転生したら当て馬王子でした～絶対攻略される王太子の俺は、フラグを折って幸せになりたい～

チュート殿下 １２１ この世界の理に 9

  宿の1階にある食堂には、厳つい男達が数人づつ固まって同じ物を食べていた。

  朝の清々しい空気にそぐわないのは見た目だけではない、その纏う気配に思わず眉間にシワがよる。

  俺よりもそれらの気配に敏感なキールはすでにその原因も掴んでいることに違いないが、何のモーションを起こす事なく、出入り口に近い食堂を見渡すことのできる位置に席を取った。

  屋台の親父に教えてもらったこの宿は、表通りから一本入った所に在るだけに、旅人観光客が使うような物でもなく、安すぎるものでもないので、泊まっている客層は中堅どころから上の冒険者の様だ。

  朝一番に仕事を探しに行くほど差し迫った生活を送ってもいないのだろう、それなりの人数がこの食堂に残っている。

  ただ、ゆったりした時間にゆっくりと朝食を取っているのにそぐわない様なピリピリとした空気が漂っているだけ……。

  朝食は決まったものが供される様で、昨日宿泊の受付時に渡されたメダルを配膳口に置くと、引き換えにお盆に乗せられた一人分の朝食が渡される。

  木製の素朴な盆の上には、細かく切られた野菜が入った透明のスープ、茶色い少し硬めの丸いパン、何も入っていない木製のカップが置かれている。飲み物は配膳口の隣に置かれているこれ又木製のピッチャーから好きな物を選ぶスタイルの様だ。

  この国の宿はB&Bタイプ、宿泊と朝食がセットのされているものが基本で、このタイプの宿は食堂が夜居酒屋のようになり、金を払えば誰でも飲食できるらしい。

  高級宿はその範疇ではないようだが……。

  この様な雑学並みの一種の常識をキールは、俺の空のカップも持って、自分にはコーヒー（の様に見える黒い液体）と俺の分にはオレンジジュース（の様に見える薄めのオレンジ色の液体）を入れて確保した席まで持ってくるまでの間に念話で教えてくれた。

  見慣れない男二人組俺達に、一瞬目をやった食堂の男達は、その二人組が宿泊客で在ることを確認すると直ぐに興味を失った様子で、自分達の話の方に意識を戻していった。

  屋台の親父が言っていた通り、この街の中では野菜が手に入りにくいのだろう、スープの中の野菜はやたらと細かく刻まれていて、種類も少ない。それはパンに使用される小麦も同様な様で、茶色く見えるパンにはフスマまで含まれている様だ。

  ちょっと酸っぱくて硬いパンを食べることに苦労していると、目の前に座っているキールが徐にパンを千切ってスープに浸して食べ始めた。周りを見ると、他の席の男達も皆会話を続けながら手にしたパンを千切ってはスープに浸して食べている。

  ふやかす程ではないが、こうして食べるとパンの硬さと酸っぱさがそれなりに抑えることができるようだ。

『このピリピリしている感じ、何が原因かわかった？』

  食べる必要がないキールも、このような状態では食べない事に違和感があるだろうと、一応口に運んでいるそれら食事は結局どこに行くのか……変な想像をしそうになって思わず視線をキールのお腹の方へ動かしてしまった……途端に頭のてっぺんに威圧が……。

『余計なことは考えずに、とにかく手を動かして食事を終わらせてしまいなさい。原因は冒険者ギルドに行く道々に説明します』

  あれは口に運んでいるていでその瞬間にストレージに飛ばしているんだな。あっという間に盆の上の物を片付けたキールは、最後にカップの中身も飲み干してストレージに飛ばして俺を急かす。

  屋台で食べた串焼きは美味だったが、この世界の朝食は押し並べてこのような感じかもしれないし、なんだかんだ言って俺は生活環境においてはとても恵まれた立場に生まれたので、舌が超えている事は否めない。

  ただ飲み込むように朝食をすませると、部屋の鍵を宿の主人に返してチェックアウトして大通りを目指した。