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第1章 牛肉勝負
4 第一の料理勝負 食材 牛肉 その⑤ まずは出汁から
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トンビの入ったボウルを持って、五郎は有希の元に戻る。
「お帰りっす。用意は出来てるっすよ」
鍋と海藻、野菜が用意されているのを見て、五郎は満面の笑顔を浮かべる。
「ありがとな、有希。あと、ついでで悪ぃんだけど、焼酎を出してくれるか?」
「食前酒に出すんすか?」
「いや、味付けに使おうと思ってな。それ出してくれたら、後は休んでくれ。なにか摘まむ物が要るなら、ささっと作るけど、どうする?」
「大丈夫っすよ。皆が料理してるの見てるだけで、面白そうっすから」
「そっか。じゃ、悪ぃけど、しばらく料理に集中するから好きにしといてくれ。
あ、でも、後で追加で氷を頼むかもしれねぇから、その時は頼む」
「オッケーすよ。任せて欲しいっす」
五郎は有希に手を上げて礼を返すと、本格的に自分の料理を開始する。
まずは、甕の中に入った水を柄杓で飲む。
(ちょっと硬めだけど、すっきりした水だな。臭みもないし、手間かけて取って来てるな)
貯め置きの水でもなければ、手入れのされていない井戸から持って来た訳でもない。
それどころか、この辺りで飲める水とは水質が違う水に、やる気が湧くのと同時に気持ちが引き締まる。
(料理する水だけでも、これだけ拘ってんだ。下手な料理出したら、相手にもされねぇな)
料理勝負を主催したガストロフの並々ならぬ食への拘りに、気持ちが盛り上がっていく。
(これだけ拘ってるってことは、美味い物を食いたいってことだよな。これだけの場を用意してくれたんだ。キッチリ応えねぇとな)
楽しげに笑みを浮かべながら、五郎は料理を始める。
まずは大鍋に水を八分目まで入れ、かまどの蓋を開けた。
火の入った炭の熱気が、むわっと立ち昇る。そこに水の入った大鍋を乗せる。
鍋の底から熱が伝わり、陽炎のように水は揺らめきながら、少しずつ熱くなっていく。
やがて、小さな泡がふつふつと底に現れ、ぷつぷつと立ち昇る。
そこで木べらを取り出すと、ゆっくりと混ぜ全体の温度を均等にしていく。
何度か繰り返した所で木べらを取り出し、指で触れる。
それで水温を確かめた五郎は大鍋を一端かまどから外しテーブルの上に乗せた所で、昆布に似た味のクロケを入れた。
入れてからじわじわと、旨味のある出汁が揺らめきながら滲み出る。
(このまましばらく置いてっと。取り出す時期は気を付けねぇと、変な粘りと苦味が出るからな)
何度も何度も繰り返すことで見つけ出した最善を、五郎は重ねていく。
元の世界で料理人だった五郎とは言えども、こちらの世界で失敗せずにいた訳でもない。
昆布に似た味だから、水から火を入れて出汁を取ろうとして、粘りと苦味が出てしまった。
なんてことはザラだ。そういうことを繰り返し、出汁を取る最適の温度と水の量のカンを手に入れている。
基本的に料理は、地味な作業の積み重ね。
そしてどれだけ効果のある手間を掛けたかで味が決まる。
だから、料理をする前にどれだけ研鑚を積んだかで、露骨に腕の差が出てくる。
そういう意味合いで、五郎は一流の料理人と言えた。
そうした、見る者が見れば分かる手際の良さを見せながら、五郎は料理を続けていく。
(よし、そろそろだな)
旨味が出るギリギリまで見極めて、お湯から海藻を取り出す。
そこから再び、かまどに乗せて温度を上げていき、その間に野菜を切っていく。
物によってはザックリ半分に。そうかと思えば、サイコロ状に刻んでいく。
どう切って鍋に入れれば、一番美味しい出汁が出るか?
