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クリフ・マークィス・ゲイル 2
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私は思い切って聞いてみた、ここは王都の侯爵邸の父の執務室で在り、その時この部屋には私と父以外誰もいなかったからだ。
「父上。王妃殿下がお産みになられた殿下はいつお隠れになってしまわれたのですか?」と……。
父は一瞬動きを止めて、何かに驚いたような表情を浮かべて、何か声に出して私に伝えようとした、その刹那、ストンっと顔からすべての表情が抜け落ちた。
そしてその今まで聞いたことがなかったような低い声で
「何をわからないことを話しているのだクリフ。陛下にはお子様は一人しかいらっしゃらない」
と、一息で話すと、直ぐに家令を呼びつけて、私を自室に下げるようにいいつけると、私のことには視線を向けることなく仕事を始めてしまった。
執務室に通された時には「ひさしぶりに親子水入らずで話そうなぁ」と、とても楽しそうであったのに、その舌の根も乾かぬうちに、私は部屋から追い出されたのだ。
父とそれまでそう関わりを持つことができなかった私としても、あの時の父の様子がおかしかったということは認識できた、それが私が発した質問を元にしていることも……。
あの質問が不敬に当ったから、父が怒ってしまったのだろうか?
自室に向かう廊下を家令に促され歩きながらも、何がいけなかったのか考える。
私の半歩前を歩く家令の顔を仰ぎ見るも、この者もこちらに来てから知った者、話しかけられたくない雰囲気を感じて声をかけることはできなかった。
私の部屋には私付きの侍従見習いが控えていた。領地に居たころからの幼馴染のようなもので、今回一緒に王都に連れてきた者だ。
あまりにも予定時間よりも早く戻ってきたことに、それなりの事情を感じ取ったのかいつも饒舌な奴が、私が話しかけるまで神妙に控えていることに気付く。
就寝する準備をすっかり済ませ、ベッドサイドにナイトキャップ、と言っても温められたミルクであるが、を持ってきたターナーに問いかけた。
「お前は王子殿下のことに関して、何か知っていることは無いか?」
「おうじでんか?ですか……」
私に上掛けをかける手を止めて、一瞬中を見るように視線を動かしたターナーは、私に視線を合わせて答えた。
「坊ちゃまが持ち合わせている知識より多いものはないと思いますが……。今上陛下には坊ちゃまより一歳下、お嬢様と同い年の、王妃様がお産みになられた殿下がお一人いらっしゃると記憶しております」
私の侍従候補になるくらいであるから、この私より三歳年長のターナーもそこそこ神童扱いされている奴である。
二人ともこの王都に居なかった、田舎ともいえるかもしれない領地にいたと考えても、陛下のただ一人のお子様と表立って言えるのは王妃様がお産みになった殿下であろうと記憶している。
父が今日私に顔合せをさせたあの伯爵家の子息が陛下のただお一人お子様というならば、王妃様のお産みになった殿下がお亡くなりになったか、もしくは不義のお子様であるということか?
「お前はその殿下がお亡くなりになったとか、もしくは陛下のお子様ではなかったなどというとか……とにかくそのような何か王子殿下のことに関して話を聞いたことがあるか?」
ターナーが正式に私の侍従候補となってから、私の耳に入れることは無いと奴が判断し、情報の元から隠滅したことが数件あったことを知っている。
今回は王家に関わることであるし、そのような情報操作が私になされていたと考えたくはなかったが、一応確かめずにはいられなかった。
「……今の所ただお一人のお子様であられる王子殿下が……そのぉ……発育があまりよろしくないと言いますか……」
三日も王都から離れた領地に居る使用人であるターナーすら知ることができる噂。
王妃殿下がお産みになられた陛下の嫡男にもあたる王子殿下は、鳴き声も挙げることなくお生まれになり、これまで一度も泣いたこともない、感情というものをお持ちにならないお子様である。
不敬に当たるので大きな声では言えないが、王城内の誰もが、「あの人形のような殿下ではお世継ぎになることはできないだろう。何と言ってもご両親である陛下も王妃殿下も、王子殿下の宮に足を運ばれたことはお生まれになってから一度もないのだから……」
「このような噂を、王城から戻って来た先輩方から聞いたことがあるのです」
噂のようなものはどのようなものであってもお坊ちゃまたちには知らせることはならぬ、という家令からの厳しいお達しがあるそうで、ターナーも私たちの前ではこのような話はしなかったと、頭を下げた。
「父上。王妃殿下がお産みになられた殿下はいつお隠れになってしまわれたのですか?」と……。
父は一瞬動きを止めて、何かに驚いたような表情を浮かべて、何か声に出して私に伝えようとした、その刹那、ストンっと顔からすべての表情が抜け落ちた。
そしてその今まで聞いたことがなかったような低い声で
「何をわからないことを話しているのだクリフ。陛下にはお子様は一人しかいらっしゃらない」
と、一息で話すと、直ぐに家令を呼びつけて、私を自室に下げるようにいいつけると、私のことには視線を向けることなく仕事を始めてしまった。
執務室に通された時には「ひさしぶりに親子水入らずで話そうなぁ」と、とても楽しそうであったのに、その舌の根も乾かぬうちに、私は部屋から追い出されたのだ。
父とそれまでそう関わりを持つことができなかった私としても、あの時の父の様子がおかしかったということは認識できた、それが私が発した質問を元にしていることも……。
あの質問が不敬に当ったから、父が怒ってしまったのだろうか?
自室に向かう廊下を家令に促され歩きながらも、何がいけなかったのか考える。
私の半歩前を歩く家令の顔を仰ぎ見るも、この者もこちらに来てから知った者、話しかけられたくない雰囲気を感じて声をかけることはできなかった。
私の部屋には私付きの侍従見習いが控えていた。領地に居たころからの幼馴染のようなもので、今回一緒に王都に連れてきた者だ。
あまりにも予定時間よりも早く戻ってきたことに、それなりの事情を感じ取ったのかいつも饒舌な奴が、私が話しかけるまで神妙に控えていることに気付く。
就寝する準備をすっかり済ませ、ベッドサイドにナイトキャップ、と言っても温められたミルクであるが、を持ってきたターナーに問いかけた。
「お前は王子殿下のことに関して、何か知っていることは無いか?」
「おうじでんか?ですか……」
私に上掛けをかける手を止めて、一瞬中を見るように視線を動かしたターナーは、私に視線を合わせて答えた。
「坊ちゃまが持ち合わせている知識より多いものはないと思いますが……。今上陛下には坊ちゃまより一歳下、お嬢様と同い年の、王妃様がお産みになられた殿下がお一人いらっしゃると記憶しております」
私の侍従候補になるくらいであるから、この私より三歳年長のターナーもそこそこ神童扱いされている奴である。
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父が今日私に顔合せをさせたあの伯爵家の子息が陛下のただお一人お子様というならば、王妃様のお産みになった殿下がお亡くなりになったか、もしくは不義のお子様であるということか?
「お前はその殿下がお亡くなりになったとか、もしくは陛下のお子様ではなかったなどというとか……とにかくそのような何か王子殿下のことに関して話を聞いたことがあるか?」
ターナーが正式に私の侍従候補となってから、私の耳に入れることは無いと奴が判断し、情報の元から隠滅したことが数件あったことを知っている。
今回は王家に関わることであるし、そのような情報操作が私になされていたと考えたくはなかったが、一応確かめずにはいられなかった。
「……今の所ただお一人のお子様であられる王子殿下が……そのぉ……発育があまりよろしくないと言いますか……」
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「このような噂を、王城から戻って来た先輩方から聞いたことがあるのです」
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