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Ⅱ 出会い《さいかい》 その①
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目覚めるよりも早く感じたのは、柔らかな感触だった。
どこまでも沈みこんでいきそうなのに、やんわりと支えてくれる。
今まで味わった事の無い、柔らかな感触。
(まるで、雲の上に居るみたい……)
ぼやけた頭で、そんな事を考える。
(あぁ、そっか……なら、死んじゃったんだな、俺……ずいぶん、気持ち好い所なんだな、あの世って――)
そこまで考え付いて、俺は一気に跳ね起きた。
「ふざ……けんなよ……思い、だした……」
視界が歪む。眩暈にも似た酩酊が、俺を苛む。
(どこだ、ここ……)
俺は周囲を観察する。
人の気配はしない。まずは何よりもそれが大事なこと。
自分以外の誰かが居なければ、とりあえずは安全だ。
即座に命に関わる危険な場所に居る訳ではない事を理解して、ようやく僅かな余裕が出来る。
その僅かな余裕を頼りに俺は気持ちを落ち着かせ、記憶を整理する。
(……屋根から、落っこちた筈だ、俺は……助かるような高さじゃなかった。
なのになんで生きてる、俺……それ以前に、どこだ、ここ)
改めて、周囲を見渡す。ようやく眩暈が落ち着いてきた。
きちんと、見た物が何かを理解出来るだけの頭は戻ってきたみたいだ。
周囲を見渡し、俺は判断する。
金持ちの家の部屋だ、ここは。それも絵に描いたような。
成り上がりって感じはしない。随分と、昔っから金持ちだった奴の匂いがする。
そういうカンは、俺は良く働く。
金持ちかどうかを嗅ぎ分けるのは、盗賊としては必要な嗅覚だ。
ここら辺り、ジェイクの奴は鈍いんだ。
「女のカンには勝てん」とか言っちゃってたけど。
……ダメだ、余計なことを考えてる。良くない傾向だ。
いま必要なこと以外を、追い込まれた時に考えてしまうのは俺の悪い癖だ。
子供の頃のクセだけれど、未だに抜けない。
意識を切り替える。必要なことだけを、まずは意識する。
とにかく、いま居るここは、古くからの金持ちの家のどこかの部屋ってことだ。
周囲に置かれた家具や調度類は、派手さは無いが値が張ることだけは確かだ。
視線を、周囲から身近へと戻す。今、自分が居る場所がどこなのかを理解する。
寝台の上だった。
それも、むかし寝る前に聞かせて貰った御伽噺のお姫様が寝てそうな、やたらとゴツイ寝台。
(うわっ、何だよこれ。
なんか柱みたいのが四隅に建ってるし、何で天井があるんだよ。
って、何だこのうっすい布。
まさか絹布なんじゃ……何で中の人間が隠れるように付けてあんだよ、蚊帳か、これは)
寝台の四隅から伸びた柱と、それによって支えられた天井に付けられた、向こう側が透き通って見えそうな布を見て、思わず俺は呆れ交じりのため息が出る。
今は、周囲を覆わないように柱にまとめられている。
けれど、きっとこれは、この寝台の主が寝る時には、寝てる人間が外からは良く分からないように周囲を蔽うための物なんだろう。
呆れる。何ていう無駄なんだか。
この布切れ全部だけでも、あの子達の食費が一週間分は出るかもしれない。
……なんか、ムカついてきた。きっと嫌な奴だ。この家の主は。
金持ちなのは間違いない。
でなけりゃ、こんなに無駄な物を寝台なんかに付けてるもんか。
おまけに、いま俺が下にしてる布団にしたって、空に浮かぶ雲の上で寝てたのかと錯覚するぐらい、ふわふわの柔らかさだ。
腹が立つ。なんだか腹が立つ。
きっと、この家の奴らは、飢えた事すらないんだろう。
寝るだけの場所にこれだけ金を掛けられるんだ。絶対に、そうだ。
俺は胸に溜まった嫌な想いを吐き出すように、ため息をつく。
それで、気持ちを一気に切り換える。
