異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

文字の大きさ
4 / 28
第1章 牛肉勝負

4 第一の料理勝負 食材 牛肉 その① 肉の見極め

しおりを挟む
 そこは、同時に数十人が料理が出来るぐらいの、大きな厨房だった。
 水回りも火の回りも数多く、しっかりしている。

「なんか、ちょっと熱いっすね」
「火が、かまどに入ってんだろ」

 五郎の言う通り、壁際に設置された幾つものかまどから、じわじわと熱気が漏れている。
 焚き口とかまど口には蓋が掛けられ、煙突がついているので煙はもれていなかったが、熱までは閉じ込めてはおけなかったようだ。

「こっちの世界に来て毎回思うっすけど、元の世界は、ほんっと便利だったっすよねぇ」
「ガスも電気もあったからな」

 しみじみと言い合う有希と五郎。
 こちらの世界では魔術があるとはいえ、それ以外の技術水準が中世程度なので、料理を作るのも大事なのだ。
 炎の魔術効果が発揮される魔導具はあるけれど、火の加減が難しい上に高価すぎるので一般的じゃない。
 いま有るみたいに、水回りや火の回りがしっかりしている所で料理が出来ること自体が稀だったりする。

「ま、それでも美味い物を作るのが、料理人の腕の見せ所だけどな」
「頼もしいことを仰られる!」

 五郎の言葉に、ガストロフは手を叩いて喜ぶと、
 
「ではでは、早速みなさまに料理を作って頂きましょう! 食材は、あちらをお使いください!」

 ガストロフの言葉に視線を追えば、大理石のテーブルの上に、どんっ! と置かれた大きな肉の塊が。
 大人2人がかりでようやく持てるかというほどの、巨大さである。

「この日のために、特別に用意させて頂いた牛肉です! これを使って、皆さまには美味いものを作って頂きます!」

 ガストロフの言葉に、ざわめきが走る。それは不満の声として溢れ出た。

「牛肉のような粗末な肉を、料理しろというのか……」

 同じような不満を口にするのは1人や2人ではなく、大半だ。
 それもその筈。この世界で牛肉と言えば、貧乏人が食べる粗末な肉、というのが常識なのだ。

 硬くて臭い肉。それが牛肉の一般的な評価でもある。
 なにしろこの世界、牛は食べるためではなく、畑を耕すためや乳搾りのために育てるのが普通なのだ。

 食べれる程に育てるには時間がかかり過ぎ、草以外を与えて肥えさせようとするならば、餌代が莫大に掛かる。
 それならば、育つのが早く餌もそれほど必要としない、羊や鶏を育てて食べた方がマシなのだ。
 
 こちらの世界の料理人なら、誰でも知ってる常識に、噛み付くようなこの食材。
 それを使えと言われたのだ。不満が出るのも仕方ない。けれど、

「無理ですかな? 皆さま方では」

 ガストロフは笑顔を浮かべ、挑発するように言い切った。

「私は美味いと思っているのですよ、牛肉を。だからもっと、美味く食べたい。そのために、本日は御高名な皆様に来て頂いたのですが、荷が重すぎましたかな?」

 これに誰も返すことが出来ない。と思いきや、

「とんでもない! 我輩も牛肉は大好きですからな! むしろ腕が鳴りますぞ!」

 1人のオッサンが、芝居がかった口調で声を上げる。
 見た目だけなら、むしろ渋さ満点の紳士然とした男であったが、色々と全身から醸し出している胡散臭さが台無しにしている。
 綺麗に洗濯されアイロン掛けもされている白の調理服を、ピシッと着こなし。口元には髪と同じ、灰色がかった髭を綺麗に切りそろえている。
 料理人というよりは、どこかの社交界で美女を侍らせている方が似合いそうな男であった。

「アルベルトさまも牛肉がお好きでしたか! これは嬉しい。美味い料理が食えそうだ」
「安心するが良いのである。これだけ良い肉を用意されて、その気にならなければ嘘であるからな」

 含みを持って、アルベルトと呼ばれたオッサンは言う。
 その言葉に、失笑が周囲から滲む。見る目の無さや、料理の腕では無くお世辞でガストロフに媚びているとでも言うように、嘲るような視線をアルベルトに向けていた。
 料理人としては、ただ2人。五郎と、五郎と視線が合った途端に目を逸らした少女は、別であったが。

「……どうなんっすか? 実際のところ」

 料理人ではない有希が、五郎にしか聞こえない小さな声で尋ねると、

「美味い肉だと思うぜ」

 肩をすくめるように、五郎は返した。有希が理由を聞こうとすると、それより早く、

「牛肉で美味い物を作れってのは分かったよ。それで、いつ始めるんだ?」

 五郎は、ガストロフに尋ねる。それにガストロフは、にっと笑い、

「今すぐにでも。料理の出来た方から、別室に持って来て頂き、私と母が、そして他に2名の方で審査させて頂きます」

 挑むように、全ての料理人に向け言った。これに、五郎は更に問い掛ける。

「4人で食べるのは分かったけどよ、どんな味が好みなんだ? それと、どうしても食べられない物があるかも、教えてくれねぇか?」
「それはお答えできません。ただ、皆さまが美味いと思われる物を、出来上がり次第持って来て欲しいのです」
「そっか……分かったよ。それじゃ最後に、一つ聞かせてくれ。時間は、いつまで掛けて良いんだ?」
「幾らでも。みなさまの、気が済むまで」

 ガストロフは、そこまで言うと、今度は少し意地の悪そうな笑みを浮かべ、

「とはいえ、空腹は最大の調味料と申します。お急ぎになられた方が、良いかもしれませんな」
 
 全員を急かすように言う。そして、

「さあ、みなさま。自慢の腕を振るってみて下さいませ! 勝負に勝たれた暁には、私が叶えられる限りの栄達をお約束いたします!」

 ガストロフの言葉には、真実味がある。
 事実、今までガストロフに見出された料理人は、1等地に店を構える援助がなされ、評判を聞きつけた裕福なお客で繁盛するのだ。

 それを知る料理人たちの目がぎらつく。始まりの号令を、今か今かと待ちかまえ、

「それでは、私は別室で待ちますので。料理が出来上がり次第、この部屋を出て持って来て下さい。案内は、部屋の外で、ここに皆さまが来られた時に案内した者が致しますので、付いて行って下さいませ。では、始めて下さい」

 そう言ってガストロフが部屋を出るなり、大半の料理人が一斉に牛肉の塊に群がった。
 我先に肉を切り取り、少しでも早く作り上げようと必死になる。

「うわぁ、すごいっすねぇ。これ、うちらも早く、取りに行った方が良いんじゃないっすか?」

 修羅場じみた牛肉の取り合いに、有希が五郎に尋ねると、五郎は有希に頼む。

「ん? そだな。じゃ、ちょっと一つ用意してくれるか?」
「なにをっすか?」
「七輪と網、出してくれ。焼肉にするから」
「焼肉料理っすか。好いっすね」
「いや、そうじゃなくてな」

 五郎は笑みを浮かべ言った。

「俺が食うんだよ。一緒に食べねぇか、有希」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

処理中です...