五郎は何の迷いも見せず全てを切り終えると、残さず鍋の中に。
そして時折、木べらで鍋を掻き回す。
まず五郎は、出汁を取ることから始めていたのだ。
そんな五郎を見ていた有希は、しばらくは変化が無さそうだと感じ、他の料理人に視線を向ける。
視線の先には、何人もの料理人が、すでに料理を完成させているのが見えた。
(だいたい、ステーキっすねぇ)
少しでも早く料理を出そうとしているのか、大半の料理人は、調理法を焼くことだけに拘っていた。
そして味付けは、かなり濃い。
惜しみなく香辛料を使い、味付けをしている。
(……なんか、牛肉の味が全部埋もれちゃいそうな味付けっすねぇ。確かに臭みとかあったっすけど、そこまでするほどじゃなかったと思うんすけど)
素材の味を殺すような味付けに、有希は残念な気持ちで出来上がっていくステーキを見ていた。
(味見してみたら、その辺は分かった筈なんすけどねぇ……固定観念とか常識とか、怖いっすね)
牛肉は臭い物。そうした固定観念にとらわれている料理人たちに、勿体ない気持ちが湧いてくる。
(手際とか、オレっちじゃ真似できそうにないから、腕とか悪くないんだろうけど……勿体ないっすねぇ)
他にも見て回り、大体が同じような料理の中で、
(へ? あれって――)
カリーナが作っている料理を見て、有希は懐かしさに思わず声を上げそうになった。
「お帰りっす。用意は出来てるっすよ」
鍋と海藻、野菜が用意されているのを見て、五郎は満面の笑顔を浮かべる。
「ありがとな、有希。あと、ついでで悪ぃんだけど、焼酎を出してくれるか?」
「食前酒に出すんすか?」
「いや、味付けに使おうと思ってな。それ出してくれたら、後は休んでくれ。なにか摘まむ物が要るなら、ささっと作るけど、どうする?」
「大丈夫っすよ。皆が料理してるの見てるだけで、面白そうっすから」
「そっか。じゃ、悪ぃけど、しばらく料理に集中するから好きにしといてくれ。
あ、でも、後で追加で氷を頼むかもしれねぇから、その時は頼む」
「オッケーすよ。任せて欲しいっす」
五郎は有希に手を上げて礼を返すと、本格的に自分の料理を開始する。
まずは、甕の中に入った水を柄杓で飲む。
(ちょっと硬めだけど、すっきりした水だな。臭みもないし、手間かけて取って来てるな)
貯め置きの水でもなければ、手入れのされていない井戸から持って来た訳でもない。
それどころか、この辺りで飲める水とは水質が違う水に、やる気が湧くのと同時に気持ちが引き締まる。
(料理する水だけでも、これだけ拘ってんだ。下手な料理出したら、相手にもされねぇな)
料理勝負を主催したガストロフの並々ならぬ食への拘りに、気持ちが盛り上がっていく。
(これだけ拘ってるってことは、美味い物を食いたいってことだよな。これだけの場を用意してくれたんだ。キッチリ応えねぇとな)
楽しげに笑みを浮かべながら、五郎は料理を始める。
まずは大鍋に水を八分目まで入れ、かまどの蓋を開けた。
火の入った炭の熱気が、むわっと立ち昇る。そこに水の入った大鍋を乗せる。
鍋の底から熱が伝わり、陽炎のように水は揺らめきながら、少しずつ熱くなっていく。
やがて、小さな泡がふつふつと底に現れ、ぷつぷつと立ち昇る。
そこで木べらを取り出すと、ゆっくりと混ぜ全体の温度を均等にしていく。
何度か繰り返した所で木べらを取り出し、指で触れる。
それで水温を確かめた五郎は大鍋を一端かまどから外しテーブルの上に乗せた所で、昆布に似た味のクロケを入れた。
入れてからじわじわと、旨味のある出汁が揺らめきながら滲み出る。
(このまましばらく置いてっと。取り出す時期は気を付けねぇと、変な粘りと苦味が出るからな)
何度も何度も繰り返すことで見つけ出した最善を、五郎は重ねていく。
元の世界で料理人だった五郎とは言えども、こちらの世界で失敗せずにいた訳でもない。
昆布に似た味だから、水から火を入れて出汁を取ろうとして、粘りと苦味が出てしまった。
なんてことはザラだ。そういうことを繰り返し、出汁を取る最適の温度と水の量のカンを手に入れている。
基本的に料理は、地味な作業の積み重ね。
そしてどれだけ効果のある手間を掛けたかで味が決まる。
だから、料理をする前にどれだけ研鑚を積んだかで、露骨に腕の差が出てくる。
そういう意味合いで、五郎は一流の料理人と言えた。
そうした、見る者が見れば分かる手際の良さを見せながら、五郎は料理を続けていく。
(よし、そろそろだな)
旨味が出るギリギリまで見極めて、お湯から海藻を取り出す。
そこから再び、かまどに乗せて温度を上げていき、その間に野菜を切っていく。
物によってはザックリ半分に。そうかと思えば、サイコロ状に刻んでいく。
どう切って鍋に入れれば、一番美味しい出汁が出るか?
五郎は何の迷いも見せず全てを切り終えると、残さず鍋の中に。
そして時折、木べらで鍋を掻き回す。
まず五郎は、出汁を取ることから始めていたのだ。
そんな五郎を見ていた有希は、しばらくは変化が無さそうだと感じ、他の料理人に視線を向ける。
視線の先には、何人もの料理人が、すでに料理を完成させているのが見えた。
(だいたい、ステーキっすねぇ)
少しでも早く料理を出そうとしているのか、大半の料理人は、調理法を焼くことだけに拘っていた。
そして味付けは、かなり濃い。
惜しみなく香辛料を使い、味付けをしている。
(……なんか、牛肉の味が全部埋もれちゃいそうな味付けっすねぇ。確かに臭みとかあったっすけど、そこまでするほどじゃなかったと思うんすけど)
素材の味を殺すような味付けに、有希は残念な気持ちで出来上がっていくステーキを見ていた。
(味見してみたら、その辺は分かった筈なんすけどねぇ……固定観念とか常識とか、怖いっすね)
牛肉は臭い物。そうした固定観念にとらわれている料理人たちに、勿体ない気持ちが湧いてくる。
(手際とか、オレっちじゃ真似できそうにないから、腕とか悪くないんだろうけど……勿体ないっすねぇ)
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