転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

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チュート殿下 106 毎日の些末な事

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『跳ぶか?』

『跳ぶ!』

 この講堂にも何らかの結界に近いものが張られているようではあるが、大したことはない。

 ちょこっと結界を破ることになるが、秒で張り直すし。違和感を感じる者が居ても……まぁ大丈夫だろう。

 俺とキールは従者の控室に居るリフルを拾うために講堂の横の通路に一度小さくジャンプする。

 従者を連れているような上級貴族はまだ講堂内から出てきてはいないようで、がやがやと雑音を出しながら連なって出てくるのは、それぞれの学年の下位クラスの者たちだ。

 従者たちは控室から出て、壁際に整列して主人を待っている。

 そもそも上級貴族の従者として学園まで付いてくる者達は、この学園の卒業者がそれなりに含まれているようで、陰で名を呼ばれている者もいるようだ。

 従者といえば下に見られがちではあるが上位貴族の嫡男のそば仕えである、その上学生のころからの側近であれば将来はその仕える家での立場は保証されていると言えるだろう。

 うまいことにリフルはこの講堂横の通路の扉の横に立っている。従者の塊から少し離れたところに一人で……。

 俺の扱いも微妙だから、従者リフルもそうなのかもしれない。ポツンと佇んでいる姿を見てしまうと、一人きりのリフルに申し訳ないような気持ちがあふれてくる。

 心の中に浮かんできた黒い思いを吹き飛ばして意識を変えて、認識阻害を掛けたままこの通路から表のエントランスに移動する。

 魔法は得意でないリフルであるが、俺との付き合いの長さからか俺に関しての勘は半端ないところがあって、今回も誰も気にすらしない俺のことを目ざとく見つけた。

 まだまだ、俺が出てくるような順番ではないからか、俺に焦点があった瞳が、結構距離があったにも拘らず、丸くなったところがわかるくらい大きくなった事が見て取れた、その姿に思わず笑みがこぼれる。

 何事もなかったかのようにリフルと合流して正門に続く駐車場に向かう。

 上位貴族の子供達も寮から通ってきているから、送迎のための馬車は俺の物しかない。もちろんこの馬車にもガチガチに防御のための結界を張っている。

 いきなり馬車の陰から現れた俺達に、こちらもまだ帰る時間ではないと油断していた御者が驚いた顔をしていたのも面白かった。

 この馬車に何かあった場合は、そのことが記録できるような仕掛けも付けている。

 魔法で何かしようとしても、この馬車には何もできないのだが、今だに懲りない者がいるようで、毎日何かしら魔法でまたは物理で攻撃のようなものを仕掛けられる。

 誰が何をしたのか全て把握されているとも知らずに……。


 キールが今日の仕掛けを確かめて少し黒い。

 この学園への通学の行き帰りの時が、一番狙われやすいことは織り込み済みで、毎日同じ道を使っているのだ。

 あえて人気のあまりない道を。

 馬車の駐車中に学園内で行われている、こちらからすればいたずらのような攻撃は、もちろんあの学園の中に入れる内部の学生かその他が行っていることがほぼ全て。職員がやったとわかったら、その時は次の日そいつが学園に居ることは無い。

 学生がやった時にはしっかりとその背後を確かめて、しかるときに表に出せるようにはしている、らしい……。

 過去に一度、すっごく大きな攻撃を受けて、しっかりとやり返してから、あれほどのことは起きていない。

 あのことが表ざたにならなかったことを持って、どこら辺が起こしたことかわかりきったものだが、そこはこちらが大人の対応で……。

 それなのに、懲りてないやつがうじゃうじゃ湧いてくる。この国が腐っている証拠だな。

 それでもあの学園の寮に入るよりは、仕掛けられるタイミングがわかっている分だけ、対処の仕方もあるというものだ。

 どう見ても普通の人に見える御者も、もちろんマーシュの薫陶を受けてきた子飼いだ。この馬車の仕様について知っているとはいえ、毎日行われる壮大で陰湿なイジメにも似た行為をものともせず進む手綱さばきは、さすがの一言に尽きる働きようだ。

 今日も離宮の近く、ほぼ人通りのない道、ただししっかりと王城内、に差し掛かると結界に向けて放たれた攻撃魔法がパチリパチリと弾かれる音が聞こえてきた。

「今日のは……水か?」

「朝もそうでしたし……昨日は火でしたから……昨日とは違う家ですかね……毎日ご苦労なものです」

 毎朝のこと、従者として同乗しているリフルも初めて体験をした時にはおびえていたものの、何度も体験すれば……慣れたものだ。

『どこの家のだれが行っているか丸見えであることを知っても、こんなことを行う猛者はいるのかな?』

 おや今日の犯人は初顔だ!といいながらしっかりと目印になるマークを付けて面白そうに笑っている。追跡機能も付いた優れもの。この場から去ったところで、すでに名前なんか鑑定のぞき済み。誰と接触を持つのか楽しみだな。

 こんな感じで、俺の王立学園への通学は始まったのだった。



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