない。
この場を諫めることができるのは自分だけだろうに、その義務を果たさない伯爵王子に、憤りを感じるのは俺だけか。
この実習の教師たちに問題がなかったとは言えないが、騒ぎを収めるように叫んでいる教師たちの声が聞こえていないかのような振る舞いだ。
張られていなかった、奴らの天井にも結界を張ることで、攻撃魔法が外に飛んでいくことを阻止すると、教場の緊急装置なのか、この空間の中で管理者以外が魔法自体を使えないようにしたようだ。
この時間に管理者たる教師が、魔法が使えないことに気付いて、帯剣していた剣を振り回し始めた、「伯爵王子」の取り巻きたちに、緊縛魔法をかける。
大人と子供、教師たちには全く歯が立たないのはわかりきったものなのに、それでも暴れようとする奴がいる姿に、精神系の何かの魔法でもかけられているのかと心配するほどだ。
授業を途中で強制終了された生徒たちは、不満な表情を隠さない。
そんな、一見阿鼻叫喚の状態の中でも、彼は何の行動も起こさず、周りの生徒たちと同じ立ち位置で、その様子を眺めている者とかしていた。
そんな彼に、教師の一人が怒りを抑えながら声をかける。
「君は何をしているのかね?」
自分に声をかけられたことが、如何にも予想外だという表情で、彼は教師の顔を見ることなく答えた。
「私は……私は何もしておりません」
それは、今ただ眺めて見ていたことを指した答えと捉えられるし、また、確かに、彼はこの教場に入ってきてから突っ立ていただけで何にもしていないのだから、そのことを指して答えたものと言えるかもしれない。
しかし、教師が今彼にした質問はそのことを指して聞いた訳ではないことは、誰が聞いてもわかる。
それなのに、このような返答をするのは、はぐらかしているためなのか、それとも本気で質問の意味が分からず答えたものなのか……。
いつの間にか、先ほどまで騒ぎまくっていた彼の取り巻きたちも、彼のそのような答えを聞いたのか、静かになっていた。
質問をした教師は深く息を一つつくと、声を少し和らげて質問をした。
「では、聞き方を変えよう。君は、なぜ何もしないのかね?」
その質問に対しても、彼はなぜそのようなことを聞かれるのか、全く理解できていない顔で、教師の質問を繰り返した。
「なぜ、何もしない?なぜ?」
その様子を見ていた誰もが、無表情で繰り返し呟いている彼に、何か危ういものを感じた。
俺も、彼を注視していたからか、彼の纏う魔力の波動が視えた。
今までキールを通して間接的に波動を視ることはあっても、直接視ることがほぼ無かった俺には、その波動がとても「気持ちが悪い」ものとして見えた。
時間が止まったように誰も動き出さない。
授業の時間が終わったのか、教練場の入口から次にここを使うクラスの生徒が連れ立って入って来て、フィールド上の異様な雰囲気に、入口付近で急ブレーキをかける。
教練場の中を見ることができた生徒は、とても中に足を踏み入れることができる状態でないことが体感できるが、後ろから教練場に入ろうとしている生徒にはその異様な状態がわからないから、入り口を先頭にできた渋滞に、疑問の声が上がるのは当然のことで、騒ぎは時間を追うごとに大きくなっていく。
次の時間を担当する教師も到着したようで、人波を縫って教練場の中に入ってきた。
入ってきた教師もその場の異様さと共に、その中心にいるのが、違う学年の担任も知っているいろんな意味での有名人であることにも同時に気が付いた。
そして、それは巻き込まれればとても面倒くさくなるということも。
その教師は、素早く前の時間の担当教師に合図を送ると、中の騒動には全く気が付いていない芝居をしながら、授業が終わった子供たちを教練場から出すことにしたようだ。
「オーイ、お前たち何してる。次の授業に遅れることになるぞ、早く教練場から立ち去れ!」
自分の受け持ちの生徒に道を開けさせて、騒ぎに全く関係ない生徒から教練場の外へ出す。
誰も皆、本能的に厄介なものには巻き込まれたくないと感じるものだ。それは子供であっても変わらないし、貴族であればその感覚は顕著なものかもしれない。
誰もが口を開くことなく、教練場の外に早歩きで出ていく。
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残ったのは、俺たちのターゲットであった彼と、その取り巻きたち、そして教師たちだけだった。
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