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チュート殿下 57 初級学校への入学 1

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 俺は、表情を変えることも言葉も発することなく、周りには目をくれずにマーシュの背中だけを見つめて後を着いていく。

 俺のことを初めて目にしたここに居るほとんどは、俺の何かに驚いたように目を見張り、固まった笑顔を浮かべてそのまま俺を見送る。

 例の校長も、俺に声をかけることができずに後を着いてきているようだ。

 マーシュは誰に案内されることなく、俺を貴賓室らしいところに案内する。

 本当は俺を案内する係だっただろう若い教師らしき人が、校長の横でアワアワしているのが、気配察知でわかるほど……。

 マーシュは俺とリフルが貴賓室に入ると、問答無用で扉を閉めて結界を張り、誰も中に入れないようにしてしまった。

「思いのほかここに来るまでに時間がかかってしまいましたが。まだ式が始まるまでは幾分か掛かりますから、ここでリフルとお待ちになってください」

 そういいおいて、結界を外すことなくマーシュだけ部屋の外に出ていった。

 キールもそれについていったので、俺は室内のソファーに腰掛けると、キールと視覚と聴覚を同調して、マーシュの後を追う。

 マーシュは部屋のすぐ外に立っている、入り口に出迎えに来ていた集団に、これからのことを聞くことで声をかけ、安全のため殿下の部屋には誰も通さないと宣言する事で、部屋の前にたむろしていた集団をその場から散らした。

 もの言いたげな校長には声をかけず、案内係だったであろう教師にこれからのことを訪ねるマーシュ。

 初めから、全く付け入る隙を与えないつもりなのだろう。

 そのまま教師を引き連れる形で式典会場の確認に行くマーシュ。

 置いてけぼりの校長がかわいそうだなぁと感じたのは俺だけだろうか……。

 キールも後ろ髪惹かれることなく、マーシュを追うから俺の視線も強制的に校長から離れる。

 校長もこの場に居るくらいだからまだ入学式は行われないのかな?

 マーシュは走るように歩くので、若い先生もついていくのが大変そう。

 貴賓室のある校舎からは、いくつかの渡り廊下を通って、独立した建物の講堂で式は行われるようだ。

 この前勝手に見学した教練場とは校舎群を挟んだ反対側に講堂はあるようだ。
 
 講堂の中には、すでに随分と生徒とその保護者が入っている。
 
 今回は俺のこともあってか、生徒会の役員以外は上級生の出席は禁止。それでも参加しようとするものが居て困っていると、案内役の先生が言っている。

 クラスごとに座る席は決まっているようで、この学園では一応生徒の間は身分に関係なしといっているが、内実は管理するのが大変なこともあって、上級貴族、中級貴族、下級貴族と別れてクラス編成されている事実があった。

 俺は有無を言わせずAクラス。

 初級学校のことはゲームでは全く描かれていないので全く分からない。

 ただ、ゲームの中の、俺が居なくなった後の攻略対象者の内の何人かは、きっとこの初級学校からの同級生として現れるだろう。

 そいつらもきっとAクラス……。

  俺の異母兄のこともあって、俺の前後二歳は子供の数が非常に多いのだ。まぁ、貴族に限ってという注釈はつくけれど。

 だから、今年度の入学人数も例年よりも多く、去年よりも3クラス分多くなっているらしい。

 そういえば、ヒロインは違う国の人のようだったから、今回入学していないと思うけど、俺のゲームの中の婚約者は同い年だったと記憶してるが……。

 今のところ、王様たちとの関係やその考え方が不明のこともあって、婚約者のこの字もないけれど、一般的な貴族は、10歳の選別が終わり、この初級学校の中で相性なんかも見ながら決めていくもののようだ。

 この貴賓室のテーブルの上には、今年度この学校に在籍する予定の生徒の名前が所属クラス別に載った名簿がこれ見よがしに乗っていた。

 名簿に何かしらの細工がなされていないことを確認して、今年の新入生9クラス分を先に目を通す。

 覚えるのは絶対記憶を持つキール。今度はキールが俺の視覚を使って記憶するってやつ。もちろん俺も、覚える意識を持って名簿を見るからね。

 俺が貴賓室でそんなことをしている間に、マーシュはこれから入学式の行われる講堂の安全性の確認を自分の目で済ませ、俺の座るところをきっちりと確認して、また風のような早歩きで俺の居る控室まで戻ってきたのだ。

 
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