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第1章 牛肉勝負
3 ライバルたちは一山幾ら?
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部屋に入るなり、ご機嫌そうな声で呼びかけられた。
「ようこそ! いやぁ、待っておりましたよ、勇者料理人の先生!」
声の主は、恰幅の良い壮年の男性だった。
「アンタが、ガストロフか?」
五郎の問い掛けに、
「ええ! ええ! そうですとも先生!」
「先生は止めてくれねぇか。あと、勇者料理人ってのも、どうにかなんねぇかな」
ため息をつくように言う五郎に、
「ご謙遜を! お仲間の100の勇者の皆さまと一緒に魔王を倒され、今では異世界の料理を広めておられる先生を、あらた軽々しくは御呼びできません!」
「……勘弁して欲しいんだけどな、そういうの。あ、そだ――」
五郎は、後ろに連いて来ていた有希に身体を向けると、
「呼ばれたのは俺一人だけど、手伝いで友人に来て貰ってるんだ。名前は――」
「存じておりますとも!
101人の勇者の御ひとりにして、今では問屋業を生業とされている有希さまですね。
ええ、ええ、存じておりますとも。
いつどこであろうと、望む物を期日までに確実に届けて下さる。
万能問屋の御高名、知っておりますとも」
(このおっさん、今日有希が俺と一緒に来るの知ってやがったな)
五郎は、ガストロフの様子を見て、そう思う。
有希の名前や顔を知っているのは、別におかしなことじゃない。
こちらの世界に転生召喚され、神々から貰った神与能力を使って問屋をしている有希のことは、商売人ならば知っていても違和感はない。
けれど、そんな相手が予想もせず訪れたなら、まずはそっちに注目するだろう。
それが、全くないのだ。
ここに来る前から、一緒に来ている事を知っていたとしか思えない。
(情報網を駆使して商売してるって聞いてたが、思ってた以上だな)
ここに来る前に、陽色に聞いていたことを思い出す。
「物よりも情報に価値を見出すタイプの商売人みたいだから、気を付けてね」
(気を付けろっつってもなぁ。俺は、そういう腹芸は得意じゃねぇんだよ)
元より五郎は料理人である。基本的に興味は、美味い物を食べさせることだけだ。
だから、興味はガストロフよりも、部屋に居る大勢の料理人に向かっていた。
「なぁ、こっちに居るのが、俺が勝負する料理人か?」
部屋の右側、幾つもテーブルが並べられたそこに座っている、10数人を見て五郎はガストロフに尋ねる。
ほとんどがオッサンだったが、ただ1人、10代半ばの少女が居るのが目立っていた。
凜、とした涼やかな雰囲気をまとっている。
本来は、どちらかというと可愛らしい顔つきだが、勝負に意気込んでいるのか、鋭い表情をしていた。
そんなことを思いながら見詰めていたら、目が合う。
合った途端、ぷいっと視線を逸らす少女。
「どんまいっす」
「なにがだよ」
ぽんっと肩に手を置いて慰める有希に、じと目で返す五郎。そこに、部屋の左側で、豪商が使うにはこじんまりと質素な机を前に座っていたガストロフが、
「そちらに座られているのは、陽色さん以外の推薦で来て頂いた料理人の方々です」
変わらぬ笑顔を浮かべながら、五郎に返した。
「推薦って、なんのこった?」
「なに、単なる余興です」
温和な笑顔を浮かべながら、ガストロフは続ける。
「先生も聞いておられるでしょうが、勇者の皆さまが造られた蒸気機関車なる新しい乗り物、あれに私は投資させて頂いた訳です」
「おう、聞いてる」
「ですが、商人とは耳ざといもの。私以外の商人も、一口噛ませろとやって来た訳です」
「へぇ、それで?」
「だったら、美味い物を食べさせる料理人を連れてくれば、考えなくもないと、私は言ったわけですな」
「それが、この状況ってわけか」
「その通りで。折角なのでどうせなら、料理勝負で決めようと、そうなったわけですな」
「ちょっと待て。それって、アレか? 俺より美味い物作った料理人の推薦人が、蒸気機関車の投資話に噛んでくるってことか?」
「ええ、おおむねは。別に、先生に勝たなくとも、美味いと思える物を食べさせてくれれば、それで構わないのですがね」
「商売人にしちゃ、欲がねぇな。折角の儲け話だ。独り占めしようとは思わなかったのか?」
「飯は独りより、大勢で食べる方が好きですからな」
「そっか。好い趣味だな」
五郎はガストロフの言葉に、にっと笑う。
それにガストロフは、穏やかな笑みで返しながら、
「もっとも、一緒に食べる相手は選ぶ主義ですがね。ですので、早速試させて貰えますかな、先生」
どこか底冷えする凄みを感じさせる声で言った。それに五郎は、
「おう、良いぜ。美味いもの、食わせてやるよ。楽しみにしてくれ」
無邪気とすらいえる笑顔を浮かべ返した。
その笑顔に、ガストロフは毒気を抜かれたように苦笑すると、
「ええ、ええ。もちろん楽しみですとも、先生。それでは、他の皆さまも、付いて来て下さいませ。早速、料理勝負をして貰う為に、案内いたしますので」
そう言って、その場に居る料理人たちを、第一の料理勝負の場所となる厨房へと案内した。
「ようこそ! いやぁ、待っておりましたよ、勇者料理人の先生!」
声の主は、恰幅の良い壮年の男性だった。
「アンタが、ガストロフか?」
五郎の問い掛けに、
「ええ! ええ! そうですとも先生!」
「先生は止めてくれねぇか。あと、勇者料理人ってのも、どうにかなんねぇかな」
ため息をつくように言う五郎に、
「ご謙遜を! お仲間の100の勇者の皆さまと一緒に魔王を倒され、今では異世界の料理を広めておられる先生を、あらた軽々しくは御呼びできません!」
「……勘弁して欲しいんだけどな、そういうの。あ、そだ――」
五郎は、後ろに連いて来ていた有希に身体を向けると、
「呼ばれたのは俺一人だけど、手伝いで友人に来て貰ってるんだ。名前は――」
「存じておりますとも!
