異世界にて料理勝負をする事になりました

笹村

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第1章 牛肉勝負

4 第一の料理勝負 食材 牛肉 その④ なにを選ぶ?

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「さて、始めるか」

 焼肉の片付けを終らせた五郎は、早速料理に取り掛かる。

「有希。悪いけど、鍋用意してくれるか?」
「良いっすよ。大きさは?」
「大を1つに小を2つ。それと、クロケとサザート茸。あとシロアとバルアも追加で頼む」

 いま五郎が頼んだ食材は、こちらの世界特有の物だ。
 元の世界で似た味の物を上げれば、クロケは昆布。シロアは白ネギで、バルアは白菜と言ったところ。
 サザート茸は、見た目はマッシュルームに似ているが、味はしいたけに近い。

「鍋料理でも、作るつもりっすか?」
「いや。それだと牛肉料理じゃないからな。鍋だと、その他大勢の1つにしかならねぇ。あくまでも今回の主役は牛肉だ。肉を食ってる感じを、味わって貰わねぇとな」

 そう言うと、切り分けられた肉の置かれているテーブルに向かう。

(……どこを使うべきか?)

 すでに作るべき料理を頭の中で浮かべ、手順を組み立てながら、五郎は素早く考える。
 料理は技巧も大事だか、やはり素材が一番の根幹だ。
 自分が作る料理に合うものを選ばなければ、最初から台無しになる。

 それぞれの部位に切り分けられた肉を見回し、すでに無くなっている部分に気付いて笑みが浮かぶ。

(素早いな。焼肉で食べた時点で、作る料理は決まってたってことか)

 五郎は、さっきまで一緒に焼肉を食べていたカリーナとアルベルトに視線を向ける。
 片付けの最後まで付き合ってくれていた2人だが、全部終わるまで付き合わせるのは悪いので、先に勝負に戻って貰っていたのだ。
 そうは言っても、せいぜい数分程度。その間に、自分が作る料理を決めて動けているのは、並々ならぬ経験がなければ無理だ。

(カリーナの嬢ちゃんは、ネックとミスジ、あとはバラか)

 カリーナが選んでいたのは3種類の肉。

 首回りのネックは肉質が硬く、脂は少ないが肉の旨味が強く味わえる。
 肩のごく一部でしか取れないミスジは、弾力はありつつも柔らかな食感を持つ、肉の旨味が濃い部分だ。
 そして残りのバラは、腹回りなので脂の旨味が味わえるが、巧く調理しなければしつこい味になりかねない。

 その3種類の肉から、食感の邪魔になる筋を丁寧に取っている。

(肉の旨味と脂の美味さ、その両方を生かした料理にするつもりかな?)

 カリーナの作ろうとしている料理に、見ている五郎はワクワクする。
 自分が作って、美味しいと食べて貰えるのが一番好きなことではあるが、それと同じぐらい、自分以外の料理人が作る物を見るのは楽しい。
 美味しい物を、持てる限りの工夫と技術で作ろうとしているのを見るのは、とても嬉しいのだ。

 だからつい、他の料理人にも視線が向かう。

(アルは、サーロインか)

 腰の上部にあるサーロインは、脂と肉のバランスが取れ、どちらの旨味も十二分に味わえる上に、やわらかい。

(ステーキにするにゃ最適だが、問題は用意された牛肉自体が硬いからな。
 牛肉としちゃやわらかいサーロインでも、ひと口ふた口はともかく、食べ続けるにはキツい。
 その辺は、どうするつもりかな?)

 興味津々に見ていると、アルは握り拳ほどの、丸くて真っ赤な根菜をすりおろし始める。

(シャロスか……となると、アレかな?)

 元の世界だと、巨大な二十日大根のような見た目のシャロスは、味としては玉ねぎに近い。
 生で食べると辛く、火を通すと甘く柔らかくなる。
 そのすり下ろした物を、赤ワインと塩コショウ、そして幾つかの乾燥させた香草を砕いた物と混ぜ合わせる。
 そこに、2センチほどの厚さに切ったサーロインを漬け込んだ。

(シャリアピンステーキってところか。美味そうなステーキになりそうだな)

 元居た世界だと、肉を叩いた上で玉ねぎのみじん切りに漬け込むシャリピンステーキは、玉ねぎの酵素で肉が柔らかくなった物をステーキにした物だ。
 シャロスも玉ねぎに似た効果があり、肉質を柔らかくする出来るのを五郎も知っている。

(でも、結構シャロスの効果はキツいからな。漬け込み時間間違えると、表面がぐゃちゃぐちゃに……ああ、だから厚めに切ったのを漬けてるのか)  

 色々と工夫を重ねているアルベルトに、五郎は嬉しくなってくる。

(こりゃ、負けてられねぇ。俺もさっさと、肉を選ばねぇとな) 

 楽しさに心を弾ませながら、五郎は肉を選ぶ。
 なにを選び、そして捨てるのか?
 自分の料理に合う最適な部位を見極め、選んだ部位は――

「よし。これにするか」

 肩から腕にかかる部位。1頭から少量しか取れない、脂ではなく肉の旨味を楽しむ、赤身のトンビだった。
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