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チュート殿下 113 この世界の理に 1
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今、俺たちは隣の国との国境とされている深い森の入り口付近に立っている。
「黒い森」とか「魔の森」などと呼ばれ、冒険者でも依頼がなければ近づかないと言われている所。
一端の冒険者ポイ格好で、やけに強い横風を受けながら立っている。
「……何でお前、その姿なの?……」
この頃見慣れていた従者の姿ではもちろんないことは当たり前なのだが、俺が納得できないのは横に立っているキールの見た目の年齢が、昨日までのほんの何歳か年上、リフルよりも幾分年長、というものから10歳は年上の結構な大人の姿になっていることだ。
キールは年齢など関係なく姿かたちを取ることができるから、これまでは確かに子供である俺よりも年上の姿を取ることは必要な事であったと思うけれど、15歳になった今、この世界では大人扱いされる年齢になり、上から見下ろされるのではなく、肩を並べて生きていきたい。
特に、冒険者活動をする時には、対等というか……同い年くらいに見られるようになりたかったのだけど……。
俺よりも頭一つ分以上上にあるやたらとイケメンな面を、睨みつけている気持ちで仰ぎ見ている現状……。
「冒険者登録をした時の年齢差でこの姿を取ったのですよ。アースだけが成長していて私がそのままだったらおかしいでしょ」
涼しい顔で言葉遣いもいつの間にか大人っぽく、自分の呼び方も「俺」から「私」に変わっていて、やたらスタイルがいい長い脚で立っているキールの正論に、返す言葉はない。
冒険者ギルドで登録した後も、時々そのライセンスを取り消されない程度には活動していた俺たち。
アミュレット王国は流石乙女ゲームが根幹に置かれているからか、冒険者活動が盛んではないようで、ダンジョンのようなものの存在も確認されていない。
鎖国をしているような様子はないが、とにかく他の国とのかかわりが薄いことは確かで、そのことについて疑問に思っているような者もほとんどいない。
乙女ゲームでよくある隣国からの王族の留学生のようなものも居なかったし、隣国の名前が出てくるのは、テンプレといえるかもしれない実はヒロインが……で出てきたくらいだった。
「その原因の一つといえるものがこれ?」
果てしなくこの森に沿ってこちら側を包み込むように空の上まで続いている薄い膜のようなもの。
手を伸ばしても何か触っている感覚は全くないものの、なんとなくそのまま進むことに忌避感が沸く。
まるで目に見えない蜘蛛の巣が体にまとわりつくような嫌な感じがするのだ。
「何かと問われれば王都や王城に張られている結界と同じようなものです。その効果は全く違いますけどね」
この緩い結界のようなものを超えることは大して難しいことは無く、物理的に弾かれるとか痛いこと等は一切ないが、冒険者でない者に関してはこの嫌な感じが非常に強くなり、この国境を越えようという気がなくなるような仕様になっているのではないか、ということだ。
「魔力に関して敏感な私たちだから気が付いたようなもので、普通の冒険者であればこのようなものがあることに気付くことなく、ここを抜けていくでしょうね」
あえて可視化している結界をぽよぽよと触りながらキールがより詳しい鑑定を行っている。
以前もこの場所ではなかったが隣の国に行くときにはこの結界を抜けていったようなのだが、今ほど能力が高くなかったからか一般的な冒険者と同じようにほんの少しの違和感だけで移動していたのだろう。
「一つの国をそっくり結界で包み込むことは、規格外の私たちでもできることではありません。つまりこれはこの世界の理の力だから成せることなのでしょう」
この国アミュレット王国だけではなく、この世界に存在している国々はそれぞれが内部から国民が出ていかないように、外部からの異物が入ってこないように、結界が張られているということなのか?
