女盗賊してたらある日偽装結婚の片棒を担ぐことになりました

笹村

文字の大きさ
10 / 17

幕間 ウィルとアーシェ

しおりを挟む
「固定の魔法まで使って、ドアを閉める事は無かったんじゃない」

 無言のまま先を進むウィルに、アーシェは連れ立って歩きながら言った。

「そんなに嫌? あの子を巻き込むのが」
「当然だ」

 言葉だけ返し、ウィルは廊下を歩き続ける。
 そこは、どこか寒々しい気配を感じさせる廊下だった。
 あるいは人の温かみが感じられない、と言っても良いかもしれない。
 人が住み暮らす中で、移っていく残滓とも言える熱のような物。
 それが、酷く薄い。

 仕方のないことではある。
 何しろお屋敷と言ってもよいここに、いま住んでいるのはウィルとアーシェのみなのだから。

 そんな寒々しい場所を歩くウィルは、融け込むような自然さがある。
 そう思えるほど、冷たい気配を滲ませていた。

「随分と無愛想な感じだけど、それで会うわけ?
 あの可愛らしい婚約者のお嬢ちゃんに」

 一瞬の間を空けて、ウィルは応える。

「ああ。いい加減、叶わぬ願いは諦めさせるべきだ」
「だからわざと冷たく当たると……無理ね、そんなことぐらいで諦めないわよ、あの可愛らしいお嬢ちゃんは」

 応えは返ってこない。だから、アーシェは続ける。

「貴方の事を愛してるのよ。心の底から、ずっとね」

 僅かに、アーシェはウィルの応えを待つ。
 だが応えは返ってこない。
 ため息をつくような間を空けて、アーシェは続けた。

「貴方も愛してるでしょ。女としてじゃないけれど」

 アーシェの言葉に、ウィルの気配が僅かに強張る。
 その強張りを崩すように、アーシェは続けた。

「全部、教える? そうすれば、納得してくれるかもね」
「出来る訳が……ないだろ」

 激昂しそうになった声を無理やり抑えウィルは返した。

「なら、ちゃんと振ってあげなさい」

 やさしいとさえ言える声で、アーシェは言った。

「本気でね」
「いつもそのつもりだ」
「馬鹿言ってんじゃないの、子犬パピー

 くすくすと笑うようにして、アーシェは言った。

「誰も愛さない、なんて戯言は、恋する乙女にだって効きはしないわよ。
 それって、誰の者でもないってことなんだから。
 ましてや貴方の相手は、愛する女よ。諦める訳ないじゃない。
 ちゃんと、貴方が本気で愛してる相手を見せつけなきゃ」
「だからソフィアを巻き込めと? そんな選択肢は無い。彼女には、あの部屋に居て貰う」

 そう言うとウィルは、これ以上は返す事が無いとでも言いたげに、無言で足を速める。

「あらあら……」

 アーシェは、無言で進むウィルの背中を追い掛けながら、

(あの子猫ちゃんキティが、大人しく部屋に居続けるような子だと本気で思ってるのかしら? そんなんだから、いつまでたっても子犬パピーなのよ)

 声には出さず、くすくすと笑いながら、ウィルと共に向かって行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

ぱんだ
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした

三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。 書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。 ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。 屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』 ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく―― ※他サイトにも掲載 ※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...