嫌な想いは、ため息と共に吐き出して前向きに。
子供の頃に貰った言葉を実践して、俺はこれからの事を考えていった。
どこまでも沈みこんでいきそうなのに、やんわりと支えてくれる。
今まで味わった事の無い、柔らかな感触。
(まるで、雲の上に居るみたい……)
ぼやけた頭で、そんな事を考える。
(あぁ、そっか……なら、死んじゃったんだな、俺……ずいぶん、気持ち好い所なんだな、あの世って――)
そこまで考え付いて、俺は一気に跳ね起きた。
「ふざ……けんなよ……思い、だした……」
視界が歪む。眩暈にも似た酩酊が、俺を苛む。
(どこだ、ここ……)
俺は周囲を観察する。
人の気配はしない。まずは何よりもそれが大事なこと。
自分以外の誰かが居なければ、とりあえずは安全だ。
即座に命に関わる危険な場所に居る訳ではない事を理解して、ようやく僅かな余裕が出来る。
その僅かな余裕を頼りに俺は気持ちを落ち着かせ、記憶を整理する。
(……屋根から、落っこちた筈だ、俺は……助かるような高さじゃなかった。
なのになんで生きてる、俺……それ以前に、どこだ、ここ)
改めて、周囲を見渡す。ようやく眩暈が落ち着いてきた。
きちんと、見た物が何かを理解出来るだけの頭は戻ってきたみたいだ。
周囲を見渡し、俺は判断する。
金持ちの家の部屋だ、ここは。それも絵に描いたような。
成り上がりって感じはしない。随分と、昔っから金持ちだった奴の匂いがする。
そういうカンは、俺は良く働く。
金持ちかどうかを嗅ぎ分けるのは、盗賊としては必要な嗅覚だ。
ここら辺り、ジェイクの奴は鈍いんだ。
「女のカンには勝てん」とか言っちゃってたけど。
……ダメだ、余計なことを考えてる。良くない傾向だ。
いま必要なこと以外を、追い込まれた時に考えてしまうのは俺の悪い癖だ。
子供の頃のクセだけれど、未だに抜けない。
意識を切り替える。必要なことだけを、まずは意識する。
とにかく、いま居るここは、古くからの金持ちの家のどこかの部屋ってことだ。
周囲に置かれた家具や調度類は、派手さは無いが値が張ることだけは確かだ。
視線を、周囲から身近へと戻す。今、自分が居る場所がどこなのかを理解する。
寝台の上だった。
それも、むかし寝る前に聞かせて貰った御伽噺のお姫様が寝てそうな、やたらとゴツイ寝台。
(うわっ、何だよこれ。
なんか柱みたいのが四隅に建ってるし、何で天井があるんだよ。
って、何だこのうっすい布。
まさか絹布なんじゃ……何で中の人間が隠れるように付けてあんだよ、蚊帳か、これは)
寝台の四隅から伸びた柱と、それによって支えられた天井に付けられた、向こう側が透き通って見えそうな布を見て、思わず俺は呆れ交じりのため息が出る。
今は、周囲を覆わないように柱にまとめられている。
けれど、きっとこれは、この寝台の主が寝る時には、寝てる人間が外からは良く分からないように周囲を蔽うための物なんだろう。
呆れる。何ていう無駄なんだか。
この布切れ全部だけでも、あの子達の食費が一週間分は出るかもしれない。
……なんか、ムカついてきた。きっと嫌な奴だ。この家の主は。
金持ちなのは間違いない。
でなけりゃ、こんなに無駄な物を寝台なんかに付けてるもんか。
おまけに、いま俺が下にしてる布団にしたって、空に浮かぶ雲の上で寝てたのかと錯覚するぐらい、ふわふわの柔らかさだ。
腹が立つ。なんだか腹が立つ。
きっと、この家の奴らは、飢えた事すらないんだろう。
寝るだけの場所にこれだけ金を掛けられるんだ。絶対に、そうだ。
俺は胸に溜まった嫌な想いを吐き出すように、ため息をつく。
それで、気持ちを一気に切り換える。
嫌な想いは、ため息と共に吐き出して前向きに。
子供の頃に貰った言葉を実践して、俺はこれからの事を考えていった。
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