「この国は乙女ゲームの世界が元になっていることは言うまでもないことですが……」
隣のタリスマン帝国はヒロインの出自の時に出てくるが、以前冒険者として入国したときに系統的にはこの国と同じく所謂ファンタジーに属する魔法と剣の世界であることは確認済みであるが、その魔法形態がこの国とは全く違っていることに驚いたことを「今」思い出した。
『でもあの時は、驚いたことに驚いたというか、不思議に思ったこともこの国に戻ってきたら忘れてしまったんだよなぁ』
まだ俺もこの世界に生まれ直した幼い子供であったし、いくらキールがチートなスキルであっても、俺のスキルであるってことは、俺のレベルが低ければその時はそれなりのレベルであるわけで、今のように万能に近いと言えるようなものではなかったのだ。
「今だって万能というわけではないですよ。この世界の理に対抗できるだけの地金はまだ持ち合わせていませんし」
『……すぐに心の中を読む……』
「……」
……兎に角……この、俺にとってとても不条理で腐った世界の理の深淵を垣間見るくらいしかまだできていないことは理解している。
その深淵を知る第一歩がこの目の前にある結界なのだろうということも。
「この世界は、この結界に包まれた一つ一つの国で、独立した一つの物語として存在しているのではないか、という大きな推測ができるのです」
そういいながら、一歩キールは歩を進めて、この気持ちの悪い膜の向こう側に抜けていく。
この膜の特徴なのか、何かを遮るということもなく、森の方から風も吹いてくるし、膜の向こう側で話を続けるキールの声は変化をすることなしに聞こえてくる。
「黒い森」とか「魔の森」などと呼ばれ、冒険者でも依頼がなければ近づかないと言われている所。
一端の冒険者ポイ格好で、やけに強い横風を受けながら立っている。
「……何でお前、その姿なの?……」
この頃見慣れていた従者の姿ではもちろんないことは当たり前なのだが、俺が納得できないのは横に立っているキールの見た目の年齢が、昨日までのほんの何歳か年上、リフルよりも幾分年長、というものから10歳は年上の結構な大人の姿になっていることだ。
キールは年齢など関係なく姿かたちを取ることができるから、これまでは確かに子供である俺よりも年上の姿を取ることは必要な事であったと思うけれど、15歳になった今、この世界では大人扱いされる年齢になり、上から見下ろされるのではなく、肩を並べて生きていきたい。
特に、冒険者活動をする時には、対等というか……同い年くらいに見られるようになりたかったのだけど……。
俺よりも頭一つ分以上上にあるやたらとイケメンな面を、睨みつけている気持ちで仰ぎ見ている現状……。
「冒険者登録をした時の年齢差でこの姿を取ったのですよ。アースだけが成長していて私がそのままだったらおかしいでしょ」
涼しい顔で言葉遣いもいつの間にか大人っぽく、自分の呼び方も「俺」から「私」に変わっていて、やたらスタイルがいい長い脚で立っているキールの正論に、返す言葉はない。
冒険者ギルドで登録した後も、時々そのライセンスを取り消されない程度には活動していた俺たち。
アミュレット王国は流石乙女ゲームが根幹に置かれているからか、冒険者活動が盛んではないようで、ダンジョンのようなものの存在も確認されていない。
鎖国をしているような様子はないが、とにかく他の国とのかかわりが薄いことは確かで、そのことについて疑問に思っているような者もほとんどいない。
乙女ゲームでよくある隣国からの王族の留学生のようなものも居なかったし、隣国の名前が出てくるのは、テンプレといえるかもしれない実はヒロインが……で出てきたくらいだった。
「その原因の一つといえるものがこれ?」
果てしなくこの森に沿ってこちら側を包み込むように空の上まで続いている薄い膜のようなもの。
手を伸ばしても何か触っている感覚は全くないものの、なんとなくそのまま進むことに忌避感が沸く。
まるで目に見えない蜘蛛の巣が体にまとわりつくような嫌な感じがするのだ。
「何かと問われれば王都や王城に張られている結界と同じようなものです。その効果は全く違いますけどね」
この緩い結界のようなものを超えることは大して難しいことは無く、物理的に弾かれるとか痛いこと等は一切ないが、冒険者でない者に関してはこの嫌な感じが非常に強くなり、この国境を越えようという気がなくなるような仕様になっているのではないか、ということだ。
「魔力に関して敏感な私たちだから気が付いたようなもので、普通の冒険者であればこのようなものがあることに気付くことなく、ここを抜けていくでしょうね」
あえて可視化している結界をぽよぽよと触りながらキールがより詳しい鑑定を行っている。
以前もこの場所ではなかったが隣の国に行くときにはこの結界を抜けていったようなのだが、今ほど能力が高くなかったからか一般的な冒険者と同じようにほんの少しの違和感だけで移動していたのだろう。
「一つの国をそっくり結界で包み込むことは、規格外の私たちでもできることではありません。つまりこれはこの世界の理の力だから成せることなのでしょう」
この国アミュレット王国だけではなく、この世界に存在している国々はそれぞれが内部から国民が出ていかないように、外部からの異物が入ってこないように、結界が張られているということなのか?
「この国は乙女ゲームの世界が元になっていることは言うまでもないことですが……」
隣のタリスマン帝国はヒロインの出自の時に出てくるが、以前冒険者として入国したときに系統的にはこの国と同じく所謂ファンタジーに属する魔法と剣の世界であることは確認済みであるが、その魔法形態がこの国とは全く違っていることに驚いたことを「今」思い出した。
『でもあの時は、驚いたことに驚いたというか、不思議に思ったこともこの国に戻ってきたら忘れてしまったんだよなぁ』
まだ俺もこの世界に生まれ直した幼い子供であったし、いくらキールがチートなスキルであっても、俺のスキルであるってことは、俺のレベルが低ければその時はそれなりのレベルであるわけで、今のように万能に近いと言えるようなものではなかったのだ。
「今だって万能というわけではないですよ。この世界の理に対抗できるだけの地金はまだ持ち合わせていませんし」
『……すぐに心の中を読む……』
「……」
……兎に角……この、俺にとってとても不条理で腐った世界の理の深淵を垣間見るくらいしかまだできていないことは理解している。
その深淵を知る第一歩がこの目の前にある結界なのだろうということも。
「この世界は、この結界に包まれた一つ一つの国で、独立した一つの物語として存在しているのではないか、という大きな推測ができるのです」
そういいながら、一歩キールは歩を進めて、この気持ちの悪い膜の向こう側に抜けていく。
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