転生したら当て馬王子でした~絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい~

HIROTOYUKI

文字の大きさ
152 / 196

クリフ・マークィス・ゲイル 3

しおりを挟む
 そうだ、ごく最近領地から王都に向かう前に侯爵領で交わした母親との会話を思い出した……。

「去年のうちに帯剣の儀を終わらせておけて、本当に良かったこと……」

 いつものように、日差しがたっぷり降り注ぐサンルームでのお茶の時間に、突然母が離し始めたのだ。

 母は、怪訝な表情を浮かべる私と妹のフォスキーアの顔を見て、手にしていた父からの手紙を見せて微笑んだ。

「なんでも今年の帯剣の儀には王子殿下が出席されるから、王城内の神殿での希望者が例年の比ではないくらい多いらしいの」

 そう言えば、王子殿下は妹と同じ年であったか……。あまりにも王都の話がこの場で話されることがないので、王家の一員のこともすっかり頭の中から消えていた。

 しかし……王家のことを思い出すと、ついでのようにとても古い記憶も表層に上がってきた。

 確かに、フォスキーアが生まれてまもなくだったか、流石にいつもは王都で宰相職を勤めている父も、母親の出産には間に合わないまでも、十日後には帰ってきていたのだ。

 妹の顔を見ながら父と母が交わしていた会話。普段であれば第三者が居るようなところでは躱さないであろう様な会話も、まだ一歳になったばかりの私はその頭数には入っていなかったのだろう。

「この子と同い年の子は例年になく多くなるのでしょうね。上のお方の時には間に合わない方が多かったから、クリフと同年の子供が多いけれど、今回は公になっているのだからこれからも増えるのではなくて?」

「もうすぐお生まれになる殿下が王子殿下であっても王女殿下であっても、我が家は支えて行くつもりだ」

「王子殿下であればやはりこの子がお妃候補になるのかしら?できればこの子の好きな方と添わしてあげたいけれど……」

「嫁には出さん!とは言えないが、真実の愛とやらを叫ばれてもなぁ……あのようなこともある。また、政略でも幸せになれることもたくさんある」

「私たちのように?」

「そうだ、私たちのように」

「……」

 私の存在を全く忘れて見つめあっている二人を母のいる寝台の下から、じっと見つめていたのを覚えている。ちょうどその時にすやすやと眠っていた妹が目を覚まし鳴き声を上げたことで、やっと2人の世界からこちら側に帰ってきてくれたのだった。

 と、そのようなことまで、記憶の波から引きずり出されるように思い出してしまったが、とにかく、あの時話に上がっていた殿下も、私の認識していた王子殿下も、妹が生まれてまもなく王妃様がお産みになった殿下であって、伯爵子息の方ではなかった。

 ところがどうだ、王妃殿下がお産みになった王子殿下が五歳になられて、王都では大々的に王城で帯剣の儀が成されたはずなのに、それまでは流れてきた王都の話も全く領地に流れてくることもなく、突然私を王都に呼び出す連絡がきて、王都に着いたと思えば前触れなく伯爵子息である陛下のお子様という人物と顔合せをさせられた。

 その後、王都の侯爵邸に帰ってきて、寝る前の落ち着いたところで、側付きのターナーに思わず疑問を口にしてしまったのだ。

 ターナーと知識の確認をしてみたが、私との相違はほぼ無かった。

 ところが、タウンハウスで新たに私に就くことになったもう一人の侍従見習いのクレインは王都生まれの王都育ちということで、これからここで暮らすことになるのにこの地に詳しいものが欲しいということで就けてもらった者に同じような質問をしたところ、思いもかけない返答が帰ってきた。

「クレイン、今年の帯剣の儀は殿下が参加されたこともあって、とても盛大に行われたって聞いたのだけど……」

 私の紅茶の好みなどを専従のターナーから聞き取るなど、懸命に私に使えようとしているクレインも、またとてもまじめな青年で、私よりも五歳年上、ターナーよりも二歳年上でこの中で一番年長であるが、そのような事を鼻にもかけない態度に好感を抱いていた。

 そのような彼が語った言葉はある意味衝撃であった。

「今年の帯剣の儀ですか?殿下?ん~ん?……そう言えば、帯剣の儀の日は過ぎているから、行われたと思いますけど……私は平民ですし……あれ?でも知り合いの貴族の子今年五歳だったはずだけど……」

 最後の方は私に話していたことを忘れてしまったかのように、自問自答になってしまっていた。

「今年の帯剣の儀は行われなかったの?」

 考え込んだクレインに改めて問う。

 すると、何かを思い出そうと必死に考え込んでいたクレインの顔から、先ほどの父のように表情がなくなり、今まで彼の口から聞いたことがないような低い抑揚のない声で、返答が成されたのだ。

「何も……何も問題がなく恙なく……クリフ様には本日はお疲れのことと思われますので、ゆっくりとお休みくださいませ」

 そのまま一つ大きく頭を下げると、スタスタと部屋の外に出て行ってしまった。

「……オイ!」

 声をかけてクレインの後を追ったターナーも、しばらくして首をかしげながら戻ってくると、

「追い付いてなぜクレインにあのような態度をとったのか聞いてみたのですが、とにかく要領を得なくて……とぼけているとは考えられないのですが、話が通じないのです。今さっきのことなのに覚えていないようで……変です……」

 この日、王都は何かがおかしいと感じたこの日から、とにかく私は殊更細かく日記に日々の出来事を書き残すことを決めたのだ。

  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...