101人の勇者の御ひとりにして、今では問屋業を生業とされている有希さまですね。
ええ、ええ、存じておりますとも。
いつどこであろうと、望む物を期日までに確実に届けて下さる。
万能問屋の御高名、知っておりますとも」
(このおっさん、今日有希が俺と一緒に来るの知ってやがったな)
五郎は、ガストロフの様子を見て、そう思う。
有希の名前や顔を知っているのは、別におかしなことじゃない。
こちらの世界に転生召喚され、神々から貰った神与能力を使って問屋をしている有希のことは、商売人ならば知っていても違和感はない。
けれど、そんな相手が予想もせず訪れたなら、まずはそっちに注目するだろう。
それが、全くないのだ。
ここに来る前から、一緒に来ている事を知っていたとしか思えない。
(情報網を駆使して商売してるって聞いてたが、思ってた以上だな)
ここに来る前に、陽色に聞いていたことを思い出す。
「物よりも情報に価値を見出すタイプの商売人みたいだから、気を付けてね」
(気を付けろっつってもなぁ。俺は、そういう腹芸は得意じゃねぇんだよ)
元より五郎は料理人である。基本的に興味は、美味い物を食べさせることだけだ。
だから、興味はガストロフよりも、部屋に居る大勢の料理人に向かっていた。
「なぁ、こっちに居るのが、俺が勝負する料理人か?」
部屋の右側、幾つもテーブルが並べられたそこに座っている、10数人を見て五郎はガストロフに尋ねる。
ほとんどがオッサンだったが、ただ1人、10代半ばの少女が居るのが目立っていた。
凜、とした涼やかな雰囲気をまとっている。
本来は、どちらかというと可愛らしい顔つきだが、勝負に意気込んでいるのか、鋭い表情をしていた。
そんなことを思いながら見詰めていたら、目が合う。
合った途端、ぷいっと視線を逸らす少女。
「どんまいっす」
「なにがだよ」
ぽんっと肩に手を置いて慰める有希に、じと目で返す五郎。そこに、部屋の左側で、豪商が使うにはこじんまりと質素な机を前に座っていたガストロフが、
「そちらに座られているのは、陽色さん以外の推薦で来て頂いた料理人の方々です」
変わらぬ笑顔を浮かべながら、五郎に返した。
「推薦って、なんのこった?」
「なに、単なる余興です」
温和な笑顔を浮かべながら、ガストロフは続ける。
「先生も聞いておられるでしょうが、勇者の皆さまが造られた蒸気機関車なる新しい乗り物、あれに私は投資させて頂いた訳です」
「おう、聞いてる」
「ですが、商人とは耳ざといもの。私以外の商人も、一口噛ませろとやって来た訳です」
「へぇ、それで?」
「だったら、美味い物を食べさせる料理人を連れてくれば、考えなくもないと、私は言ったわけですな」
「それが、この状況ってわけか」
「その通りで。折角なのでどうせなら、料理勝負で決めようと、そうなったわけですな」
「ちょっと待て。それって、アレか? 俺より美味い物作った料理人の推薦人が、蒸気機関車の投資話に噛んでくるってことか?」
「ええ、おおむねは。別に、先生に勝たなくとも、美味いと思える物を食べさせてくれれば、それで構わないのですがね」
「商売人にしちゃ、欲がねぇな。折角の儲け話だ。独り占めしようとは思わなかったのか?」
「飯は独りより、大勢で食べる方が好きですからな」
「そっか。好い趣味だな」
五郎はガストロフの言葉に、にっと笑う。
それにガストロフは、穏やかな笑みで返しながら、
「もっとも、一緒に食べる相手は選ぶ主義ですがね。ですので、早速試させて貰えますかな、先生」
どこか底冷えする凄みを感じさせる声で言った。それに五郎は、
「おう、良いぜ。美味いもの、食わせてやるよ。楽しみにしてくれ」
無邪気とすらいえる笑顔を浮かべ返した。
その笑顔に、ガストロフは毒気を抜かれたように苦笑すると、
「ええ、ええ。もちろん楽しみですとも、先生。それでは、他の皆さまも、付いて来て下さいませ。早速、料理勝負をして貰う為に、案内いたしますので」
そう言って、その場に居る料理人たちを、第一の料理勝負の場所となる厨房へと案内した。
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