転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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チュート殿下 49 サイコパス……

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 扱いに困る人物のもっと扱いに困る行動に、今この場でできることは無いと判断したのか、責任を取る立場の教師が、最後の残った問題児たちも取り敢えずこの教練場から出すことにしたようだ。

 中心人物の様子があまりにもおかしいので、普段は騒ぐことにしか能力を使っていないような、金魚の糞の奴らも、今は黙って教師の言うことを聞いてこの場から離れる。

 喧騒の収まった教練場は、結局そのあとの授業では使わないようにしたようで、すぐに誰もいなくなった。

 俺もキールもそれまでの様子を、ただあきれた気持ちで見ていたが、誰もいなくなると同じタイミングで大きくため息をついてしまった。

「……なんか疲れたから今日はこのくらいにしておこうか……」

 誰もいないので普通に声を出して話しかけた。

 キールも実体化していて、大きく頷いて答えてくれた。

 その場で小ワープジャンプ。一瞬で離宮まで戻ってきた。まず寝室に。

 隣の居間にはリフルが居て、ジャンプする前からしていた書類仕事をまだしていた。

 自分の影武者である幻影はちゃんと仕事をしているようだ。

 リフルの意識を一瞬外にそらせて、そのすきに幻影を消して入れ替わる、という作戦を立てて、タイミングを計る。

 窓の外で魔法を使って、風がいいかな、音を立てて気をそらせる。

「バシュッ!」

「⁉」

 聞きなれない音に、リフルの気が向かう。確かめるために音のした方向、窓の外を確かめに動いた。

 俺の幻影に背を向ける。

『よし!』

 一瞬で幻影を消してその場にジャンプ。

 俺の影が大きく動いたのに気づいたリフルが、窓の外からこちらに視線を向けた時には、入れ替わりは既に完了していた。

 分厚い歴史書の頁をめくりながら、先程の出来事について考える。

「伯爵王子」と呼ばれていた、俺の異母兄について。

 見た目は確かに、陛下に似ていたように思える。髪の色然り、瞳の色然り。

『性格については……似てるかどうかはわからないなぁ』

 しかし、あれはない。あれはないなぁ……。

 どんなことも他人事で、どのような事にも責任を取ろうとしない、

『いや、あれは、どんなことにも全く関心がないからだ。自分の立場というものにも関心がないから、自分の行動でどのようなことが起こっているのか想像もつかないのだろう……』

「サイコパス……」

 もしも、今日見た彼が本当の彼で、何の意図した行動をとっておらず、あれが素のままのありのままの彼だとしたら……。

 サイコパス。愛情や罪悪感、共感能力、という感覚を生まれながらに持ち合わせていない者。

 最悪ではないか、彼がもしそのような人間であったなら、そんな人間が頂点に立った国の未来など、考えるまでもない、それも専制君主制の国であるならばなおさら。

 ゲームの中のヴォーテックスの性格は、控え目・知的・イケメン……イケメンが性格かどうかわからないけど、少なくともサイコパスとは書かれていなかったことは確かだ。

 イレギュラーな俺が生まれてしまったばっかりに、主要登場人物の性格とかにバグが出てきたってことだったら……。

 ゲームでは2歳年上の彼とは中級学校で一年重なるはずだが、そもそもゲームの期間設定が高等学園の三年間であるから、中級学校時代のことは全く描かれていない。

 その上彼は高等学園2年から、留学しているという設定で、ほとんど謎の人なのだ。

 しかし、俺の異母兄ということで、名前だけは嫌というほど出てくるわけだが。

 結局一年で俺がリタイヤした後は、彼や、俺の取り巻き連中が主役となって,聖女、俺からしたらビッチと楽しい学園生活を送る、みたいなことになっていたはずだ。

「…………」

 いくら悩んだところで、今日一日の、それも小一時間の情報で、結論を導き出すことはできない。

 今日のところの成果は、俺の異母兄は問題視されていて、慕われておらず、取り巻き連中も碌な奴は居ないということが知れたこと。

 俺が初級学校に入ったところで、これといった脅威の存在が居るとは考えづらいということが分かっただけでも安心材料だよね。

 キールも気が付いたと思うけど、あのような晒し者のような状態に、自分の主人を置いておくような家臣に気を配るだけの必要はないということだ。

 これからも時々悪い子になって、初級学校を覗きに行こうと思う。


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